憂はその言葉を聞くと力が急に抜け崩れるように倒れた
そしてそのまま意識が遠のいた…遠のく意識の中ただただ唯のことを思い続けていた

『憂…』

『お姉ちゃん?』

『大好きだよっ憂』

『私もお姉ちゃんが大好きだよ』

『憂…ありがとう…』

『お姉ちゃん…やだよ待ってよ、お姉ちゃんっ』

憂「…はっ……夢…か…ここは、病院…私は」

唯父「目ぇ覚ましたか…唯はもう大丈夫…まだ意識はないけどヤマは越えたそうだ」

憂「そう…お姉ちゃんに会える?」

唯父「あぁ…唯の部屋は306だ」

憂は病院のソファーから飛び起きるとそのまま唯の病室まで走って行った


――――――――――306号室

憂は切らした息を整えながらゆっくり重いドアを開く

憂「おねえ…ちゃん…グスン」

そこには母と親愛なる姉がいた
唯には人工呼吸器や心電図、点滴などが施されていた

唯母「憂…大丈夫?」

憂「私は平気…お姉ちゃんは…?」

唯母「まだ…目を覚まさないけど、きっと大丈夫よ」

憂は唯のそばに駆け寄ると両手で唯の右手を握り、泣いた

憂「お姉ちゃん…ごべんね…私が…馬鹿だったがら…うぇぇええええん」

唯母が憂のそばにより、やさしく頭をなでると次第に落ち着きを取り戻した

唯母「今日は唯のそばにいてあげなさい…学校には連絡しておくから」

憂「おがぁさん…うぅ…ありがおづ…」

唯母「じゃあお母さんたち先生と話あるから…唯よろしくね」

憂「…うぅ…うん、お姉ちゃんは私が守る」

憂(私が泣いてちゃダメだ、ダメなんだよ…お姉ちゃんが目を覚ました時に笑っていてあげなきゃ)

憂「お姉ちゃん…大好きだよ」

憂はさらに強く唯の手を握った
そしてそのまま唯の手を自分の顔に近づけ優しくキスをした
その瞬間、一瞬だが唯の瞼が動いたように感じられた

憂「お姉ちゃん?…おねえちゃん」

憂は何度も呼び続けた…しかし唯は眼を開けなかった 憂「…うぅ…うん、お姉ちゃんは私が守る」

憂(私が泣いてちゃダメだ、ダメなんだよ…お姉ちゃんが目を覚ました時に笑っていてあげなきゃ)

憂「お姉ちゃん…大好きだよ」

憂はさらに強く唯の手を握った
そしてそのまま唯の手を自分の顔に近づけ優しくキスをした
その瞬間、一瞬だが唯の瞼が動いたように感じられた

憂「お姉ちゃん?…おねえちゃん」

憂は何度も呼び続けた…しかし唯は眼を開けなかった


――――――医師部屋

医師「お嬢さんの余命は半年くらいと考えてください」

医師「残念ですが…私たちにはどうすることも…」

唯父「そんな…テレビとかで治してるじゃないですかっ」

思わず感情が高ぶり声を荒げる父、対照的に冷静に勤めようとする母

唯母「なんとかならないのでしょうか…」

医師「ただ…心臓移植という方法がありますが…費用的にも人数的にもかなり厳しいかと…」

唯母「それで助かるなら…先生っお願いします」

医師「しかしね…待ち人数が非常に多いのが現状です…待機死亡という可能性もありますし」

唯父「そんな…」

医師「ただ…これはもしかしたらですが…」


――――――306号室

憂「お姉ちゃん…私ね…お姉ちゃんのギター聞いてるとすごく心が和らぐんだぁ」

憂「また聞きたいな…お姉ちゃんのギター…お姉ちゃんの声…お姉ちゃんの…うぅ」

憂はおもわず泣きそうになったが理性でぐっとこらえた
しばらく落ち着きを取り戻そうと深呼吸した
ようやく冷静に事態を把握できた憂はカレンダーを眺めあることに気づく

憂「(私の誕生日…2週間後か…って何考えてるんだ私は…)」

唯「……ぅ……ぃ…」

か弱い、細くて今にも切れてしまいそうな声が憂の耳を貫いた

憂「お姉ちゃんっ!!」

唯はゆっくりと目をあけると周囲をぐるりと見渡した

憂「おねえ…ちゃん…」

憂の涙腺に涙がこみ上げてくるがそれを防ぐことはできなかった
あふれんばかりに出る涙が憂の頬を伝って流れおちた

唯「憂…ごめんね…」

唯の言葉一つ単語一つが頭から離れず何度も何度も繰り返された

憂「おねえちゃぁあぁあん」ギュウウ

憂はやさしく、強く唯を抱いた…いつもの温かい唯がそこに感じられた

唯「ぁはは…憂…苦しいよ…」

憂「ごめんね…ごめんね…ごめんね…」

憂「私馬鹿だった…お姉ちゃんの異変に気づけなかった」

唯「いいんだよ…ありがとう…憂…大好きだよ…」

憂「私もお姉ちゃが…大好き……誰よりも…世界で一番…お姉ちゃんが大好きだよ」

それを聞くと唯は安したのか優しく微笑みながら眠りについた
そして憂も唯の手を放さないまま親愛なる姉のそばで再び眠りについた

『ゆーいーってあれ…』

『おいっここは病院なんだぞちょっとはだな…』

『悪い悪い…イヒヒ…それにしても可愛い顔してるぜ姉妹して』

憂「ぅ…ぅう……ん…わた…し、あれ…律さんと澪さんそれに…」

律「あ、起しちゃったか…そんで唯の具合はどう?」

憂「あぁはい…さっき目を覚ましたんですがまた眠っちゃって」

澪「唯らしいといえば唯らしいか…」

梓「先輩…」

紬「憂ちゃん…その格好は?」

憂「あぁ…すいません寝起きで病院まで走って行ったので…」

澪「なんともあんな遠い距離を…唯は幸せ者だな」

唯「…う…ううん…憂…」

憂「お姉ちゃん、どうしたの?」

唯「……ぁ…ぃす…」

その言葉に部屋にいる全員が安心し、笑みがこぼれた

律「ったく唯は…」

唯「…ん、あれ…みんな、お見舞い…に?」

澪「当たり前だろっ友達なんだから」

梓「そ、そうですよ…第一先輩いないと練習にならないんですよ」

紬「退院できたらおいしいケーキがまってるからね」

唯「みんな…ありがとう…ごめんね…すぐ退院して部活にでるから」



―――――それから、一時間私たちはふだんのようにおしゃべりをした
唯は人工呼吸器があるせいかいつものようにはしゃべることはできなかったが…

律「じゃあ唯、明日も来るからな…」

澪「無理は禁物だからな…」

紬「明日、おいしいリンゴ持ってきてあげるからね」

梓「…はやく退院してくださいねっ」

唯「みんなありがとう…なんだかすごく元気がわいてきたよ」

憂「お姉ちゃん、今は安静にしてないと…みなさん今日はどうもありがとうございました」


ガラガラ~

律「いやぁ~元気そうで何よりだ」

梓「……」

澪「梓…?どうかしたのか」

梓「あっ…いえ、なんでもないです…あっそういえば携帯忘れてきちゃいました…私馬鹿だなぁ…えへへ」

梓「先帰っててくださいっ」

澪「おいちょ…もお」

紬「まぁまぁ…帰りましょ」

律「そうだな…そういえばさぁ…」


――――――306号室

ガラガラ

憂「あれ、梓ちゃん忘れ物?」

梓「ええと…その…」

唯「あずにゃん?」

梓「せ、先輩…本当に大丈夫なんですか?」

唯「うん、こんなに平気だしっ大丈ブいっ」

梓「でも…でも、買い物してる時苦しそうに胸押えてたじゃないですかっ」

唯「あはは…やだなぁあずにゃんは、ただの疲れじゃないかな…えへへ」

梓「ちゃんと検査してもらったほうが…」

唯「大丈夫だよぉ手術してもらったし」

梓「しゅ…手術?手術したんですか?」

唯「あれ…聞いてないの…?」

梓「聞いてないですよ…そんな…なんで…」

憂「梓ちゃん…」

梓「私は…わたしは…」

憂「梓ちゃんちょっと外で話そう?」

梓「…う、うん」

そして憂は梓をひきつれて部屋を出た…そのときすれ違いで父と母が入って行った

梓「取り乱してすいませんでした」

憂「べ、べつに謝ることなんてないんだよ…それで…お姉ちゃんが苦しそうにしてたのって…」

梓「憂におつかい頼まれたからって言って買い物してる時に…たまたま遭遇した時にはもう胸を押さえてうずくまっていて」

憂「…そうな…んだ(夕食の時も…もしかして)」

梓「唯先輩、もしかしてなにか持病とかもってるの?」

憂「いや、お姉ちゃんはいたって健康的なはずだけど…」

梓「でも…」

憂「だ、大丈夫だよ…あんなに元気なんだもん」

梓「…」

憂「あのさ…梓ちゃんってお姉ちゃんのこと好き?」

梓「えっ…いや別にそんな…///」

憂「好きなんだ…ようやくお姉ちゃんのかわいさにも気づいてくれたか…えへへ」

梓「いや、だから……えへへ」


――――――306号室

唯「大事な話?」

唯母「そう、大事な話あのね…」

唯母「唯ね…拡張型心筋症ってわかる?」

唯「かくちょうがた…え?」

唯母「えっと…だんだん心臓が大きくなっていって………」


―――――唯母は途中涙ぐみながらも途切れ途切れ…それでもしっかりと唯に説明した

唯「つまりこのままだと、私…死んじゃうの?」

唯母「…ごめんね……ほんとにごめんね」

唯「なんでお母さんが謝るの?」

唯母「ごめんねごめんねごめんね…」

唯は母が「ごめんね」と繰り返し、泣く姿をただただ見つめているしかなかった

唯「だ、大丈夫だよぉ…ほら、ドラマとかでやってるじゃんバ、バリスタとかいうの」

唯「心臓移植とか…方法はいろいろあるじゃん、大丈夫だよお母さん」

唯は母を慰めようと明るくふるまうしかなかった…本当に泣きたいのは自分だったのだから…
それに気づいた父は泣いている母をかかえて部屋を出て行った、ドアが閉まった瞬間唯は人工呼吸器を取り外し大声で泣き出した

唯「うわああああああああああんいやだよぉおおおお」

掛け布団に自分の顔をうずめひたすら泣いた

唯「うぇぇぇええええん死にたくないよぉ…死にたくないよぉ…」


――――1時間後

ガラガラ~

憂「お姉ちゃん、起きてる?」

梓「寝ちゃってますね…寝顔もカワイイです唯先輩」

憂「あれ…お姉ちゃん…」

すぐさま憂は唯の眼がはれていることに気づく…遅れて梓も

憂「何があったんだろう…」

梓「といあえず、今日は帰るね…憂も無理しないでね」

憂「ありがとう…バイバイ梓ちゃん」

梓が出ていくと再び憂は唯の手を握り唯に語りだした…


――――2時間後

『憂…そろそろ帰るわよ…憂…』

憂「ぅ…うぅ…ん…あぁお母さん…私また寝ちゃってたのか」

唯母「だいぶ疲れたでしょ…それにその格好…今日はいったん帰ろっか」

憂「……うん…お姉ちゃんまた来るからね…」




―――――1週間後
そっとドアを開ける憂…少し顔をのぞかせ唯の様子をうかがった
そして唯からあの器具は取り外されていたことに憂はほっとした

憂「お姉ちゃん…起きてる?」

唯「おー憂ぃ~お見舞いありがとね」

憂「えへへ…今日はプリン持ってきたよ」

唯「わーい、プリン♪プリン♪」

憂「おねえちゃんはしゃぎ過ぎだよぉ…えへへ」

唯「ん~うまいっ…おいしいよぉ憂~」

憂「それね…私が作ったんだぁ」

唯「なっ…流石憂だ、ほんとに憂は天才だねっ」

憂「そ、そんなことないよ…食べて食べて」


ガラガラ~

唯母「あっ憂来てたの…ちょうどよかった」

憂「ん?」

唯母「あのね…二人に大事な話があるの」

唯母「唯、病院移そうと思うの…」

憂「えっ?なんで」

唯母「あ…憂にはまだ話してなかったわね…唯、拡張型心筋症で…」

憂「え…え…お、お姉ちゃんが……?」

唯「えへへ…そうみたいなんだ」

憂「なんで…なんで…」

唯母「ごめんね…黙ってるつもりはなかったんだけど…」

憂「ずるいよっ…なんで私には何にも言ってくれないの?家族でしょ、私たち…なんで」

唯「憂…」

憂「どうして私だけ…仲間外れにするの…なんで教えてくれないの…」

唯母「ごめんね憂…ごm」

母のかばおうとした手を振り払い憂は病室から飛び出そうとした

唯「憂っ待ってよ話を聞いてっ」

憂「話ってなによ…私は家族じゃないんでしょっ」

唯「私がお母さんたちに言ったの…憂には言わないでって」

憂「…なんで…おねえちゃん…ねぇどうして」

唯「憂の悲しむ顔が見たくなかったんだよ…もし私がこんな病気だって言ったら憂…悲しんで見舞いに来てくれないと思って…」

憂「……馬鹿だよ…お姉ちゃんは馬鹿だよ」

唯「憂…ごめんね…馬鹿なお姉ちゃんでごめんね…」

憂「私たちは姉妹だよ?どんなことがあっても私はお姉ちゃんの味方だよ」ギュウウ

唯「ういぃぃいいいい」

憂「毎日見舞い来るんだから…絶対何があっても…」

唯「ありがとう…憂…ほんとに…ありg<ドクッ>グエッ、ゴホッ、ウッ」

憂「お姉ちゃん?大丈夫、姉ちゃん」

唯母「唯っ、唯っしっかりっ」

憂は急いでナースコールをおした、すぐさま担当医らが駆けつけ唯は処置を施された
憂は母に引っ張られ病室からでた

唯母「あのね…唯を他の病院に移すっていうのは唯のためなの」

唯母「バチスタ手術って知ってるわよね」

憂「あの…ドラマとかでやってる…?」

唯母「それができる人たちが東京にいてね…だから唯をその人たちに…」

憂「でもかなり難しい手術なんでしょ?…失敗したら…」

唯母「それでも…私はそこに賭けたい…」

憂「おかあさん…」

唯母「心臓移植っていう手もあるけど…経済的にもそのあとのこととかも考えると…」

憂「お姉ちゃんがそれでいいのなら…わたしは信じるよ…バチスタの成功を」

唯母「ありがとう…お母さん明日そのバチスタの人に会ってくるから…」


―――――1時間後

ふたたび病室に入ると唯には人工呼吸器と心電図などがつけられていた…

医師「絶対安静で…お願いします」

唯母「ありがとうございます」

憂と母は深々と頭を下げた


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最終更新:2010年01月22日 15:18