梓(体育の日なのでムギ先輩を誘ってテニスコートに来ました)
梓(だけど……)
紬「きっと私とテニスしても楽しくないよ。球技苦手だし迷惑かけちゃうと思うから」
梓「気にしなくて大丈夫です。私が教えてあげますから」
紬「だけど……」
梓「ここまで来たんだから腹を括ってください。それに……」
紬「それに?」
梓「私はムギにゃんと一緒に遊べるの楽しみにしてましたから」
紬「梓ちゃん……。よしっ、私頑張るね」
梓(なんとかムギ先輩前向きになってくれました)
梓(確かに先輩は球技が苦手ですが、手取り足取り教えてあげるのも楽しいはずです)
梓「テニスをやったことはあるんですよね?」
紬「うん。小さなころに沢山やったの。写真も沢山残ってるわ」
梓「それじゃあとりあえずサーブを打ってみてくれますか。あっ、写真は後から見せてくださいね」
紬「うん」トトトトトト
梓(ムギ先輩のことだから力は十分なはず。コントロールが悪いのかな?)
紬「えいっ」バシュン
梓「は、速い」
紬「入ってた?」
梓「入ってました」
紬「やった!」
梓「それじゃあ次は打ち返しますね」
紬「うん」
紬「それっ」バシュン
梓(これも入ってくる)
梓(さっき見たところほとんど弾まなかったからカット系のサーブのはず)
梓(それなら前に出て……)
梓「お、おもい……」バン
シュッ タンタンタン
梓(ネットに引っかかっちゃった)
紬「どうだった?」
梓「どうもこうもありません。凄かったです。どうやって打ってるんですか?」
紬「こんな感じなんだけど」ヒュン
梓「……スライスサーブですね」
紬「スライスサーブ?」
梓「横に曲がるサーブです。ただ、フォームが独特なせいか全然曲がりませんね」
紬「曲がらなきゃ駄目なんだよね?」
梓「普通はそうです」
紬「やっぱり…」シュン
紬「ただムギ先輩の場合は球が重いから問題ありません」
紬「球が重い?」
梓「はい。ほとんど跳ねない上、打ってもあまり跳ねないんです」
紬「やっぱり梓ちゃんはすごいね。一球受けただけで色々分かっちゃうんだ」
梓「謙遜してましたけど、ムギ先輩も普通に上手じゃないですか」
紬「……それじゃあ次は梓ちゃんがサーブを打ってみてくれる?」
梓「はい」トトトトトトト
梓(普通にフラットサーブを打ってみよう)
梓「えいっ」バシィッ
紬「えいっ」バキュン
ヒューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
梓「……」
紬「……」
梓「安心してください、ムギにゃん。野球ならホームランです」
紬「梓ちゃん。それ慰めになってないよ」
梓「……まぁ、想定の範囲内です」
紬「えっ」
梓「むしろサーブが凄すぎたんです。これから私がみっちり体に叩きこんであげますから、すぐに上手くなれますよ」
紬「どきどき」
梓「あっ、変な意味ではないので」
紬「しゅん」
梓「何を期待してたんですか……。とりあえずラリーしてみましょう」
紬「ボールを打ち合えばいいのね?」
梓「はい。できるだけ取りやすい球をお願いします」
___
梓「う~ん。2球に1球ぐらいアウトしちゃいますね」
紬「ごめんなさい」
梓「謝らなくていいです。それより対策を考えましょう」
紬「なんだか今日の梓ちゃんは頼もしいわ」
梓「はい、私に任せてください」
紬「それで、どうすればいい?」
梓「とりあえず回転をかけてみたらどうでしょうか」
紬「回転?」
梓「はい。ムギ先輩の場合、力をコントロールしきれていないんだと思うんです」
紬「ふむふむ」
梓「力を抑えるって方向もありますが、それはあまり楽しくないので却下です」
紬「梓ちゃんとテニスができれば、それくらい我慢――」
梓「ムギにゃんが楽しくないと私も楽しくないので却下です」
紬「……」キラキラ
梓「むぎにゃん?」
紬「今日の梓ちゃんカッコいい!!」
梓「///」
紬(そして、照れてる梓ちゃんはかわいい)
梓「とりあえずトップスピンを試してみましょう」
紬「トップスピン?」
梓「前方向に回転をかけるんです。こうやってボールの背面をこする感じで」ヒュン
紬「こう?」ヒュン
梓「はい、そんな感じです。じゃあボールを投げてみますので、打ってみてください」トトトトト
紬「うん」トトトト
梓「はい」シュ
紬「えいっ」パン
梓「はい」シュ
紬「えいっ」パン
梓「はい」シュ
紬「えいっ」パン
梓「5球に1球ぐらいアウトかネットになっちゃいますね」
紬「ううん。それでもすごいい進歩。梓ちゃんすっごく教えるの上手ね」
梓「そうですか? 次はバックハンドをやってみましょうか」
紬「ええ」トトトトトトト
梓「はい」シュ
紬「えいっ」パン
梓「はい」シュ
紬「えいっ」パン
梓「はい」シュ
紬「えいっ」パン
___
紬「……」
梓「30球以上やって1球も入らないなんて……」
紬「やっぱり私、球技は……」
梓「あ、諦めるのはまだ速いです」
紬「でも……あっ!」
梓「どうしました?」
紬「バックハンドだけ左手でやったらどうかしら?」
梓「ムギ先輩両利きなんですか?」
紬「うん。私、左利きを矯正してるから」
梓「ムギ先輩にそんな過去が……」
梓(本当はちゃんとバックも打てるようになったほうがいいけど、今日は遊びだし……)
紬「梓ちゃん?」
梓「わかりました。じゃあやってみましょう」
___
紬「どうかな?」
梓「5球に2球ぐらいミスしますね」
紬「楽しくラリーはできそうにないね」シュン
梓「だ、大丈夫です。できるだけフォアハンド(右手側)に返すようにしますから」
紬「梓ちゃんやさしいね」
梓「これくらい当然です。それじゃあラリーしましょうか」
紬「ええ」
パン!
パン!
パン!
シュッ タンタンタン
パン!
パン!
パン!
律「そんなこと言うなよ澪にゃん」
澪「澪にゃん澪にゃん言うな!」
律「え~っ」
澪「えーっ、じゃない。まったくもう……」
律「…あっ、あれ」
澪「どうしたんだ? あっ」
紬「りっちゃん! 澪ちゃん!!」
梓「律先輩と澪先輩。偶然ですね」
律「ムギと梓じゃないか。二人もデートか?」
梓「まぁ、そんなところです」
澪「そうか。私たちは横のコートなんだ」
律「あっ、そうだ。後から試合しないか」
梓「いいですよ」
紬「えっ」
律「よし。私たちはちょっとラリーして体を温めるよ。三十分ぐらいしたら試合しようぜ」
梓「はい。わかりました」
___
紬「梓ちゃん!」
梓「ど、どうしました?」
紬「ねぇ、なんで試合なんて」
梓「嫌でしたか?」
紬「うん。私きっと足を引っ張っちゃう」
梓「大丈夫です。それ分私がカバーしますから」
紬「でも、きっと勝てない。澪ちゃんもりっちゃんも強そうだし」
梓「別に負けてもいいんですよ。遊びですから」
紬「そうかな?」
梓「ええ、そうです。でも勝つつもりでいきましょう」
紬「えっ」
梓「勝つとすっごく楽しいんですよ、テニスって」
___
30分後
梓「うぃっち?」
澪「すむーす」
グルグルグルグル バタン
梓「ラフです。サービスをもらいます」
澪「じゃあ私は左のコートを選ぶよ」
梓「はい」
紬「私達のサービスからね」
梓「はい。ムギにゃんのサービスからです」
紬「えっ、私?」
梓「はい。澪先輩と律先輩の度肝を抜いてやりましょう」
紬「私にできるかな?」
梓「できるかどうかじゃなくて、やるんです!!」
紬「……!」
紬「……」
紬(集中して……まずは最初のサーブを入れる)
律「……」
律(さっきちらっと見せてもらった。ムギのサーブはよく入る)
律(だけど、そこまでのスピードはない)
律(それほど曲がるわけでもない)
律(リターンエースを狙う!)
紬「えいっ!」バシュン
律「それっ!」バン
シュッ タンタンタン
律「……ネットか」
紬「やった!!」
梓「やりましたね、ムギにゃん。サービスエースですよ」パン
紬「うん。やったよ、梓ちゃん。……右腕をあげてどうしたの?」
梓「ハイタッチです」パン
紬「あっ、うん」パン
律「くそっ、やられたぜ……」
澪「どうだった、ムギの球」
律「重い。とてつもなく重い」
澪「そう重い重い連呼するのはやめてくれ」
律「……?」
澪「……少し下がって受けてみるか」
紬「ふぃふてぃーん、らぶ」
紬(この調子でもう一球)
紬「えいっ」バシュン
澪「ひ、低い」バン
シュッ タンタンタン
梓「またエースです」パン
紬「うん。凄くいい調子」パン
律「澪でも無理か……」
澪「悪い」
澪(低くて上手く打てなかった。しかもこれだけ下がっても重いなんて)
澪(ムギがサービスのゲームは捨てるのが得策かな?)
澪(何か作戦を考えないと)
___
数分後
梓「まさかサービスエースだけで1ゲームとってしまうとは思いませんでした」
紬「うん……でも」
梓「……大丈夫。私がカバーしますから」
紬「うん。お願い」
律「なぁ、澪にゃん」
澪「あぁ。あのサーブは無理だ」
律「でもさっきの練習を見ていた限りだと、ムギはサーブだけだ」
澪「じゃあ律のサーブで取り戻してくれ」
律「任された!!」
澪「ふふっ、こういうときの律は実に頼もしいな」
___
律「げーむかうんとぜろいち」
紬(りっちゃんのサーブ……どんなのかしら)
律「……」
律(ここはサービスエースを狙っていく)
律(入ってくれよ……)
律「それっ!!」バシュン
紬「えっ」
トン…トントントン
律「いえ~い」パン
澪「おしっ」パン
紬「う、動けなかった」
梓「どんまいです、ムギにゃん」
紬「ごめんなさい」
梓「謝らなくてもいいです。私もムギ先輩と同じ位置だったら返せなかったでしょうから」
紬「えっ」
梓「やりようはあります。見ててください」
律「澪にゃん見ててくれたか」
澪「ナイスサーブだったぞ律」
律「よし、この調子でいくぜ」
律「ふぃふてぃーんらぶ」
梓「……」
梓(確かに速い。でもそれだけです。後ろに下がればなんてことないはず)
梓(かかってくるデス)
律「……」
律(梓……随分後ろに下がってるな)
律(私は自分の仕事をするだけだ)
律「えいっ!」バシュン
梓「それっ」バン
梓(思ったより重かったけど返せた……えっ)
澪「ここだ」バシュ
トン……トン……トン
澪「よしっ!」パン
律「よっしゃ!」パン
梓「思ったよりお二人は強いみたいです」
紬「梓ちゃん……」
梓「でも、この調子ではいかない筈です」
紬「へっ」
梓「とりあえずムギ先輩はさっきより下がって打ち返してください。そのうち勝機は見えてきますから」
梓(思い切り打つフラットサーブはコントロールがつけにくい)
梓(そのうちフォルトを連発するはずです)
最終更新:2012年10月09日 19:59