___
律「さーてぃーんらぶ」
律「……」
律(よしっ、この調子だ)
律「えいっ」バシュン
紬「……フォルト」
紬(外れてくれた)
紬(2本目も外れますように……)
律「……」
律(外してしまったか)
律(ならば、これを使う)
律「えいっ」シュ
紬「えっ」
紬(アンダーサーブ? ボールが凄く高いところに行って、あっ、落ちてきた)
紬(ギリギリネットインする位置!? 走らなきゃ)タタタタタタタタ
トン……トン…トン
梓「せ、せこい……」
律「これだって立派な戦術だぞ。しかも結構難しいし」
梓「確かにそうですが……」
澪「まぁ、確かにせこいけど」
律「澪にゃん……そりゃないよ」
律「ふぉーてぃらぶ」
律「えいっ!」シュバッ
梓「それっ」バシ
シュッ タンタンタン
律「1ゲーム取り返したな」パン
澪「あぁ、律よくやってくれた」パン
律「サーブの調子が良かったからな」
澪「うん。いつもあれくらい入れば無敵なんだけどな」
律「大丈夫だって、私にはアンダーもあるし」
澪「あれバレてるから、次使ったらリターンエース食らうぞ」
律「そんなことないって。澪にゃんは心配性だな」
梓「あっさり取られちゃいましたね」
紬「うん。どうしよう?」
梓「大丈夫です。また試合は始まったばかりですから」
紬「……うん。頑張ってみる」
___
梓「げーむかうんといちいち」
梓「……」
梓(私のサーブはちゃんと曲がるスライス)
梓(あまりサービスエースは取れないけど、リターンエースもされにくい)
梓(何よりほとんどフォルトが出ない)
梓(ムギ先輩はボレーならちゃんとできる)
梓(後衛私、前衛ムギ先輩というのは最善の陣形)
梓(このゲーム、落とすわけにはいかない……)
律「……」
律(梓のやつ、打つの遅いな)
___
40分後
紬「ぜぇ…はぁ…はぁ……やったね、梓ちゃん」パン
梓「はぁ…はぁ…はい。なんとか取りましたね、このゲーム」パン
澪「げーむかうんといちにー」
澪「……」
澪(ムギのやつだいぶ疲れてきてるみたいだ)
澪(梓もそれなりに疲弊してる)
澪(私たちはまだまだ元気だ)
澪(……試合前の運動量が少ないからちょっとズルいけど、勝負に情けは無用だな)
澪(このゲームも徹底的に走り回ってもらう)
澪「えいっ!」キュン
紬「それっ!」ズバシャ
律・澪「えっ」
タン・・・タンタン
澪「私が反応できなかった……」
梓「やりましたね、ムギにゃん」パン
紬「えーっと。うん……」パン
梓「納得行かなそうな顔ですね」
紬「うん。どうしてあんないい球を返せたのかしら」
梓「澪先輩がスピンサーブを打ったからです」
紬「スピンサーブ?」
梓「トップスピンと同じ回転がかかったサーブです」
紬「ほうほう」
梓「回転がかかってうおかげでラケットに大きな摩擦抵抗が生まれ、強いトップスピンのかかったリターンができたんです」
紬「……うん。よくわからない」
梓「……澪先輩のサーブはトップスピンで返すといいってことです」
紬「わかった!」
澪「……」
律「澪にゃん?」
澪「……」
律「しっかりしろ、澪。ここから取り戻すぞ」
澪「……あぁ」
澪(0-15から始まったこのゲーム)
澪(点取合戦がもつれてデュースに)
澪(取られ取り返されを繰り返して20分ぐらい)
澪(最後は梓のボレーが決まって、私たちの負けになった)
澪(これで1-3。……いや、次はムギのサーブだから1-4だと考えたほうがいいか)
澪(順調に梓とムギの体力は奪っているけど、ここらへんで取り返さないと……)
__
15分後
澪「まさかここまで取られるとは」
律「あぁ、でもあいつらの躍進もここまでだ」
澪「できるか?」
律「あぁ、任せとけ。今日の私は無敵だから」タタタタタタタ
律「げーむかうんといちよん」
律(ここは澪のためにも絶対に外せない)
律(全部入れる)
律「えいっ!」バシュン
紬「えっ」スカ
タン……タン…タン
___
律「ふぃふてぃーんらぶ」
律「それっ!」バシュン
梓「このっ!」バン
シュッ……タンタンタン
___
律「さーてぃーんらぶ」
律「そいや!」バシュン
紬「やあっ!」バン
シュッ……タンタンタン
___
律「ふぉーてぃらぶ」
律「いけっ!!」バシュウン
梓「えいっ!」スカ
タン……タン…タン
澪「りつうう!! 大好きだ愛してるぞおおおおお!!!」ダキッ
律「うおっ、澪にゃん?」
澪「どうして律はこんなにかっこいいんだ」
律「それはまぁ……私だからな」
澪「うんうん。律は律だからかっこいいんだな」スリスリ
律「ははは……」
梓「それにしても、まさか律先輩にサービスエースだけでゲームを取られるとは……」
紬「りっちゃん凄いわ」
梓「はい。認識を変えなければならないようです」
紬「ええ」
梓「律先輩がサービスのゲームは落とすつもりでいかないと……そう考えると」
紬「考えると?」
梓「次のゲームは私がサーブ。そして澪先輩のゲームは私がサーブです。このどちらかを取ります」
紬「ということは、5-3にするの?」
梓「はい。そこでムギ先輩にサーブが回れば勝てます」
紬「だけど……」
梓「はい、わかってます。このゲームはちょっと休めましたが、私達の体力は限界に近い。だから……」
梓(ゲームカウント4-2で迎えた私のサービスゲーム)
梓(二人で選んだ戦略は「捨てること」だ)
梓(私たちはなるべく動かず、澪先輩と律先輩に走り回ってもらう)
梓(幸い、ムギ先輩はゲーム中ずっと前衛なので運動量は多くない)
梓(次の澪先輩のサービスゲーム。これが取れるかどうかに勝負はかかっている)
澪「げーむかうんとさんよん」
澪「……」
澪(前のゲームはたぶん捨てにきたんだと思う)
澪(結構走らされたけど、律はまだ元気だし、私もまだまだやれる)
澪(でも、このゲームを落としたら、次のムギのサービスゲームで敗北が確定する)
澪(絶対に負けるわけにはいかない)
澪「えいっ!!」ビュン
紬「それっ!!」ギュン
澪(凄い球だけど…心の準備ができてれば打ち返せる!)
澪「えいっ」ギュン
梓「ここです!!」バシン
澪「と、届かない」
タン……タン…タン
律「どんまい、澪にゃん」
澪「ご、ごめん律」
律「気にしなくていいよ。今のは梓がうまかった」
澪「あぁ、梓本当に上手いな。ムギを上手くサポートしてる」
律「でも、明らかに運動量が落ちてるな」
澪「そうだな」
律「この勝負、勝てる」
澪「あぁ、私もそう思うよ」
紬「梓ちゃんナイスよ!!」パン
梓「綺麗にキマリました」パン
紬「でもあんな球良く取れたね」
梓「ヤマがあったんです」
紬「ヤマが……やっぱり梓ちゃんすごい!」
梓「くすっ。ムギ先輩だって十分凄いですよ」
紬「そうかな」
梓「ねぇ、ムギ先輩テニスって楽しいでしょ」
紬「えっ」
梓「勝っても負けても楽しいものだと思います、テニスって」
紬「うん。とっても楽しい!」
梓「それでこそ連れてきた甲斐がありました」
紬「なんだか死亡フラグみたいだね」
梓「縁起でもないこと言わないでください。これは檄です。勝ちに行きますよ」
紬「うんっ!」
澪「らぶふぃふてぃーん」
澪「えいっ!」バシュ
梓「それっ」パン
澪「緩いボール? どっちだ?」
律「私に任せろ!!」
澪「頼んだ」
律「えいっ」バシュ
梓(さすが幼馴染のお二人。お見合いへの対応は完璧です)
梓(でも、崩れた陣形は戻らない)
梓「これで」バシュ
タン……タン…タン
紬「やった!」パン
梓「狙い通りです!」パン
澪「……らぶさーてぃ」
澪「……」
澪(このまま負けるわけにはいかない)
澪「えいっ!!」バシュ
紬「それっ」バキュン
澪(これは……アウトだ)
澪(……! ここから落ちるのか! 対応できない!!)
澪「……っ」スカ
タン……タン…タン
紬「いえいっ!」パン
梓「ないすリターンです」パン
律「大丈夫か、澪?」
澪「あぁ、大丈夫だ」
律「……全然大丈夫そうな顔してないけどな」
澪「うん。わかってる」
律「あまり難しく考えるな。ただの遊びだから」
澪「遊びだけど……負けたくないんだ」
律「澪にゃんは負けず嫌いだな」
澪「茶化すな! 私と律が組んでるんだ。誰にも負けたくなんてない!」
律「…!」
澪「律は負けてもいいのか?」
律「……絶対に勝つ!」
澪「……うん!」
澪「らぶふぉーてぃ」
澪(これを落とせば絶望的)
澪(絶対に、負けない!!)
澪「えいっ!!」バシュ
梓「やっ!」バシュ
澪「えいっ」シュパ
梓「それっ」バシュ
律(今だ…! 絶好の位置。このスマッシュ、貰った!!!!)
梓(律先輩があんなところに…対応できない!)
紬「…!」
律「そりゃあ!!」バシュン
紬「そうは問屋が…卸しません!!」バン
トン……トン……トン…トントン
梓「やった!」
梓「ムギにゃん、やりました。後は先輩のサービスゲームを取れば!」
紬「う……うん」
梓「ムギにゃん?」
紬「……っ」
梓「……どうしました?」
紬「ご、ごめんね梓ちゃん」
梓「……律先輩のスマッシュを受けた時、捻ってしまいましたか」
紬「……うん」
梓「……」
紬「……」
梓「仕方ありません。降参しましょう」
紬「ごめんね。本当にごめんね」ポロポロ
梓「な、泣かないでください」
律「聞いたか?」
澪「うん」
律「こんな終わり方は不本意だけど、仕方ないな」
澪「……そうだな」
律「また、今度やりたいな」
澪「あぁ……」
紬「ひっく……本当にごめんなさい」ポロポロ
梓「も、もう泣かないでください。試合ならまたできますから」
紬「……っ…梓ちゃんがせっかく頑張ってくれたのに」ポロポロ
梓「でも仕方ないです」
紬「ごめんねなさい。本当にごめんなさい」ポロポロ
梓「……」
梓(ムギ先輩……私だって悔しいです。ムギ先輩と組んで律先輩達に勝てそうだったのに)
梓(だけど、手を怪我したらしょうがないんです。だって、手が使えなくちゃ)
梓(手が使えない……?)
梓(……)
梓(……)
梓「ムギ先輩、ひとつだけ方法があります」
紬「えっ」ポロポロ
梓「勝てるかどうかは分かりませんが、やってみる価値はあると思います」
律「いいのか? ゲームカウントこのままで後日再試合でもいいんだぞ」
梓「体力回復してからやるのでは、フェアじゃないですから」
律「そうか」
梓「はい。ただ、ムギ先輩がアイシングする時間だけは頂こうかと」
律「あぁ。じゃあ暫く休憩だな」
梓「すいません」
律「いや、謝ることはないよ。むしろ試合を続けられて私も嬉しい」
梓「律先輩のこと見直しました」
律「そ、そうか?」
梓「あっ、照れると怒られますよ、澪にゃんに」
最終更新:2012年10月09日 20:00