澪「ハァハァ……」

律(9回裏、ノーアウトランナー1、2塁)

澪「ハァハァ……」

律(澪も限界か……)

澪「ハァハァ……」

律(しかも次のバッターは憂ちゃん……)

律(どうする……!?)

──────────
─────
──


時は遡り夏休み直前のホームルーム

律「野球の練習?」

さわ子「そう、2学期始まってすぐに球技大会があるでしょ?」

さわ子「今年は屋外競技が野球、室内競技がバレーボールと卓球」

澪「じゃあ、私卓球がいいな。チームプレーとか苦手だし」

律「根暗な澪さんらしい考えですこと」

澪「だ、だって……」

さわ子「ダメよ、澪ちゃんはこの3年2組で唯一のサウスポーなんだから」

さわ子「野球ほど、左が重宝されるスポーツもなくってよ」

澪「でも、野球なんてやったことないし……」

さわ子「だから練習するんじゃないの」

澪「ええー……」

唯「面白そう! 私も野球がいい!」

唯「和ちゃんも野球するよね」

和「ええ。構わないわ」

唯「だよね~。小学生の時は男の子に混じって野球してたもんね」

律「そうなのか?」

和「昔の話よ。小学生のとき自分は男じゃないかって思ってたし」

唯「そうそう、カッコよかったもんね~」

和「だから地元のリトルで野球やってたのよ」

和「ま、今は私ほど女らしい女なんていないと思ってるけどね」

律「何を言ってるんだ……」

さわ子「それは心強いわね。経験者歓迎よ」

さわ子「ほかに参加希望の人はいない?」

「野球とか難しそ~」

「やるならバレーボールの方がいいよね」

さわ子「……りっちゃんはもちろん野球よね」

律「ん? まぁ、弟とやったりしたこともあるしいいけど」

紬「じゃあ私も」

さわ子「それじゃあ、軽音部は全員野球参加ということで」

澪「私もやっぱり人数に入ってるんですね……」

律「いいじゃん。それとも私たちと離れて一人寂しく卓球でもするのか?」

澪「ううっ……」

紬「やりましょう? 澪ちゃん」

唯「きっと一緒の方が楽しいよ~♪」

澪「……分かった。私も野球するよ」

さわ子「そうこなくっちゃね」

澪「でも、できるだけ目立たないポジションが──」

さわ子「じゃあ、澪ちゃんはピッチャーね」

澪「え……」

さわ子「左なんだから当然じゃない」

澪「ちょちょちょちょ!!」

さわ子「もちろん理由はそれだけじゃないわよ!」

律「何か澪の中に野球に関する隠された才能をさわちゃんは見抜いたと!?」

さわ子「秋山という苗字に可能性を感じるわ!!」

澪 ポカ~ン……

さわ子「で、真鍋さんがキャッチャーっと」

和「そうなんですか?」

さわ子「やっぱり、キャッチャーは理論派じゃないと」

和「はぁ……」

紬 ウズウズ……

唯「どうしたのムギちゃん?」


紬「あ、あの! 澪ちゃんがピッチャーならキャッチャーはりっちゃんがすべきだと思います!!」


律「へ? なんで?」

紬「だって、よくバッテリーは夫婦だって言うじゃない?」

和「うん。よく聞くわね」

紬「だからよ!!」

律「でも、キャッチャーって難しそうだし……」


紬「いやよ!! 澪ちゃんが攻めてりっちゃんが受けてくれなきゃ!!」

律「……」


律「本当はもっと動きがあるポジションがいいんだけどなぁ~」

澪「わ……私が……ぴ、ぴ、ぴ、ピッチャ……」ぷす~

律「澪……」

律「よし! 分かった! 澪は私が支えてやる!!」

紬「ここに山田里中コンビを超えるバッテリーが誕生したわっ!!」

律「その代わり4番は私ね!!」

和「だったら私はセカンドがいいです」

さわ子「まぁ、仕方ないわね。でもなんでセカンドなの?」

和「リトルの時もずっとセカンドだったんです」

和「堅実な守備、目立たなくとも確かな仕事をする選手に憧れてて」

さわ子「阪神の和田豊みたいな?」

和「ああ、まさにドンピシャです。いぶし銀って呼ばれるのが夢ですね」

さわ子「渋いわね……」

和「でも2学期の行事を夏休み前に決めるなんて、先生相当気合入ってますね」

さわ子「私、初めての担任になったクラスだし、それにあなた達3年でしょ」

さわ子「だから練習も含めて思い出に残したいのよ……」

唯「さわちゃん先生……」

律「じゃあさわちゃんにも私たちにも思い出に残る球技大会にするか!!」

紬「うん! がんばりましょうね」

和「ふふっ。久しぶりに腕が鳴るわ」


「お~~~~!!」

さわ子(本当は某巨乳監督が出てる漫画に影響されて監督してみたくなったからなんだけど)

澪「あわわわわわわ……」

澪「ち、ちょっとみんな待って!」

律「なんだよ? この期に及んで無理なんて言うんじゃないだろうな」

澪「私たちは受験生だぞ! この夏休みは勉強漬けなんだから──」


さわ子「だからよ! 澪ちゃん!」

澪「へっ?」


さわ子「みんなが勉強しなきゃいけないのは百も承知なの」

さわ子「だからこそ、無理にでもみんなで集まって体を動かす」

さわ子「たまには気分転換もしなきゃ、勉強ばっかりだったらパンクしちゃうわよ」

澪「それは、そうかもしれないけど……」

律「そうだぜ澪。何も毎日練習するわけじゃないだろうし」

唯「うんうん、気分転換も必要だよね」

澪「おまえたちは、勉強しなくていい理由が欲しいだけじゃないのか?」

唯「え、えへへへ……」


「でも先生の言うことも一理あるかも」

「だよね、勉強漬けもいやだよね」

「私も参加しよっかな」

「律、私も野球に参加するわ」

「私はバレーボール」

「サーッ! サーッ!」


さわ子「うんうん。青春はこうじゃなきゃね」

紬「澪ちゃんもやろう?」

澪「う、仕方ないか……」

さわ子「じゃあ早速、明日から練習ね」

さわ子「えっと、集合は何時にしようかしら……」


和「あの、先生」

さわ子「何かしら? 真鍋さん」

和「学校で練習するんですか?」

さわ子「そうよ。ほかにどこがあるっていうの?」

和「でも、グラウンドも体育館も活動中の部活で埋まってると思いますけど……」

さわ子「えっ!? そうなの!?」

律「おいおい……」

唯「さわちゃん先生もどこか抜けたとこあるよね~」

澪「唯に言われちゃお終いだな。まぁ同意見だけど」


さわ子「……」


紬「よかったら、ウチの敷地内の施設を使ってもらってもかまいませんよ」

さわ子「本当!?」

紬「ええ。野球道具やバレーのネット、卓球の台やその他必要な物も用意いたしますわ」

さわ子「持つべきものはお嬢様よね~」


「本当に琴吹さんってお金持ちなんだね」

「すご~い!」

「サーーーーッ!! サ、サァーーーーッ!!!」


さわ子「じゃあ、来れる人はムギちゃんちに集合っと」

紬「楽しみだわ~♪」



其の夜 琴吹家

紬「斎藤。少し手配してもらいたいんだけど」

斎藤「はい、お嬢様。して、どのようなことを?」

紬「野球のコーチができる人物を」

斎藤「投手コーチ、内外野守備各1名とバッテリーコーチに打撃コーチ」

斎藤「で、よろしいでしょうか?」

紬「ええ。そうね」

斎藤「人選はどういたしましょうか?」

紬「あなたにおまかせします」

斎藤「はい。かしこまりました」

紬「あ。それとバレーボールと卓球のコーチも同様に」

斎藤「はい」

紬「よろしく頼むわね」


prrrrrrr……

「もしもしぃ~」

斎藤「もしもし、吉田義男様でございましょうか?」

ムッシュ「はい、そうですぅ~」

斎藤「わたくし、琴吹家の執事をしております斎藤と申します」

ムッシュ「ああ、琴吹さんの~。ご無沙汰しておりますぅ~」

斎藤「実は折り入ってお願いがございまして……」

ムッシュ「琴吹さんには大変お世話になっておりますので、なんなりと仰ってください~」

斎藤「実は紬お嬢様とそのご学友の野球のコーチをお願いいたしたいのですが」

ムッシュ「はい~。ワタシは全然かまいません」

斎藤「ありがとうございます。それともしよければ、投手コーチや外野守備コーチも紹介していただければ」

ムッシュ「あ~、心配には及びません~。各分野のスペシャリストを連れていきますのでぇ~」

斎藤「では、よろしくお願いいたします」



翌日

唯「ムギちゃんちに初めて来たけどスゴイね!」

律「ああ、まさか敷地内に移動用のモノレールが走ってるとは思わなかった」

澪「まるで、ディズニーリゾートだな」

紬「野球組はこっちよ」

和「ドーム球場まであるの!?」

斎藤「皆様、おはようございます」

紬「コーチ陣の方々はもういらっしゃってるのかしら?」

斎藤「はい、お待ちいただいております」

澪「コーチってダルビッシュとか涌井とか!?」

律「ムネリンとかナカジとか!?」

唯「中日が誇る超絶イケメンの井上とか!?」

和「宮本とか石井琢朗とか!?」

澪律唯「渋っ!?」

紬(唯ちゃんもおかしいと思うの……)


ムッシュ「どうもぉ~」

唯澪律「えっ……」

紬「こちら吉田義男さん。内野守備コーチをかってでてくださったの」

和(これはこれで!!)

紬「その華麗な守備で今牛若丸と呼ばれていたのよ」

ムッシュ「もう昔のことですなぁ~」

紬「しかも吉田さんはフランス帰りなの」

ムッシュ「はい~そうですぅ~。ミーのことはムッシュと呼んでください。エッヘッヘ~」

澪(きっとおそ松くんのイヤミみたいにインチキなんだろうな……)

紬「そして、投手コーチの小山正明さん」

小山「はい、よろしく」

紬「針の穴をも通すともいわれる正確無比なコントロールを武器に歴代3位の320勝を誇る大投手なの」

唯「へぇ~。お裁縫が得意なんですね!」

小山「なかなか面白いお嬢さんやね」

律「2人ともじいちゃんじゃねえかよ……」

澪「大丈夫かな……」

紬「さらに、外野守備コーチの福本豊さん」

福本「どーも、こんにちは」

紬「国内歴代1位の通算1065盗塁は今後破られることはないといわれる世界の盗塁王なの」

紬「その功績が讃えられて国民栄誉賞が贈られるはずだったんだけど、断っていらっしゃるのよ」

福本「そんなんもろたら、おちおち立ち小便もでけへんからね」

澪「なっ///」

律「こんなんで本当に大丈夫なのか?」

和「あなた達は分からないかもしれないけど、みなさん偉大なプレイヤーだったのよ」

唯「へ~」

紬「ムッシュと福本さんにはバッティングも見ていただく予定よ」

紬「あとはバッテリーコーチだけど……」

斎藤「お嬢様、それはまた別に手配いたしましたが、なにぶんお忙しい方なので」

紬「そう、じゃあ到着しだい紹介するということで──」


「どうも、お待たせしました」

紬「あら、どうやらいらっしゃったみたいね」

唯澪律和「!?」

紬「多分みんな知ってると思うけど」

律「の、ノムさんだっ!!」

唯「ねえ! ボヤいて! さぁ早く!!」

ノム「ワシかてボヤキとうて、ボヤいてるわけやのうてやな」

ノム「それをマスコミが面白そうに取り上げるからこっちは仕方なく──」クドクド



──30分経過

ノム「だからマー君が、なんたらかんたら……」

紬「ノムさんその辺で……」

ノム「ああ、申し訳ない」

澪律 ゲッソリ……

唯「すごい!! 生ボヤキ!! 憂に自慢しよっと!」

和「なかなか興味深かったわね」

紬「それじゃあ、そろそろ練習始めましょうか」

唯「ねぇねぇムギちゃん」

紬「なに? 唯ちゃん」

唯「私、どこ守ったらいいんだろ?」

紬「とりあえず、今日はどこが自分に合ってるのか色々と試してみたらいいと思うわ」

唯「うん、わかった~。ちなみにムギちゃんはどこ守るの?」

紬「さわ子先生からはその何でも受け入れる器の大きさはファースト向きだって言われたわ」

唯「へ~」

紬「まさに総受け状態ね!」

唯「うん。よく分からないけどスゴイね!!」


小山「キミがピッチャーの?」

澪「はい、秋山澪って言います。よ、よろしくお願いします……」

小山「うん。にしてもなかなかええ体しとるね~」

澪「ひぃっ!?」

小山「女子にしちゃあ上背もあるし、ピッチャー向きやね」

澪(なんだ……、そういう事か……)

小山「なによりも、最近の若い子は、足が細いのが当たり前になってきてるけど」

小山「下半身がどっしりしとるのがまたええね。踏ん張りが効く」

澪「……」

小山「そして、手が大きいのもこれまた魅力的やね~。ええピッチャーになれるで」

澪(もうイヤ……)



ノム「────だから、この打者のアウトロー。これがピッチャーの基本であって……」

律「うんうん。アウトローが基本……っと」カキカキ


──
─────
──────────

ノム「────で、打者の足の位置や仕草を鋭く観察することで次の狙い球が……」

律「……zzzzzz」

ノム「もう帰るで……」



ムッシュ「そしたら、野手はキャッチボールから始めたいと思いますぅ~」

福本「初心者ばっかしやからまずは投げる捕るができなあかんからね」

「あ~ん、狙ったところにいかな~い」

「グローブで上手く取れないよ~」

福本「まぁ、最初はこんなもんでしょ」

唯「あ~、和ちゃんごめん、変なとこ行っちゃった!」

和「……!!」シュタッ! パシッ シュ!!

紬「はいっ!」パシッ

唯「おお~、スゴイ! 流れるようなプレーでファーストのムギちゃんにっ!」

ムッシュ「しかし、あの眼鏡の子はなかなか光るもんがありそうやねぇ~」

福本「琴吹さんとこの娘さんもなんなくこなしてますね」

──
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──────────

紬「じゃあ、今日はここまでにしましょうか」

唯「はぁ~。疲れたけど楽しかった~」

和「久しぶりに楽しめたわ」


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最終更新:2010年02月03日 01:58