澪 コクコク  シュパッ!!

澪「あっ!?」

律「ヤバイ!? 中にっ!?」

憂 クワッ!! ブンッ!!!

グワァラゴワガキーン!!!!!!

律「しめた! ショートの正面だ! 捕れるぞ!!」


ギュィィィィィィィィン!!!!!

ショート子「キャッ!!」


澪「打球が!?」

律「伸びた!?」

実況「一瞬ショートライナーかと思われた打球が勢いを増してグングン伸びて行くー!!」

実況「入るのか!? 入ってしまうのかーー!!!」


「ホームラン」グルグル

実況「入ったーーー!! これぞ4番の仕事! 逆転2ランホームラーーーン!!」

福本「こりゃあタマげましたね……」

ムッシュ「昔、ショートライナーやピッチャーライナーになりそうな打球がホームランになったという 怪童と呼ばれる男がおりましたが、まさにそれを彷彿させるような素晴らしい打球でしたねぇ~」

梓「す、すごい……」

唯「ほ~~~~~げ~~~~~」

和「全く、本当に恐ろしい子だわ……」




実況「秋山、ホームランは打たれたものの後続を打ち取りました」

実況「しかし4回を終わり2対1。2年1組逆転です!!」


澪「いやー、しっかし、気持ちイイくらい飛ばされたな」

律「……悔しくないのかよ」

澪「ん?」

律「あそこまで飛ばされて悔しく無いのかって聞いてるんだよ!」

澪「でも、あれは失投だったし」

律「お前ッ!?」

唯「やめてよりっちゃん!!」

紬「お、お茶にしましょうか!!」

和「律!! 一番悔しいのは打たれた澪のはずよ!!」


律「──ッ!! そうだな……ごめん、澪」

澪「……なんだよ」


──
─────
──────────


実況「一進一退の攻防が続き、ついに試合も終盤の8回の裏、2年1組の攻撃です」

実況「あれから得点は動いていませんが、どうでしょうか?」

ムッシュ「秋山投手は前半球数を使いすぎたためかだんだん球威もなくなってきまして
     ヒットを打たれたり四球を出すことが多くなってきました~」

ムッシュ「しかし要所要所でバックがいい守備をしまして盛り立てています~」

福本「平沢憂投手の方は逆に尻上がりによくなってる印象ですね」

福本「序盤あれだけ出てたヒットがパタンと出んようになりましたからね」



実況「さぁ、バックの厚い守りもあり秋山、8回裏も2アウトにまでこぎつけました」

実況「しかし、ランナー1、3塁とこの回もピンチが続きます」

実況「ここでバッターボックスには先程の打席でいい当たりを放った中野が入ります」

梓「澪先輩、相当疲れてますね」

律「ふん! さっきの梓の2ベースはまぐれだろ」

梓「確かに振ったら当たったって感じでしたけど
  それだけ澪先輩も限界なんじゃないですか?」

律(梓の言う通りだ……7回辺りから極端に球威が落ちてきてる)

澪 シュピ!

  パスン!

「ッタラーイク!」

梓「やっぱり、このくらいの球速だったらもう怖くありませんね」

律(クソッ……! なんて小憎らしいんだ)


梓「次は打ちますよ」

律(なんとかここを無失点に抑えて最終回を1点差で迎えたい……!!)

律(まだ、梓にはフォークを使ってないし)

律(この球見せるだけでもストレートだけだというそのふざけた幻想をぶち殺すことができる)

律(そして、梓は次の球から迷いが出るはずだ)

律(……試してみるか)パパパ

澪「!?」

澪「……」

澪 コクコク

律(よし……来い!!)

澪(後ろに逸らすなよ……!!)シュパッ!

澪「あっ、しまっ!?」

律「うぐっ!?」ドスッ!


実況「おおっと! 秋山の投げたボールがホームベースの手前でワンバウンド」

実況「しかしこれをキャッチャーの田井中が体を張って止めました!」

ムッシュ「あれこそキャッチャーの鏡ですよ」

福本「あれ後逸してたら1点入ってましたからね」



澪「律!!」

律「へへ……言ったろ、絶対捕るって」

澪「ば、バカ律! 怪我したらどうするんだよ」

律「私はさ、澪みたいになんでも上手くこなす事ができないからさ」

律「ドラムも走り気味だし、同じリズム隊として澪にはいっぱい迷惑かけてると思うんだ」

律「だから……、せめてキャッチャーとしてはお前を支えてやりたいんだよ」

澪「律……」

律「さっきは不貞腐れてる澪を見て少しカッとなっちゃって……」

律「でも澪のがんばりは私が一番知ってるつもりだから!」


紬(これよ! 私が求めていた展開はっ!!)


律「もちろん、お前が野球を嫌々やっているのは痛いほど分かってるよ」

律「でもせめて、この間だけは、野球やってる間だけは」

律「澪。私を頼って球を投げてくれないか?」

澪「……」

澪「……分かった。あとで受けきれなかったなんて言うなよ」

律「言うもんか! 澪の投げる球も気持ちも全部私が受け止める!!」

澪「は、恥ずかしいヤツだな……///」

球審「き、君たち。早くプレイを再開したまえ」


紬(ぷ、プレイって!? どんなプレイをっ!?)タラ~リ


和「ムギ!? 大丈夫? 熱中症?」

紬「ええ、ある意味熱中しちゃったかもね」

和「???」

律「よっしゃ~! しまって行こ~!!」


澪 シュパッ!!

梓(球速が戻った!?)ブン!

  カキン!

実況「おっと、中野打ち上げてしまった。打球はバックネット方向に飛んでいる」

梓「しまった!?」

実況「キャッチャー田井中これを捕ることができるか!?」

律「ぬぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

澪「律っ!!」

実況「田井中ダイビングキャッチ! しかしその勢いで自軍のベンチに突っ込んでしまった!」

福本「うわちゃ~。大丈夫かいな……」

さわ子「ちょっと!? りっちゃん、平気?」

律 スクッ

実況「どうやら大丈夫のようです。果たしてボールをシッカリと掴んでいるのか!?」


律「とったど~~~~!!!!」 

球審「アウト~~!!」


実況「雄叫びと同時にミットを天高く突き上げました!!」

ムッシュ「これはピッチャー助かりましたよ」

福本「なんとか最少失点差で9回を迎えられましたね」

実況「スタンドからも先程のプレーを讃える拍手が鳴り止みません」

実況「このピンチも堅い守りでしのぐことができました」

実況「さぁ! あとは9回の攻防を残すのみです!」


澪「律、あんまり無茶するなよ」

律「言ったろ。私が澪を支えるって」

澪「だって、心配するじゃないか……」

律「あ~ら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」ニヤニヤ


澪「バカ律」

律「フフッ。照れちゃって。カワイイの~」


澪「……ありがと」ボソッ


律「へっ?」

澪「なんでもな~い」

律「な、なぁ! もう一回! お願いだからもう一回言ってくれ!!」

澪「い~や」

律「ああ~~ん。いけず~」

紬「///」

さわ子「ほらほら。邪魔しちゃ悪いわよ」


さわ子「さぁ、泣いても笑っても最後の攻撃よ!!」

さわ子「今まで培ってきた物を全部出しきってちょうだい!!」

さわ子「ここまできたからには、必ず勝ちましょう!!」

律「あったぼ~よ! 最後に笑うのはこの3年2組だぜ!」

和「やるからには勝ちたいものね」

唯「私、絶対出塁するよ!!」

紬「がんばりましょ!!」

澪「うんっ!!」

さわ子「みんなその意気よ!!」

さわ子「そして、なんとしてでも焼肉食べ放題をいただくわ!!」


一同(結局、それかよ……)


実況「ついに最終回の攻防です。7番バッターのレフト子がエラーで出塁」

実況「ノーアウト1塁で打席には平沢唯。ピッチャーの平沢憂、なぜかこの姉には緩い球しか投げていません」

ムッシュ「次の打順はピッチャーですからね。めぼしい代打も居ないですし、なんとかヒットで繋いで
     次のピッチャーの打席で送るという手もないわけではないですよ」





憂「ああ~ん。お姉ちゃ~ん」フワッ

 ヒョロヒョロ~  パスッ!

「ットラーイク!」

憂「あれ? 打たないの?」

唯「……憂!!」

憂「な、何お姉ちゃん!?」

唯「しっかり投げなさい!」

憂「!?」


唯「お姉ちゃんだって今まで一所懸命練習してきたんだよ?」

唯「だから真面目にやりなさい!」

憂「……!!」

憂「分かったよ、お姉ちゃん!」

唯「よ~し、来い! 憂!!」

唯(今まで憂の投球のタイミングを測ってたら)

唯(投げる動作に入ってから、うんたん♪のタイミングでピッタシだった)

唯(だから私にも、憂の球が打てるはずっ……!!)


憂 シュピッ!!

キュイーーーーン!


カッキーン!!

実況「ピッチャーの足元を抜けるセンター前ヒット!」

実況「平沢、謎の掛け声と共にこの試合で初めてのいい当たりです!」

実況「これでノーアウト1、2塁とチャンスが広がりました!」

福本「ええピッチャー返しやったね……」

ムッシュ「何やら福本さん嬉しそうですよ。エッヘッヘ~」

福本「教えるのに苦労した子はカワイイもんですからね」



唯「名付けてうんたん打法!!」ブイッ

憂「お姉ちゃんカッコいい!!」


律「あの時を彷彿させる唯のピッチャー返しだっ!!」

和「あの時?」

律「2年の2学期、期末テストの勉強を図書室でやってた時なんだけど」

律「私が飽きて、唯に消しゴムのカス飛ばしたんだよ」

律「そしたらものの見事に鉛筆で打ち返されてさ」

和「へ~」

律「それが私の鼻に入って、あれはウケたな~」

律「思えばあの頃から唯の野球センスは開花し始めたのかもな」

和「どうでもいいけど、図書室で騒いでいた生徒が居たって苦情が生徒会に伝わってきてたんだけど」


和「それってきっとあんた達のことだったのね」

律「ごめんなさい」


さわ子「澪ちゃん頼むわよ……」パパパ

澪 コクン

実況「さぁ、秋山ここはプレッシャーのかかる場面でのバントだ」

ムッシュ「彼女は人一倍努力家でしたからね、必ずここも決めてくれると思います」

実況「ピッチャー……投げました!」

澪 コツン コロコロ……

実況「いいバントが決まって1アウト2、3塁と絶好のチャンスです!」



さわ子「よし! お膳立ては整ったわよ!」

和「せんせ……監督、ちょっとお話が」

さわ子「ん? 何、真鍋さん」

和「実は────」


さわ子「……信じていいのね?」

和「ええ。もし打席でそう感じたらまた合図送りますんで」

和「その時は3塁ベースコーチのムギにサインの発信お願いします」

さわ子「分かったわ。もちろん唯ちゃんにも、ね」

律「お? なんだなんだ、内緒話か?」

和「すぐに分かるわよ」


実況「さぁ! このチャンスで今日当たりに当たっている真鍋の登場です!」

和「澪ナイスバント」

澪「うん。私ができるのこのくらいだし」

和「そんなことないわよ」

和「あんたが頑張ってたからみんなもこれだけやる気になってるのよ」

澪「そ、そうかな……」

和「そうよ。マウンドでの澪、とってもカッコよかったわ」

澪「の、和……」

澪「頼む。私をもう一度あのマウンドに上げてくれ」

和「分かってるわよ。もちろん同点じゃなくて勝ってる状態で9回の裏のマウンドに上がってもらうわ」

澪「……うん!!」

憂「はぁ~。またいい場面で和さんか……」

憂「これ以上目立たれちゃお姉ちゃん取られちゃうかも……!?」

憂「絶対抑えてやるんだから!!」

 憂は和に嫉妬していた

 近所でカワイイと評判の平沢姉妹
 どこか抜けたところもあるが愛らしい姉
 憂はそんな『お姉ちゃん』が大好きだった
 その強すぎる想いは小学校へ上がるころには姉妹を超えた
 特別な感情になりつつあるのを憂は感じていた

 そんな唯一無二の存在である姉がある時期から
 幼なじみの和についての話を頻繁にするようになった

 食事中も入浴中も就寝前も……

 「和ちゃんってカッコいいんだよ。私将来和ちゃんのお嫁さんになる!」

 ずっと一緒に居られると思っていた姉の存在が急に遠くなったように感じた

 こうして憂は和と同じチームへ入った
 全ては和より目立ため。姉の興味を自分へと惹きつけるため

憂「幼なじみだからって……」

憂「お姉ちゃんは絶対渡さないんだから!!」


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最終更新:2010年02月03日 02:13