放課後。
音楽室。
お菓子にお茶。
いつものティータイム。
澪「唯、大好きだ!」
突然澪ちゃんがそんな事を言うので、私は口に含んでいた紅茶を思い切り噴き出してしまいました。
唯「え…え~っと…、私も好きだよ~」
勿論、友達として。
と、私の返答を聞いたりっちゃん、あずにゃん、ムギちゃんの3人が
先程の私と同じ様にお茶を噴き出します。
律「唯、お前澪が好きだったのか!?」
梓「ひっ、酷いです先輩!あれだけ私をその気にさせときながら…!!」
紬「唯ちゃん!美味しいお菓子、まだたくさんあるの!私と一緒に居れば気持ち悪くなる程食べれるわ!!」
唯「え、え、え?」
3人が詰め寄って来て、早口で私に捲し立てます。
皆、一体何を…
澪「唯は私が、すっ、すっ、好きだって!律、梓、紬は諦めろ!」
梓「唯先輩が澪先輩を好きなハズありません」
澪「さっきの唯の言葉聞いて無かったのか!?」
律「それは聞き間違いだ!唯は『りっちゃん大好き!』って言ったんだよ!」
言ってないんですけど。
紬「そんな事有り得ないわ!唯ちゃんは『ムギちゃんが好き!大好き!』って言ったのよ!!」
言ってないんですけど。
唯「あのー…」
何でこんな事になっているのか良く分からないけど、
澪「何!?」
梓「何ですか!?」
紬「どうしたの!?」
律「何だ!?」
唯「机、拭かない?」
とりあえず私は、澪ちゃん以外の3人と、私の噴き出したお茶でびちゃびちゃのテーブルを拭く事を提案した。
唯「いやだからね、それは友達としての好きって意味で」
私がそう告げると、澪ちゃんは「紛らわしい言い方するなよ」と頬を膨らませた。
唯「え…だって澪ちゃんの好きって言うのもそういう意味じゃなかったの?」
澪「違うよ。私は唯に対して恋愛感情を抱いているんだ。だから唯、付き合ってくれ!」
唯「えぇえ!?」
恋愛感情…って。そういう好きは男の人に対してのものじゃないの?
紬「それは違うわ唯ちゃん。女の子同士だって何もおかしい事じゃないのよ」
唯「心を読まれた!?」
澪「唯、返事は…?」
唯「今すぐに返さなきゃダメでしょうか」
澪「…」
澪ちゃんが顔を真っ赤にして、体をプルプル震わせ、潤んだ瞳でこちらを見つめ…
それだけで、彼女が勇気を振り絞って私に告白した事は痛い程伝わってきます。
唯(可愛い…)
綺麗でツヤツヤな黒髪に調った顔立ち、高い身長。
澪ちゃんだったら、正直女の子同士でも…
梓「ダメですーっ!!」
唯「え?」
梓「澪先輩、抜け駆けは無しって言ったじゃないですかっ!」
律「そーだぞ、告白する時は皆一緒って話をしてただろ」
澪「だって唯がお菓子を幸せそうに食べてる姿が余りにも可愛くて…。我慢出来なかったんだよぅ」
紬「そんなの理由になってない!いついかなる状況でも唯ちゃんは可愛いもの!」
梓「紬先輩の言う通りです。唯先輩はいつ見ても素晴らしく可愛い」
律「唯とちゅっちゅっしたいよ~」
唯「あの…皆…そんな可愛い可愛い言われたら流石に恥ずかしいから…」
自分でも顔が赤くなっているのが分かる。
ふざけた感じで可愛いって言われるなら良いけど、皆真顔で可愛い可愛いって言うんだもん…。
紬「これは緊急会議ね!」
唯「き、緊急会議…?」
ムギちゃんの叫びに3人が頷きます。
紬「それでは第286回、唯ちゃんLOVE会議を行います」
唯「に、にひゃくはちじゅうろく…」
というか唯ちゃんLOVE…
律「今回の議題は
秋山澪の自分勝手な行動についてですね」
紬「はい、そうです。約束を破り部活中に勝手に告白するという暴挙」
梓「これは許し難いですね」
澪「待ってください!」
唯「…私、帰るね~」
何だか会議が始まっちゃいました。私、村八分。
練習が始まりそうな様子もないし、帰っちゃっていいよね…?
…
今日は妙に疲れたなぁ。そりゃ皆に好かれるのは嫌じゃ無いけど、あんな突然…。
まぁ学校の事は明日学校に行った時に考えればいいや。
家に着いた途端に、くぅ~と私のお腹が鳴きます。今日の夕御飯は何だろう。
今頃憂が作ってくれてるハズ。
唯「ただいまー!!」
ほら、家のドアを開ければ良い匂いが…
唯「なんか、焦げ臭い…」
しませんでした。
憂「あ、お、お姉ちゃん…うっ、うぅ…おねえちゃぁぁぁん!」
唯「わっ、ど、どうしたの憂!?」
台所から出て来た憂が玄関の私を見るなり泣きながらこちらへ向かってきて、私に抱き着いてきました。
憂「ふぇ…うっ、ぐすっ、おね、ちゃん、ごめんなさぁぃ…」
唯「い、一体どうしたの?」
優しく抱きしめて、髪を撫でながらそう聞きます。
憂が泣きながら私に抱き着いてくるなんて、普通じゃありません。
唯「ね、落ち着いて。ゆっくり話してみてよ」
憂「うっ…ぐすん、あ、あのね、いつも私お姉ちゃんに家事任せっきりで、申し訳無いと思って…」
唯「は?」
憂が私に家事を任せっきり?
憂「それでね、ひっく、今日はお姉ちゃんが帰って来る前に、ぐすっ…カレー作ろうと思ったのに…」
憂に手を引っ張られ連れて行かれた台所は凄い事になってました。
唯「これ、カレー?」
憂「うん、頑張ったんだけど…」
鍋の中には真っ黒いカレー。
唯「ブラックカレー?」
憂「普通の、カレー…」
流しには野菜の切れ端と洗い物が散らばっていて、床は何故か水でビチャビチャ。
鍋の中には焦げたカレー。
唯「とりあえず」
憂「とりあえず…?」
唯「片付けようか」
憂「うん…」
憂「美味しい!やっぱりお姉ちゃんのオムライスは最高だよ♪」
憂が喜んで食べているオムライス。驚くなかれ、私が作ったんです。
二人で片付けをした後、私は途方に暮れました。
唐突に料理が下手になってしまった憂。
憂が御飯を作れ無くなってしまったら、
この家(といってもお母さんもお父さんも海外に行ってて私と憂の二人しか居ないけど)で料理出来る人は居ません。
これはもう店屋物しか無いなと受話器に手を伸ばした時、憂が突然
憂「お姉ちゃんのオムライスが食べたい!」
なんてキラキラした目で言い出したのです。
唯「え…うん、わ、分かった!今からお姉ちゃんがオムライス作るよ!」
以外な事に、上手に作れました。包丁も上手く使えたし、何だか自分の体じゃないみたい。
憂「私もこれ位上手に料理作れたらいいのになぁ」
唯「あはは…あ、ご飯粒」
憂のほっぺに付いていたご飯粒を取ってそのまま自分の口に放り込みます。
憂「ふぇ…わ、うわわっ、お姉ちゃん!?」
唯「え、何?どうしたの?」
憂「だ、だって今、私のほっぺのご飯粒、食べ、あう~…」
顔を真っ赤にして、何か呟いてる。
唯「変な憂」
憂「お姉ちゃんの鈍感っ」
お風呂に入って、自分の部屋のベットに横たわる。
唯「何かがおかしい、そんな気がした」
放課後の出来事。
澪ちゃんが突然私に告白して、りっちゃんもあずにゃんもムギちゃんも私が好きだという。
家に帰ったら帰ったで、憂が料理を出来無くなってて。
代わりに私が上手くなってる。
唯「まぁいっか、寝ちゃおー…」
疲れからか、目をつぶって数十秒で私の意識は途切れました。
……
「―――だったよな~」
「私、――と――――です。」
「おいおい。まぁでも確かに―――――」
何か聞こえる。
「おっ、おい!」
「!」
何でそんなに驚いた顔をしてるの?
「そっかぁ。皆…」
「まて!おいっ!」
~~
唯「うわぁぁぁぁぁっ!…っはぁ、はぁ…ゆ…め…?」
唯「まだ5時…。うわ、寝汗でパジャマが…」
とりあえずシャワーを浴よう…。
唯「今の夢って…一体…」
唯「うーいー!いい加減起きないと遅刻しちゃうよ~!!」
ダダダダッ、という音と共に憂が勢い良く階段を駆け降りてきます。
唯「あ、寝癖寝癖」
憂「ふぇぇ…ちょっと待っててお姉ちゃん、とかしてくる~!」
そう言うと、憂は急いで洗面所へと走って行きました。
唯(憂が寝坊なんて珍しーなぁ)
憂「う~、ごめんお姉ちゃん。行こう!」
唯「急げ急げ~」
憂「ああああ、お弁当どーしよー!」
唯「作ってあるよ。はい」
憂「えっ!?わ、いつもごめんねお姉ちゃん…」
たまたま早く起きたから、昨日みたいに上手く料理出来るか試してみただけなんだけど。
というかいつも…?
唯(まさか本当に料理が上手になってるなんて。どーなってるんだろ)
唯「ほら、早く行こう?遅刻しちゃうよ」
憂「うんっ!」
…
梓「あ、唯先輩に憂。おはようございます」
憂「梓ちゃんおはよー!」
唯「あずにゃんおはよーっ」
登校途中、二人で歩いているとあずにゃんが後ろから走ってきました。
梓「いやあ、朝から唯先輩の顔が見れてラッキーです。昨日は勝手に帰っちゃうんですもん」
唯「いや、だってあの状況じゃ…」
梓「まぁいいです。話は放課後に」
唯「な、なんか目が怖いよあずにゃん」
梓「それよりいつもみたいに抱き着いて来てくれないんですか?」
いや、だってあんな事があった後だし気軽に抱き着きにくくなってしまったというか。
憂「梓ちゃん、私のお姉ちゃんはあげないからねっ!」
っていきなり何を言い出すのですか妹よ!
梓「憂、憂は所詮唯先輩の妹。血が繋がってるんだよ?」
憂「だ、だから何…?」
梓「唯先輩は憂の事、あくまで妹としてしか見れないって事」
憂「っ…!そ、そんな事ないもん!お姉ちゃんだって…」
朝から私を間に挟んで喧嘩しないでください。
唯(うう…皆見てる、恥ずかしい…)
紬「そして放課後!」
唯「ムギちゃん、誰に向かって言ってるの?」
紬「ちょっと…」
律「唯!」
昨日と同じくお茶を飲んでいると、りっちゃんがいきなり私の名前を叫びました。
唯「な、何?」
朝からずっと一緒だったけど、何も言われないからてっきり今日は普通だと思っていたのに、
律「誰が一番好きか決めてくれ!!」
そんなことなかったみたいです。
唯「誰が一番好きって、どういう…」
律「だから私と澪と紬と梓、誰と付き合うか決めてくれって言ってるの」
唯(あれ、付き合わなきゃいけないのは絶対?)
どうやら私はあずにゃん、澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃんの誰か一人と付き合わなきゃいけなくなってしまったみたい。もしかして昨日の会議の結果がこれですか?
唯「わ、私…」
…
律「う~ん、このクレープ美味しいなぁ。あ、唯も一口食べるか?」
唯「食べるー。りっちゃんも私の食べていいよ~」
律「まっままっまじか!?唯とかっかかかかんかんせつきす…」
唯「…」
そうして私とりっちゃんは今、デートをしています。
いや、これは別にりっちゃんを恋人に選んだとかそういう訳では無くてですね。
~
唯「わ、私には決められないよ~なんて…」
澪「やっぱりそうか」
唯「やっぱりって」
梓「唯先輩は優柔不断ですから、絶対そう言うと思っていました」
唯「はぁ、さいですか…」
紬「だから昨日私達で決めたの」
唯「な、何を?」
りっちゃん達の話はこうだった。
まず、一日ずつ交代で私が軽音部の皆と放課後にデートをする。
初日がりっちゃん、二日目があずにゃん、三日目が澪ちゃん、四日目がムギちゃんという風に。
それで一緒に居て一番楽しかった人を選んで、その人が私と付き合う事になる…
~
唯「ってやっぱなんかおかしいよ」
律「どうした唯?」
唯「いや…いいや」
その後はりっちゃんと楽器屋さんに行ったり買い物をしたりして、私が家に帰ったのは夜の8時。
唯「楽しかったけど疲れた…」
家に帰ると、憂がわざわざ玄関まで私を出迎えに来てくれました。
憂「お帰りお姉ちゃん!」
唯「ただいまー」
憂「あの…それで、ご飯なんだけど…」
唯(あぁそっか。私が作らなきゃいけないのか)
憂「ホントにホントにごめんね。私が料理作れれば…お姉ちゃん、練習で疲れてるのに…」
唯「いいよ、大丈夫。お姉ちゃんに任せなさい♪それに今日は練習無かったしねー」
憂「練習無かったの?でも帰ってくるの遅かったね」
唯「色々合ってね。ご飯作ろっか、憂も手伝って~」
憂「うん!」
唯(大変だけど、悪い気はしないなぁ。必要とされてるんだもんね)
…必要と、されてる。
夕食を食べながら、今日あった出来事を憂に話します。
憂「えぇっ、軽音部の皆さんとデート!?」
唯「それで最後に、一緒に居て一番楽しかった人と付き合うんだって」
憂「つつ、つきあ…それって恋人!?」
唯「う、う~ん、そういうことになるのかな」
憂「お姉ちゃんが…私のお姉ちゃんが…」
憂が箸を休めて、一人でぶつぶつ呟き出したかと思うといきなり机をバン!と叩きました。
唯「な、なに…?」
憂「そんなの許せない!お姉ちゃんの意志は丸っきり無視じゃない!」
それは…確かに。
憂「それに何か色々おかしいよ!」
唯(おかしいとは思うんだけどその場の勢いに押されちゃう私…)
憂「私、明日の放課後お姉ちゃんと一緒に音楽室まで行って皆さんに抗議する!!」
唯「えぇ…!?」
翌日・放課後
私は音楽室の扉の前をうろうろしていました。
「私きっちり話をつけてくるから、お姉ちゃんは待ってて」
と、憂が音楽室の前に来るなり勢い良く扉を開けて、中に入っていっちゃったからです。
あれ、別に私も入って良かったんじゃ…。
しばらくすると、憂とあずにゃんが音楽室から一緒に出て来ました。
梓「さぁ唯先輩、デートに行きましょう」
唯「えっ」
憂「お、お姉ちゃん。今日の、でっ、デートは何処に行くの?」
唯「あれぇ」
梓「簡単に言うとですね」
3人で入った喫茶店。そこで憂がトイレに立った際に、あずにゃんがさっきあった事を話してくれた。
梓「憂が物凄い形相で音楽室に入って来て」
唯「ふむふむ」
梓「お姉ちゃんは私だけのものです!私と一生一緒に居るんです!!」
梓「皆さんの恋人になる事なんて絶対ありませんっ!と」
唯「げほっけほっ」
あずにゃんの声真似が余りに似ていたのと、その憂が叫んだ内容に私は思い切りむせてしまいました。
最終更新:2010年02月03日 03:41