唯「そ、そんな事言ったの?」

梓「はい。まぁ憂が来ることは予想してたんですけど…、どうするかまでは考えてなかったんです」

梓「そしたら『そんなに自信あるなら憂も参加してみる?』って、律先輩が」

唯「なるほど…」


梓「私は反対したんですよ。今日は唯先輩と二人っきりのハズが。あ、戻ってきた」

憂「梓ちゃん、お姉ちゃんに何か変な話してないよね?」

梓「してないよ。うたぐり深いなぁ」

唯(単純に憂にも別の日を作れば3人でデートにはならなかったんじゃ…)

と思ったけど、疲れるのは私なので口には出さないでおこう。

梓「あ、先輩、その使ったストロー下さい」

唯「いいけど…なんで?」

梓「家で使うんです」

唯「何に使うの?」

梓「家で使うんです」

唯「だから何に…」

梓「じっくり説明しますか?まずその唯先輩の唾液がたくさんついたストローの吸い口を私のちくいたたたた憂痛い痛い」

憂「私だってお姉ちゃんのストロー欲しい!」

え、そっち?

梓「憂は一緒に住んでるんだからいいでしょ。」

梓「羨ましいなぁ。憂は唯先輩と家でも一緒に居れて」

梓「ま、でも唯先輩が私と付き合う事になったら憂と一緒に居るより私と一緒に居る時間の方が多くなるかもねー」

憂「…べー。お姉ちゃんは絶対私を選んでくれるもん!ね、お姉ちゃん!?」

唯(恥ずかしい…もう帰りたい…)

梓「実は私、唯先輩に一目惚れして軽音部入ったんですよ」

唯「え、そうなの?」

梓「ステージで演奏してる唯先輩に心射ぬかれまして」

憂「あの時のお姉ちゃん、すっごいかっこよかったもんね!私も惚れなおしちゃったよ!」

唯「えへへ、そうかなぁ。…惚れなおし…?」

梓「それで軽音部入って唯先輩に猛アピールしようとしたんですけどね…。

梓「先輩方が3人共唯先輩のコト好きだって言うもんですから」

唯「へ、へぇ、そうだったんだ…」

そういえば、りっちゃん達はいつ頃から私の事を、その、好きだったんだろうか。

梓「え、そもそも軽音部自体が唯先輩に惚れたあの3人がどうにかして唯先輩にお近づきになりたいと作った部なんですよ」

唯「えええええぇ!そうなの!?」

梓「今更ですか」

唯「今更って、えええぇ…」

梓「先輩、今日は邪魔が居たけど楽しかったです」

憂「梓ちゃん、邪魔って私の事?」

梓「逆に憂以外に誰が居るの?」

憂「きっとお姉ちゃんにとっての邪魔は梓ちゃんだったんじゃない?」

梓「は?」

憂「私と二人の方が、お姉ちゃんはきっと楽しかったよ!」

梓「そっちが途中参加してきたんでしょ!!」

唯「ストップストップ。喧嘩はやめようよー」

憂「…ごめんなさいお姉ちゃん」

梓「む、唯先輩がそう言うなら。」

唯「もう~」

梓「…唯先輩、いつも部活中私に抱きついてきますし」

唯「い、いきなり何?」

というか抱き着くのはスキンシップなんだけどなぁ。

梓「私の事好きなんですよね。だから最後は私を選んでくださいね!絶対です!」

唯「えーっと…」

憂「お姉ちゃん困ってるじゃない!梓ちゃん、ほら早く帰る帰る!」

梓「憂、押さないで。帰るから。…唯先輩」


唯「何?」

梓「好きです」

あずにゃんは私の目を見てそれだけ言うと、大人しく帰って行きました。

憂「…お姉ちゃん、帰ろう」

唯「うん」

憂「お姉ちゃん。私もお姉ちゃんの事、好きだから」

唯「…うん」

好き、か。


翌日

授業が終わって、いつも通り音楽室へ向かう途中に和ちゃんに声をかけられました。

和「あ、唯。やっと見つけた」

やっと、って事は私を探してたのかな。

唯「和ちゃん、何か久しぶりだね~。どうしたの?」

和「ちょっと生徒会の事で相談に乗ってもらいたくて」

唯「生徒会?私が相談に乗れる範囲なら…」

和ちゃんが生徒会の事で私に相談なんて、珍しいなんてもんじゃありません。
いや、そもそもたいてい相談に乗ってもらうのは私の方だった訳で。

和「今回の部活動の予算配分の事なんだけどね」

唯「よさ…私そんなの全然わかんないよ!?」

和「唯はいつも的確なアドバイスくれるじゃない」

唯(いつも、的確なアドバイス…?)



三日前から感じていた違和感。

『お姉ちゃんに家事任せっきりで』

唯「ねぇ…私がこの学校受かったのって和ちゃんのおかげだよね?和ちゃんが私に勉強教えてくれて…」

和「何言ってるのよ。丸っきり逆じゃない。私の方が唯に勉強を教えて貰ってたのに」

違う。違うよ和ちゃん。

和「唯が居なかったら、私今きっとここに居ないわ」

頭が痛い。
何かを忘れている様な気がする。



「唯は――――と―――に―――だな」
「憂ちゃんも―――――――」
「そ、そんなこと…お姉ちゃんには―――――」
「まぁ確かにもうちょっと―――――かも」

和「い、唯!どうしたの?」
唯「っ…な、何でもない。私用があるから行くね!」
和「え、ちょ、唯!?」

私を呼び止める和ちゃんの声を無視して、音楽室へと走ります。

唯(あれ…何で私逃げてるんだろ…)




音楽室では既に澪ちゃんが待っていました。
私達がデートに行ってる時も練習はしてるみたいで、澪ちゃん以外の皆も音楽室に居たけど。

澪ちゃんが見たい映画があると言うので、今日のデートは映画館です。
映画の内容は全然頭に入って来ませんでした。頭の中はずっと、さっきの和ちゃんの言葉で一杯だったから。


『私の方が唯に勉強を教えて貰ってたのに』


唯「ねえ澪ちゃん、りっちゃんと澪ちゃんっていつから友達なの?」

映画を見終わった後に入った喫茶店で、私は澪ちゃんにそう聞きました。

澪「い、いきなりどうしたの?」

唯「ちょっと気になって」

澪「えっとね、律と私はな………」

唯「どうしたの?」

澪「いや、ちょっと待って。私と律は、えっと、えっと…あー、その…」

唯「…ごめん澪ちゃん、答えられないならいいよ。私今日は用事が出来たからもう帰るね」

澪「え!?おい唯、待ってよ!!」


喫茶店から出てすぐに私は携帯を取り出して、アドレス帳からあずにゃんの番号を選択する。

プルルルル…
プルルルル…

数回のコールの後に、あずにゃんは電話に出てくれました。

梓「唯先輩、どうしたんですか?」

唯「ごめん、練習中だった?」

梓「いえ、丁度終わった所ですけど…」


唯「じゃあ良かった。あずにゃんに聞きたい事があるんだ」

梓「何ですか?唯先輩のお願いなら必要以上にべらべら喋っちゃいますよ」

唯「ありがと。じゃあさ、あずにゃんが子供の頃の話、してよ」

梓「!」

唯「私が知らない、高校に入る前の事を何でもいいから」

梓「そ…そーですね。じゃ、じゃあ中学の時の事なんですけどね、あの、えと…」

唯「…やっぱいいや。変な電話してごめん」

梓「え、唯せんぱ――」



翌日

私はベットに寝転んだままずっと考えていた。

憂が料理が下手になった理由。

和ちゃんとの思い出が変わっている理由。

皆が突然私を好きだと言った理由。

澪ちゃんやあずにゃんが過去の話を出来ない理由。


唯「これが私の夢、だからだ」



律「おい、唯!出てこい!」

バンバンとドアを叩く音とりっちゃんの声。

唯「りっちゃん、今は授業の時間のハズだけど…」

律「憂ちゃんが、唯が昨日帰って来てすぐに部屋に引きこもって出てこないって泣きながら言うから」

紬「心配で学校抜けて来ちゃった。私、サボりなんて初めてでドキドキするわ」

唯「ムギちゃんまで…」

澪「ムギだけじゃないぞ」

梓「軽音部、全員居ます!」

唯「あずにゃん、澪ちゃん…」


憂「お姉ちゃん、ぐすっ、ごめんね、私がダメな妹だから、っく、嫌気がさして、ひっく、部屋から出て来てくれないんだよね、うぅ…」

律「唯、どうしたんだよ一体。部屋から出て来て話をしてくれよ!」

唯「…憂、泣かないで。別に憂が悪い訳じゃないんだから。」
唯「そもそも、ダメな妹…今の憂、それは、私が望んだ憂なんだよ」

憂「えっ、それってどういう…」

唯「澪ちゃん、りっちゃん、ムギちゃん、あずにゃんはもう分かってるんだよね」

梓「…唯先輩」

唯「私はどうすればいいんだろーね、あはは…」


……

その日、私はたまたま音楽室に遅れて行ったんだった。

「あの~」

「お、憂ちゃんじゃん、どうしたんだ?」

「たまにはお姉ちゃんが部活してる所を見てみたくて、来たんですけど…」

「大歓迎よ♪でもまだ唯ちゃん、来てないの…」

「あ、そうなんですか」

「りーつー!」

「うわっ、和!?」

「あんたまた講堂の使用の申請出してないでしょ?」

「は!?何やってんだよ律!」

「律先輩、前にもそんな事ありませんでしたっけ…」

「あー…、まぁとりあえず和も憂ちゃんもお茶でも飲んで落ち着こう!」

「憂ちゃんは初めから落ち着いてるだろ…」

音楽室には何故か和ちゃんと、憂が居て。
楽しそうにお茶してた。

「そういえば、学祭前に憂ちゃんが唯の真似してギター弾いた事あったけど、すげぇ上手かったよな~」

「唯先輩が風邪引いた時の話ですね」

「確かに上手かったな、あれは…」

「私、是非憂と一緒にやってみたいです!」

「確かに私も憂ちゃんと一緒に演奏してみたいかも」

私の話をしてたから
皆が私のコト、どう思ってるか気になって
私はしばらくドア越しに
皆の会話を聞いていようと


「そいうえば、唯ってよくこの学校入れたよなぁ」

「お前も人の事言えないだろー…」

「受験前はお姉ちゃん、ずっと和さんに勉強教えてもらってたんですよ」

「あぁ、そうだったわねー…」

「じゃあ和が居なかったら、唯は今ここにはいなかったのかもな~」


「唯は本当と憂ちゃんと和に頼りっぱなしだなぁ」

「そういえば、憂って家の事全部一人でやってるんだよね?」

「お、お姉ちゃんも手伝ってくれるよ!」

「でも唯ちゃん、家事あまり得意そうには見えないわよね」

「憂ちゃん、毎日夕食も作ってるんだ?」

「あ、はい、親が居ない時は…。」

「なんだ、大変だなぁ…。唯も料理が出来ればいいのに」

「憂ちゃん、自分の時間犠牲にしてるコト多いんじゃないか?」

「そ、そんなこと…で、でも私に何かあった時、家事が出来ないのは確かに心配です…」

「まぁもうちょっと唯にはしっかりして欲しいかも、ね」



そして私は聞いたんだ。

「憂ちゃんが居たら、唯は要らないかもな~」

笑いながら言っていたけど
その一言は、私の胸を深く抉った

私は音楽室に入って、笑いながら言ったんだ。

「そっかー、私要らない子だったんだ。」

「今まで気付かなくてごめんね!」
「私、軽音部やめるよー。代わりは憂がいいよね!」
「じゃあ皆、頑張ってね」
「頑張って…」

その時皆どんな表情してたっけ。
良く覚えてない。


後ろの方で私を必死に呼び止める声が聞こえたけど
私は無視して走り続けた。
何処に向かってたんだろ。
もう私の居る場所も無いのに。
足は自然に家の方に向かっていたのかも知れない。

私は信号を無視して
トラックに轢かれた


唯「あぁ…思い出したくないのに全部思い出しちゃった」

ここは私が望んだ世界。

りっちゃんもあずにゃんも澪ちゃんもムギちゃんも
私のコトが大好きで

私が和ちゃんに勉強を教える立場で

憂は私に頼り切ってて

誰もが私を必要としてる
誰も私の悪口何て言わない
私の望んだ世界


澪ちゃんやあずにゃんが過去の話を出来ない理由。
当然だ。
だってこれは私の夢。
だから、私が知らない話を出来るハズが無い。

今、私はどんな状況なんだろうか。
今頃病院のベットかな?
生きてるということは何となく分かる。
だって夢を見れるんだから。


気付くと、りっちゃん達が私の部屋に入ってきていた。

唯「私はこのまま夢を見ていていいの?」

律「そうだ、これは唯の夢だ」

紬「だけど私達が唯ちゃんのコトを好きなのは間違いじゃないわ」

梓「いいじゃないですか、夢でも」

澪「だって現実の世界では、唯は必要とされてない」

憂「だけどこの世界の私達はお姉ちゃんを必要としてる」


唯「そっか…そーだよね。じゃあ私はこのまま夢を見続けてるよ」

律「そっか…!」

梓「じゃあ今から私とデートしましょう唯先輩!」

澪「は!?何言ってんだ梓!」

紬「そうよ!まだ私、唯ちゃんとデートしてないの!ほら、唯ちゃん行こう!」

憂「皆さんダメです!!お姉ちゃんは私のお姉ちゃんなんです!!」

唯「あはは…」

唯(本当にこれで良かったのかな・・・)



病室

律「おい!唯!目を覚ましてくれよ!なぁ!!」

澪「律、やめろ…やめろよ…他の病室に迷惑だろ…うぅぅぅ…」

律「なぁ唯!やっぱり私達にはお前が必要なんだよ!!」

紬「うぇ…ひっぐ…ううう…」

律「唯!唯!私、あんなこと言っちゃたけど、あんなの軽い冗談っていうか…!」

律「だからお願いだよ…目ぇ…目を覚ましてよ…うぇ…うぇえええええん…」

憂「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん」

手術自体は成功したけど、唯先輩が目を覚ます事はありませんでした。
憂は、唯先輩が事故に会った日から何も食べずただひたすらお姉ちゃん、とだけ唯先輩の横でつぶやき続けています。


梓「先輩…」



おしまい



最終更新:2010年02月03日 03:49