たばこを昨日と同様、踏み付け、振り返り身構えた。
茂みからは唯と同じ制服を着た女の子二人が出てきた。

唯はその二人を知らなかった。
身なりはだらしなく、髪の色も派手である。世間一般で言いう“不良”というやつだ。



女A「へ~、悪いんだぁ!不良だね!」

唯「えっと、なな、何のこと?私は今ここで涼んでただけで・・・」


女B「なに誤魔化してんの?かわぁいいぃwww!全部見てたっての!」


女A「タバコ吸ってたでしょ?最初から見てたよ。あんたまだ高校生じゃん?」

女B「キャッキャ!こいつどうする?」

唯「あの!誰にも、い、言わないで下さい。お願いします!」

唯は一瞬にして今までの軽い気持ちでした行いを後悔した。
(この事がばれたら・・・私・・・軽音部にいれない!)


女A「警察と学校、ばらされるならどっち?選びな。」
唯「・・・!」ガクガクブルブル


二人が両目に涙をいっぱいに溜める唯を見る目は、まるでいたずら盛りの少年のようだった。
これからどんな悪さをしてやろうかと考える、そんな目だ。


女A「まぁ、金出すって言うなら黙っててやってもいいけど?」

唯「・・・」ヘナッ


女A「ふふっ!なんて言うと思った!?冗談よ!ジョーダン!」

女B「誰にも言わねぇよ!カワイイな、こいつww」

女A「あのさ、ここってうちらのお気に入りの喫煙場所なんだ。昼間から人通りが少し、マッポもあまり来ないし。」

唯「あ・・・あの。」


 カチ

 シュボ

「スー・・・・フー」

手馴れた手つきで二人は“一服”をたのしみだした。

唯は崩れ落ちそうな足腰と、今すぐ逃げ出したい気持ちを、押し殺すのに必死だった。

女B「あ、それあたいの!」

女Bは唯が握り締めてるタバコを指差した。

唯「あのっ!すみません!!勝手に吸っちゃって・・・今すぐ買ってお返しします!」

唯はその場からはなれらる口実が出来、内心ホッとして急いで鞄とギターに手をかけた。

女A「まちなよ。そのカッコで買えるわけないだろ。」

行く手を阻まれ、唯は荷物を置くことになる

女B「いいよ!それあんたにあげるよ!あんたも吸うんだろぅ?それにあたい、それあんまり好きじゃないし。」


唯「あの・・・有難うございます。」

唯は何を言っていいか言葉が見つからず、なぜかお礼の台詞とともに深々とそれのおじぎをした。


女A「あのさ、それやめてくんない!?敬語とか。」

唯「あ、すみません・・・」

女B「ほら、それ」


女A「だって同い年なんだからさ。あんたは知らないかもしれないけど、私たちはあんたの事知ってるよ。バンドやってんだろ?学園祭見てたよ。なんて言うか知らないけど。」

女B「毛音!」

唯「けいおん?ですか。」

女B「そう、それ!ギターやってんの!?ライブかっこよかったじゃん!!」


唯は顔を赤らめる。私の全く知らない人が私の事を知ってる。それにかっこいいなんて。
有難うございますと小さくつぶやこうとしたが唇が震えて自分でも聞き取れない「もにょもにょ」という“音”になってしまった。


女B「うん。そんでもって可愛い!!」

唯はさらに赤くなる。


唯「あ、あのっ!」

唐突に会話を切り出す唯。

唯「さっき同い年って言いましたよね?」良く見るとタイの色が一緒だ。

「ものすごく言いづらいんですけど、私お二人のこと全く知らないんですけど・・・」

女A「あぁ、それは私達が」

女B「全く学校へ行ってないから!だってつまんねーじゃん。」
  「えっと、確か・・・・さわだいらさんだっけ?」



唯「平沢唯です。」


女B「そう!それが言いたかった! 平沢さんは学校楽しい?」


唯「えっと、楽しいです。自分の居場所があるって言うか、必要としてくれ仲間が入るって言うか。」


唯は普段過ごしているなんの変哲もないスクールライフ二人に話した。

途中二人が話しに飽きて怒り出すのではないかという不安を抱いていたが、二人は始終夢中になってきいていた。


女B「へぇー!学校ってそんな楽しい所だったけ?なぁ?」


女A「どうだか。まぁ、見たとおり、こんななりだ。周りの連中はあからさまに遠巻きにする。」

女B「センコーだって最初からあたいらの話なんか聞きやしない。
  そりゃやさぐれますよってんだ!」


女A「あんたみたいに魅力がある可愛さがあったなら私らも学校をたのしめたかもなぁ」


唯「///」


相変わらず足は震えていたが、目の前の二人が自分に敵意がないだろう事を悟り、目を見て会話することが出来た。


もう唯の目はこの暗闇にすっかり慣れていた。月明かりも今では鮮明に顔面を確認出来る。

良く見ると二人とも・・・・

凄い美人だ。


ちょっとした沈黙の後、二人は同時にタバコを取り出した。

女A「吸わないのかい?」

唯「あ、」

唯も思い出したようにアタフタと先ほど貰った“自分の”たばこに火をつけた。

強がりがばれないように握りこぶしに力を入れて必死で咽ないようにした。

女A「なんだ。最近か、タバコを覚えたの。」

唯「うぅ」
  (ばれちゃうもんだね)

女A「まぁいいや。私達はそろそろ帰るとするかな。じゃあな、唯。」

女B「またね。唯ちゃん。」

唯「あ、名前まだ・・・」

女A「あたし咲ってんだ。」

女B「あたし茜。呼び捨てでいいよ。」

唯「おやすみなさい。///」

二人は手を上げ挨拶すると住宅街の闇に消えていった。  

{以降 女A=咲 女B=茜}

唯は吸殻をゴミ箱に捨てて急いで家に帰った。玄関で出迎えたのは、やはり憂。



憂「お姉ちゃん、今日も遅かったね。心配したんだよ?」

唯「ごめんよぉ~うぃぃ~」スリスリ

憂「うっ、・・・・・今日もゲームセンターに行ってきたの!?」

唯「・・・うん。」

憂「あんまり遅くなるときは連絡入れてよ。ね?」

唯「うんたん♪」スリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリスリ

憂「ご飯もう出来てるから。私お風呂入ってくるね。」

唯「ありがと!うぃぃ!」タッタッタッタ


憂「・・・・・・・・・」



憂「タバコくさい。」


キーンコーンカーンコーン

律「おっしゃー飯だ~!!」

 「ムギー!唯ー!」

唯「ほいきた!」

紬「シャランラ~♪」


クラスメート「平沢さ~ん、友達来てるよ。」

唯「友達!?」


クラスメートちゃんの指差す方を見ると、ドアから顔をのぞかせる咲と茜がいた。

唯「あ、昨日の、えと咲ちゃんと茜ちゃん!」

律「ぅわ、ガラ悪!!」

紬「唯ちゃん、ホントにお友達なの?」


唯「二人とも安心して。あの人達いい人だから。(たぶん)」
 「ごめんね。先食べてて。」タッタッタ

律「お、ぉう。」


茜「悪いな。久々に学校来たけど絡めるやつがいなくてさ・・・一緒に飯食わないか。無理にとは言わないいけど///」

唯「え、いいけど・・・」

茜「ホントか!?ならうちらのお気に入りの場所行こうぜ!こっち!」

唯は鞄を持って教室を後にする。背中に痛いほどの視線を感じる。ヒソヒソ声もあからさまだ。

それらを一切無視して唯は、咲と茜についていく。

ついた所は日当りが良い校舎の裏側だった。芝生が気持ちいい。二人はドカッとそこにあぐらをかいた。


唯「・・・」

アッサリついてきたものの唯は何を話そうかなんて考えてないかった。

唯(なんか話さなきゃ・・・)  


二人は無言で彼女らの昼食であろう焼きそばぱんを食べ始めた。
唯も無言で弁当を開き食べ始める。


咲「・・・・・・」パクパク

茜「・・・・・・」パクパク

唯「・・・・・・」パクパク

咲「・・・・・・」パクパク

茜「・・・・・・」パクパク


唯「・・・・・・えっと!」


二人「・・・ん?」

唯「・・・いい天気だね!」


咲「そうだな。」パクパク


茜「・・・・・・」パクパク


唯「・・・・・・」パクパク


唯「いつもこんな感じなの?ご飯食べてる時。」

茜「ん?そうだけど。なんで?」

唯「なんかもっとお話した方が楽しくない?ご飯もおいしく感じるし・・・」

咲「そうか?」

唯「そうだよ!」

茜「それがだな、どんなシュチュエーションで食べてもおんなじ味がする!焼きそばぱんは凄いぱんなのだ!」

咲「じゃあ唯、面白い事やってよ。」

唯「・・・・じゃ、じゃあ・・・エアギター!ジャカジャカギュイィーン!」




咲「・・・ははは!なにそれ!?」

茜「おっ!咲を笑わすとはなかなかだな!」


唯(ほっ・・・少しはマシな空気になったかな?)


唯が胸をなでおろすのを尻目に昼食を食べ終わった二人はタバコを鞄から取り出す。

唯「ぁわっ・・・」


咲は唯が僅かに反応したのを見逃さなかった。

咲「安心しな。ここはこの時間誰も来ないから。」

茜「ちゃんと調べたんだから!」

唯は同年代の子に動揺を悟られたことを恥ずかしく思い、隠そうと強がった。

唯「じゃなくて、二人とも食べるの早いなって。」

急いで残りの弁当をかき込んだ。


唯「っっぷ。ごちそうさま。」

咲「吸うか?」

唯「う、うん!当たり前じゃん!食後の一服だね!」

茜に火を借りタバコのけむりで肺を満たす。


唯(・・・こうやって見ると・・・二人とも大人っぽいなぁ。同い年なのに)

改めて一服を愉しむ二人を見つめる。

唯(私もこうやっていたら周りから大人っぽく見られるかな。えへ。)

茜「唯、早く終らせな。もう時間になる。」

唯「あ、うん!」

しかし唯は咽そうになるのを必死でこらえ、肺に馴染ませるようにゆっくり“一服”を終える。

二人は既に吸殻を処分しひらいた荷物をまとめ始めていた。

茜「唯、ここに捨てときな。」

アカネが指差す排水溝を覗き込むとそこには吸殻が山になっていた。

唯「ばれないかな?」

咲「あぁ、清掃員の人とか警備員も夜ここでタバコを吸うみたいでね、混ぜとけば誰にも分らないよ。」

唯が放り投げた吸殻は山の一部として溶け込んだ。


キーンコーンカーンコーン

唯「あ、時間だ。行かなきゃ!ね、行こう?」

~教室前~

二人「じゃあ私ら教室ここだから。」

唯「うん、じゃあね!」タッタッタ

そこで走って自分の教室に戻る唯を呼び止める

咲「唯!」

唯「っ!?」

咲「今日も来るか?あそこへ。」

“あそこ”とはいつもの公園のことだろう。最近立て続けに帰りが遅い唯の心配している憂のことを思い出した。

唯「えっと今日は・・・」

しかし何かを期待している二人の視線に負けて

唯「今日も行くよ。」

咲「そっか!」

二人はぱっと笑顔を見せて、唯に手を振った。

唯はその日はもちろん、頻繁に部活帰りや放課後に例の公園に行くようになった。

それは、タバコを吸う事で、自分が大人であるという一種の優越感に浸ることの出来る時間の中毒になっていたからだ。
また咲や茜のような新しい種類の友達も唯にとっては珍しく、会っている時は今までの自分とは違う誰かに慣れている気がしていた。



ある日の部室


唯「そしたら・・・・・・・・その子が・・・・・」



唯「おま゛え゛だらぁ゛」ごほ


律「おいおい!オチで痰からませんなよ!」

梓「全然怖くないです。」

唯「ぅう・・・」

紬「そういえば唯ちゃん、最近声質変わったわね。」

澪「私も思った。なんかハスキーになったって言うか」

唯「そうかな?」

律「・・・・・・・」



ジャジャッジャジャッジャーン


紬「唯ちゃん・・・・声やっぱり変よ?」

梓「風邪・・・じゃないですか?」

唯「えへへ・・・そうかな?元気いっぱいだけど・・・」

澪「おいおい、勘弁してくれよな!メインボーカルのオマエが・・・なぁ律?」

律「・・・・・・・」

澪「りーつ?」


律「んなぁ!? あ・・・あはは!いいんじゃないか?もしもの時は澪がいるし。ギターも梓がいるし。」


紬「りっちゃん・・・・ それひどい・・・」


律「えっと・・・今日はここら辺にしとくか!!あはは!一同解散!」



下駄箱

澪「唯・・・今日も寄るところがあるのか?最近毎日のように行ってるじゃないか。」

唯「うん!友達ができたんだぁ!じゃ、もういくね!」タッタッタッタ

澪「唯!」

唯「ん!?なに?」

澪「いや・・・なんでもない・・・」

唯「みんなじゃあねー!」


一同「ばいばーい」



憂「あの律さん!」ヒョッコ

律「うわ!憂ちゃん!?どからでてきた?」

憂「ずっとこの場にいましたよ。そんなことより相談があるんです。」


律「・・・あぁ。分ってる。場所変えようか。みんなはさき帰っててくれ。」


梓「どうしたの?」

紬「いいわ。梓ちゃん。私たちは帰りましょう・・・・」


憂「・・・ってことなんです。」

律「・・・」(やっぱり・・・)


 「なぁ、その唯の帰りが遅くなったのはいつ頃からだ?」


憂「えっと・・・先月の終わりくらいです。」


律(私が現場を目撃した頃と一致するな )


憂「家出の会話も減った気がするし・・・。私お姉ちゃんが悪い人に染められてるんじゃないかと心配で心配で」ポロポロ

律「あぁ憂ちゃん・・・ここは私に任せときな!」キリ
 (こんなにできた妹を、こんなにまでして・・・唯、お前はどこまでガキなんだ。)

憂「はい、はぃ・・・お願いします。」ポロポロ


唯のやつ…



公園にて

唯は二人を待っていた。二人が来る時間帯は大体決まっていたが、唯はこの待ち時間が嫌いではなかった。
星を眺めたり、今日はどんな話をしよう、唯なりの大人像など、思いに耽る時間は案外楽しいもだったからだ。

唯「そろそろかな・・・」


小さくつぶやくと、まるでそれが呪文であったかのように二人は姿を現した。


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最終更新:2010年02月03日 23:26