茜「おっす!」

唯「おいっす!」

茜「ちょっと聴いてくれよ、さっき咲がさぁ・・・」ハハ

唯「なにそれ~!面白~い!」アナナ

咲「ぉ、おい!それは絶対言わないって言ったろ!///」


ワイワイワイ

最近では喫煙より、このような他愛もない話のほうがメインになっていた。


(二人ともこの風貌とタバコを吸ってる事を除いては、この二人は軽音部のみんなと同じくらい良い人達なんだ!)

唯は自分が心から笑えてる自分に気がつき、改めて感じた。

(むしろ、二人の方が大人っぽいって言うか、)

唯「でね、そのりっちゃんて子がね」ハハ

ハハハ

咲「会ってみたいな、そいつに。」

唯「軽音部のみんなも同じくらい面白いよ」

咲「唯は部活の話をするときはホントに幸せそうに笑うよな!」

唯「そうかなぁ///」

茜「学校の連中も唯と同じくらい面白いヤツだったらな~」


「ふ~」
一瞬の間のあと二人は何も言わず“一服”の準備をする。唯もそれに倣う。


茜「あぁ~!私も何か夢中になれる物ほしーな・・・」

スー・・・・フー

唯はタバコを吸う二人を見るのが好きだった。憧れる数ある“大人”の姿の一つがそこにある気がした。

ただ口をあけながら自分を見つめる唯に二人は何も言わなかった。唯が何を考えるかなんて読むのは不可能だ。
茜「でもね、将来の夢はあるんだ!」

唯「へぇ!聞かせて!」

茜「笑うなよ?///」


……

律視点~公園~
(ここに隠れとけば、ばれないだろう。 少々距離はあるが…
証拠をおさえるんだ!唯が言い逃れ出来ないように)

律の見つめる先には唯が。

唯は公園のベンチに腰掛けて星を眺めてる。
律はこのまま何も起こらないようにと祈りながら張り込みを続けた。

暫くするとどこからともなく二人の女の子が現れた。

(あ!このまえの!もしやあいつらに誑かされたのか?)





三人は親しげにはなしを弾ませている。

(あいつ 最近うちらにあんな笑顔見せないくせに。)

自分がイライラしてることに気付き苦笑いをする。

どれくらい時間が経っただろう。

いっこうに変わらぬ状況に律は諦めて帰ろうとした。

次の瞬間
自分が監視していた方向に ボッととても小さな火が点ったのが見えた。


(やっぱり)

律は茂みから飛び出し唯の元へ向かおうとした。


するとまたべつの方向から大人の怒鳴り声が聞こえた。


「オイ!お前ら!ここで何してる!」

ドスの効いた声で誰かに怒鳴りつけられる、三人。

誰かが走りながらこっちへ迫ってくる。

茜「やっべ?あれセンコーじゃね!?逃げろ!」

三人は声の主と逆の方へ、荷物を抱えて走り出した。

しかし行く手には三人の男の影が。唯はこの人達に見覚えがあった。名前は知らないが桜高の教師であった。



囲まれていた。

三人はあっという間に先生たちに取り押さえられた。

茜「っく!さわんなよ!」

教師1「近隣の住民から苦情が寄せられていてな。『おたくの学校の制服を着た子が夜な夜なタバコを吸いにくる』ってな。張り込んでいたのさ」

教師2「やっぱりお前ら二人だったか。こうやって捕まるのは何回目だ? 退学は確実だな!」


教師3「あれ、こいつは軽音部の平沢じゃないか?お前もそんなことするヤツだったのか。先生がっかりだぞ。 喫煙は重大な校則違反であり法律違反だ。部からの除名は必至だな。うちの校則は厳しいから廃部の可能性も・・・」



立て続けに喋る教師の言葉など唯の耳には入ってこなかった。
唯(どうしよう。軽音部にいれなくなる)
緊張と恐怖で唯にはもう足の感覚はなく取り押さえる先生に寄りかかりやっとの事で立っていた。

(ごめんなさい!許してください!)

ポロポロ

声の代わりに涙だけがあふれてくる。


咲が急に口を開く

咲「そう!そいつは根っからの不良だよ!家でも学校でもタバコをスパスパ、ニコチン中毒だよ。」

唯「!?」

咲「そいつの鞄調べてみな!」


唯は咲が何を言っているのか理解できなかった。さっきまであんなに親しげに話していた咲が、あることない事をベラベラと喋りだす。
事がよくないほうへ進んでいるのは確実だった。
(ケイオンブ ニ イレナクナル)

唯「・・・てよ。」


「やめてよ!」


咲「あぁ!?てめぇ!誰に口聞いてんだ!いじめられっ子のくせによ!!」

取り返しのつかない事態にやけくそになったのか
咲は教師の腕を振りほどき唯に飛び掛った。

あまりの勢いに唯を取り押さえていた教師も一緒に仰向けに倒れる。
咲は唯に馬乗りになり思いっきり殴りつけた。


「てめぇ!!(ボコッ!!)誰に口聞いてんだ!!(ドカッ!!)むかつくんだよ!!(バキッ!!)」

とっさの出来事に他の教師も反応が遅れた


教師に咲が取り押さえられた頃には、唯は顔にあざを作っていた。口の中には血の味がいっぱい広がり、あまりの痛さに気が遠くなる。

しかし何より痛いのは・・・

あまりの状況の変わりっぷりに慌てる律。
(なんだよアイツ友達だったんじゃないのか?)タッタッタ

律「あの、先生」

教師1「ん、お前は・・・田井中・・・だな?」

律「はい。私さっきからずっと見てました!唯はタバコは吸ってません!」
嘘は言っていない。唯は鞄からタバコを取り出しただけだった。

律「鞄の中も調べてください」
タバコは今唯のブレザーのポケットに入ってるはず。


教師3「あ、ぁあ」
唯の鞄を丁寧にあさり始める。

教師3「見当たらないですね。」
他の教師に中身をみせる。

律はホッとした。そして続ける。

律「私、さっきまで唯と一緒に居たんです。そしたらこの人達が無理矢理唯ほ連れて行って・・・」

コレは真っ赤な嘘。唯をこの場から救出するための危ない賭け。

教師3「そうなのか、平沢?」

放心状態で唯は何も答えない。

律「だから唯は関係ないです!」

茜「何言ってんだテメェー!!こら!」

あまりの迫力に後ずさりする律。

教師2「コラ、やめないか!」

教師3「そういうことだったのか。どうしましょう?先生」



平沢家へ向かう道中

律「私さぁ、あの時既に知ってたんだ。唯がタバコ吸ってたの。」
唯は何も言わない。

教師達は唯がいじめのターゲットとされていたと解釈し、唯をその場から開放した。
家に着くまで律が付き添うことになった。

唯「ずっと友達だと思ってたのに・・軽音部のみんなに負けないくらい好きだったのに・・・」

律「最初ッからそういう目で唯を見てたんだよ。」
 「私は唯が『コレはいけないことだ』ッて自分で気付いてやめることが出来ると思ってたんだ、タバコ」

唯「殴られた時凄く痛かった・・・でも一番痛かったのは・・・ココ。」
唯は胸を押さえる。

いつまでたっても自分の言葉に耳を貸さない唯に律の苛立ちはつのる。

律「あのさ、お前のせいで軽音部の存続も危うくなったんだぞ!?分ってんのか!?」

唯「・・・」

律「ほら唯ココまでくればもう帰れるだろ?」

唯「・・・ありがと、また明日・・・」


律「唯・・」
(くっそあいつら絶対許さない。)




翌日、律は早く目が覚めた。

律「くぁ・・・たまには早めに学校に行くかな・・・」

理由もないが二度寝もする気になれず、支度を済ませ学校へ向かうことにする。


学校に着き、職員室の前を通りかかろうとした時、隣りの応接室から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

律「あいつ等だ・・・」

部の存続の危機に追いやり、唯の気持ちを踏みにじった二人のことを思いだし、怒りがこみ上げてきた。

律は壁に張り付き、聞き耳を立てる。


茜「昨日は名演技だったな、咲。」

咲「ありがと。かなり危険な賭けだったけど。 私達、大切なもの守れたかな」

茜「たぶんね、唯と唯の居場所!」

咲「でも・・・唯のこと思い切り殴っちゃった・・・」

茜「唯・・・大丈夫かな。」


律は今しがた聞こえてきた会話、を整理した。

(あれ?唯を守った?何を言ってんだ。こいつら。)

えっと、あれ?

(ということは昨日唯を守ったのは私じゃなくて・・・)

昨日律は僅かながら『友達を救った』事により一種の満足感を感じていた。根拠のない強さを得たつもりでいた。
律は、自分の低能さを呪った。すべての事が終ってから登場した自分と、己のことなどかえりみず、自身をかけて友達を守った二人。
強いのは二人だった。


がちゃ

ドアが開いた。
やはり中から出てきたのは例の二人だった。

律「…」


律「ぉ、おい」

咲「ん?あぁ、昨日の」

二人は律を一瞥し立ち去ろうとする

律「待ってくれ」

咲「何だよお前もボコボコにされたいのかよ。」

茜「うせな!」


律「いゃ今の中の会話聞こえてきてさ・・・」


茜咲「なっ!///」


律「あたしあんた達のこと誤解してたみたい…謝るよ、昨日はゴメン!!
あんた達のこと売るような真似してさ・・・」

律は深く謝罪のおじぎをした。

咲「いいよ。あの場はどう転んでも逃げられなかったし」


「それより、あのお友達に謝っといてくれよ。」


二人は依然強気だが、律は咲が一瞬だけ悲しそうな顔をしたのを見逃さなかった。

律「それなんだけど…直接謝ってくれないかな。あいつひどく傷ついてた。友達に裏切られたって。」

咲「…」

茜「…」

律「ほら昼休みとかにでも教室に来てさ。」


咲「いや、それは出来ない。たった今正式に退学の手続きすませたところなんだ、。つまり完全なる部外者さ。手続きが終ったらすぐに帰らなきゃならないことになってるし。」

茜「じゃあな」


そのまま二人は振り返り律に背を向け立ち去ろうとする。


律「あんた等は唯のこと友達と思ってんだろ?それで自分の正義を貫いたんだろ!唯だってまだあんたらの事友達と思ってる!このままでいいのかよ!?なんも思わないのかよ」


咲は振り返らず言う

咲「最初から関わらなければあいつを傷つけずにすんだ。」


そして歩みを進める

律「おぃ!!」


咲「あんた名前は?」


律「た、田井中 律だけど…」


二人は振り返る。


咲「そうか、お前がりっちゃんか。」

律「ほ…ホントに残る気ないんだな」

二人「………」

律「ならきょうの夜あの公園で待ってるから!唯をといっしょに!」



音楽室

紬「はい、唯ちゃん!ショートケーキよ♪」

律「あ、唯の方がでかくね?ずるいぞ!」

梓「先輩はしたないです!」

澪「また太るぞ、律!」

律「んな!?」

紬「まぁ♪」

唯「…」

朝から元気のない唯を部員達は空元気で元気づけようとする。


しかし唯は昨日の別れ際から相変わらずだった

律「何だかなぁ」

律「今日はこの辺にしときますか!」

梓「え、でもまだ何もし…」

律「梓」

澪「そうだな、今日は、な。」

律の意味ありげの目配せで澪はそれに合わせる事にする。


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最終更新:2010年02月03日 23:27