――――――――――チームドラゴン特設室

藤吉「精密検査をした結果だが心臓の肥大に加えサルコイドーシス、それに左室には心室中隔基部・後側壁・前壁に病変がみられた」

朝田「…」

伊集院「サルコイドーシスって『原因不明の類上皮非乾酪性肉芽腫を認める疾患である。多発・多臓器にわたることがある。』ですよね」

藤吉「その通りだ、今回も厳しい手術になると思う」

藤吉「どうする朝田」

朝田「……バチスタとセーブ手術を同時に行う」

荒瀬「へっできんのかぁ?76kg」

朝田「体外循環下に心臓を右側へ脱転し、バチスタ手術 (変法、つまり心尖部温存)の方法で左室側壁を切開…これで心尖部は温存される」

荒瀬「ククク」

朝田「次に………」

朝田「心拍動下に三尖弁輪形成TAPを施行で完了だ」

荒瀬「アヒャヒャ」

藤吉「患者もそう長くはない…朝田、どうする」

朝田「…1週間後だ」

荒瀬「ヒヒッ楽しみにしてんぜ76kg」

ミキ「なんで体重分かるのよ…」

荒瀬「あん?なんか言ったか43kg…俺は天才麻酔師だからなヒャハハハハ」

ミキ「…」

藤吉「じゃあ俺は当日まで患者をベストの体調に持っていく、みんなも準備をしてくれ」

伊集院「はいっ」

荒瀬「おい、酒もってこーーいヒャアハハ」


―――――――――桜高教務室

教師A「さわ子先生、平沢さんのお見舞い行かなくていいんですか?」

さわ子「いいのよ、彼女たちが代わりに行ってくれてるし…私の分もね」

朝田「俺を誰だと思ってる」

教師A「はぁ…」

教師B「おっそうださわ子先生、募金いくらくらい集まったんですか?」

さわ子「ドキッ…い、いやぁ…それがまだ2,3万くらい…あはは~」

教師B「まさかとは思いますけど」

さわ子「してませんよ…私がそんなことするわけ」

教師B「ですよね…失敬」


―――――――――402号室

澪「じゃあ私たち帰るからな」

唯「えーもっと一緒にいてよぉ」

律「ったく…唯は甘えんぼさんだな、オイッオイッ」

唯「えへへ…みんな今日はありがとう…そういえばさわちゃん来ないね」

律「さわちゃんはめんどくさがりだからなぁ…」

澪「まぁそうだな…」

和「元気そうでなによりよ唯」

唯「えへへ…これくらいしか取り柄ないから…」

憂「あっ私はもうちょっと残ります」

澪「えっ」

梓「あっじゃあ私も残ります」

紬「まぁ…確かに憂ちゃん一人で帰るのは心配だものね」

澪「でも、大丈夫か?」

憂「はい、ね…梓ちゃん」

梓「大丈夫です」

澪「あっそうだ…唯これ」

唯「これ…ipod?」

澪「唯の借りて曲入れといたから」

唯「なんの曲?」

澪「秘密だよ」

唯「ええー教えてよぉ」

律「自分で聞けばいいだろ」

紬「ウフフ」

律「じゃあ私たち帰るから…あんま遅くならん家に帰るんだぞぉ」

憂梓「はーい…えへへ」

ガラガラ~

ミキ「唯ちゃーん」

唯「おぉミキさん…ねぇねぇリンゴ食べてもいいですか」

ミキ「ん~少しならね…ただし夕ご飯は残さないようにっ」

唯「わーい」

憂「あ…でも包丁ないや…えへへ」

唯「ぶー…まぁいいや元気になったら食べるから」

憂「今度切って持ってきてあげるからね」

ミキ「でも、酸化しちゃわない?」

憂「塩水につけてい置くと結構持つんですよ」

ミキ「へぇ~今度やってみよ」

梓「ミキ…さん…は看護婦さんなんですよね」

ミキ「そうだよ」

梓「…カッコイイですよね///」

憂「(梓ちゃんのかっこいいのレベルがわからないよ…)」

ミキ「そう?そういってもらえるとうれしいよ」

ミキ「あっそうだった…唯ちゃん具合はどう?」

唯「今日はみんなに会えたし元気、元気!」

ミキ「それならよかった…なにかあったら呼んでね」

梓「そ、それだけ?」

ミキ「え?あ…うんまぁね、点滴は次の時でよさそうだし」

梓「(意外と適当なんだ…)」

ミキ「じゃあまた来るからね、安静にしててね唯ちゃん」

唯「はーい」

ガラガラ~

憂「可愛い看護婦さんだったね」

唯「でしょ、やさしいし話してると楽しいし…」

唯「…なんだか眠くなっちゃった…えへへ」

憂「じゃあ帰ろっか梓ちゃん」

梓「え…あ、うん」

唯「……スヤスヤ…」

憂「お姉ちゃんまた来るからね…今日はお姉ちゃんに会えてよかったよ」

憂はやさしく唯の頬にキスをした

梓「あ…ずるい…」

憂「えへへ…」


ガラガラ~

唯「……(一人だ…みんな帰っちゃったし)」

唯(寂しいな…なんで私こんなとこにいるんだろう…なんで私だけこんな目に会わなきゃいけないんだろう)

唯(ギー太弾きたいなぁ…あっそうだipod…)

唯は澪から渡されたipodを手に取りおもむろに電源を入れた
しばらくいじっていると『桜高軽音部』というアーティストを見つけセンターキーを押す
曲名には新歓ライブで歌った4曲が入っていた

唯「えへへ…懐かしいな、3か月くらい前か…」

『ふわふわ時間』にカーソルを合わせセンターキーをもう一度押す

曲が流れると同時に、唯の頭の中で『新歓ライブ』の記憶が流れる

唯(あぁ…このとき、私歌詞飛んじゃって…楽しかったなぁ…)

4曲の再生が終わると急に静寂が訪れ、唯の心の中に虚無感のようなものがどっと流れ込んだ

唯(私は…私は…あの頃…)

唯(何やってんだろ…私…生きてる意味…あるのかな)

唯(苦しい思いして…つらい経験して…なんで生きてるの)

唯「私…生きてていいのかな…」

『行きたいと願うからこそ人間はここまで進化したんですよ』

唯「…ほえ…?」

藤吉「失礼、唯ちゃんには…いや、人間にはみな生きる意味があるんです」

藤吉「たとえその意味がわからなくても人生という長い長い積み重ねの中で見つけられればいいんです」

藤吉「私だって患者さんを死なせてしまった時なんて、なんの為に生きてるのかわからなくなります」

藤吉「それでも…生きてなきゃいけないんですよ、それが運命ですからね」

唯「藤吉先生…ばすk…そうですよね…生きてればいいことありますよね」

藤吉「きっとあるさ、それにまだ唯ちゃんは若い…これからいろんな楽しいことが待ってるよ」

唯「…えへへ…やっぱり私は馬鹿ですね、先生…こんなことで悩んでるなんて」

藤吉「唯ちゃんはやさしいだけなんだ、人を傷つけないようにして自分を傷つけてしまう」

藤吉「…そうだった…手術は1週間後の土曜日に決まったよ」

唯「そう…なんですか」

藤吉「怖いかい?」

唯「……えへへ……」

唯「やっぱり怖いんです」

藤吉「大丈夫、僕らも一緒に闘うから」

唯「はいっ…えへへ」


―――――――電車内

澪「……」

律「唯…元気そうでよかったな」

紬「ほんとね、とても病気とは思えないわ」

和「でも…なんか無理してたような感じだったな、唯」

澪「…しよっか」

律紬和「え?」

澪「ライブしよっか」

律「ライブ?だって唯いないんだぜ」

紬「もしかしてチャリティー的な…ですか」

澪「うん、やっぱり…唯のために私たちも何か…募金もそうだけどさ…」

律「…よっしゃやったろかーっ」

梓「いいですね、それ」

紬「あ、梓ちゃん、残ってたんじゃ?」

憂「お姉ちゃんが寝ちゃったので…えへへ」

梓「電車の時間もなくなりそうだったので」

律「ほう…じゃあ次の土曜日な」

澪「そ、そんな急すぎないか?」

紬「『善は急げ』よ、澪ちゃん」

澪「そうだな…」

和「じゃあ講堂使用届ちゃんと提出しておいてね」

律「あーい…なんだよ澪、ちゃんと忘れず出すって…」

澪「ならいいけど」


―――――――――――1週間後

澪「えっ…今日唯手術なのか」

梓「今憂から連絡あって…」

律「それは都合がいいな」

紬「りっちゃん…?」

律「唯も闘ってる…私たちも唯とおなじくらい闘おうじゃないか」

澪「そ、そうだな…(闘うって何にだ)」

紬「そ、そうね…(闘うって何にかしら)」

梓「は…はぁ(なんとなく言いたいことは分かるけど)」

和「準備できた?」

澪「あっうん…ありがとね和、今日は」

和「いいのよ…唯のためでしょ、唯のためにもいい演奏期待してるわ」

律「あったりめーだっっ」

和「じゃあ始めるわよ」

『ただいまより桜高軽音部【放課後ティータイム】によるチャリティー演奏会を開演します』

律たちのビラ配りも効果があってか入場料500円という中、講堂は人で埋め尽くされた

律「澪、緊張すんなよ」

澪「わ、わかってる」

紬「リラックス~リラックス~♪」

澪「…ふぅ……こ、こんにちは!!」


―――――――――――402号室

唯「ふん~ふん~♪」シャカシャカ

憂「……(そろそろかぁ、ドキドキしてきたな)」


ガラガラ~

朝田「…いいかい」

唯「はいっ」

朝田「これが君と一緒に闘うチームだ」

唯はぐるりと見渡し一人一人の顔を眺める…そして一回瞼をとじ
決意に満ちたまなざしで朝田に

唯「お願いしますっ…先生方っ」

藤吉「あぁ…」

唯「あっそうだ写真…いいですか?」

朝田「あぁかまわないよ」

憂「じゃあ撮りますね…はい、チーズ」パシャ

そして唯は手術室へ…

唯(今まではどうして生きてるのかわからなかった…)

唯(生きていることに意味なんてないと思ってた…)

唯(でも違う、軽音部に入ってみんなとたくさんおしゃべりして、ライブして)

唯(私は生きてるって実感した)

唯(そうなんだよ…人は生きるからこそ意味があるんだ)

唯(だから私は…)

唯「私は生きたいです」


麻酔で意識を失う中唯はただ生きたいとだけ願っていた

荒瀬「お立ちだーい…ククク」

荒瀬「てめぇがミスったら何もかもパーだぞアヒャヒャ」

朝田「俺を誰だと思ってる」

荒瀬「ククク…じゃあちっとばかし寝てもらうぞ」

荒瀬「ひとーつ、ふたーつ、みぃーっつ、よぉーっつ、いつーつ、むーつ、にゃにゃーつ、はい落ちた」

朝田「必ずバンドやらしてやるからな……始めるぞ」


―――――――桜高講堂

澪「こ、こんにちは!!今日は唯のために…わ、私たちのために…ど、どうもありがとうございます」

澪「唯はいつもこのギターでメインボーカルとしてやってるんですが…今日は手術で闘ってます」

観客「ざわ・・・ざわ・・・ざわざわ・・・」

澪「私たちも精いっぱい演奏します、聞いてください『ふでペン ~ボールペン~』」

律「わん、つー、すりー」



――――――――手術室

朝田「ストライカー」シュイィィイイイイン

朝田「開胸」

伊集院「…こんな大きな心臓で…今までよく」


朝田「状態は悪くない、今日もオンビートでいく」

荒瀬「オンビートだと?…ガハハやってくれるぜ76kg、見してもらおうか天才の技をよアヒャヒャ」

伊集院「オンビートは『心停止剤を使わず、心臓を動かしたまま手術すること』です」

藤吉「その通りだ」

朝田「伊集院、触診してみろ…ここから、このあたりが変性(病変)細胞だ」

伊集院「(今日は加藤先生がいないってのに…なんで…)はい………」

朝田「わかるか?薬指や小指も使って感じるんだ」

伊集院「はい………え!?」

ミキ「わかるの?」

伊集院「…いや、その……一瞬感覚が違うかなって…でももうわからないです」

伊集院「勘違いかもしれないです、すいません」

朝田「ふっ上等だ、クーパー」

ミキ「はい」

朝田「おい伊集院、ネットで心臓をこっちに向けろ」

伊集院「はい」


唯『お母さん、お父さん私を生んでくれてありがとう』

唯『こんなできそこないの私を育ててくれてありがとう』

唯『憂、いつもいつもご飯作ってくれてありがとう』

唯『ダメな姉を支えてくれてありがとう』

唯『私、生きるよ…生きてみんなに恩返ししたい』


荒瀬「……この子、心筋の色わるいよ」

朝田「どうやら出血してるみてぇだな…おい伊集院出血箇所調べろ」

伊集院「はいっ」

伊集院「(…出血?そんなもの見つからないよ…どうなってるんだ)」

伊集院「…どこだどこだどこだ」

荒瀬「おーい、まだ~~~~?」

荒瀬「イプシロン、アミノカプロン酸、1/2アンプル準備ね~」

助手「はいっ」

伊集院「(くそ…どこだどこなんだよ…)あっ…」

伊集院の目線が股にいく…そこには赤いシミが

朝田「手術部だけが出血箇所とは限らねぇだろ」

助手「子宮部からの出血100ccです」

朝田「おい、伊集院…この子の所見とその処置言ってみろ」

荒瀬「カッカカカ」

伊集院「(100ccなんて普通じゃない…くそ、産婦人科の実習マジメに受けていれば…)」

『―――――いいか!女性を見たらまず妊娠を疑えという金言がある!』

伊集院「(…妊…娠!?)」


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最終更新:2010年01月22日 15:36