憂「あっ、紬さん」

紬「あ……れ?」


憂「間違えました? お姉ちゃんと間違えました?」

紬「えっと……憂ちゃんなの?」

憂「はい。輪ゴム切れちゃって、髪下ろしてるんです」

紬「あの、ごめんなさいね」

憂「全然! むしろ間違えられるの、期待しちゃってましたし」

紬「あらあら、意外といたずら好きなのね」

憂「えへへっ、ごめんなさい」

紬「うふふ、いいのよ。何しているの?」

憂「昼休みはいつもこうして、花壇の世話をしているんです」

紬「へぇ、偉いのね」

憂「偉いだなんて。元々和さんに言われてやってる事ですし」

紬「和ちゃんに?」

憂「部活やらないのなら、せめて花に水くらいやりなさいって」

紬「うふふ、和ちゃんらしい」

憂「でも割と楽しいです。花育てるのも」


紬「あっ、手が真っ赤よ憂ちゃん」ギュッ

憂「つ、紬さん?」


紬「私の手、あったかいでしょ?」

憂「あ、ありがとうございます」カァッ

紬「うふふ。冷たい手に触るのがマイブームなんだ」

憂「それは楽しそうですね~」

紬「ええ、気持ちいいの」

憂「あはは――紬さんはどうしてここに?」

紬「私? 大した事ないのよ」

憂「何です? 教えて下さい」

紬「いえね、ゆっくりお昼寝出来る所ないかしらって探していたの」

憂「それはいいですねぇ」

紬「本当?」

憂「私もたまにやりますんで」

紬「そうなんだ~」

憂「良かったら、そこ案内しましょうか?」

紬「あら、いいの?」

憂「いいですよ~、行きましょうか」

……

憂「ここ日当たりもいいし、人通りも少なくていいんですよ」

紬「何だか秘密の場所みたい」

憂「そうです。秘密の場所です」

紬「うふふ、私なんかに教えてくれて良かったのかしら?」

憂「いいですよ。紬さん好きですし」

紬「はい?」

憂「紬さんは綺麗で優しくてグラマーで大好きです」

紬「……」カァー

憂「照れてるんですか?」

紬「せ、先輩をからかっちゃダメよ憂ちゃん」

憂「からかってなんか。ウソでもないです」

紬「そんな……でも――」

憂「梓ちゃんや純ちゃんもみんな言ってますし」

紬「えっ?」

憂「私も紬さんみたいになれたらなぁって、憧れますもん」

紬「そ、そうよね。うふふ」

憂「そうですよ~」

紬「でもやっぱり少し恥ずかしいな。光栄だけど」

憂「困らせちゃいましたか?」

紬「ううん平気よ――そろそろ戻りましょうか憂ちゃん」

憂「あっ、本当。もうこんな時間」

紬「あの……また来てもいいかしら?」

憂「えへへっ、いいですよ~。気に入ってくれました?」

紬「もちろん」

憂「じゃあたまには、私の相手もして下さいね」

紬「こちらこそよろしくね」


憂「はい」ギュッ

紬「う、憂ちゃん!?」


憂「あたたかい手に触るのが、私のマイブームになりました」

紬「あら、真似っこね」

憂「えへへっ、真似っこです!」

紬「うふふっ!」



放課後、軽音部

律「うめえ! これ何これぇ!」

唯「おいひいへ~!」

紬「うふふ、良かった」

さわ子「これはさわ子スペシャルと名付けてもいいケーキね」

律「ああ……もう、もう食べ終わっちゃった」チラッチラッ

紬「りっちゃん私のケーキ食べる?」

律「えっ、いいの!?」

紬「食べかけでよければ」

律「いやー、悪いなムギ! 催促したみたいで!」

紬「ううん、そんなに喜んでくれて私も嬉しいから」

澪「律……厚かましいにも程があるぞ」

唯「りっちゃんずるい!」

紬「わ、私が言い出した事だから」

梓「律先輩の辞書は、大部分が空白ですよね」

紬「りっちゃんは大物なのよ」

律「あはは、なーっ!」

梓「皮肉ですよね?」

律「ムギは梓みたいに捻くれてないっつーの!」

梓「なっ、余計なお世話です!」

紬「まあまあ」ニコニコ

梓「うぅ」(あの無垢な笑顔……悔しいけど律先輩の言う通りなのかも)

さわ子「ムギちゃんは大人ね」

唯「りっちゃん、私にも半分!」


律「やれやれしょうがないなー、唯あ~ん」

唯「えへへっ、あ~ん」


律「――なんつって!」パクッ

唯「!?」

律「あー、うめー! これマジうめえ~!」

紬「うふふ、良かった」

律「ありがとなムギ~!」

紬(りっちゃんはかわいいなぁ)ポワー

唯「うぅ……本当に分けてくれなかった」

律「唯にはほら、りっちゃんの笑顔をあげるよ」

唯「いらない、架空請求並にいらない」

律「なんだよぅ~、すねなよ唯ー!」

唯「もう、りっちゃんとは口きかない」

律「きいてるじゃんかよー」


唯「りっちゃんじゃないよ。カチューシャと喋ってるの」

律「なんでだよ。私が本体だぞっ」


唯「私にとって、りっちゃんこそカチューシャのおまけだよ」

律「なんだとっ! だったら私も唯じゃなくてヘアピンに話し掛ける!」

唯「やだっ! ヘアピン子をいやらしい目で見ないで!」

律「お、奥さん! 俺ぁ前から奥さんの事が!」

唯「やめてカチュ郎さん! あの人が見てる!」

律「あんなの! ただの遺影じゃないか!」

唯「あれぇ~!」


澪「いつまでバカやってんだ」

さわ子「いいじゃない微笑ましくて」

澪「先生公認の無法地帯ですか」

梓「食べ終わったら練習するです!」

唯「まだエンジン掛からないー、あずにゃん温めて~!」ガバッ

梓「どっ、どうしてそうなるんですかー!」

律「じゃあ私にはムギが膝枕してぇ~」クテェー

紬「あらあら」

澪「おい律、いい加減にしろって」

律「あはは、かてー事言うなってぇー」スリスリ

紬「ひゃんっ」(く、くすぐったい)

唯(今日のムギちゃんやけに色っぽいな)

澪「あんまり調子に乗るなー、遊ぶ所じゃないぞー」

律「高田純次並に気持ちがこもってない」

澪「甘えんなバカ律」

律「それでも澪は軽音部のまとめ役なのかあ!」

澪「いやお前が部長だろ。それを私にやらせるな」

律「澪の軽音部への情熱は、そんなものだったのかあっ!」

澪「少なくとも、律よりはやる気あるぞ」

律「えっ、意味が分からない」

澪「こっちがだ」


さわ子「みーおちゃんっ」ツウー

澪「ふぁっ!?」ビクッ


さわ子「着てみない?」

澪「いつの間に背後に……嫌ですよ」

さわ子「いや~、澪ちゃんに絶対似合うわこれ」

澪「露出度が高過ぎます。他を当たってくれませんか」

さわ子「ごめんね。浮気しちゃったけど、やっぱり澪ちゃんが一番なの」

澪「別にほっとかれて、すねてる訳じゃないんで」

さわ子「原点回帰ってやつ? 一周して分かったっていうか」

澪「し、知りません。もう一周して下さい」

さわ子「そんなに恥ずかしいのね。ゾクゾクして来たわ」


律「おいさわちゃん! いい加減にしろ!」

澪「り、律ぅ!」


さわ子「何よ! たまには私だって澪ちゃん独占したいのよ!」

律「いや! 結構いつもしてるぞ!」

澪「律……」(いざという時やっぱり頼りに……)

律「澪にはこっちの衣装の方が似合うんだから!」

澪「ブフォッ!!」

さわ子「あっ、勝手に持って来て! 見る目あるじゃない!」

律「ふはは! 何年澪をいじり続けてると思ってんだ!」

澪「ふ、二人とも! 私をオモチャにするなあ!」

律「うへへへ! 優しくするから大人しくしろい!」

澪「ムギ助けてぇ!」ヒシッ

紬「大丈夫?」

澪「変だ! あの二人変なんだよぉ!」

さわ子「ム、ムギちゃ~ん……」


紬「程々にしなきゃダメですよ?」

さわ子「はい」

律「あい」


澪「ありがとうムギ」

紬「でも澪ちゃんのコスプレ、私も見てみたいな♪」

澪「えっ、え~……」

紬「ダメ?」

澪「ム、ムギがそう言うならちょっとだけ」

紬「本当? うふふっ、嬉しいな!」

澪「えへへ……」

律「ほほう、そういうやり方もあるのか」

さわ子「りっちゃんには真似出来ないわね」

律「やる気もありませんけどね」

さわ子「同感だわ」

澪「私が何をしたと言うんだ……」

さわ子「澪ちゃん、美しさとは罪なのよ」

律「私はさわちゃんのコスプレも、見てみたいんですけどね」

さわ子「いやこれ、私用に作られてないから」

律「まだ十分いけますって」

さわ子「私はあなた達と違って、もう若くないの!」


律「さわちゃん綺麗だぜ」

さわ子「お、大人をからかうんじゃありません」ドキッ


律「いいじゃん。いつも付き合ってるんだから、たまにはさ」

さわ子「口答えして! カチューシャ取るわよ!」バッ

律「うぁ、前見えないって! 返してぇー!」

唯「ムギちゃんムギちゃん!」

紬「唯ちゃんどうしたの?」

唯「かわいいから私も衣装持ってきちゃった!」

梓「れ、練習はどうしたんですか練習はー!」

唯「これ、さわちゃんの新作かなっ?」

紬「本当に良く出来てるよね~」

唯「ムギちゃん着たらきっとかわいいよ~」

紬「うふふ、唯ちゃんも似合うと思う」

梓「唯先輩! ムギ先輩まで! もー!」

唯「あ~ずにゃん、着てみない?」

梓「知りませんそんなの!」

唯「あずにゃんが着てくれなきゃ練習しなーい」プイッ

梓「もう――ホンットもう!」


2
最終更新:2010年02月12日 00:19