パシャッパシャッ…パシャッパシャッ…パシャ…

記者「秋山議員!今回の収賄事件について何か一言を!」

澪「……」スタスタスタスタ

記者「無言で通り過ぎました!党幹部からお咎めを受けたのかと思われます!」

キャスター「いやぁ、相変わらずの秋山議員ですねぇ…」

コメンテーター「今回の収賄事件は秋山議員の支持基盤に対する摘発に繋がりましたから打撃が大きいんですよ」

キャスター「支持基盤を失えば、秋山議員はもはや死に体ですね」

コメンテーター「懲罰委員会の結審も大方予想がつきますねぇ」

澪「死にたい…か…」


澪「クソッ!何が収賄だ!票を得るために私が党にどんだけ貢献したと思っているんだ!」ダンッダンッ

キャスター「今は田井中派が勢力を伸ばしておりますね!」

コメンテーター「クリーンな政治家として評価で高いですからね」

キャスター「それとは対象的に、秋山派は古典的な政治家グループだったとも言えますかねぇ…」


コンコン…

澪「くっ…、どうぞっ…」

―「落ち着いたかしら?」

澪「ごめん…和…どうしても、気持ちが抑まらなくて…」

和「それは別にかまわないけど…澪だけに責任を負わせる党も党だわ…」

澪「和…私どうしたら…」グスッ

和「残酷な話だけど…もう澪は政治生命は絶たれたとしか言いようがないわね…」

澪「!! そ…そんなことって…!!」

和「政治の世界ではよくあるの。わざとマスコミや世論からの非難を集めさせて議員個人に党の責任を負わせるという方法がね…」

澪「そ…そんな…」クラッ…

和「……澪、あなたはここまでよく頑張って来たわ。高校の時の恥ずかしがり屋の澪とは違い、今は理念に燃えるリーダー的存在の澪になってきたじゃないの…」

澪「政治家は選挙に落ちればただの人だ…結局、私は党から使い勝手の良い票集めに使われたというわけか…」

和「澪……」

澪「私が政治家になったのは、決してやましい気からなったわけじゃない。未来の子ども達に夢を与えたいだけなんだ…高校の文化祭で私たちがやったように…」

和「澪…私が言えるのは第2の人生を歩んだ方が良いということ…それしか言えないわ…」

澪「うぐっ…くっ……」

澪「グスッ…グスッ…」

和「政治家は身分自体がギャンブルな職業なの…はめるかはめられるかの弱肉強食の世界…ピュアな気持ちだけではダメなの…」

澪「ごめん…和…グスッ…ここまで私を…グスッ…助けてくれたのに…」

和「何言っているのよ…私は澪の秘書を務めただけなんだし…澪のサポートぐらいしかできてなかったのだから…」

澪「うぇっぐ…グスッ…」


コンコン

和「来客よ。ほら、しっかりなさい」

澪「うん…」

ガチャッ

律「おーす!お二人さーん!元気かー!」

和「律…あっ…」

律「きししし…気にするな和!」

和「しかし、あなたは議員、しかも田井中派の重鎮…私は議員秘書よ…ところで、ここに来た理由は…?」

律「ふふ…テレビを見てみろよ!」


キャスター「与党の総裁選がもうすぐ始まりますね」

コメンテーター「立候補に立った田井中議員は国民からも党内からも支持が厚いものですから期待大ですね」

澪「こ…これは…?」

律「へへーん!分かっただろ?私は総裁選に出るんだ!」

澪「なっ…!」

和「ちょ…ちょっと!律!」

律「まぁまぁ、落ち着いて聞けよ。私は自慢をしにここに来たわけじゃない!」


和「ど…どういうことなのよ…律?」

律「んだよ、和も分かんねーのか…まず、総裁の権限は党内では絶大っつうことは分かるよな?」

和「ええ…」

律「そこで私が総裁になった暁には澪を追い払った老害共を逆に追い払うんだよ!」

澪「り…律……」じーん…

律「真面目な澪がそんな汚い金に手を出すわけないだろ?どう考えても今回のは老害共の仕組んだ罠に違いない…!」

和「でも、それって危険なことなんじゃ…?」

律「政治家は全てがギャンブルなんだ。それぐらい覚悟しなきゃどうする!それに澪の言われもない汚名をいつまでも放っておけないしな!」

澪「り…律…うわーん!」

律「おやおや…強かなイメージの秋山議員も泣きべそですか?」

澪「……バカ律…///」グスッ

和「総裁選までには幸い澪に議員資格はあるわ…律に投票するしかないわね!」

澪「ああ!もちろんだとも!」

律「そっか!その元気な声を聞けるだけでも安心したよ!」

澪「な~に、困った時はお互い様だろ!」

律「よーし!総裁選頑張るかー!」


律「すっかり、お邪魔になったな…」

澪「いや…励ましてくれて…ありがとう…律…///」

律「あーもうっ!湿っぽいのはなしなし!じゃーなー!///」

和「澪…本当にあなたは人に恵まれているわね…」

澪「ああ…そうだな…」


……

?「律っちゃん…澪ちゃんの様子はどうだったの?」

律「ははっ、あいつ完全に私のことを信じきっていやがるぜ…まぁ、総裁選の票は確実だがな」

?「なら…あと一息ね」

??「律せん…田井中議員、次の会合の時間が迫っていますよ!」

律「おっと…もっと話をしたかったが、すまんな!」

?「頑張ってね律っちゃん…いや…田井中総裁…」ニヤッ

ブロロ…

走り出す公用車を見送りながら、政治は親友をも裏切るものだと実感した私は、自分もいつか裏切られるのだとただ思うばかりだった。



……

記者「速報です!総裁選で田井中議員が総裁に任命されました!」

キャスター「いやぁ…予想通りと言えば予想通りの結果ですね…」

コメンテーター「つまり、次の選挙で別の党に政権が移らない限り、首相は確実ですねぇ…」

澪「り…律のやつ…ついにやったじゃないかっ…!」

和「祝電も用意しておかないとね…」

prrrrr…

和「はい…秋山議員事務所です…えっ!?そ…そんな!!」

澪「?……」

和「はい…はい…秋山に伝えておきます…」

ガチャンッ

澪「どうしたんだ…和…?」

和「残念な知らせだわ…懲罰委員会から、あなたを弾劾するという結審が出たの……」

澪「そうか…仕方ないもんなな……」

和「何を言っているの!?澪!律のこれからの頑張りをフイにするつもりなの?」

澪「律が私の汚名を返上してくれるだけでも私は嬉しい…もう、これ以上は望まないことにしたんだ…」

和「澪……」

澪「それより、和…祝電の準備は良いか?最後は政治家らしく終わりたいからさ……」ニコッ

和「……」

和「ふー…あなたには負けるわ…」


澪は田井中内閣が組閣する前に議員資格を失ったのである。



澪「和達と別れてもう一週間か…そういえば律達選挙で圧勝したよな…あ、テレビ、テレビっと……」

記者「田井中内閣が組閣されました!各閣僚をお伝えします!」


内閣総理大臣:田井中律
与党総裁 田井中派

外務大臣:〇〇〇〇

財務大臣兼内閣特命担当大臣(金融担当):琴吹紬
琴吹グループ元取締役 与党議員 田井中派

厚生労働大臣兼内閣特命担当大臣(少子化):平沢唯
与党議員 田井中派



澪「ふふっ…律達は喜んでいるんだろうなぁ…ムギは風格があるなぁ…唯は相変わらずだなぁ…」





内閣総理大臣補佐官:真鍋和
民間採用


澪「えっ………?」


澪「ど…どういうことなんだ…?なぜ和が律の内閣に…しかも、総理大臣補佐官って……」

prrrrrr…

澪「は…はい…もしもし…」

―「あ、秋山さんですか?お久しぶりです。私、田井中総理秘書の中野梓です」

澪「あっ…あ…梓か…久しぶり…だな…」

梓「あきや…いや、澪先輩ご祝電ありがとうございます。田井な…いや、律先輩も喜んでいましたよ!」

澪「そ…そうか…それは…何よりだ……」

梓「また、お会いすることがあれば是非よろしくお願い致します。律先輩も澪先輩の助けになりたいと言っていましたし…」

澪「………」フルフル…

梓「それではまたお会い出来ますように。ご支援ありがとうございました」

ガチャッ…ツーツーツー…

澪「………」フルフルフル…


澪(どうして…?何で…?和は私に黙って…そっちへ…)ワナワナ…

澪「クソッ!!クソッ…!!何が親友だっ!!何が第2の人生を歩めだっ!!クソッ!!裏切りやがってっ!!」ガクッ

私はその場で崩れ落ちた。
ただ、自分の握り拳を床に叩きつけるしかなかったのだ…


寒空の中、私はふつふつと沸き上がる感情があった。

新内閣発足に浮かれる人々に冷ややかな眼差しを向けながら、私はこれからのことを考えた。

そしたら、いろいろと案が浮かんできた…組織の策で向こうがくるならこっちも組織の策でいくしかない。

澪「ふふ…簡単じゃないか…インフォーマルな形で攻めていけば良い…」

もはや、私には新内閣への興味はなくなっていた。

ただ、親友をダシにして私を裏切ったあいつらに痛い目を会わせないと気が済まない。

澪「ふふ…細かいことは後で考えよう…今私に出来る精一杯のことをしよう!」

私の胸の高鳴りはおさまる気配がしなかった…



次の日の朝、二人の検察事務次官が私の自宅に訪れ、任意同行を求めた。

大阪地検特捜部に連れられる車中、かつては私の部下だった検察事務次官がつぶやいた…
「部長、へたうちましたな…」

澪「……うるさい…」ボソリッ

そして、私は事実上、逮捕されたのであった。

生まれて初めて、かけるばかりのものと思っていた手錠をかけられたのだ。

そして私は初めて詰問する場所とばかり思っていた被告席に立ったのである。

ここまで人の目を集める場所とは知らなかった。

壇のせいか私を見る裁判官の目は人間にある嫌らしさを感じさせるものであった。

澪「ふふ……」

被告人はいつもこんな状況でこんな気持ちでいたのだな…

私の前職を省みれば本当に皮肉である。

確かに私はまだ若い…

だが人一倍の努力と経験はしてきたと思う。

大学在学中に司法試験に通り、志望していた検事になった。

各地を転々とし、キャリアを重ね、しまいには関西の検察庁で私の名前を知らない人はいないに等しいくらい実力をつけたのだ…


だが、私の心は満たされなかった。あの時の様な――

澪・唯『♪あぁ カミサマお願い二人だけの Dream Timeください』

――どうしてもあの思い出ほど満足できることは今はできない…

人に夢を与えられることをしたくてたまらなかった…



正直、今さらそれが叶えられるのは国会議員しかなかった…

与党に入党し、関西での名声を利用して、もちろん一発当選した。

党の支援もあった。もちろん、家族や友達、仕事仲間からも…そして何より私の支えになったのは…



高校の時からの親友・和だ。



私のわがままを聞いて議員秘書になってくれたのだ。

最もありがたかったのは、和が私の精神的な支えとなってくれたことだ。

後援会の初めての挨拶でしくじった時も和は励ましてくれた…

まさか、あの時もまた公衆の面前でパンツを晒す羽目になるとは…///


でも、今はどうでも良い…

私はダシにされたのだ。

仲間だと信じていた放課後ティータイムのメンバーと和から良いように利用されたのだ。

看守「ほら1567番、今日は寒くなるからこれを使え」ガタンッ

澪「…ありがとう…ございます…」

そう…この使い捨てカイロの様に…



公判29日目、私はそれまでの裁判の記憶がない。

判決を読み上げる裁判官。

堅苦しく言っているのを記者が必死に耳を傾けるのだ。







実に滑稽である。

私に言い出された刑は刑法第197条通り、5年の懲役であった。

酌量なんていらない。裁判も駆け引きなんだ。

マスコミで脚光を浴びる事件なら甘い判決は控えるべき。

裁判官の判決は妥当だと私はまるで他人事のような感じで冷静に裁判を評価していた。



刑務所というものはブタバコと言われるものだから臭いものかと思えばそうでもないようだ。

ここで5年近く過ごすと思うと何だか逆にこそばゆい気がした…



私が服役中、田井中政権は不調の滑り出しだった。

総務大臣のスキャンダルに、自殺する国土交通大臣、外務大臣は国際安全保障会議でイニシアティブを他国に取られるという有り様…

全部、別派閥の閣僚だが、田井中政権は無様な姿を国民に露呈してしまっていたのだ。

澪「はぁ……」

正直、それで私の気分は晴れることはない…

理由は友人の苦しみに同情しているからでも、この国の将来を憂いているわけでもない。









こいつらが苦しんでいるのは、私の手による苦しみではないからだ。



……

田井中政権発足から4年

政権は何とか持ち堪えていた。ただ未だに経済情勢は好転しない。

経済財政諮問会議終了後

紬「ふぅ……」トントン

律「お疲れさん、ムギ!」

紬「あら、律っちゃん…」

律「今晩どう?」クイッ

紬「あら、久しぶり飲むわね」

律「唯も呼んでいるんだぜ!」ニカッ


その笑顔に一瞬の疲れがにじみ出ている…

律っちゃんの方が大変なのよね…

それなのに自分よりも周りを気にしてくれる…これが律っちゃんの一番尊敬できることかな…


紬「梓ちゃんは?」

律「仕事終えてかららしい…多分大丈夫だろう」

紬「放課後ティータイムの再結成ね…久しぶりだわ~」

律「………」


2
最終更新:2010年02月12日 01:11