病室
コンコン
和「身体は大丈夫かしら?」
梓「はい、何とか…」
和「ワイドショーはあなた達で持ちきりよ…『美人議員秘書誘拐事件』ってね」
梓「そんな…美人だなんて…///」
和「ふふ…憂は擦り傷を負ったのだけど、あなたは何もなかったのね…本当に良かったわ…」
梓「はい…ご心配おかけしました…」
ドタバタガタガタ…
医師A「ストレッチャーが足りないぞっ!!」
医師B「こっちの患者から手術の準備を頼むっ!!」
ドタバタ…
和「あら、急患かしら…それにしても、騒々しいわね…」
梓「先輩…何か嫌な予感がします…」
和「私もよ……」
……
記者「平沢大臣の状態はどうなんですか!!危険な状態なんですか!!」
医師「え~現段階では~え~危篤状態でありまして~
え~回復の~見込みは…あ~まだ分かっておりません」
キャスター「現在、平沢大臣は重体となるほどの爆発です。警察の調査はいかがでしょうか」
警視庁「現段階わかりましたことは、大臣の乗っていた公用車の下に時限爆弾が設置されており、
爆弾は可塑性爆弾。種類はC-4と判明。
乗車していたのは運転手、平沢大臣と〇〇政務官の3名。爆弾は政務官の座席下に設置されていたため政務官は即死。他2名は重体。
爆弾のルートは現段階調査中」
キャスター「死傷者が出てしまいましたか…」
専門家「外国の爆弾が使われたことから、犯人は男性または女性あるいは外国人だと推定されます」
……
東京・某ビル
?「ふふ…これはかなり良いパフォーマンスになったぞ…」
部下A「マスコミは大騒ぎ…ははは…田井中政権に良いプレゼントですね…しかし、なぜ平沢大臣を?」
?「大臣個人には特に恨みはない…ただ…」
部下A「ただ…?」
?「田井中首相と親しい人物を攻めていく…それで田井中首相を完全に追い詰める…これが最大の精神的ダメージになるのだよ」
部下A「直接には攻めず、じわりじわりと攻め込む…リーダーも酷い方ですね…ははは…」
?「おっと、誤解するなよ?我々はあくまでもアンチ田井中だ。悪でも正義でもない…単なるアンチだ…それ以上でもそれ以下でもない…」
?・部下A「ふふふふははははは……」
国会議事堂
律「はっ…はっ…」タッタッ
記者「総理!平沢厚労大臣について一言を!」
律「うるせー!!」
記者「ヒイィ!!」
バタンッ
律「病院へ急いでくれっ!!急ピッチでだっ!!」
運転手「かしこまりました」
ブロロ…
記者会見
パシャパシャ…パシャ…
官房長官「閣議は延長となりました…緊急に閣僚を持ち直す必要があります…」
記者「田井中首相に対する私怨として考えられますが、その点について何かありますか?」
官房長官「今のところは…判断しかねます……」
記者「今回の事件について他の閣僚の反応はどうでなんですか?」
官房長官「……お察しください……以上です」スタスタスタ…
パシャパシャパシャパシャ…
財務省
紬「………」
?「ビジネスよりもニュースですか?大臣?」
紬「あら…私としたことが…」
?「なにやら政界が揺らいでおるとか…あなたが気にすることではありません…」
紬「ふふ…そうでしたね…」ニコッ
?「あなたはすでに我々と同じ仲間なんです。今さら抜けたいとおっしゃってもムダですよ。」
紬「………」
?「出た船は戻れないんですから…」ニヤッ
そう…私はもう戻れない…この政治社会に飲まれるしかない…
最初は窮屈に感じていたけれど、慣れれば意外と住み心地が良いものよ?
自分を棄てさえすれば良いのだから…
車中
律「おいっ!!もっと飛ばせよっ!!」
運転手「しかし、これ以上速めますと、法定速度を大幅に越えてしまいます…」
律「クソッ!」
運転手「平沢大臣は意識不明の重体なんです…あなたが迎っても意識はまだ―」
律「意識あろうがなかろうが仲間の安静を気にするのがリーダーの務めだろっ!!」
運転手「!!」ビクッ
律「ましてや、唯だ…昔からの付き合いのある奴がケガをしているのに放っておける奴があるか!」
キキィッ―!!
律「って、おいっ!!何で止まるんだよっ!!」
運転手「仲間思いで素晴らしい方ですね、あなたは…残念ながら、しばらく、お休みになってください」ニコッ
プシュー…
病室・ICU
ピピッ…ピピッ…
「お姉ちゃんっ!!どうしてなのっ!!どうしてっ!!うっうっ…うわ゛ぁぁぁぁぁん!!」
―電子音と共に鳴り響く悲鳴
―それでも動かない姉の体を傍らでしがみつく妹
和「憂……」
私は何て声をかけていいか分からなかった…
目の前の人間が意識を覚まさない限り何を言っても無力だと感じたからだ。
この時だけはいつも信じないカミサマにただ祈るだけしかないのか……
唯…頼むから目を覚まして……
和「唯を……お願いするわね……」
憂「えっぐ、うっぐ…グスッ…はい……」
私は首相官邸に戻ることにした…正直二人をこれ以上見ていられないんだもの…
病院・駐車場
コツコツ…
ササッ
和「ん?」
?「真鍋首相補佐官ですか?」
和「え、ええ…」
?「そうですか…藪から棒で申し訳ありませんが…我々とドライブに付き合ってくれませんかね?」パチンッ
ガシッ
和「なっ…!これはどういうつもりなのっ!?」
?「ご無礼をお許し下さい…あぁ、この男達にはやましい気がないのでご安心を…」ニヤッ
和「あなた達は一体…!!まさか…唯をあんな風にしたのもあなた達なのっ!?」
?「まぁまぁ、落ち着いてください…ここではなんですから車の中でも……」ガラッ
和「い…いやっ…!!放してっ!!」
?「すいません…私と会ったばかりに…あなたには拒否権はないのですよ」ニヤッ
和「………」
今度は私が誘拐されることになるとは…
……
律「ん…ここは…」
―「目を覚ましたかしら?」
この声は……
律「ムギっ!!」
紬「うふっ♪」
律「何で…だよ…」ワナワナ…
紬「あら?律っちゃん、何を怒っているの?」
律「私はなっ!!唯が入院している病院に行こうとしていたんだっ!!ムギ…なのにお前はどういうつもりなんだよっ!!」
カチャン…
ティーカップを置き立ち上がる紬
だが笑顔は崩れない…
ただ、昔の様な笑顔ではなかった…
律「な…何だよ…ムギ……」
紬「確か15時から財務省で会議がなかったかしら?忘れちゃったの?」
ズイッと近づく紬の顔
普通であれば、可愛いく思えるのに、なぜか今は恐ろしく感じる……
律「な、なぁ、ムギ~、お前は唯のこと…気にしていないのかよ…」
紬「ふふ…律っちゃんたら、冗談が上手いのね♪」
律「な…なにぃっ!?」
紬「国民そっちのけで閣僚一人を気にするなんて…面白い冗談だわ…一国のリーダーがそんなことをしたら世界中の笑われ者よ…」
律「……くっ…」ググッ
紬「………」
紬「……本気だったみたいね…分かったわ…」
紬「律っちゃんは澪ちゃんと同じく政治家に向いていないのよ…」
律「………」ワナワナワナ…
律「そ…そんな御託はどうだっていいんだよっ!!仲間がケガしているのに、そっちのけで仕事をする奴がいるかよっ!!」
律「それに担当の大臣がいなくなったら省が機能しなくなるだろ?それこそ問題だろっ!!」
紬「あら?後半はないわよ、律っちゃん…副大臣という人がいるからその心配はないわ…」
律「うぅっ……」
紬「ふふ♪難しかったかしら?国家行政組織法第16条でちゃんと定められてあるのよ♪」
紬「でもね…前半は半分正しいわ…それは律っちゃんが言う資格があればの話だけど……」
律「えっ…?」
律「な…なに言ってんだよ…ムギ…?」
紬「とぼけてもムダよ律っちゃん…一番の旧友である澪ちゃんを4年前、ダシにしたじゃない…」
律「!!なっ…そ、それは、ちが―」
紬「違うっていうの?4年前の総裁選で澪ちゃんから票を得たのに、懲罰委員会では律っちゃんは澪ちゃんの除名の方に投票したじゃない?」
律「…総裁選前だから、党内をまとめるしかなかったんだ…世論も党内も澪への風当たりが悪かったから…」
紬「どんな政治力学が働こうが、律っちゃんがやったことと、さっき言っていたことは矛盾するわ…」
律「わ…私…なんてことを……」
紬「でっちあげの汚職で失脚するという政治家としての傷を澪ちゃんは負っていたのよ…それを癒す、いえ治すことができたのは他でもない律っちゃんだけだったのよ?」
律「うっ…うっ…澪…澪…」
紬「もう出た船は戻れないのよ…悔やんでも仕方ないの…」
病室・ICU
ピピッ…ピピッ…
憂「お姉ちゃん…うっうっ…お姉ちゃん…」
梓「憂…休んだら…?寝てないじゃない…」
憂「嫌だっ!!お姉ちゃんが苦しんでいるのに、そんな…休むなんて出来ないよっ!!」
梓「憂……」ギュッ
憂「…!」
梓「もう…憂は頑張ったから…ね?後は私に任せて…グスッ……」
憂「梓ちゃん……」
あったかい…お姉ちゃんみたいにあったかい…
そうだよね…梓ちゃんもお姉ちゃんのことを心配しているんだもの…
憂「……すーすー…」
梓「やっと寝てくれた…唯先輩、今度は私と頑張りましょう。大丈夫です。唯先輩なら乗り越えられますよ。何せ憂や私達が見守っていますから…」
ピピッ…ピピッ…
東京・某廃ビル
和「ん…ここは……?」
?「お目覚めですか?真鍋首相補佐官」ニヤニヤ
和「! あなた達…こんなことをしてただで済むと思っているのっ!?」
?「ははは…ただドライブをしただけじゃないですか…まぁ、あなたは終始騒いでいてそれどころじゃなかったのですが…淑女がやることではありませんよ」ニヤニヤ
和「くっ…」キッ
―「おいおい、機嫌を損ねるなって言っただろ、A」
この声は…
部下A「ははは…これはお手上げですよ、リーダー」
私が何年も付き添ってきた人の声…
澪「久しぶりだな…和…」ニヤッ
和「――!?」
声にならなかった…
これまでのテロは全て澪が仕組んだっていうの…?
唯をあんな目に会わせたのも澪だっていうの…?
和「………」ガタガタガタ
澪「……何とか言ったらどうなんだ?ぼっーとしてないでさっ」ドカッ
和「うぐぅっ……」
突然の蹴りを入れられても私の頭はまだ真っ白だった…
和「かはっ…はぁ…はぁ……」
澪「…ったく、せっかくの感動の再会が…興ざめだな…」
部下A「リーダー、この方とは知り合いなんですか?」
澪「あぁ…忘れたくても忘れられない、そんな奴だ」ジロッ
私の知る澪の面影はどこにもなかった…
最終更新:2010年02月12日 01:15