ガチャ、バタン
澪「……」
澪「馬鹿律……」
紬(りっちゃん……)
――――――――――――
幼女紬「先生、まずは何から?」
「えぇーと……。じゃあ先生の後に続けて音読!」
幼女紬「はい、わかりました」
「おほん!では……、こっきょうの長いトンネルを抜けると雪国であった」
幼女紬「……」
「どうしたの?」
幼女紬「いえ……」
幼女紬「先生。冒頭はこっきょうではなく、くにざかい、だと思います」
「え?そうなの?」
幼女紬「多分……」
「そ、そうそう!ド忘れしてた!」
幼女紬「そうですか……」
「くにざかいの長いトンネルを抜けると雪国であった!はい!」
幼女紬「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」
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――――――――
――――
「ふぃ~、今日はもうこの辺でいいんでない!?」
幼女紬「先生。まだ15分しか経っていません」
「堅いことは言いっこなしだよムギちゃん!」
幼女紬「ムギちゃん?」
「つむぎ、だからムギちゃん。嫌?」
幼女紬「いえ、嫌じゃないです」
「んも~!その他人行儀な喋り方やめてよー!」
幼女紬「と、言うと?」
「それだよ!それ!」
幼女紬「?」
幼女紬「でも、こういう風に喋るようにと習ったので……」
「習うって?幼稚園とかでお友達と話すように話せばいいんだよ!」
幼女紬「……。幼稚園は行ってません」
「え?なんで?」
幼女紬「お勉強や習い事は全部ここでできますから」
「じゃあずっとここにいるわけ!?お友達もいないの!?」
幼女紬「ええ……まあ」
「はぁ~、これが噂の箱入り娘ってやつか」
幼女紬「それより早くお勉強を……」
「勉強なんて終わり終わり!そんなことよりムギちゃんはやらなきゃいけないことがあるよ!」
幼女紬「でも先生は国語の家庭教師じゃ……」
「いいのいいの。よし、お茶にしよう!お茶!」
幼女紬「わかりました。ではメイドを」
「ムギちゃんが入れたお茶を飲みたいな~」
幼女紬「え……でも私お茶入れたことないし、習ってません……」
「先生が教えてあげるっ!今からお茶汲み先生だよ!」
幼女紬「お茶汲み先生ですか……」
「やっぱりお茶の前にその喋り方を治そう!うん!」
幼女紬「でもどうすれば……?私、こういう話し方以外慣れてません……」
「友達と話すときはね、そんな他人行儀じゃダメなの。自然に言葉が出てくるようじゃないと!」
幼女紬「さっきもいいましたけど、私幼稚園行ってないから友達いないです……」
「なに言ってるのさームギちゃん!」
幼女紬「え?」
「ここにいるじゃーん!」
――――――――――――
次の日 音楽室
梓「律先輩、来ませんね。昨日の放課後も今日も……」
唯「どうしたんだろ~?」
さわ子「それはやっぱり澪ちゃんが冷たいからじゃない?」
澪「うぇ!?」
梓「もしこのまま戻ってこなかったら……学園祭のライブ、どうなるんでしょう……」
澪「練習しよう!」
梓「でも……律先輩、呼びに行かなくていいんですか?」
澪「ん……」
さわ子「もしくは代わりを探す、とかね」
澪「え……?」
さわ子「まあ、万一のことを考えてってことだけど」
唯「でも……」
紬「りっちゃんの代わりはいません!」
――――――――――――
幼女紬「先生が友達?」
「そう。私がムギちゃんのお友達第一号だよっ」
幼女紬「……」
「嬉しくない?」
幼女紬「んーん、嬉しい。私、ずっとずーっと友達が欲しいと思ってたんでs……思ってたの!」
「言えたね、ムギちゃん」
幼女紬「ふふ、でも執事に聞かれたら怒られちゃいそう」
「いーのいーの、ムギちゃんくらいの歳の子は習い事なんかより、友達と思いっきり遊ぶほうが大事なんだから!」
幼女紬「そんなこと言ってくれたの、先生が初めて」
「そして友達になってくれた人のために、命に替えてでもその友達を守らないとね」
幼女紬「命に替えてでも?」
「そのくらいの気持ちを持つってこと。きっとムギちゃんにも、そのくらい大切に思える友達がたくさんできるからね」
幼女紬「先生のこと?」
「私もだけど、他にもっとい~っぱいだよ!」
幼女紬「ふふ、楽しみ。私友達100人作るのが夢なの~♪」
「できるよ、ムギちゃんなら。ムギちゃんいい子だもん。私が保証するっ」
幼女紬「えへへ///」
「ふふ、じゃあお茶汲みの練習しよっか!」
幼女紬「うん!」
「ムギちゃん、お友達ができたら毎日お茶を入れてあげてね」
幼女紬「へ?うん!頑張るっ!」
「よし、それじゃあまずはティーカップを用意して……」ツルッ
ガシャーン!
「ぎゃあああああ!!!」
幼女紬「せ、先生ーーーっ!」
――――――――――――
唯「ムギちゃん……」
紬「待ってよう。りっちゃんが来るの、待っていようよ…」
紬「りっちゃん、きっと来るから……」
澪「ん……」
紬(今なら先生が言っていた言葉の意味がわかる気がする。自分を犠牲にしてでも友達を守る。今の私ならりっちゃのために死ぬことだってできると思う)
紬(りっちゃんだけじゃない。唯ちゃんや澪ちゃん、梓ちゃんのためだって)
紬(これが……本当の友達、か)
次の日 2-2前
澪「……」キョロキョロ
紬「あ、澪ちゃん」
唯「ホントだぁ!」
澪「あ、お、おはよう……」
唯「あのね、今日りっちゃんねぇ」
澪「いや、別に律の様子を見に来たんじゃなくて、その……」
紬「ふふ、学校休んでるの」
澪「え?」
――――――――――――
――――――――
――――
唯「澪ちゃん、授業サボってりっちゃんの家に行っちゃったね」
紬「だって友達だもの。授業なんかよりずっと大切な事よ」
唯「そだね。そう言えば昨日のムギちゃんカッコ良かったなぁ。りっちゃんのために!みたいな気迫が伝わってきたもん」
紬「だって、私もりっちゃんの友達だもの。もちろん唯ちゃんもね」
唯「へへ。嬉しいな」
紬「唯ちゃん、あの時はありがとう。唯ちゃんがいなかったら、友達がこんなに大切なものなんだって、わからなかったと思うの」
唯「あの時って?私何かしたっけ?」
紬「ふふ、秘密」
唯「?」
紬「放課後になったら私達もりっちゃんの家に行こうね!」
唯「もちろん!友達だもんね!」
――――――――――――
学園祭前日 唯の家
唯「へっきし!うぁー…ズルル」
唯(はあ……風邪、明日までに治るのかな。みんなと一緒に学園祭ライブ出られるのかな……)
唯「けほっけほっ……」
ガチャ
唯「お?」
バタン
唯「あ、おいーっす」
「おいーっす、じゃないよっ!」
――――――――――――
4月 帰路
唯「和ちゅわぁ~ん」ダキッ
和「はいはい。で、何の部活に入るか決めたの?」
唯「……まだ……」
和「まだ決めてないの!?一体いつまで悩んでるつもりよ」
唯「うぅ~ん……、和ちゃんと一緒に生徒会に入ろうっかな(チラッ」
和「唯に書類整理とか事務処理ができるの?」
唯「できまへん」
和「……はぁ」
唯「じゃあ、お茶汲み係でもやろうかな!」
和「そんな係はないし、多分この先、作られることもないわね」
唯「えぇ!?ケチんぼだなぁ桜高の生徒会はぁ!」
和「……あのね唯、ふざけてないでちゃんと自分で考えて決めなさい。もしかしたらその部活の人たちと、一生の付き合いになるかもしれないんだからね」
唯「え~?冗談がうまいなぁ和ちゃんは。いくらなんでもオーバーだよ~」
和「……」
唯「……ごめん。ちゃんと考える」
和「そう。じゃあ私こっちだから」
唯「うん!バイバイ!また明日ね~!」
和「また明日」
唯「う~ん、部活部活……」ブツブツ
和「……」
和「クスッ……頑張りなさい、唯」
唯「部活部活……。私でもできること……私が好きなこと……」
唯「うわぁーん!何していいかわかんないよー!」
ドンッ
唯・ 「あいたーっ!」
唯「あ……ごめんなさい。ちょっと考え事してて」
「私こそごめんなさい。大丈夫?」
唯「えへへ、ありがとう。私は大丈夫だよっ」
「そう、良かった」
唯「……ん?」
「……」
唯「んーと、ん?」
「あ、あはは……」
唯「えーと、ほらアレ。なんて言ったっけ……?うーんと」
唯「あ!ドッペルゴースト!」
「おしい!」
唯「……!?えー……。ドッペルゲンガー!」
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――――――――
――――
唯「じゃあキミは、ドッペルゲンガーちゃん?」
「うん。それでいいやぁ」
唯「私は
平沢唯だよっ!でも不思議なこともあるもんだね。見れば見るほど……似てる」ジー
「せ、世界では自分に似てる人が3人いるって言うしねっ!」アセアセ
唯「んー、よく見たら私より少し太ってるかな?」
「!?私は太らない体質なのっ!」
唯「へー、そんなところまで私に似てるんだね」
「そうそう、唯ちゃんに渡したいモノがあるの」
唯「へ?なんだろ」
「ふっふっふ、じゃーん!」ババン
唯「え?何?」
「アイスだよっ!約束してたでしょ?」
唯「アイス?約束?何のこと?」
「覚えてないのも無理はないね。まあとにかく受け取って。チョコアイス」
唯「う、うん。ありがと」
「唯ちゃん今暇?ちょっとだけ一緒に歩かない?」
唯「うん、いいけど」
「連れて行きたいところがあるんだっ」
唯「連れて行きたいところって?」
「ふっふっふ。唯ちゃんは今、悩んでいるね?」
唯「!?……なんでわかるの……?」
「私は超能力者だからね。もしかしたら唯ちゃんの悩み解決の手助けになるかもしれないよっ」
唯(超能力……?はて、どこかで……)
公園
唯「ここは……」
「何か覚えてない?」
唯「うっすらと……。小さい時にここに来たことがあるような気がする」
「ほい、唯ちゃん。これ」ポイ
唯「え?カスタネット……?」
「みんなでやったよね。うんたん」
唯「うんたん……」
唯「!?あの時のお姉ちゃん!」
「ぴんぽーん」
唯「ええ!?でもどうして……。昔のままの姿……だよね?」
「これには深~いわけがあるんの。実は私、この時代の人間じゃないんだ~」
唯「…………へ???」
「あの時、澪ちゃんがイジメられてるのを黙って見てられなくて……」
唯「澪ちゃん?澪ちゃん……?」
「ごめん!今はこれ以上話せない!」
唯「????」
唯「……?頭がこんがらがってきた」
「そうなるのも無理はないよ。普通こんなこと言われて信じる方がおかしいもん」
唯「えーと……とりあえず、どうして私をここに連れてきたの?」
「どうしても唯ちゃんに入って欲しい部活があるんだ」
唯「部活?ちょうど今それで悩んでたところなんだ~!」
「ふふ、知ってるよっ。ねえ唯ちゃん」
唯「なに~?」
「今でも音楽は好き?」
――――――――――――
「まったくもうっ、みんなに迷惑かけて……」
唯「仕方ないじゃ~ん。りっちゃんに風邪移されちゃったんだもん」
「もし明日までに治らなくてライブに出られないようなら、私が代わりに出るからねっ!」
唯「それは絶対嫌!」
「……」
唯「……」
唯「約束したもん。ライブまでに絶対治すって。みんなと一緒にライブに出るって」
「そっか。じゃあ早く治さないとね」
唯「もちろんだよっ!」
「そうそう、アイス買ってきたんだ~。一緒に食べよ」
唯「お、ありがと~」
「アイスを食べればきっと熱も下がるよ!」
唯「うん!」
――――――――――――
――――――――
――――
唯(いっぱい寝る!今はできるだけいっぱい寝て、絶対間に合わせる!)
(頑張れ、唯ちゃん)
――――――――――――
唯「音楽?ん~、別に」
(……)ズルル
「は、はっきり言うね……」
唯「だって興味ないもん」
「……音楽を通じて出会えた人もいたでしょ?」
唯「?」
「もう一度、その人たちと……」
唯「もう一度?……ところでこのカスタネットは?」
「忘れちゃったの?唯ちゃん、カスタネットうまいねって言ったらすごく喜んでたんだよ」
唯「……」
「大切なうんたん仲間がいたでしょ?」
最終更新:2010年02月13日 02:46