一点に向けて視線を凝らす。
律に抱きつくような形で澪が寝息を立てている。
実は澪も梓のように、『原初的な恐怖』を感じて、律の寝床に潜り込んだわけ。
あの怖がりの澪を寝付かせる…親友の特権なのだろうか?


梓(起こすの気がひける…)

梓(仕方ない、頼りないけど…)

(せんぱい…)

唯(ん…)

(ゆいせんぱい…)

唯「んー?だ、れ?」

梓(すいません、唯先輩…)

小声で唯に話しかける梓。

唯「あず…にゃん?」

梓(すいません、声をもう少し小さく…)

唯(うん。)

唯(どうしたの?)

梓(…)

梓(実は…)



-野外-

唯「あはは♪あずにゃん、ひとりでおしっこ行くの怖かったんだ!」

梓「うぅ…(恥ずかしい…)」

唯「まー仕方ないよね♪」

梓「そういう唯先輩はどうなんですか!?こわくないんですか!?」

唯「そりゃーこわいけどさー、みんながいっしょだし、それに。」

唯「今はあずにゃんがとなりにいるしね♪」ニコッ

梓(!)

梓(この人は…臭いせりふを堂々と…////)



-野外-

梓「このへんなら、竪穴住居にも聞こえないかな。」

唯「聞こえないって、何が?」

梓「もう!///」

梓「おと…です、音!」

唯「音?」

梓「用足してる時の音です!」

唯「あー、なっとく!」

唯「みんな寝てるから聞こえないんじゃないの?」

梓「それでも気にするんです!!」

梓「唯先輩も両方の耳押さえて、音を聞かないようにしてください。」

唯「なんで?女の子同士なのに?」

梓「私は気にするんですっ!!」

チョロ…チョロ…

梓「先輩!聞こえてないですよね!?」

チョロ…チョロチョロチョロチョロ…

唯「うん!ぜんぜん聞こえてないよー!」

チョロチョロチョロチョロ…

梓「ほんとに聞こえてないですよね!?」

チョロチョロ…

唯「ぜーんぜん聞こえないよー!」

梓(あれ…?)


それから二人はすぐに、竪穴住居にもどった。

梓(せんぱい、ありがとうございました。)

唯(いーってことよ!)

唯(ねぇ、あずにゃん。)

梓(はい?)

唯(いつでもさ、困ったことがあったら、
  遠慮しないで言ってちょうだい。ね?)

梓(!)

梓(はい!)

梓(…)

梓(せんぱい…)

唯(なーに?)

梓(…)

唯(んー?)

梓(み、澪せんぱいみたいに…)

梓(唯先輩の寝床に入って寝ちゃ…駄目ですか?)

唯(!)

唯(もちろんOK!!)キラッ

梓(失礼します…)

唯(あずにゃんあったかーい!)ギュッ

梓(せ、せんぱい…///)

唯(えへへ、素敵な抱き枕を見つけたよ♪)

梓(…///)

唯(おやすみ、あずにゃん。)

梓(はい、おやすみなさい。)






紬(暗視機能付ビデオカメラとICレコーダー持って来るんだったわっ!!)ギリギリ

紬は一晩中寝床を涙で濡らしたのだった。

そして翌日。


竪穴住居から少し離れた、広場のような場所

斉藤「この辺りに土器を並べておけばいいんですね?」

さわ子「はいお願いします。」

さわ子「あんたたち、野焼きの準備に入るわよ。
    薪は2m×5mぐらいの長方形状に並べて重ねるようにね。
    あ、それと別に竪穴住居の炉ぐらいに薪山をつくって。」

律「了解。」

長方形の薪山、そのとなりの小山にそれぞれ火をつける。

さわ子「両方とも"おきり"を作ることが目的だから
    均等に火が通るように工夫すること!」

律(さわちゃん手伝わないとか言ってたわりには陣頭指揮執ってるよな?)

澪(まあ、熱しやすい人だからな。)



数時間後

さわ子「よし、良い感じ!」

さわ子「"おきり"の上に土器を並べるわ。」

唯「よいしょっと…」

さわ子「丁寧に扱いなさいよ!」



数十分後

さわ子「今度は土器を横にするわ。
    このときも壊さないように気をつけるのよ!」

律「はいはい。」

澪「先生、横にしてから焼き上げて完成ですか?」

さわ子「いいえ、今はいわば"仮焼き"よ。
    乾燥の仕上げと、本焼きをするときに
    土器が壊れないようにするためのプロセスなの。」

唯「へー。結構凝ってるんだね。」



さらに数十分後

さわ子「よし、こんなもんか…じゃあ本焼きに移ります!」

さわ子「横にしてある土器をもう一回立てるわ。」

さわ子「土器の間と上に均等になるように薪を並べて!」

さわ子「並べたら薪山に点火。それであとは数十分具合をみながら薪を加えていくこと。
    良い感じになったら、木の棒をつかって土器をまた倒す。
    本焼きの目安時間は合計40分!」



そして本焼き終了

さわ子「おーけい!後は一時間以上冷まして完成よ!」

唯「さわちゃん、こっちの小さいほうの"おきり"は使わないの?」

さわ子「忘れるとこだったわ!小山のほうは形を崩して平べったくして。
    その上に海藻を並べておきます。」

さわ子「海藻を灰にするのが目的だから、灰状になったら取り除いて
    新しい海藻を足していってちょうだい。」

さわ子「昆布とかワカメはほんの少量だけ、大部分はその杉の木の葉っぱみたいな海藻、
    『ホンダワラ』を使うように!」



一時間半後

さわ子「そろそろいいかしら。」

さわ子「とりあえず完成!」

唯「やっふーー!!」

紬「努力の成果です!」

澪「さっそく取り出しますよ?」

さわ子「ええ。まだ熱いかもしれないから気を付けてね!」

さわ子「ふんふん…ほとんど割れてないわね。
    はじめてにしてはかなりラッキーたわ。」

唯「あー!ドラえもんの首がもげてるー!!」

さわ子「そんな分厚い土人形じゃ、そりゃ壊れるわよ…」

唯「うっ…うう…ドラちゃん…」

さわ子「灰になった海藻は、その大きな土器に入れて持ち帰りましょう。
    ほかの土器はもう少しだけ温度が下がるのを待ってから、
    水場で洗ってきてちょうだい。」


軽音部の面々は土器の洗浄までの工程を終えると
竪穴住居にもどってきた。


さわ子「さて、私が積極的に指導するのはここまで。」

さわ子「あとはあんたらで勝手にやんなさいな。」

唯「さわちゃん、ありがとーね!」

さわ子「感謝の気持ちがあるなら、早くおいしいもの食べさせてちょうだい。」

あずさ「先生、この海藻の灰はどうするんですか?」

さわ子「ああ、それは石を使って粉状にするの。
    そうすれば『灰塩』の完成よ。」


律「灰塩ぉ?食べられんの?」

さわ子「そのホンダワラの灰を口に含んでみなさいな。」

律「あ、うん…」モグ…

律「ん?ん…」

律「しょっぱ苦い!!」

さわ子「まあ、現代の製塩されたやつを前提としちゃ駄目よ。
    その苦味もなかなか味のがあっていいじゃない。」


さて、その日の午後。唯と律は近場の渓流に釣りに出かけた。
澪と梓は食料採集、紬は灰塩作りである。

律「よし、唯はこれを使え!」

唯「何これ?槍?」

律「『ヤス』って言うらしい。
  それで魚を突いて捕まえるんだとさ。」

律「釣り針とは別に、鹿の角と木の棒で作ってみたんよ。」

唯「ふーん。」



-渓流-

律「さて、捕まえといたミミズを釣り針にぶっさして…」

律「うおっ!針が太めだからか、ちぎれちゃうな…」

唯「ミミズが真っ二つ…ウッ…」

律「よし!今度は上手くいった!」

律「さて、釣りますか…」

唯「おう!」

律「糸たらして…」

ポチャン

律「糸が2mってのも短すぎだよなぁ…
  さわちゃんいお願いして長いやつもらわないと。」

バシャバシャッ!

律「こら!魚が寄ってこないだろ!」

唯「冷たくて気持ちいーー!!」



一時間後

律「駄目だ、ぜんぜんかからねー…」

唯「魚がすばしっこくて刺さらないよ…」

律(まー素人の腕じゃ不可能だよな。)

-さらに一時間後-

律「カイン…!カイン!」

唯「…セシル!す、すまん…俺は何という事を…」

律「操られていたんだ…仕方ないさ。」

唯「しかし…意識はあったのだ。俺はローザを…」



-さらに30分後-

唯「zzz…」

律「唯は遊びつかれて寝ちまったし。」

律「今日はあきらめ…」

ピクッ

律「ぬ!?」

律「かかった!!」

ピキピキ…

律「よ、よし!リールを巻いて…」

律「ってリール付いて無いじゃん!」

ピキキキ…

律「素直に引き上げればいいのか!?」

律「そいっ!」

律「てりゃぁっ!!」

律「ゲットだぜ!!」

唯「ん~?ふぁあ…」

律「唯!やった!つり上げたぞ!」

唯「あっ!すごーい!なんていう魚なの?」

律「うーん、アマゴだな、これは。」

唯「へー!よく知ってるね!」

律「父さんや聡と一緒に時々釣りに行くんだ。
  だから自然とおぼえたっつーわけ。」



唯「ただいまー!」

澪「ああ、おかえり。」

律「見ろ!3匹も釣り上げたぞ!
  アマゴが2匹、イワナが一匹だ!」

梓「すごいですね…大きさは20cmぐらい?」

律「アマゴは15cmに20cmぐらい、イワナも15cmぐらいか…
  アマゴはもっと大きくなるから、この辺にもでっかい奴がいるかもな。」

さわ子「りっちゃんやるわねぇ。で、一番大きい奴を食べる権利は
    当然私にあるわけよね?」

律「なんだよその理屈!!」

さわ子「土器を完成させることができたのは私がいたからでしょ?」

律「ぐっ…」

さわ子「それにまた釣ってくれば良いんだし。」

こうして縄文二日目も過ぎてゆく…


三日目

さわ子「はい、糸の追加よ。あと、竹もサービスでつけとくわ。
    この辺には生えてないしね。」

澪「ありがとうございます!」

さわ子「それで細工物を作るなり弓を作るなりしてちょうだい。」


四日目

律「木と蔓を使って魚用の仕掛けを作ってみた。」

澪「こっちも弓矢が完成したよ。」

唯「矢はどんぐらい飛ぶの?」

澪「威力がでるのは、10mちょっとまでってとこかな。」


五日目

律「ちょっと離れたとこに地層の断面があるんだけど、
  そこで、こんなもん見つけた。」

紬「石油臭いわ…」

唯「黒くてベトベトしてるね?」

律「ジモ○御大によると、これはタールみたいだ。
  石器と木を連結してあるトコに塗ると、
  その部分の強度をあげることができるんだって。」


六日目

唯「いっひひひひひひひひ!!!」

紬「唯ちゃんどうしちゃったの!?」

梓「笑い茸を食べたそうです。」

律「ベタベタだなおい…」

さわ子「そのうち直るだろうからほっときなさい。」


そして七日目…

澪「よいしょっと。水汲んできたぞー!」

唯「おかえりー!澪ちゃん、あーん。」

澪「あーん。」モグ

澪「すっぱ!」

唯「『ざくろ』だよー。」

澪「そうなのか?この森はほんとになんでもあるんだな…」

律「あー、みんな、ちょっといいか?」


唯「どったのー?」

律「とりあえず、家の中に入ってくれ。相談したいことがあるんだ。」


-竪穴住居内-

律「これを見てくれ。」

唯「こっこれはっ…!?」

澪「クサッ」

紬「何かしら?」

梓「…」

さわ子「どうみてもウンコでしょ。」

律「ああ、ウンコだ。」

澪「おい律…」


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最終更新:2010年02月14日 04:00