律「まあ、待て澪。当然これは私のウンコではない。」

澪「お前のだったら絶交モノだ!」

律「ジモ○大先生によれば、イノシシの糞らしい。」

紬「イノシシ?」

律「ああ。で、私なりに大先生の理論のもと
  このウンコを研究してみたんだが…」

律「どうやら、これが排泄されてから、
  まだ2、3時間しか経ってないらしい。」

律「大先生は糞の状態でイノシシの体長・体調の把握や行動予測まで
  可能らしいんだが、私にはここまで推測するのが限界だった。」

澪「いったいこんなものどこで…」

律「あたしらが利用してる水場あるだろ?
  そこからさらに20分ほど進んだ場所だ。」

律「で、このほかにも、別の場所2箇所でイノシシの糞が確認された。
  ここにあるやつよりも古いもので、同一の固体のものかはわからない。
  けれど、私が見つけた糞は、すべて同一の固体のものだと私は考えたい。」

梓「あの…律先輩の意図がまったくつかめません…」

律「あずさ、まあ聞いてくれ。」

律「ここで私は一つの提案をしたい。」

律「それは…」

律「この糞をしたイノシシを狩る!」

「「「「!!!!!!!」」」」

さわ子「はぁー…」

澪「律、正気…か?」

律「ああ。」

澪「日本中で年間何人の人間が、イノシシに襲われて
  怪我してるとおもってるんだ?」

澪「私らに太刀打ちできる相手じゃないだろう?」

律「あきらめたらそこで試合終了です。」

澪「私は真剣なんだぞ!!」


律「はい死んだ!澪のミュージシャン魂は今死んだ!!」

澪「ブチ」


澪「先生!このデコッパチになんか言ってやてください!」

さわ子「うーん…りっちゃん?」

律「おうよ!」

さわ子「勝手にやりなさい。」

澪「せんせい!!」

さわ子「ったく…」

さわ子(澪ちゃん、たしかにイノシシに遭遇してもあんたらじゃ
    傷一つ付けることはできないでしょうね。)

さわ子(逆に大怪我負うわ。)

さわ子(譬えるなら、dq6で本物のムドーに貧弱なレベルで挑むのと同じ。)

さわ子(ちょっと怖い目見たほうが今後のためよ。)

澪(でも怪我とか…)

さわ子(そんときはあんたが上手く誘導して、皆を逃走させなさい。)

澪(そ、そんな無責任な…)

さわ子「そういうことでがんばってねー。」

澪「おっ鬼!!」


こうして唯たちは無謀にもイノシシ狩りを行うことになった。
ここでイノシシ狩りに臨む唯たちの装備を見てみよう。

唯「ドキドキするねー!」
 ・右手→鹿角のヤス
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→小型の投槍
      憂のまもり(憂から渡されたお守り)
      イグサのポシェット(イグサを編んで作ったポシェット、食料入り)  


澪(果たしてどう逃げれば良いか…)
 ・右手→竹製の弓
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→黒曜石の矢×10
      黒曜石の石包丁
      イグサの矢筒(イグサを編んで作った矢筒)  


律(狩りで私がリーダーシップをとって澪から軽音部の主導権を…)
 ・右手→石製のハンドアックス(石の部分は20cm×4cm×2cm)
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→イグサのポシェット(食料・修理器具・小型石器入り)
      小型の投槍  


紬「ふんふんんふーん♪」
 ・右手→黒曜石の大型槍
 ・左手→黒曜石の大型槍
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→ハンドアックス(律のものと同じ)×2
      大型縄文土器のバックパック(蔓をつかって背に背負えるようにしたもの
      中身には食料、総量10kg)
      たくあん眉毛  


梓(や、やってやれないです…)
 ・右手→小型の投槍
 ・左手→なし
 ・頭→なし
 ・上半身→縄文人の服
 ・下半身→縄文人の半ズボン
 ・その他→いぐさのポシェット(食料・つぶて石入り)
      竹製の水筒×2

※つぶて石…投げて対象に打撃を与える石ころ。  


さっそく原生林奥へと足を踏み入れる一行

律「あっ、いつもの湧き水についたな。
  水分補給しとくか。」

澪「水筒は二つしかないし、ここを拠点にするか、
  遠くの水場を探すか…」

律「どうにかなるだろ、まー。」

澪「な!?適当すぎるぞお前!!」

澪「はぁ…本当に…
  あ、みんな、体を動かして大量に汗をかくかもしれないし、
  灰塩を食べて水を十分にとっておけよ。」

唯「おーけい!」

こうしてさらに奥へと進む一行。

澪(帰り道をちゃんと覚えておかないと…
  でも方向感覚がぜんぜんつかめない…)

律(ぜーんぜん、出て来ねえなあ…)

梓「ムギ先輩、そんなにもって重くないんですか?」

紬「もっと持てるわよー?」 

このあと、ほぼ半日、一行は歩き回ることになる。
糞や足跡、イノシシが地面を掘り返したと見られるあとは見つかったが、
イノシシ自体に遭遇することは無かった。

一行には、間延びした倦怠感が現れ始めていた。
そのときである!

唯「あっ!あそこっ!」

律「どうした唯?」

唯「なんか、変な動物がいるよ!!」

律「なにっ!?」

律(よし、こっからは声を抑えていくぞ!)

律(鳥だよな…少し大きめだ…)

紬(あれは…雉(きじ)よ!)

律(キジか…まあシシ鍋じゃなく焼き鳥にランクダウンしとくか…)

律(よし!目標前方2時の方向のキジ!
  フォーメーショーンDだ!)

唯(ふぉーめーしょん?そんなのあったっけ??)

律(こういうのは気分なんだよ気分!それで士気が上がるんだって!!)

キジ「アホー」※こんな鳴き方はしません

梓(変な鳴声ですね…それに、狩るのはちょっと可哀想…)

律(梓、変なヒューマニズムに惑わされるな!)

律(澪、後方から援護を頼む。
  唯、私とギリギリまで近づいて投槍でしとめるぞ。)

澪(りょ、了解…)

唯(らじゃー!)

紬(ドキドキ)

律(ギリギリまで近づけ…でも近づきすぎたら感づかれるから、あんまり近づくな…)

唯(え!?ど、どっちなの!?)

律(カンだカン!自分の感性を信じるんだ!)

ジリジリ…

キジ「アホーアホー」

律「いまだ唯!」

唯「応(おう)!」

紬(投槍は弓矢よりも狙いがつけられないのね。
  あと、飛んでいくスピードでも劣ってる…これじゃ威力も…
  鳥、というか素早い動物を狩るには不向きだわ。)

律「くっ…み、みお頼む!」

澪「ああ!」

矢をつがえ、弓を引き絞る澪。

澪(!)

ヒュン!

澪が放った矢はキジのほんの少し側面をかすめて外れる。

澪「くっ…」

キジ「アンタラバカー」

パサパサッツ…パサッ…

キジは優雅に空中へ舞い上がると、唯達の頭上を軽く旋回して
どこかへ飛んでいってしまった。

律「くっそ!ああくっそー!!」

地団駄を踏んで悔しがる律。

梓(でも、殺さなくて、ほんとによかった…)

紬「あ、あのねりっちゃん…」

律「あっ!?なんだ!?」グワッ

紬「ヒッ!な、なんでもないわ…」

澪「攻撃の連携がぜんぜん取れてないな。
  それに武器の選択も間違ってた。」

律「ああ!そう!そうだよな!くそっ…」

唯(りっちゃん荒れてるね…)

紬(アレがはじまっちゃったのかしら?)

それから小一時間周囲を探索したが、いかなる動物にも遭遇することは無かった。
唯たちは協議の上、途中で新しく見つけた湧水の近くまで引き返し、
そこで一晩明かすことに決めたのだった。


パッ…パチッ…

闇の中、かがり火がうごめき煌く。

律「…」

律は口数少ないまま、食事をそうそうに切り上げ、
横になって目を瞑る。

唯「クッキーおいしいね♪」モグモグ

梓「はい…」

梓は曖昧に相槌を打つ。
唯は食料として持ってきたどんぐりクッキー(灰塩味)を
大そう気に入っているようだ。


澪「ふぅ…」

澪は時々、律の方に視線をやりながら、弓の"つる"の調整をしている。

紬(りっちゃん、それにみんなも…疲れがたまってるのかな…)

紬は、ぼんやりと、皆の方を心配そうに見やる。

始めた頃は、非日常の中に突然入り込んだ日常感覚、が生まれた。
しかし時間が経つにつれ、この二つは溶け合い、
まったく別の、はじめて経験する感覚へと、唯達を晒す。
彼女達も身をもって、それを覚えはじめている。

こうしてまた一日、日が過ぎていった。


次の日、目を覚ますと唯たちは竪穴住居へと帰路を取る。
大体一時間半ほどかかるだろうか?
澪がかろうじて方向と目印を覚えていたため、何とか帰りつけそうだ。
律は今日もほとど喋らない。
いや、他の皆も。

唯「ふぁーー…」

紬「眠いの、唯ちゃん?」

唯「んーちょっとねー。」

ドン!!!

唯「!!??」

澪「な、なんだ…!?」

それは突然に訪れる。背後で大きな音がする。
重量のある何かが、何かに衝突したかのような…

背後5mほどの木陰に、唯達が追い求めていた動物がいた。

律「いの…シシ!?」

梓(よりによって…皆さんのテンションが最悪なときに…)

イノシシ「フ…フー…」

イノシシは唯達に気付くと体躯を彼女達のほうに向ける。
本来なら臆病な動物のはず。何かに気がたっているのだろうか?

梓「こっち向いて…に、にじり寄って…きます!?」

澪「くっ…に、逃げ…」

律「いーや狩る!!」

澪「ば、馬鹿っ!!昨日のキジとは違うんだぞ!?」

イノシシはゆっくり、ゆっくりと、相撲取りのように寄りきり進み、
体躯を前方に屈める。

紬「来るわっ!!」


律「澪!怖いなら指くわえてみてろ!!唯、投槍用意!!」

唯「うん!」

イノシシ「フーーーーー!!!」

ドッドッドッ!!!

イノシシが突進し始める。
標的は…梓!

梓「あっ…!?」

律「早いっ!!」

紬「あぶないっ!!」

紬は覆いかぶさるようにして、梓をイノシシから庇う。

ドンッ!!!

イノシシはその横を突進し、そのまま別の大木に衝突する。

律「!?」

梓「あ…あ…」

梓「ハッ!ムギ先輩大丈夫ですか!?」

梓は紬のほうに顔を向ける。
紬はすでに、槍を構えて起ち上がっている。

紬「ぜんぜん!」ニコッ!

梓「よかった…!」ジワ


律「動かない!?死んだか…」

澪「いや、気を抜くな!!」

律「!」

律「ああ!ゆい、あいつに目掛けて槍を投げるぞ!澪も頼む!」

唯「うん…!」

澪「ああ!」

紬(やっぱり…投槍は弓矢に比べて有効な武器じゃないんだ…)

唯「あずにゃんを睨んでるみたい!!」

梓「ヒッ…」

紬「また来るわ!」

律「澪、距離をとってあたし等の背後から狙え!ムギ、お前の長槍一本貸せ!」

紬「うん!」

紬は律のすぐ目前へ槍を放る。
律はすぐさま片手で掴みあげる。


イノシシは再び唯達に向いはじめる。
いや、おそらくは梓に向って、だ。

澪はイノシシの側面に再び矢を射掛ける。

ヒュン!

わき腹に突き刺さりはしたがイノシシは動きを止めず、再び前かがみに。

澪「く、頑丈…」

律「あきらめるな!何度も射掛けろ!!」

律「ムギ!イノシシ挟んであたしの反対側にいけ!両側から仕掛ける!
  唯は梓を庇いつつ逃げて引き付けろ!」

唯「うん!」

イノシシが突進する。


律「やぁぁーー!!!」

律の長槍がイノシシの首の辺りを傷つけ、反動で律は背後に倒れる。
長槍は突き刺さりこそしなかったが、イノシシの動きを止めた。

紬(今!!)

紬は一直線にイノシシに突進する。

紬「はぁぁっ!!!!」

ズっ!ググ…

紬(嫌な…感触…)

紬の長槍はイノシシの下腹深く突き刺さる。

イノシシ「フーーーーーーーーーーー!!!!」

苦しげな声をあげ、打ち倒れるイノシシ。

律「や、やたっ!!」

澪「律、ムギ!怪我ないか!?」

律の背後から澪が声をかける。

律「大丈夫だ!」

紬「私も!」

澪は律に近づこうとするが、
その刹那―

イノシシはゆっくりと起き上がる。
そして律のほうへ…
最後の力で、律を道連れにしようとするかのように。

律「あっ…」

律とイノシシの距離で今突撃されれば…

律「や、ばっ…」

澪「くっそーー!!!」

ヒュン!

澪はすぐさま弓を引き絞り射掛ける。
が、澪の放った矢は外れてしまった、ように見え…

?「…」

ヒュン!

外れたように見えた矢は、なぜかイノシシの眉間から深々と突き立っていた。
ゆっくりと、横臥するように倒れるイノシシ。


律「あ、あぶ、あぶなか…」

澪「りつーーー!!」

澪は背後から律を抱きしめる。

澪「よ、よかっだ…よかっだぁーー!!」ヒッヒック…

律「へへっ…////」

紬(心のビデオカメラ起動開始。高画質モードon)ハァハァ


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最終更新:2010年02月14日 04:01