和「二人ずつに分かれて、移動しましょう。  
  この辺の半径5km内には、2箇所、飲用可能な水場があるらしいから
  それぞれのチームが、その水場の周辺を押さえる。」

和「あと、各チームごと、水筒と、食料を入れる携帯容器を忘れ…」

ヒュン!ヒュン!ヒュン!

突然和たちに矢が降り注ぐ。

聡「うおっ!?」


憂「奇襲ですっ!和さん!」

和「落ち着いて!各自盾を構え十字に密集!」

和たち四人は、"+"の形をとるように互いの背をあわせると
大盾を構え矢に備える。

ヒュン!ヒュン!

和(矢は竪穴住居の背面からのみ向ってくる…)

和(木陰に隠れているのは、律、澪、紬の三人だけ…
  唯と梓がいない…なんか企んでるわね)

和「全員盾構え!聡君と憂、竪穴住居の方向!背中合わせ!私と鈴木さんは逆方向!
  住居から遠ざかるわよ!」

二人ずつ背中合わせになる形で矢の攻撃から離れていく。

和「もう10m後退!木陰に退避!」



一方の縄文側

律「あいつら離れてくな…」

澪「木陰に逃げる気か…」

律「とにかくだ、あいつらをバラバラにして集団戦法を
  とらせないようにしないと…」


和たちは、目指す木々の背後へ退避する。

和(さて、今度はまったく別の方向から矢が飛んでくるわよ。)

憂(さっきいたのは律さんたちだから…お姉ちゃんと梓ちゃんが?)

和(ええ。見え見えの陽動作戦だけれど…
  こちらも乗ってあげようじゃない。)

憂(大丈夫ですか?)

和(二人が決して離れず、突飛な行動を取らなければね。)

和(それにこっちの弱点…)

和(人数が一人少ない、飛び道具を鈴木さんしか持って居ない。
  地の利に全く弱い。装備がやや重い。)

和(これを忘れない事。)

和(対して、あっちはゲリラ戦法をとってくるでしょう。)

和(あんたたち、絶対に惑わされちゃ駄目よ。)

憂純聡(はい!)

聡(!)

聡(見っけ!)

聡(和さん、あっちに唯さんと梓さんが!)

和(了解。じゃあ打ち合わせ通り、二人組みに分かれるわ。)

和(私と鈴木さん、憂と聡君。)

和(私たちは唯と梓を追いかけるから、憂たちは律たちのほうを。
  陽動に乗ったふりをしながら慎重にね。)

憂純聡(はい!)

和(それと、聡君、憂の言うことに従うこと、勝手な行動をとらないこと。
  いいわね?)

聡(任してください!!)

憂(大丈夫かな?すごく心配…)


律「お、和たちが二手に分かれたな。」

紬「こっちには憂ちゃんと聡君がくるみたい。」

澪「よし!律、口笛信号頼む!」

律「おうよ!」

ピュイーピュイッピュピュ…

和「ん?」

純「真鍋先輩?」

和「口笛?なんかの暗号ね…」

純「何のです?」

和「さあ…推測するだけ時間の無駄。唯と梓に向うわよ。」

唯「あっ!これは…」

梓「『深き森の乙女たち』作戦始動の合図です!」

唯「そだね!じゃあ、私はムギちゃんと交換で、
  りっちゃんたちのほうに行くから…」

唯「あずにゃん、がんばろうね♪」ギュ

梓「はっ、はいっ…////」

澪「ムギ、唯とチェンジだ!あっちに気取られないようにな。」

紬「わかったわ♪」

紬は律と澪から離れていく。

律「唯と合流したら例の地点まで誘い込んで…」

澪「ほ、ほんとうにやるのか?////」

律「ああ。お前と唯の演技力にかかってるぞ!」

澪「がんばってみる…////」




憂聡組

ヒュンヒュン!

聡「うわっ!?」

憂「危ないよっ!上半身は前も後も鎧で守られてるけど下半身は…」

聡「大丈夫ッす。でも、憂さんも
  澪姉の弓裁きには気をつけたほうがいいっす。」

憂「弓道経験者なんだよね?」

聡「そうーっす。高校入ってからはやってないみたいですけど…」

聡「中学の頃の澪姉の弓道着姿…すっごく凛々しかったっす/////」ニタア

憂「…」イラッ

憂「聡君、最近気になってたんだけどね?」

聡「はい?」

憂「なんで律さんたちと一緒にウチに遊びに来るの?」

聡「え、いや、唯さんがいつでも来なよーっていってくれたから…////」

憂(お姉ちゃん、弟ほしがってたから…)

憂「チッ…」

聡「え?今舌打ちしませんでした??」

憂「気のせいだよ。それより、気をぬかないで!」



和純組

純「真鍋先輩。」

和「何かしら?」

純「なんで、憂と聡君、先輩と私なんですか?」

和「ああ。それはね…」

和「…」

和「一番最適な選択だからよ。」

純「?」

和(憂と聡君のペアも心配…
  けれど一番の不確定要素は鈴木さんなのよね。)

和「ん?」

純「どうしました?」

和「…紬?」

和「紬が加わってるわ…」

和「これは…」

さらに紬と梓を追う和達

和「紬が加わっても、矢の攻撃の数は変わってない。」

和「唯の姿が見えなくなった…」

純「もしかしてハメられてますか?」

和「そうかもね。けれど、私達の作戦は単純明快。
  慎重に時間をかけて、ゆっくりと追い込むだけだから。」

和「猟犬のようにね。」



唯律澪組

律「よし、このへんで私が足止めするから、
  お前らは所定の位置にいけ!」

澪「わ、わかった…////」

唯「おー♪」



憂聡組

ヒュン!

聡「ねーちゃんwww下手くそ!!!」プゲラ

ヒュン!

憂「確かに。律さんには悪いけど。」

ヒュン!

憂(おねいちゃんと澪さんの姿が消えた…)

憂(…)


聡「あっ!ねーちゃんが逃げますよ!」

憂(100パーセント、罠だね。どうしようか…)

聡「憂さん!ねーちゃんが!!」

憂「わかってる!今考え事してるの!!」

憂(行ってみるかな。もしもの時は…)

憂(聡君に囮になってもらえばいいよね?)

憂「聡君?この先は絶対何かの罠だから、警戒を怠らないようにね!」

聡「だーいじょうぶですって!!」

憂い聡は歩みを進め、そして木漏れ日の差す、ほんの少し開けた場所に出る。
そこは、天然の花畑であった。
白、ピンク、赤、明るく色鮮やかな花たちが咲き乱れている。

そして、その一角には、かなりの大きさのある巨岩がそびえ―
唯と澪は、その巨岩の前に佇んでいた。

聡「!!!!」

憂「あ、あ、ああ…」


唯はシロツメクサで作られた首飾りを二重にかけ、頭には、
桃色のキク科の花―コスモスに似ている―で編まれた花冠をつけ、
巨岩の前の花畑の中、仰向けで目を閉じている。両手は組んで、胸の上。

澪はアカツメクサ―桃色をしたシロツメクサの仲間―の首飾りをかけ、
唯の花冠とは色違い、白色の花冠をかぶり、巨岩にもたれかかっている。
手には、小さな弦楽器を持っている。紬が梓と澪に作ったものだ。

唯と澪へ向って、やさしく、そしてやわらかく、木漏れ日が差し込む。
聡と憂には、まるで、彼女達二人が、ニュンフかミューズかのように映る。

聡「澪ねえ…唯さん…/////」

憂「おねいちゃん…おねい…ちゃん…
  綺麗だよぉ…かわいいよぉ…////」

聡「き…れい…だ…////」

憂「あ、あうぅぅ…/////」

二人は唯たちから5mほどの距離をとって、唯達に魅入られたまま、
一歩も動けない。


律(案の定だ、やつら骨抜きになってる…www)

律(当分は釘付けにできるな。そのまま『森の乙女』を観察してろw)

律(さて、いざ…)

律(ムギたちのところへっ!!)



和純組

和「あっちに竪穴住居が見えてきたわね…」

和「円周状に引き付けられて、戻ってきたってこと…」

純「これはいよいよ怪しいですね?」

和「ええ。」

ヒュン!

突然、和たちに向って、へっぴりな放射線を描いて、
矢が射掛けられる。

紬(りっちゃんが来てくれたみたい。梓ちゃん、"ときのこえ"あげて…)

紬(一気に襲い掛かるわよ!!)

梓 (はい!!)


「「いやぁぁぁーーーーーー!!」」

和「来たわね…!敵から距離をとって!私を弓矢で援護!」

純「はい!」

紬は黒曜石の長槍を、梓はそれを小型にしたものを持って襲い掛かる。

律「わたしもさんじょぉぉぉ!!!」

紬と同じ黒曜石の槍を手に、律も和たちに踊りかかる。

和「!?」

和「接近が早い!?鈴木さん!弓放棄!短剣と盾で迎え撃て!」

純「はい!」


律「和はほっとけ!鈴木さんをまず狙え!」

紬梓「はい!」

純「ぐッ…」

純に対して律たち三人が殺到する。

和「今助けるわっ!」

純「まけ…」

梓「!?」

純「負けてたまるかァァぁーーー!!!」

梓「きゃあーーっ!!」

純は盾を突き出して梓に体当たりする。
梓はバランスを崩し、地面に倒れてしまう。


純「今こそ…活躍のときっ!!!」

律「なにぃっ!?」

純「そう…」

純「私は、けいおん!レギュラーメンバーとなり…」

純「秋山先輩や梓の人気を抜いてみせるっ!!」クワッ!!


紬「ものすごいプレッシャーよ…!」

梓「いたた…それが…純が参加した理由!?」

梓はまだ起き上がれない。

純「そうだよ!全ては私の人気のためっ!!
  さあ、かかってきてっ!!」

純の小柄な体をうまく大盾が隠している。
そして、30cmほどの青銅製小剣を振るう。
一方、純に集中する攻撃を和が緩和する。

梓「純…結構強いです!!」

律「盾がやっかいだ!」

紬「囲い込んで盾が使えないようにしましょう!」

純「みんなの中で私だけがっ!戦う理由があるっ!!」

律「ちっちぇーくせに手ごわいなっ!」

和(ものすごい鈴木さんの猛攻だけれど…冷静さをもう失ってる)

和(逃走を考えておいたほうが無難ね…)


梓(あれ?)

梓は気付く。
時々盾から純の足がはみ出ることがあるのだ。

梓「…」

梓は槍を下段にかまえ、純に足払いをかける。

梓「えい。」

純「あっ…」

トテ。
足を払われて、しりもちをつく純。

和(ここまでね…この場を逃げ切ることを最優先にする!)

和は目前にいる紬に盾ごと突撃する。

和「はっ!」

紬「んっ!」

そして、唐突に盾を手放す。

紬「きゃっ…」

当然紬は、前方に倒れ落ちる。


和「鈴木さんごめんねっ!!」ダッ

律「あっ和の奴逃げやがった!!」

和は盾を拾おうともせず、
すみやかにその場から離脱していく。

純「ころしてっ!!さあころして!!」

純は剣と盾を手放し、大の字に寝転がる。

さわ子「あー戦意喪失かしら?」

律「さわちゃんいたのかよ!?」

純「でも…けいおん!レギュラーメンバーになる意欲は喪失してませんから!」

さわ子「はいはい。鈴木純、捕虜になったため失格、と。」

梓「純…」

純「梓、私を笑いに来た?」

梓「ううん、違う。」

梓は純の片手を取る。

純「あずさ?」

純「純があきらめない限り絶対…」

梓「頑張れば…テーマソングもキャラグッズも出せるよ!」

梓「ねっ!」ニコッ

純「あずさ…」ウルッ

紬「ちょっと感動しちゃった…」ウルウル

律「そ、そうか…」

そして律たちはさわ子に純を引き渡した。

梓「せんぱい!あそこに和さんが被ってた冠が落ちてます!」

律「お、ほんとだ!」

律は冠を拾い上げる。

律「すげー!ホンモノの金かよ!」

紬「金銅製よたぶん。五円玉と同じ材料ね。」

律「…」ポイッ

梓「あっ、あっちには勾玉の首飾りです!」

律「どうゆーこった??」

紬「あそこにも!」

紬が指を指す。
その先には和の着けていた赤漆の鎧まで放置されている。

律「??この先には布の服まで落ちてるってことか?」

和の身に着けていたものが一直線を描く形で、
数十m間隔に放棄されていたことになる。

紬「この鎧だけでも結構重いしかさばるから、身のこなしを優先して
  どこかに逃げたとか…」

律「まあ、その可能性が高いかもな。」

紬「盾と鎧は回収されないように、このまま持っていきましょう。」




律「よし、和のことは一先ず置いといて、トラップに引っかかってる
  聡と憂ちゃんに奇襲をかけるぞ!」

梓「はい!」

紬「うん!」

和(…)

和は鎧の落ちていたすぐそば、腰ほどの高さの
草が生い茂る場所に身を潜めていた。

和(私には感づいていないみたいね。)

和(…)

和(律たちをこっそり追っていけば…)


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最終更新:2010年02月14日 04:14