こんなに小さく頼りない
いつどうなるか分からないふたりだけど
これが幸せなのかどうか分からないけれど
それでも一緒に生きて行くと決めた
この町へ来て初めてイブの日に雪を見た
律「ただいまー」
唯「おかえりなさい!」
律「これ」
唯「なにー?」
唯「わ!ケーキだ、クリスマスケーキだー!」
律「へへ、買っちゃった」
律「あとこれも」
唯「ネックレス …綺麗、、高かったんじゃないの…?」
律「クリスマスくらいいいだろう」
唯「…ありがとうりっちゃん!」
唯「綺麗だなぁ・・」
唯「あ、私も!」
律「指輪、この絵、、豚か?」
唯「犬だよー!」
律「あ、あぁ、そうだな!ありがとな!」
唯「うん!」
律「他にも食べる物買ってきたからさ、食っちゃおうぜ!」
唯「わー ありがとう、りっちゃん!」
りっちゃんがいつもどこか不安を感じてるのは鈍いわたしでも分かっています
それでも毎日明るく振舞ってくれる
でも今のわたしはそれに気づいてない振りしかできません
ごめんなさい りっちゃん
最近わたしの体調に異変は無くて
ふたりの生活も少し落ち着いてきた頃でした
「あんたに電話だよ」
唯「あ、ありがとうございますーおばあちゃん」
唯「もしもし」
りっちゃんが仕事中に倒れた
病院に運ばれた
頭に冷たい物が走った
震えが呼吸が荒くなる
唯「今から行きます…」
嘘だよ、りっちゃんが…
タクシーに乗った事だけは
病院まで何を考えていたのかは覚えていない
「こちらへ」
「今、眠られています」
唯「それで、なんの病気なんでしょうか!?」
「病気と言うより、過労に近い状態ですね」
「肉体的に疲れ切ってるようです、ストレスも多かったんじゃないでしょうか」
「そういう兆しに心当たり無いですか?」
唯「…はい、あります、、」
「衰弱はしていますが、明後日には退院出来るでしょう、とにかく今は自宅に帰っても休養なさる事です」
唯「はい… 分かりました…」
唯「りっちゃん…」
唯「…」
律「ぅ・・ゆ、い?」
唯「りっちゃん!」
律「ごめんなぁ・・ 私、寝ちゃったみたいだ」
唯「ご、ごめんなさい!ごめんなさいぃー!」グスグス
律「なんで唯が、、謝るんだ、、」
唯「わたしのせいだ!りっちゃんを苦しめたのは全部わたしのせいだ!」
律「馬鹿な事言うなよ、、」
律「前にも言ったろ、、私が始めた事だ、、唯が悪いんじゃない…」
唯「りっちゃん、りっちゃ、、ん」グス
唯「わたし自分の事ばかりで… りっちゃんの身体の事や苦しみも考えてなかった…」
律「ちょっとだけ疲れただけだって、、心配ないよ」
唯「ごめんなさい、ごめ…」グスッ
律「ハハ、唯はいつも謝ってばかりだなぁ…」
わたしが一番恐れてて考えないようにしていた事がいきなり伸し掛かってくる
この世で一番大切な人を失う事
りっちゃんを失う事
考えただけで手が震える、嗚咽が漏れる
わたしはしばらくお休みをもらってりっちゃんの看病をする事に決めました
律「ごめんな唯… 入院とかでお金かかったろう?保険証も無いし…」
律「私も仕事休んでるし、唯まで…」
唯「そんなこと気にしないでいいの!」
唯「貯金まだまだ残ってるんだから大丈夫だよ!」
律「情けないなぁ…」
唯「りっちゃんはずっと頑張りすぎだよ、たまには休まないと、、いけなかったんだ…」
一週間ほど休養して大分回復してきた
りっちゃんはもう仕事に行こうとしたけど、なんとか説得してあと一週間休んでもらった
ふたり共仕事に復帰したけど、これからはりっちゃんの状態に注意しなきゃ
できればもっと楽なお仕事に変わってもらいたい
律「唯が家事をするようになるなんてなー」
律「バンドしてた頃じゃ考えられないなぁ」
唯「わたしだってやればできるんだよー」
唯は料理も掃除も洗濯もマメにこなす
私もよく手伝うんだけど唯の方が上達してしまった
唯「りっちゃん!この服りっちゃんに似合いそうだよ!」
律「えー ちょっとヒラヒラし過ぎじゃないか?」
唯「たまにはりっちゃんもこういう服着ないとさー」
律「私服でスカートって嫌いなんだよなー」
唯「なんでさぁー?」
律「嫌だったら嫌なんだよ」
唯「ブー」
律「すねるなよ、じゃあ唯が着たいの買っていいからさ」
唯「ほんと!?」
律「うん」
唯「ありがと!りっちゃん!」
あの日、電車に乗った時はこういう生活ができるなんて考えられなかった
ささやかな生活
あまり変化のない毎日だけど
私たちは一生懸命生きている
それだけでよかったんだ
唯「りっちゃん、今日は外食しない?」
律「うん、たまにはいいなぁ」
唯「美味しいねーりっちゃん」
律「うまいなー」
律「唯」
唯「え?」
律「来週ふたり共休みの日があるだろ」
律「海でも見に行かないか?」
律「寒いだろうけど、みんなで行った時の事思い出してさ…」
唯「えー!行きたあい!」
律「長い事ろくに遊びにも行ってないしさ」
唯「うんうん、行こう行こうよりっちゃん!」
律「決まりな」
唯「うれしいなぁ」
律「いろいろ買って行こうな」
唯「うん!」
あぁ、唯のこの笑顔を見たのは学校へ行っていた時以来だ
私たちはその日を楽しみに仕事に励んだ
唯はもういっぱいお菓子やなんかを買い込んでいた
「あんた最近気げんがいいねぇ」
唯「おばあちゃん!私たち来週海に行くんだぁ~」
こんなに、はしゃぐ唯も久しぶりだ
唯「あ、りっちゃん!帰り?」
律「うん」
唯「私もー」
律「今日は早く終ってさ」
律「久しぶりにあの川に散歩しにいくか?」
唯「うん!」
唯「りっちゃん、ここに初めて来た時覚えてる?」
律「あぁ、まだ仕事見つかって無くて暗かったな~」
唯「あはは、そうだったねー」
唯「でも私はその時、りっちゃんとの生活が始まるんだなぁって」
唯「不安も少しはあったけど、それ以上に楽しい気分になって、この川がすっごく綺麗に見えたんだぁ」
律「そうか…」
律「もうなんとかやっていけてるよなぁ~私ら」
唯「うん!」
唯「楽しいよ」
唯「りっちゃんと一緒で」
唯「りっちゃん、本当に・・」
唯「 」
唯「あぁ…」
唯「来ちゃった…」
唯「りっちゃん!!!!!」
唯「土手の下に隠れてぇー!!!早く!!」ザッ
律「!」
パパパパン
来た・・
とうとう…
数が多い
何人?
やらなきゃ
りっちゃんを守るんだ
律「なに…あれ… 自衛隊…?」
唯「りっちゃん!!そこから絶対動かないで!!!」
唯「絶対出て来ちゃ駄目だよ!!!」
律「唯!!」
唯は何台も車を止めた軍服みたいな服を着た集団に向かって行った
向こうは銃を撃ってくる
それだけでも充分に足が震える位の衝撃だけど
唯だ… 唯のあんな目や姿を初めて見た…
相手の首や手足を切断しながら飛ぶようにして駆けている
辺りは叫び声と共に真っ赤に染まっていく
私は震えと吐き気が止まらなかった
唯「邪魔しないで!」
「ぐぉ!」
唯「わたしたちの邪魔しないで!!」
ドシュ
唯「来るなって言ったのに」
唯「なんで来るの!!」
グシュ
あんなにいた男達がみんな欠片になっていく
もう残りは数人しかいなくなった
最終更新:2010年02月15日 01:10