1話「ムギの恩返し」

むか~しむかし、ある村にとても仲のいい姉妹が住んでおったそうな。

唯「そんじゃあ、わだすは薪を拾ってくるだぁ」

憂「……えっと、お姉ちゃん、その喋り方は何?」

唯「えー、昔話だから雰囲気を出した方がいいと思って」

憂「もう、無理しなくていいの」

唯「はぁ~い。じゃ、行ってきまーす」

憂「美味しいご飯作って待ってるね!」

唯「ほぉーい」



やまみち!

唯「こんなもんでいいよね」

唯「えへへっ、早く帰って憂のご飯食べようっと!」

ぴぃー!

唯「ほえ?」

唯「あっ! 鶴さんが罠にかかっちゃってる!」

鶴「ぴぃぴぃ」

唯「よしよし、今取ってあげるねー」

がちゃこん

唯「あわわ、足怪我しちゃってるよ。ウチに帰って憂に手当てしてもらわなきゃ」

鶴「ぴぃぴぃ」

唯「あはは。大人しくていい子だねー」ナデナデ

鶴「ぴぃぴぃ」

唯「うんうん。今手当てしてあげるから待っててね」


唯の家!

唯「ういー、大変大変!」

憂「お姉ちゃん、お帰り~。って、どうしたの、その鶴さん?」

唯「罠にかかって足を怪我しちゃったんだよー。手当てしてあげて!」

憂「大変! お薬箱持ってくるね!」

……………

憂「ちょっと沁みるけど、我慢してね」

唯「うぅ~」ガタガタ

憂「お姉ちゃんが怖がらないの」クス

唯「だって~」

鶴「……」

憂「わあ、この鶴さん、頭大人しくて頭いいね! もしかして手当てしてるのわかってるのかな?」

唯「ねぇ、憂。この鶴さん、怪我が治るまでウチで飼ってあげようよ~」

憂「そうだね。でも鶴さんって、何食べるのかな~?」

唯「う~ん……ちなみに今日のご飯は?」

憂「…鳥のから揚げ」

鶴「ぴぃぴぃ!」

唯「あわわ、鶴さんのじゃないよ~。ニワトリのお肉なんだよ~」

憂「でも、問題ありそうだよね。鶴さんが何食べるのか、ちょっとぐぐってみるよ!」

唯「さすが憂!」



それから!

唯「いいこいいこ」ナデナデ

鶴「ぴぃぴぃ」

憂「鶴さん、すっかり良くなったね」

唯「そ、そんなことないよね? まだ治ってないよね?」

鶴「ぴぃぴぃ」バサバサ

憂「ほら、元気になった、って言ってるよ」

唯「そんなことないもん!」

憂「……お姉ちゃん、そろそろ鶴さんを自然に還してあげよう?」


憂「鶴さんにだって家族や仲間がいるんだよ?」

唯「うぅ……」グス

憂「ね?」

唯「ぐしゅぐしゅ……わかった……」ヒック

憂「いいこいいこ」ナデナデ

唯「うい~~」グスグス

鶴「……」

……………

唯「それじゃ、鶴さん、元気でね」ナデナデ

憂「もう罠にかかっちゃ駄目だよ」ナデナデ

鶴「………」

唯「さよなら!」

ばさばさばさ……

憂「元気でね~~~!」

唯「また遊びに来てもいいよ~~!」

ぴぃ~~~~~

憂「…行っちゃったね」

唯「うん…」グシュグシュ

憂「さあ、帰ろう?」

唯「うい~、今日は一緒に寝てくれる~?」

憂「もちろんだよ、お姉ちゃん!」



数日後!

トントン

唯「あれ? こんな雪の日にお客さんかな?」

憂「お姉ちゃん、ちょっと出てくれる?」

唯「らじゃ! どちら様ですか~」ガラガラ

紬「こんばんは。私は旅の者で紬と言います。今晩の宿を探しているのですが、もしよろしければ…」

唯「わかったよ! 上がって上がって~」

紬「は、はい」

………………
………………

憂「お話はわかりました。でもこの雪ですから、今晩だけでなく、しばらくここに留まってはどうですか?」

紬「そ、そんな。ご迷惑じゃ…(なんて出来た子なのかしら)」

唯「全然迷惑じゃないよー。ムギちゃんがいた方が賑やかでいいもん!」

憂「む、ムギちゃん?」

唯「うん。紬ちゃんだからムギちゃん!」

憂「お姉ちゃん、勝手にあだ名なんて付けて」

紬「いいえ。どんとこいです///」

唯「わーい! ムギちゃんで決まりだね!」

憂「それじゃ、紬さん。ご飯を作りますから、苦手なものを教えてください」

紬「そんな、わがままを言っちゃ悪いわ」

唯「ムギちゃん、これから一緒に住むのに遠慮しちゃ駄目だよ~」

紬「そ、それじゃ、トリ肉がちょっと…」

唯「ムギちゃんはトリ肉が駄目なんだー」

紬「ええ。倫理的に問題があるので」

唯「へ?」



ばんごはん!

紬「わあ、美味しそう! 憂ちゃんはお料理上手なのね」

憂「えへへ///」

唯「ういー。あ~ん」

憂「はい、あ~ん」

唯「んぐんぐ。おいひい!!」

紬(こ、これは…///)

唯「美味しいよ、憂!」ダキッ

憂「んもう、お食事中に抱きつかないの」

唯「えへへ。面目ない」

紬(女の子同士っていいなぁ///)ドキドキ

……………

憂「紬さんのお布団、奥の部屋に敷きましたから」

紬「はい………あの」

憂「はい?」

紬「決して、部屋を覗かないでくださいね」

唯「わかったよ、ムギちゃん!(きっと寝相が悪くて恥ずかしいんだね!)」



ムギの部屋!

紬(女の子同士でいちゃいちゃしてるのをもっと見たくて、姿を変えて戻ってきてしまったけど…)

紬(あんなに優しい子たちなんだもの。何か恩返しがしたいわ)

紬(私にできること……)

紬(2人とも、喜んでくれるかしら?)



2人の部屋!

憂「お姉ちゃん、紬さんって怪しくない?」

唯「え~、ムギちゃんはいい子だよぉ~」

憂「ううん。私が言いたいのはそういうことじゃなくて、『鶴の恩返し』は覚えてる?」

唯「もちろんだよ~。はっ!? ムギちゃんってあの鶴さんなの?」キラキラ

憂「お姉ちゃん、喜ぶのはまだ早いよ。お話を思い出して」

唯「え~と、何だっけ?」

憂「鶴は恩返しをするために、自分の羽根で反物を作って贈るんだよ。そのせいで体を悪くして……」

唯「!! ムギちゃんが禿げちゃう!!」

憂「いや、それはわからないけど」

唯「ど、どうしよう、憂」オロオロ

憂「とにかくやめさせなきゃ」

唯「よし! ムギちゃんのお部屋に踏み込もう!」

憂「うーん、確か姿を知られたら、鶴は逃げちゃうんだよ」

唯「じゃあ、駄目だね…」

憂「こんな雪の日に追い出すことになっちゃうもんね」

唯「うーん」

憂「考えたんだけど、今日は黙って反物を作らせてあげようよ」

唯「それで?」

憂「でも明日、反物は受け取らないの」

唯「え~、なんか悪い気がするなぁ」

憂「聞いて。それでこう言うの。『こんなものより、紬さんが元気でいることの方が私たちにとってはずっと恩返しです』って」

唯「おぉ~、憂、いいこいいこ」ナデナデ

憂「お姉ちゃん/// お芝居だよ~。でもそう言えば、紬さんも身を削ってまで恩返しができなくなるよね」

唯「うんうん! いいアイデアだよ、さすが憂だね!」

憂「じゃあ、さっそく明日、作戦開始だね」

唯「おー!」



つぎのひ!

紬「おはようございます」

唯「おはよー!」

憂「おはようございます、紬さん。今、ご飯の用意をしちゃいますね」

紬「その前に、2人に贈り物があるの」

憂「!!(お姉ちゃん!)」

唯「(よしきた!)そんなものいらないよ!」

紬「えっ?」

憂「私もいりません」

紬「そんな……私、2人に恩返しがしたいの。受け取ってもらえないと困るわ」オロオロ

唯「だから、そんなものいらない!」

憂「紬さん。私もお姉ちゃんも、贈り物をされるより、紬さんが元気でいる方がよっぽど恩返ししてもらうことになるんです」

唯「そうだよ、ムギちゃん! だから無理するのは駄目なんだからね!」プンプン

紬「ふ、2人とも……なんて言えばいいのか……本当にありがとう」ウルウル

唯「えへへ。さあ、お話が終わったところで、朝ご飯にしようよー」

憂「うふふ、お姉ちゃんったら。それじゃ、すぐ用意しちゃうね」

紬「待って。せっかく作ったものだから、これだけは受け取って」

唯「うぅ~、もう無理はしない?」

紬「ええ、約束するわ」

唯「わかった。じゃあ今日だけね!」

紬「それじゃ、これを…」


唯憂「たくあん?」

唯「え? え?(反物じゃないの?)」

憂「そ、それじゃ、朝ご飯に…(あれぇ? おかしいなぁ)」

ぱりぱり…

唯憂「うまい!」テッテレー

紬「うふふ、良かったわ」

唯「これ本当に美味しいよ~、って、ああっ!?」

憂「あっ!!」

唯憂「まゆげがない!!」



ムギの恩返し―fin―



最終更新:2010年02月15日 02:28