―というわけで、今日の運勢でしたー。明日はバレンタインですねー

―彩ちゃんはもちろん僕にくれるんだよね?

―今日も寒いですけど、いってらっしゃい!

―ねえ、くれるんだよね? 何年一緒にこの番組やってると思ってんの? ねえ?

―ジジイうぜえ!



憂「明日だなぁ、バレンタイン……」

憂「今年もお姉ちゃんに見つからないように、こっそり準備しなきゃ。
  去年はおやつだと思って、食べられちゃったからなぁ」

唯「うーいー学校いこー」

憂「お姉ちゃん! 髪ボサボサのまま! ちょっとかして」

唯「うふふ~」

憂「もう~せっかく早起きはできたのに、うっかりして」

唯「ごめんごめん~。うふふ~」

憂「(なんか嬉しそう……こっちまでうれしくなっちゃうよ~)」

唯「はうっ! さ、寒すぎー……」

憂「今日か明日に雪だってー」

唯「あぁ~身も心も凍えそう……」


憂「……お姉ちゃん、明日、なんの日か知ってる?」

唯「へぇ? 明日? んー憂の誕生日じゃないし、私も違うし」


憂「あっ、明日ね! 新しいカフェができるんだって! ほら、紬さんがバイトしてるとこの近く!」

唯「へ~そうなんだ~行ってみたいね~」

憂「だから明日いっしょに行こう?」

唯「うん、いいよ~」

憂「約束だからね!」

憂「(明日バレンタインだって忘れてるみたい。お姉ちゃんがお姉ちゃんでよかった~。
   どうせならビックリさせてあげたいもんね)」


唯「(明日って……バレンタインだよね……)」

唯「(憂にあげたいけど、まだなんにも準備してないよ。どうせならビックリさせてあげたいけど)」

唯「(う~ん、いつかのさわちゃん先生みたいに、ビックリ箱にしかけるとか……)」

唯「(あ、夜寝てる間に、枕もとの靴下に入れてあげようかな!)」

唯「(そうだ~澪ちゃんたちにも相談してみよ~)」



教室

憂「あ! 梓ちゃんおはよ~」

梓「……」

憂「梓ちゃんってば」ユサユサ

梓「……あ? あ~……」

憂「おはよ~」

梓「……うん」

憂「もう~夜更かしでもしたの?」

梓「私……20時間は寝ないと満足できないから……」

憂「そんなんじゃニートになっちゃうよ! ほら、いっしょにトイレに行って」


梓「……」

憂「……目を開けたまま寝てる」



英語の時間

先生「んんっ! あ~ミス平沢、次の英文を読んで」

憂「はい、Yesterday I was……」

  ガタタンッ!!

憂「え?」

先生「ん~?」

梓「……はっ」

先生「ミス中野……授業中に机から転ぶとは、何があったらそうなるのかしら」


梓「はぁ。さっきまで、薔薇のモーリスを追いかけていたんですが」

先生「つまり寝てたのよね」


梓「はぁ。そうなのかもしれません」

先生「あなたねぇ……授業中は毎回毎回机に突っ伏して……」

憂「(あちゃ~)」

先生「高校生にもなって、そんな態度を続けてたら、いつか後悔しますよ!」

梓「はぁ。こうかい。こうかい?」

―プッ。クスクス……

先生「あなたねぇ~……」


  キーンコーンカーンコーン


先生「……あとでちょっと職員室に来なさい。はい、今日はここまで。号令はしなくてよしっ」

憂「はぁ~。またやっちゃった……」



職員室

先生「中野さん、あなた今のままでどうするの。あのね、私はただ怒ってるんじゃなくて、あなたの将来を心配してるのよ」

梓「はぁ……」

先生「反抗してるつもりなのかもしれないけど、社会に出てからそんなの通用しませんよ」

梓「あの……」

先生「何か?」

梓「どうしてさっきはミス中野で、今は中野さんなんですか?」

先生「揚げ足取りはいいの! もう、あなたときたら春からずっと寝てるところしか見たことないわ! まったく、いったい……」

さわ子「あ~先生、まぁ、梓ちゃんも色々あるんですよ」

先生「なんですか、山中先生!」

さわ子「まあまあ。あとで私からもこの子には聞かせますから。部活の顧問ですし。
    もう予鈴も鳴りますから、そのくらいにしていただけませんか」

先生「……ハァー。それじゃあ、中野さん、ちゃんとこれからのことも考えるように」


さわ子「ふぅ~。あのねえ、今のはなんとか切り抜けたけど、あの先生の言うことももっともよ?」

梓「はぁ」

さわ子「部活だって、1年生は梓ちゃんしかいないし、唯ちゃんたちが卒業したら、今のままじゃキツいわよ」

梓「きつい」

さわ子「……まあいいわ。次、あなたのクラスの音楽私だから、一緒に行きましょ」


……



さわ子「聴いたことがある人もいると思うけど、これはエリック・サティという人でちょっと
    変わったクラシックを始めた人です。
    そうねえ、先生が小学生くらいのときはこれがCMで使われたり、
    すごく流行っていました。
    彼は家具の音楽といって、無視してもいい音楽というものを作ろうとしてたの。
    でも、とてもキレイよね。無視どころか、耳が傾いてしまう。
    いつものようなクラシックじゃなくて、こういうものもあると紹介させてもらいまし
    た」

生徒「はい、先生」

さわ子「はい」

生徒「先生は昔ロックやってたって、ホントですか?」

さわ子「え」


―先生、学祭ライブのときかっこよかったー。

―軽音部のOBってホントー?

―ライブ中に豚の死体をばら撒いたりしたってマジですかー?

―えー? あたしが聞いたのは二の腕に「4 REAL」って鉛筆彫りがあるって……



さわ子「あの、みんな? なにか誤解してるんじゃないかしら? このあいだの学園祭はたまたま……」

生徒「先生のギター聴きたーい」

さわ子「え」


―準備室にエレキギターあったよー。

―先生ーこれで何か弾いてくださーい。

―あたしも聴きたい聴きたーい。


さわ子「ちょ、ちょっと……(梓ちゃんがいるじゃない! あの子のほうがあたしよりうまいんだからー!!)」

梓「Zzz……」

さわ子「(寝てやがる……あのガキャー)」

生徒「はい、先生」つギター

さわ子「キタコレエエエエエエエエッッ!!」

さわ子「(ああ、この弦の感触、ストラップをさげたときのズシリとくる重みetc...)」

さわ子「……クックックッ」

さわ子「お前らァーーーーッッ!! バッハなんてたいした作曲家じゃねえんだよおーーッッ!!」


―ビクッ!!


さわ子「何が対位法じゃーッッ!! 知るかボケーーッッ!!」

   ギャギャアアァーーーンン!!

さわ子「ヤングだったらジミヘンに学ばんかーーいッッ!! うきゃあああああっっ!!」

   米国国家演奏


参考 ジミヘンのアメリカ国歌演奏
http://www.youtube.com/watch?v=Ur0_MvFJqYQ

さわ子「……ハァ~ッ、そして明日から私のソウルメイトになれ!!」

―ポカーン……

さわ子「はっ……」

さわ子「……」

―……

さわ子「なっ、な~んてね! こ、こんなのも、あ、あるのよ~?」

―……

さわ子「……ごめんね、みんな。わたし、もうここにはいられないわーーー!!」ダダッ



音楽室

紬「お茶が入りましたよ~」

唯「うわーい」

律「やっぱこれがないと始まらないよなー」

唯「ムギちゃん好き好き~」

紬「えっ、え~?」

唯「そうだ、ねえねえ、みんなはバレンタイン誰かにあげるの?」

澪「えっ」

律「バレンタインとな?」

紬「……唯ちゃん、バレンタインって、誰か男の人にあげるの?」


唯「うん、あげるよ~」

紬「……へえ」


唯「お父さんでしょー。今いないけど」

紬「なんだ、ホッ」

唯「それから憂にもなんだけど、なんかビックリするよなアイデアないかな」

律「いやー憂ちゃん、もう察してると思うぞ」

唯「戦う前から負けっ!?」

律「そだなーあたしは弟にあげるけど」

唯「へえー! りっちゃん、弟いるんだー!」

澪「三つくらい違うっけ?」

律「そんくらいかな。まっ、それはいいとして、澪ちゃんは誰にあげるのかな~?」

澪「わ、私は別に。あ、聡にあげようかな」

律「つまらん! つまらんよ澪くん! もっとこう」


―これ……受け取ってください! 恥ずかしいー!!

律「みたいのはないの!?」


澪「いっ、いないよ。なんだよ、律こそ誰かいないのか!」

律「……浮いた、話が、ありません!」

唯「りっちゃん……」

律「唯……」


唯「……りっちゃんにも、用意するからねっ」

律「ああ……きっとだぞっ」


紬「私はみんなにあげるつもりだったんだけど」

律「おお……ムギ子……君まで……ありがたくいただくよ……」

紬「それで、せっかくだから、今日みんなでチョコ作らない?」

唯「ムギちゃん、ナイスアイデーア!」

澪「楽しそうだなー」

紬「それじゃあ、どこでやるか……」

憂「こんにちはー」

梓「……ちわー」

女子AB「こんにちはー」

律「あれ、梓に憂ちゃんと……えっと」

憂「あの、私のクラスの子たちなんですけど」

女子A「私たち、山中先生のギターにグッときちゃって!」

女子B「それで! 山中先生探してるんですけど、いないんですよ」

律「なんだなんだ」

憂「それが……」

梓「かもんだ~ん、かもんだ~ん♪」


  ―説明略―


梓「Zzz……」

律「ほっほー。ギター弾いて、うっかり素をされけだしちゃったと」

唯「さわちゃん先生、ギター持つとすごいもんねー」

A子「あのぅ、中野さん、床で寝てますけど……」

律「あ~いいのいいの。いつも寝てるかギター弾いてるかだから」

澪「……まあ、床に転がしておくわけにもいかないか」

梓「Zzz……」


澪「ほらっ、寝るならこっちの椅子で横になりなって」

梓「あ~……あずにゃん857号……いや、澪先輩」


澪「857号ってなに……」

梓「Zzz……」

律「やっさしぃ~」

澪「今日寒いから、床じゃ冷えるだろ。それで?」

B子「それで明日バレンタインじゃないですか。山中先生に渡してあげたくて、いろいろ好みとか話が聞きたかったんです」

律「あ、入部希望とかじゃないのね」

A子「中野さんが軽音部だって思い出して、それでお話させてもらおうと思ったんですけど」

B子「職員室にもいなかったし、ここにもいないと、もう帰ったのかな……」

律「あ~神出鬼没というか、いたりいなかったりだからね~あのセンセ」

A子「それじゃ、すいません、おさわがせしました」

B子「失礼します……」


律「と、いうわけで」

憂「先生、どこに行ったですかね?」

律「おーい、さわちゃん、もう出てきてもいいよー」

さわ子「……ブツブツ」

憂「いたんですか!?」

澪「私たちより先に、そこの隅でずぅーっと縮こまってたみたい」

さわ子「あっはっはっ、ワタシの華麗な教師生活……もうここまで」


律「いやーちょっと前からもうキャラ違ってたから、いいんじゃない」

さわ子「アハ、アハ、アハ」


唯「ねえねえ、それよりさー」

律「いや、もう少しさわちゃんのこと気にかけてあげようよ、唯」

さわ子「いいのよ、りっちゃん」

澪「先生……顔ボロボロ……」

さわ子「唯ちゃんは……それでこそ唯ちゃんなんだから!」

唯「あ! そうださわちゃん先生にも聞かなきゃ。耳かして」

さわ子「なーに? 唯ちゃん」

唯「せんせー、今、彼氏いますか?」コソコソ

さわ子「」

紬「先生、また小さくなってるけど……」

澪「ていうか、もう死体みたいになってるぞ」

唯「大人の意見が聞きたかったのになぁ」

律「でさぁ、さっきの話は……えっと」

紬「……」

澪「……」

唯「……おっ」

憂「え? なんですか、みなさん私の方を見て」

律「憂ちゃんさーちょぉっと部活のお話がしたいんだけどー」

憂「あっ、はい! すみません、お邪魔しちゃって」

律「いえいえ」

憂「それじゃ、お姉ちゃん、私先に帰るね(時間を稼げる! ラッキー!)」

唯「うん~。気をつけるんだよ~」

憂「それじゃ、失礼しまーす」

澪「できた妹……」

律「特殊能力『空気を読む』を持ってるな……」

梓「……む」


澪「お。起きた」

梓「おはようございます」


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最終更新:2010年02月16日 00:46