和「唯っ!!」

憂「くっ!?」がしっ

紬「憂ちゃんが!?」

律「ハサミを受け止めた!!」

憂「の、和さん、早くお姉ちゃんを……」グググ……

和「わ、分かったわ!!」


憂「お姉ちゃんを傷つけようとする奴はっ……!!」メリッメリ

謎の生物「!?」

憂「私が許さないんだからっ!!!」ブン!!

梓「憂がぶん投げた!!」

  ザッパーーーーン!!!

憂「お姉ちゃん!大丈夫!?」

和「大丈夫よ。ケガはなさそう」

憂「よかった……」

紬「憂ちゃんの方こそ大丈夫なの!?」

憂「はい、私は全然平気です」

律(くっ、ツッコミ所満載だがツッコミ役の澪が気を失っている今、ここをツッコミきれる自信が私にはないっ!!)


「おまわりさ~ん!こっちです!」


憂「!?」

和「まずいわね……」

紬「斉藤っ!!」

斉藤「ここに」シュタッ

紬「周辺一帯に情報封鎖を」

斉藤「御意」シュタッ

紬「ここは私に任せて、みんなは家に帰っていて」

律「い、いいのか?」

紬「ええ、明日詳しい説明をします」

和(やっぱり、この子何か知ってるんだわ)

澪「う、う~ん」

律「おお!澪、気がついたのか?」

澪「え、エビラは赤イ竹一味が操っていて島民を苦しめているんだ……」

律「ごめん澪、何言ってるんだか全ッ然理解できないっ!」



──琴吹家

紬「────と、言うわけです。お父様」

紬父「そうか……やはり、まだ存在していたか……」

紬「お父様、どうにかならないでしょうか?」

紬父「明日、琴吹研のチームで捕獲を試みよう」

紬「はい。お願いいたします」

紬父「紬、明日も学校だろう。今日はもうおやすみ」

紬「……はい。お休みなさいませ。お父様」

紬父「ああ」


  ピッ  Prrrrrrrr

紬父「……私だ。至急、対巨大甲殻類特別私設武装隊の準備を」

紬父「捕獲など考えるな。必ず殲滅だ」



──翌日・放課後

律「なぁ、ムギ昨日のこと詳しく説明してくれるんだろ?」

紬「ええ、和ちゃんがきたらね」

梓「私、いまだに信じられません」

澪「私は、気を失っていたから……」

律「でも、あの化物は見ただろ」

澪「うん。正直思い出したくもないな……」

梓「憂にもあんな力があったなんて」

憂「お姉ちゃんを助けなきゃって思ったから、きっと火事場の馬鹿力ってやつだね」

梓「そ、そう?」

和「ごめんなさい。生徒会の方が長引いちゃって」

律「よし!これで唯を除く全員が集まったわけだ」

澪「憂ちゃん、唯の様子は……」

憂「はい……お姉ちゃん、やっぱり相当ショックだったみたいで……」

憂「でも、放課後に紬さんからザリ太に関する話があるからって言ったら
  その時には一緒に話を聞きたいって言ってたので……」

紬「じゃあ、唯ちゃんが来る前にこれだけは言っとかないとね」

紬「今日、ザリ太の捕獲作戦があります」

紬「これは琴吹が総力を上げて成功させます。させますが……」

澪「もし、失敗したら……」

和「やっぱりザリ太を殺すのね」

紬「……ええ。人を襲ったんですもの。今日のうちに処分されると思うわ」

和「アレは……ザリ太はいったい何なの?」

紬「十数年前に琴吹グループの研究チームが人工的に生み出した生物なの」


「な、なんだってーーーー!?」

────────────
──────
───

唯「ちょっと遅れちゃったかな……」

 ボソボソ……

唯「やっぱり、もう部室から重い空気の話し声が聞こえてくる」


「やっぱりザリ太を殺すのね」

「……ええ。人を襲ったんですもの。今日のうちに処分されると思うわ」


唯「!?」

唯(そ、そんな……)

唯(こうしちゃいられないっ!!)ダッ

紬「甲殻類の成長を促す実験のためにまずは手に入りやすいザリガニの遺伝子で実験をした」

紬「でもある日、必要以上に知能が発達してしまったザリガニが逃げ出してしまった」

紬「きっとそのザリガニが唯ちゃんが捕まえたザリ太だと思うの」

紬「琴吹は総力をあげて探したんだけどまさか唯ちゃんが捕まえていたなんてね」

梓「なぜそんな実験をしてたんですか?」

紬「琴吹グループは多岐に渡って事業を展開しているの。化学分野から製造業、外食産業や旅館経営まで」

澪「こう改めて聞くと、すごい友人を持ったものだと実感するな」

律「ああ、別荘をいくつも持ってるわけだ」

紬「ところでみんなは道頓堀にある、かに道楽は知ってる?」

梓「と~れと~れ、ピ~チピ~チ蟹料理~♪ ですよね」

律「ああ。たしかキダ・タロー作曲の」

澪「浪花のモーツァルトだよな」

和「あの大っきな動くカニの看板は有名よね」

紬「……もし、あれが本当に生きてるって言ったら」

「ゴクリ……」

律「またまた、ムギったら冗談きついぜ……ははは……」

紬「………」

澪「どうやら本当のようだな……」

律「マジかよ……」

梓「でもそれが本当なら昨日のザリガニの件も納得いきますね」

和「なんてものを創りだしてしまったの、琴吹グループは……!!」

憂「でも、かに道楽のカニは急に暴れだしたりしませんよね?」

律「そ、そうだ。アレはうねうね動いてるだけで昨日のザリガニみたいに人に危害を加えたりしない」

澪「まさか、かに道楽のカニも暴れる可能性があるなんてことは……!?」

紬「それはありえないわ」

和「確かに……今まで、ザリ太が暴れたことなんて私の記憶の中では昨日が初めてよ」

憂「つまり……原因不明、ということですか?」

紬「ええ。だから新たに人を襲わないように処分する必要があるの」

律「なんだか、かわいそうだな……」

紬「確かにそうかもしれないわ。かといって何もしない訳にもいかない」

澪「それは分かるよ、ムギ」

和「私が……あの時もっと唯にきつく言ってれば……」

澪「どういうことなんだ和?」


和「本当はザリ太はもっと小さいときに死んでたはずなのよ」

紬「詳しく聞かせてくれない?和ちゃん」

和「ええ。あれはまだ私たちが小学生低学年のころ……」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

幼唯「ほら、和ちゃん見て見て。うんたん♪」

ザリ太「カタカタ♪」

幼和「わ~、ハサミで唯ちゃんのカスタネットのマネしてるね」

幼唯「えへへ~。すごいでしょう!」

幼唯「でも、ザリ太なんだか動くの辛そうなんだ」

幼和「前に比べて大きくなってきたからダイエットの必要があるかもね」

ザリ太「ガタガタ……バキン!!」

幼唯「ザリ太の足が折れちゃった!!」

幼和「きっと自重に耐えられなくなったんだよ」

幼唯「???」

幼和「あのね唯ちゃん、こんなに大きくなるザリガニなんていないんだよ」

幼和「だからね、きっと変な実験で生まれたザリガニだと思うの」

幼唯「実験……?」

幼唯「はっ!?」

幼唯「失敗したら爆発して髪の毛がボサボサになるやつだ!!」

幼和「うん、そう……かな」

幼唯「た、大変だ……」

幼和「だから、このままだったらザリ太もう死んじゃうかも……」

幼唯「イヤだ!!」

幼唯「和ちゃんなんとかして!!」

幼和「水の中なら負担も減って大丈夫になるかも……」

幼唯「この水槽じゃダメなの?」

幼和「う~ん……やっぱりもっと大きな所じゃないといけないのかな」

幼唯「池!!公園にあるよ!!」

幼和「だめだよ唯ちゃん。すぐに見つかって大人が持っていっちゃうよ」

幼和「ナウシカが隠してたオームみたいに大人が持っていっちゃうよ」

幼唯「!?」

幼唯「ダメ!!」

幼和「でも私達にはどうすることもできないよ……」

幼唯「もっと大きな池だったら見つからない?」

幼和「う~ん……琵琶湖とか?」

幼唯「琵琶湖知ってる!! 海!!」

幼和「海じゃないよ唯ちゃん」

幼和「あっちにある川と琵琶湖が繋がってるんだって」

幼唯「じゃあザリ太は琵琶湖に隠そう」

幼和「唯ちゃん、生態系を崩しちゃいけないんだよ」

幼唯「せいたいけい?」

幼和「そう、ザリ太は普通の生き物じゃないから絶対だめだよ」

幼唯「……でもザリ太死んじゃう」

幼和「かわいそうだけど……」

ザリ太「カタ……カタ♪」ギ…ギ…ギ…

幼唯「ザリ太気にするなって言ってる……」

幼和「唯ちゃん分かるの!?」

幼唯「……そんな気がする」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

和「次の日、唯の家にいったら庭の一部が盛り上がってて花が添えられていたの」

和「それで私、ああ、ザリ太死んじゃったんだって」

和「さすがに泣いちゃったわ、でも今にして思えば唯がなんだか普段とは違うように感じたのよね」

和「その時はザリ太の死に動揺してたからかなって思ってたけど」

和「まさか、その時のお墓がダミーだったなんて思いもしなかったわ」

和「きっとこっそり川にザリ太を放しに行ったのね」

紬「……そんな事が」

澪「なんだか……いい話だな」ずびずばっ

律「澪ほらテッシュ」

澪「ちーん」

梓「唯先輩、その頃から優しかったんですね」

澪「ザリ太もきっと苦労して琵琶湖までいったんだろうな」うるうる

和「私はザリ太とはそれっきりだったけど、唯は琵琶湖までたま~に行ってたみたいね」

律「でも、唯にそんな気配はなかったけどな」

和「あの子軽音部に入ってからはこっちが楽しくて忘れてたんじゃないかしら」

澪「なんだそれは!私の涙を返せっ!!」

梓「唯先輩らしいといえば、らしいですね」

律「忘れられてたから、凶暴化したのかな?」

和「それはないわ。おとついニュースになった後に会いに行ったらとても懐いていたもの」

憂「一日で何かが変わってお姉ちゃんを襲った……と、言うことですか?」

紬「なんにせよ自然で育ったザリ太は解らないことだらけで、どんな推論もあてにできない」

紬「ただ唯ちゃんを襲ったことだけは事実なのよ」

梓「そう……ですね。もし憂が来てくれなかったらと思うと感動もへったくれもないですしね」

和「きっと唯もザリ太を自然に放した結果こうなったことは理解してると思うわ」

律「ところでもう最終下校時刻だな」

澪「結局唯は来ず、か……」

和「ザリ太の捕獲作戦はいつ始まるの?」

紬「ザリ太が現れ次第に……」

和「ザリガニは夜行性だから、今夜ということになりそうね」

紬「ええ」

憂「でも大きな騒ぎになりませんか?」

紬「大丈夫よ。完璧な情報統制を敷くし、表向きは特撮映画の撮影で通してるから」

律「なぁムギ。それ私たちも見学に行ってもいいかな?」

澪「おいおい、遊びじゃないんだぞ」

紬「じゃあ、みんなで行きましょう」

澪「いいのかよっ!?」

梓「ピクニック気分ですね」

紬「違うの、せめてザリ太の生きた証をみんなの記憶に焼き付けてほしいの」

律「一気に重い空気になってしまった……」

和「でも唯には見せたくないわ……」

憂「私はお姉ちゃんと家で待ってます」

和「そうね……憂、そうしてもらえるかしら」

和「あの子、下手したらザリ太を守るために飛び出していくかもしれないものね」

紬「じゃあ、琵琶湖まで行きましょう」


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最終更新:2010年02月17日 01:15