さわ子「……と言うわけなのよ」
澪「桜ヶ丘幼稚園との親睦会……」
律「いやそれは良いけどさ、なんで演劇なんだよ。普通演奏だろ」
さわ子「機材運ぶのが大変なのよ。それに園児はお遊戯の方が喜ぶんじゃない?」
律「それならそれで演劇部がやればいいだろ!」
さわ子「演劇部は他の公演で忙しいのよ。暇そうな文化部って事で軽音部が選ばれたのよ」
律「暇そうとは失礼だなー」
唯「お茶うまー」
澪「返す言葉も無いです」
さわ子「まぁ生徒会も手伝ってくれるらしいし、子ども相手だし、気楽にやれば?」
律「簡単に言ってくれるなー」
さわ子「とにかく問題さえ起こさなきゃそれで良いわ。じゃねー」
ガチャ
律「押し付けるだけ押し付けて行きやがった」
梓「でもどうします? 適当に桃太郎でもやっときますか?」
澪「今時の子が桃太郎で満足してくれるか?」
紬「子どもって意外と見る目が厳しいものね」
律「……」
唯「じゃあ私シンデレラ!」
澪(私は端っこで木の役でもしてよう)
梓「童話は皆知ってるでしょうし良いですね」
紬「話を考えなくてもいいものね」
澪「台詞覚えるのも楽だからな」
唯「あずにゃんは小人さんだね」
梓「失敬な」
律「おいお前ら」
唯「どうしたの?」
律「オリジナルでいくぞ」
澪「はぁ!? 何を訳解らない事言ってるんだ」
律「暇そうな部なんて舐められたまま終われるか! 園児も先生も纏めて度肝抜いてやる!」
唯「おぉ~!」
梓「いや、方法が違うくありません?」
律「もちろん完全オリジナルは無理だろうけど、簡単なのを流して終わりって悔しいじゃん」
紬「気持ちはわかるけど」
澪「脚本とか衣装とかどうすんだよ?」
律「衣装はほっといてもさわちゃんが作ると思うよ」
梓「確かに」
律「脚本は澪……と、言いたいけど全員で考えよう」
唯「えー、澪ちゃんに任せようよー」
律「澪だけに任せたらどんなファンシーな脚本になるか解らないだろ」
紬「良いんじゃないかしら」
唯「ねー」
梓「私はちょっと……」
澪「何、梓は今まで不満だったの?」
梓「あ、いえ」
律「まぁまぁ、三人集まればもんじゃの知恵って言うだろ」
澪「つっこまないからな」
唯「でもお芝居って楽しそうかも」
紬「そうね、私達っていつも仮装してるし」
律「そうそう、ライブの延長と思えば良いんだよ!」
律「んじゃ、どんな劇をやりたいか明日までに考えてきてよ」
澪「早いな」
律「え? 練習時間とか考えたら早い方が良いだろ」
梓「なぜ普段からその思考にならないんです」
澪「律は寄り道ほど真剣になるから」
唯「わかる~! レポートやろうと思ってパソコン立ち上げたらついネット開いて……」
紬「ダメな大学生みたいね」
律「うるせー」
田井中家
律「皆に言った以上は私もやらなきゃなー」
律「……」
律「…………」
律「全然浮かばねぇ」
ガチャ
聡「姉ちゃん、飯が出来たぞ」
律「おお弟よ、最近流行ってるドラマとか知らないか?」
聡「しらねぇよ。普通そういうのは女のが詳しいもんだろ」
律「生意気な奴」
秋山家
澪「ったく、一日で脚本とか無理だろ」ブツブツ
澪「短編とはいえ書くって行為がどれだけ大変かわかってんのかあいつは」
澪「こういうのはじっくり構想を練って閃きを待ってだな」
澪「……どうもイマイチ筆が乗らないな」
澪「仕方ない、あの手を使うか」
澪「ママー! ちょっと公園行って来るー!」
澪ママ「また例の儀式?」
澪「嫌そうな顔しないでよ、神を呼び寄せないと良い物は書けないんだから」
澪ママ(またご近所さんに言い訳しなきゃ……)
琴吹家
紬「やっぱり恋愛が王道よね」
紬「でもウチは女子高だから女の子同士の恋愛に……」
紬「不可抗力ね、不可抗力はしかたないわ。私のせいじゃないもん」
紬「さて、そうなると誰がヒロイン役かが問題ね」
紬「男装が似合うのは澪ちゃんとりっちゃんだけど、ショタ風な唯ちゃん梓ちゃんも棄てがたい」
紬「まって、わざわざ作中で男女にする必要は無いわね」
紬「いっそガチレズで園児をそっちの道に教育しようかしら」
紬「だったら和ちゃんに頼んで……いえ、まさかの憂澪で……」ブツブツ
メイド「お嬢様、そろそろ就寝されませんとお体にさわります」
紬「黙りなさい! 今は子ども達の将来がかかっているのよ!」
メイド「は、はぁ、申し訳ありません」
中野家
梓「面倒だなぁ……練習したいのに」
梓「適当に漫画からパクれば良いや」
梓「ここでこうなって……」
梓「律先輩が死んで、澪先輩がパワーアップ」
梓「実はムギ先輩は裏切り者だったのだー」
梓「憂『お姉ちゃん……さよなら』唯『ういーーー!!』」
梓「和『片付けておけよ、その生ゴミを』唯『憂の事かぁぁぁぁっ!!』」
梓「澪『梓ーーー!! 早く来てくれーーーー!!』紬『今のは沢庵ではない、メラだ』」
梓「梓『天才ですから』」
梓パパ「あ……梓? 悩みがあるなら聞くぞ?」
梓「え? 無いよ?」
梓パパ「そうか」
平沢家
唯「~~♪」ジャンジャン
憂「あれ? お姉ちゃん何か書くんじゃなかったの?」
唯「もう終わったよ~。今はテーマソングを作ってるんだ」
憂「ずいぶん張り切ってるね」
唯「えへへ、お芝居って一回やってみたかったんだ。憂も手伝ってね」
憂「もちろん良いよ。ちなみにお姉ちゃんはどんなお話を考えたの?」
唯「これ」
憂「ふむふむ、なるほど」
唯「どうかなー?」
憂「うん、子どもに近いお姉ちゃんらしくて良いと思う」
唯「やったー!」
憂(後で清書しとこう……妹の私じゃないとこの字は読めないよ)
翌日
律「皆書いてきたかー?」
一同「はーい」
律「審査員はこちらの三名でーす」
さわ子「なんで私が……」
和「顧問だから当たり前です」
憂「お姉ちゃんだからって贔屓はしないよー」
唯「裏切り者ー」
律「まぁ審査って言っても、やりやすさとか小道具の手間が少ないとかそんな基準で良いから」
澪「適当だな」
律「んじゃ、最初は誰が……」
さわ子「出席順で秋山さん」
澪「えぇっ!?」
和「確かに澪が一番まともに書いてそうね」
澪「こ、こほん。じゃあ……コピーを配るよ」
『神聖アニマル王国わくわく大冒険』
脚本・秋山澪
神聖アニマル王国はとても平和な国でした。
そこには多くの国民と、偉大な王「リツ・ザ・レオ」と、王女「アズ・ニャーン」が暮らしていました。
しかし平和な王国にある日、悪い蛇の魔女「コブラサワコ」が現れます。
リツ王を騙し毒リンゴを食べさせ、国を乗っ取ろうとするコブラサワコ。
王女アズ・ニャーンは魔女に立ち向かおうとしますが、一人では敵いません。
そこで伝説の戦士「フェニックスユイ」「ドラゴンノドカ」「ムギグリフォン」を集めようとします。
ですが戦士達は既にこの世にはいませんでした。
たった一人の末裔、「ウイ」を残して……。
律「舐めるなぁぁぁぁっ!!」ビリビリ
澪「何すんだよバカ律!!」
律「今回に限ってはバカはお前だ!」
澪「あぁ!? アニマル神に閃きを戴いた私の脚本に文句あるのか!?」
律「どう考えても毒電波しかもらってないだろ!!」
和「話だけなら冒険活劇で面白いんだけど」
憂「私と梓ちゃんの友情物語でもありますね」
梓「でも端々に出てくる単語や台詞が……」
唯「アズ『この胸の高鳴り……ウイを見てると肉球が切ない』とか?」
梓「止めて下さい」
紬「私は好きよ」
唯「アズ『うふふ、お花さん、今日も綺麗に咲いててありがとう』※満面の笑みでって書いてあるよ」
梓「うあ……」
さわ子「ていうか何で私が悪役なのよ!!」
和「それなら私達に至っては死んでるんですが」
律「だいたい書いた本人が出てないってどういう事だ!」
澪「出てるよ、ほら」
国民1『うわー! 魔女にやられたー!』
律「端役もいいとこだ!」
澪「だって恥ずかしいし」
律「お前なぁ……」
梓「律パパー」
律「悪ノリするな」
さわ子「でもこれ以外と深い話よ、ウイが魔女を倒せるのは機械を使える『人間』だから」
紬「魔女の脅威は祓ったが、今度は国民が機械に頼るようになる」
和「ハッピーとバッドを上手く混ぜてるわね」
憂「けど幼稚園児には難しくありませんか?」
唯「うさぎさんやりたい!」
さわ子「とりあえず保留ね」
紬「次は私ね」
紬「やっぱり恋愛劇って普遍だと思うの!」
『タイナカニック』
脚本・
琴吹紬
舞台は約百年前の英国。
音楽家を目指して毎日を逞しく生きるリツプリオはひょんな事から豪華客船『タイナカニック』に乗り込む。
船の中でリツプリオは上流階級の令嬢ミオとその婚約者、ユイと出会う。
ミオはユイ自身には好意を持っていたが、政略結婚には納得していなかった。
絡んできたチンピラ(さわ子先生)をリツプリオに追い払って貰った事からミオはリツプリオに恋心を抱く。
しかし所詮は道ならぬ恋。激しく求め合っても叶う筈も無い。
そんな中、タイナカニックは氷山にぶつかり、その巨体は鈍い鳴動を始めていた。
律「アホかぁぁぁっ!!」ビリビリ
紬「えぇ!? 何が問題なの?」
澪「まず豪華客船のセットが」
紬「作らせるわ!」
和「子どもの前で濡れ場は」
紬「正しい教育よ!」
梓「律先輩、澪先輩、唯先輩ばっかりで私達は水夫ですか」
紬「メインを絞った方が良いのよ!」
憂「主役が死ぬ終わりはちょっと」
紬「悲恋最高!」
唯「み、澪ちゃんとのキスシーンがあるよぉ」ドキドキ
紬「演技指導は厳しくいくわよ!」
律「こんなに嫌な主役は珍しい」
紬「いいのよ、そういうのが面白いんだから」
さわ子「ねぇ、私がまた悪役なんだけど」
紬「それは知りません」
和「女の子は喜ぶかもしれないけど」
憂「だめだめ! 絶対ダメですよ! お姉ちゃんにキスシーンなんてさせません!」
紬「あら、憂ちゃんがやっても良いのよ?」
澪「やる前提で話すな」
さわ子「話はともかく、セットは却下よ。幼稚園のホールに入るわけ無いでしょ」
紬「なら琴吹芸術ホールに招待して……」
律「あきらめろ」ペシ
紬「あぅ……」
最終更新:2010年02月19日 01:20