それは、軽音部に入部が決まって少し経った時の事でした。

澪「なぁ唯、練習が終わったらちょっと付き合ってくれないか?」

澪「話しがあるんだ。いい?」

唯「いいよ~。何の話?」

澪「それはその時話すから」

唯「うん、分かった!」

そして、私と澪ちゃんは部活が終わった後、ファミレスに行きました。

ムギちゃんも一緒です。

唯「で、話って何?そういえば律ちゃんは呼ばなくていいの?」

澪「実はその律の話なんだ……。ムギにはもう話してあるんだけど」

唯「なになに?」

澪「実は、律には変な癖があるんだ。それがちょっとやっかいで」

澪「私達はこれから軽音部の一員として一緒に過ごす訳だろう?」

澪「だから、唯にも知っておいて欲しいんだ」

唯「癖って、例えば爪を噛んじゃったり、貧乏ゆすりがひどいとか?」

唯「それなら大丈夫だよ!私だって、焦った時はたまに爪噛んじゃったりするし、小学校高学年になるまで貧乏揺すりがひどかったんだ~」

唯「だから、全然気にしたりなんかしないよ!ねっ、ムギちゃん?」

紬「ええ、そうね」

澪「うん、まぁそういった癖の延長みたいなものだと考えてくれたら、私は助かるんだけど」

唯「どんな癖なの?」

澪「実は、律にはなんていうかその……、」


澪「自分と仲良くなった人間を殺したくなるっていう癖があるんだ」

唯「……え?」


一瞬、私は何を言われたのか全く分かりませんでした。

唯「えっと、ごめん、澪ちゃん。もう一回聞いてもいいかな?」

唯「私、今よく聞こえなかったみたい」

澪「じゃあもう一回言うぞ」

澪「律には、自分と仲良くなった人間を殺したくなるっていう癖があるんだ」

どうやら、私の聞き間違いでは無かったみたいです。


澪「いっ、いや、でも律は悪い奴じゃないんだ!!」

澪「ただ愛情表現が私達一般人よりちょっと過激なだけで……」

澪「いきなり、こんな事言われて混乱してると思うけど」

澪「でも、早めに知っておいた方がいいと思って」

唯「それって、どういう事なの…?」

澪「律は自分とある程度仲良くなったら、その人を殺したくなるらしいんだ」


澪「例えば、拳銃で撃とうしたり、ナイフで刺そうとしたり」

澪「机の中に、爆弾が仕掛けられてた事もあったなー」


澪「でも、それは律にとっては愛情表現の一種なんだ」

澪「唯も仲の良い友達に抱きついたりとか、誕生日にプレゼントとかあげたりするだろ?」

唯「それは…、そうだけど……」


澪「それと同じなんだ。律がその人を殺そうとするって事は、その人が好きで好きでたまらないって事なんだよ」

唯「はぁ……」


澪「高校に入ったら少しは落ち着くと思ったけど……」

澪「全然治ってなかったなー」ゴクゴク

澪ちゃんはアイスコーヒーを飲みながら言いました。

唯「えっと、澪ちゃんは律ちゃんとは仲良いんだよね?」

澪「うん、あいつと私は幼なじみなんだ」

唯「澪ちゃんは大丈夫なの…?」


澪「いや、私も常に律から命を狙われてるんだ。昨日なんか、トラックが家に突っ込んで来たよ」

唯「え………?」


澪「ああ、その点なら大丈夫。律は私の家族を殺そうとはしないんだ」

澪「昨日もその時は家に私一人しかいなかったし」

澪「だから、そこは心配しなくていいぞ。家族に危害は及ばないから」ニコッ

唯「(そういう事じゃないんだけど……)」

澪「……でも、悪い事ばっかりじゃないんだぞ!」

澪「私なんか銃の弾を刀で斬れるようになったし、1ヶ月くらいなら眠らなくても大丈夫になったんだ。」

澪「これも全部、律が私の命を狙ってくれてるおかげだよ」

唯「そ、それはすごいね……」

澪「私と律は、ほとんど毎日殺し合いをしてるんだ」


澪「最近は主に、日本刀を使っての斬り合いかな」

唯「そ、そうなんだ……」


澪「律はこの性格のせいで仲の良い友達が私一人しかいないんだ……」

澪「ちょっと仲良くなって律が殺そうとすると、みんな律から離れていっちゃってさ……」

唯「(そりゃそうだよ……)」

澪「だから、唯には律と仲良くなってもらいたいんだ」

澪「同じ軽音部の一員として」

澪「駄目かな……?」

唯「いや、駄目って言うか、その……」

唯「(全然、話についていけないんだけど……)」

私は思わずムギちゃんの方を見ました。


唯「むっ、ムギちゃんはどうなの?澪ちゃんの話を聞いてみて」

紬「私なら大丈夫よ?そう簡単には殺されないから」

紬「それに私、友達とこういう事するのが夢だったの」ニコニコ

唯「(………!!)」

唯「(こういう事って……、殺し合いをしたかったって事……!?)」

澪「ムギにはもう了解をとってある。だから後は唯だけなんだ」

澪「どうかな……?」

唯「どうって……。澪ちゃんと律ちゃんとムギちゃんは私が高校に入って初めて出来た友達だし……」

唯「それに、軽音部での練習は楽しいし……」

唯「私はみんなと仲良くなりたいよ」

澪「それじゃあ、律と仲良くしてくれるんだな!?」


唯「えっ…?う、うん」

澪「そうか、それはよかった!私の肩の荷が降りた気分だよ!」


紬「よかったわね、澪ちゃん」

澪「ああ、ムギもありがとう」

澪「改めて、これからよろしくな」

紬「こちらこそよろしくね、唯ちゃん、澪ちゃん」

唯「うっ、うん、よろしくね」

澪「よしじゃあ今日は私の奢りだ!唯、ムギ、好きなもの頼んでいいぞ!」

紬「じゃあ私、このDXジャンボパフェっていうのを食べてみたいわ。唯ちゃんは?」

唯「じゃあ私もそれで……」

紬「このパフェ、一人じゃ量が多そうだから二人で半分こしましょう?」

唯「うん、そうだね……」

そして私とムギちゃんはパフェを二人で食べ、その日は解散になりました。

澪「二人とも、明日からよろしくな。じゃあさようなら」

紬「じゃあね、唯ちゃん、澪ちゃん」

唯「うん、バイバイ、澪ちゃん、ムギちゃん」



帰り道!

唯「(澪ちゃんはああ言ったけど、そんな事有り得る訳ないよね……?)」

唯「(そうだよ、現に澪ちゃんはピンピンしてるし)」

唯「(二人で私をびっくりさせようとしてるだけなんじゃ……)」

唯「(きっと明日その事を聞いたら、


澪「いやいや、さすがに嘘に決まってるだろー。もしかして唯、信じてたのか?」


唯「(みたいな事になるに違いないよ)」

唯「(そう、そうだよね~)

唯「驚いて損しちゃったよ」

唯「澪ちゃんって実はこういう事好きなのかな~。そうは見えないけど」

唯「でも、パフェおごってもらったし、今日の事はそれでチャラって事にしよう!」

唯「明日も学校楽しみだな~」



次の日!

唯「うんたん♪うんたん♪」

唯「あっ、ムギちゃんだ!おはよう~!!」

紬「おはよう、唯ちゃん」

唯「そういえば昨日のパフェ美味しかったね~。ほっぺたが落ちそうだったよ~」

紬「ええ。生クリームがとっても美味しかったわね」

唯「そうそう!あのチョコソースがかかった生クリームが……

ドゴォォォォン!!!!!

唯「!!??」

唯「ムギちゃん、今の音何!?」

紬「玄関から聞こえたわ!急いで見に行ってみましょう」

私達は桜高の玄関に向かって急ぎました。

唯「何これ……」

玄関は煙でいっぱいでした。


「キャアアアーー!!!下駄箱が爆発しましたーー!!」

「けが人はいませんかーー!!!」


下駄箱の一つがあとかたもなく吹き飛んでいました。


唯「(さっきのは下駄箱が爆発した音だったんだ……)」

私が玄関の前で立ち尽くしていると、煙の中から一人の人間が出てきました。

澪「ケホッ、ケホッ……」

唯「澪ちゃん!!」

それは澪ちゃんでした。

唯「澪ちゃん、もしかして今の爆発に巻き込まれたの!?」

澪「ん?ああ……。でもなんとか大丈夫だよ」

紬「何があったんですか?」

澪「私が靴を取ろうとしたら、下駄箱が爆発したんだ」

澪「律の仕業だよ、全く」

澪「人に迷惑をかけるような殺し方はやめろっていつも言ってるのに……」

紬「他に被害を受けた人は?」

澪「いない。律はそこら辺をきちんと計算してるからな。私以外の人間には傷一つついてないよ」

紬「そう…。それはよかった」

澪「律には後で説教してやらなくちゃ。他の生徒の靴がめちゃくちゃだ」

紬「でも澪ちゃんが死ななくてよかったわ」

澪「爆弾ぐらいじゃ死なないよ。もう慣れてるからな」

紬「そうなの。なんだか楽しそうね」

澪「慣れるまではちょっと大変だったけどな。って、もうこんな時間だ!唯、ムギ、急がないと遅刻しちゃうぞ」

紬「いけない!それじゃあまた後でね、唯ちゃん」

澪「唯も急いだ方がいいぞー。じゃあまた部活でな」

そう言って、澪ちゃんとムギちゃんは走って教室に向かいました。

唯「(あわ……、あわわわわ!!!)」

唯「(昨日の話って本当だったんだ……!!)」

私は頭の中を整理するので精一杯でした。

唯「とりあえず、落ち着こう……!!」

唯「まず、靴を履き替えなきゃ……」

唯「あ………」


唯「私の靴も爆破されて無くなってる……」

唯「どうしよう……」



放課後!

澪「いつも言ってるだろ!!他人に迷惑をかけるなって!!」

澪「しかも、私の靴まで爆破するなんて!!」

澪「おかげで今日一日スリッパで過ごすハメになったんだからな!!」ガミガミ

律「わ、悪かったよ……。今度からは気をつけるから……」

澪「いつもそう言って約束してるだろ!!全く、何回言ったら分かるんだ!!」

律「ごめん…。でも澪はあれぐらいじゃ死なないから大丈夫かなーって思って……」

澪「そういう問題じゃない!!」

紬「まぁまぁ、澪ちゃん落ち着いて。お茶が入ったからみんなで飲みましょう?」

澪「……分かったよ、ムギ」

澪「律!!次やったら絶交だからな!!」

律「分かったよ……。もうしません……」

紬「唯ちゃんも一緒にどうぞ」

唯「う、うん。ありがとうムギちゃん」

澪「ん?唯もなんでスリッパなんだ?」

唯「それが、私の靴も爆発に巻き込まれちゃって……」

澪「………!!!」

澪「ほらこうやって唯にも迷惑がかかってるじゃないか!!律、唯にもちゃんと謝れ」

律「唯、ごめんな。もうしないから……」

唯「だ、大丈夫だよ律ちゃん……。全然気にしてないよ……。それより早くお茶飲もう?」

律「だよなーー!?澪が神経質なだけなんだよ」

澪「調子に乗るなっ!!」ゴツンッ

律「あいてっ!!」

唯「つかぬ事をお聞きしますが…」

唯「澪ちゃんが腰につけてるのって刀だよね?」


澪「ああ、そうだよ。私の愛刀の鬼切だ」


唯「どうしてそんなものを……」

澪「……律のせいだよ。最近はところ構わず、私を刀で斬り殺そうとしてくるから、私も常に刀を装備してないと対抗出来ないんだ」

澪「いい迷惑だよホント」

律「だって澪を見てると殺したくなっちゃうんだからしょうがないだろー?」

律「唯もそう思わない?」

唯「えっ?…うん、そうだね、アハハ……」

唯「(なんだろう、この会話……)」

唯「あの……、律ちゃん…」

律「何?」

唯「私の事も殺したいとか思ってる…?」


律「そんな訳無いだろー、唯とはまだ知り合ったばかりだし」

律「さすがに私もそこらへんは遠慮するよ」


唯「そ、そうだよねーー!!」

唯「(よかった…!本当によかった…!!)」


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最終更新:2010年02月20日 00:28