唯、中学三年生の頃
和「唯、進路決めたの?」
唯「まだ」
和「まだってあんた、そろそろ願書提出の時期よ?」
唯「でもでも私、頭良くないし、高校なんてよくわかんないし……」
和「なんだかあんたは三年後も似たような事言ってそうね」
唯「えへへ」
和「えへへじゃない」デコピン
唯「いたーい」
和「その気になったら凄いのにね」
唯「なかなかその気になれないもん」
和「自分で言わないの」
唯「和ちゃんはどこ受けるの?」
和「私は桜ヶ丘かな、そこそこ近くてそこそこ偏差値良いし」
唯「じゃあ私もそこにする」
和「あんた内申点足りないから入試でよっぽど取らないと無理よ」
唯「う、うーん」
和「ま、それほど時間は残ってないわよ。中卒ニートになるなら話は別だけど」
唯「ニート……なんだか魅力的な響き」
和「こらこら」
平沢家
母「唯、高校決めたの?」
唯「どうしよう」
母「あなたが自分で決めなさい」
父「そうだぞ、自分で決めさえすれば僕達は文句は言わない」
唯「はぁ……自分の部屋で考える」トボトボ
母「うちの子は二人とも自主性が足りないわねぇ」
父「憂はしっかりしてるじゃないか」
母「そうでもないわよ、唯にべったり過ぎて……それで唯がしっかりしなくなったところもあるし」
父「教育間違えたかな」
母「こんな時は」
父「旅行でスカッとしよう」
唯「進路かぁ……とりあえずパンフレットを取り寄せてみたものの」
唯「どれも同じに見えるよ」
唯「何か決め手があればなぁ」
唯「そもそも私の頭で行ける学校が少ないんだけど」
唯「あーもう、どれでも良いや! 全部紙飛行機にして、と」ゴソゴソ
唯「一番飛んだ高校に行こうっと」ヒュン
スコン
唯「痛い! なぜ戻ってくるの……?」
ドタンバタン
憂「何してるのお姉ちゃん?」
唯「紙飛行機にお仕置きしてた」
憂「?」
翌日
和「で、一晩考えたけど決めれなかったと」
唯「うん」
和「ふぅ、ちなみに桜ヶ丘の願書締め切りは三日後よ」
唯「早いよ!」
和「他の皆はとっくに決めてるから問題無いの」
唯「そんなぁ」
和「高校でやりたい事とか無いの? それを基準に決めてみたら」
唯「ごろごろ……かな」
和「決め顔で言っても全くカッコ良く無いからね」
唯「部活かぁ、考えた事も無いや」
和「考えてる場合でも無いけどね」
唯「やっぱり和ちゃんと一緒が良い!」
和「桜ヶ丘?」
唯「うん!」
唯「和ちゃんと一緒に高校行って」
唯「和ちゃんと一緒に授業受けたりお弁当食べたりするんだ~」
唯「和ちゃんさえいてくれれば、きっと毎日楽しいよ!」
唯「それでそれで、たまに宿題見せてもらったり、勉強教えてもらったりして」
唯「てへへ、今と変わらないけど」
和「……本当に、それで良いの?」
唯「和ちゃん?」
和「ねぇ唯、私達っていつまで一緒にいれるのかしら?」
唯「え、ずっとじゃないの?」
和「私は唯の事を親友だと思ってるわ」
唯「私もだよー」
和「でも、一生一緒にいれるかは解らない」
和「だから、いつまでも私に頼らないで」
和「私だっていつまでも唯を助けてあげられない」
唯「和ちゃん? 何言って……」
和「私がどうとかじゃなく、自分の事は自分で決めなさい。それだけよ」
キーンコーンカーンコーン
和「あ、授業ね。じゃあ」
唯「う、うん」
唯(自分でか……お母さんもお父さんも和ちゃんも同じ事言うなぁ)
唯(私ってよっぽど自分で決めれない子に思われてるんだろうな)
唯(まぁその通りなんだけど……)
唯(でも……自分で決めるってどういう事?)
唯(学力に合わせれば良いの? 部活で選べば良いの?)
唯(わかんないよ~)
先生「平沢さん、この問題をやって下さい」
唯「ほえ?」
男子(やっぱ平沢萌えるな……)
放課後
男子「な、なぁ平沢、携帯のアドレス……」
唯「和ちゃん! 帰ろう!」
和「ごめんね唯、このまま塾に行くから無理なの」
唯「そっか……しょうがないね、じゃあまた明日ね!」
和「うん、バイバイ」
男子(俺はあきらめんぞ平沢)
下足
憂「あ、お姉ちゃん」
唯「憂!」
憂「丁度終わりが同じだったんだね、一緒に帰ろう?」
唯「おー!」
憂「お姉ちゃんと帰るのも久し振りだね」
唯「だねー」
憂「そうだお姉ちゃん、進路決めたの?」
唯「憂まで訊くの……」
憂「ご、ごめん、気になるからつい」
唯「いいよ気にしないで、決めてない私が悪いんだもん」
憂「和さんに相談したりしないの?」
唯「毎日説教されとります」
憂「あはは……」
唯「決め方がわかんないんだよね~」
憂「そうなの?」
唯「そうそう、いっそ誰かが勝手に決めてくれたら良いのにって思うよ」
憂「うーん、お姉ちゃんが決めたいように決めたら良いんじゃないかな」
唯「だから私の決めたいようにって言うのがわかんない」
憂(なんだかこんがらがってるみたい)
唯「はぁ……時間も無いし、さすがにもう決めないとなぁ」
憂「時にお姉ちゃん」
唯「なに?」
憂「どこに行くかの前に……受験勉強は大丈夫なの?」
唯「憂、覚えといてね、現実は目を逸らす為にあるんだよ」
憂「お姉ちゃんがニート化していく……」
塾
和(今日はちょっと言い過ぎたかな)
和(嫌われたりして……)
和(でも唯の為だもん、我慢しなきゃ)
和(とか言って、一緒に帰る事も出来ずに塾へ逃げ込む根性無しの私)
和(せめて勉強はちゃんとしなきゃね)カリカリ
和(唯も、いつかは私から離れるのよね)
和(たとえ一緒に桜ヶ丘に行っても、三年後にはまた大学進学がある)
和(大学が終わったら就職)
和(縁が切れる事は無くても、一緒にいれる時間は減っていく)
和(だったら、早くに離れた方が良いよね。お互いの為に)
和(でも……やっぱり少し、さみしいな)
平沢家
唯「我が家に到着……あれ?」ガチャガチャ
憂「鍵掛かってるみたいだね」
唯「お母さん買い物かな?」
憂「さぁ? 鍵持ってるから大丈夫だけど」ガチャリ
唯「ただいまー」
憂「ただいま」
母「お、お帰りなさい」アタフタ
父「は、早かったな」ゴソゴソ
唯「あれ? お母さんいたの? お父さんまで」
父「う、うん、唯と話したい事があってね」
唯「なんで二人とも慌ててるの?」
憂(これは……私もお姉ちゃんになる日が来るのかな?)
リビング
父「ごほん」
唯「ねー、なんで家にいたのに鍵を」
母「唯、余計な事は言わないで」
唯(なんで怒ってるの?)
父「唯、いい加減に進路は決めたか?」
唯「まだ」
父「さすがにそろそろタイムリミットも近い」
父「教育パパなんて気取る気は無いが、このご時世だ、中卒というわけにもいかないだろう」
唯「うん」
母「私達が強制的に決めちゃうわよ?」
唯「別にそれでも……」
父「それで唯は本当に高校生活を楽しめるか?」
唯「う……わかんない」
父「お父さんの経験上、間違いなく楽しめないぞ」
唯「じゃあどうしたら……」
父「難しく考えなくていいんだ」
母「唯が行きたいところに行けば良いのよ、偏差値や学費なんて気にしなくて良いわ」
父「昨日も言ったが、唯自身で決める、条件はそれだけだよ」
唯「うん……」
母「唯」
唯「?」
母「もし少しでも行きたいところがあるなら、迷わず一直線に目指しなさい」
父「本気になった唯は、誰よりも凄い事をお父さん達は知ってるからね」
唯「ありがと」
最終更新:2010年02月24日 15:38