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──『唯』

「おい!おい!」

その人は私とは少し離れたところで車をとめた

「なんでここにいるんだ!おい!答えろ唯!」

なんでって、憂に連れられて…って今私の名前
その人はいや彼女はとてもスレンダーで、
でもとても力強い感じの身体をしている女性?女の子?
私と同じくらいの年だと予想した

「なんで生きてるんだよ!なんでだよ!なぁ!?」

すると彼女は突然手に握っていた物を私に向け、構えた

銃だった。とても大きい銃だった


唯「きゃあああああああああああああ」

思わず叫んでしまった

「喋れるんだったら、生きてるんだったら質問に答えろ!
どうやってここまで来た!なんで生きてるんだ!唯!」

私は怖くてうずくまったままだった
何を言っているかは聞えていたが答える事はできなかった

唯「うっ…うっ…」

「くそっ!…くそおおおおおおおお」

彼女は銃を私に向け引き金を引こうとした
瞬間

「まって!律さん!」


憂だった

「憂…ちゃん?そいつなんなんだ!新手の奴か!?」

憂「ちがいます!正真正銘本物のお姉ちゃんです!」

彼女、憂に律と呼ばれているその人はとても困惑した顔をした
ん?律?もしかして憂の言っていた、あの軽音楽部メンバーの?
そういえば彼女は頭に黄色いカチューシャを付けていた
なぜ気づかなかった…

というかさっきからなに?
生きているとか本物とか訳がわからない


仮に!と彼女は切り出し続けた

律「仮にだ!そいつが本当に唯だとしても、なんで生きてる!?」

憂「それは…私にも……だからそれを聞くためにもここに、
それに感染はしてないので大丈夫です。…いやこの言い方は間違って…
…とりあえず!落ち着いてください律さん!」

彼女は数秒考えた後、口を開いた

律「ッ…!そうだな…」

とりあえず助かったみたいだった

憂「 とりあえず中に入りましょう。斎藤さんにも話したので」

憂がそう言うと
おい!と突然 言われてビクッとした


律「いつまで座ってるんだ」

あなたのせいで力が抜けちゃったんです!
とでも言ったら射殺されそうだったから言わなかった

律「唯」

いかにも私の事なんか信じてないぞという目で
私を見つめながら私の名前を言った

律「早く立てって」

唯「はい…」

彼女の気迫はすさまじいもので
言われるがまま行動してしまった

驚いた。
これじゃ1時間かかってもしょうがない

そう、その道は少し離れた一軒家の倉庫内に隠されていた
倉庫内の絨毯をずらす、
そこには正方形の溝ができている部分が隠されていて
憂がまたまた隠されているスイッチを押す
すると、どうだろう!その正方形の部分がずれていき階段が出現したではないか

その階段を少し下りるとずっと先まで細い道が続いている

憂「この道をずっと行けば紬さんの家に着くよ」

ほうほう



どんなレベルのお嬢様なの?


といっても憂の1時間の内訳は
通路15分、話45分だったわけで
私達は20分ほどでその豪邸にたどり着いた

というかここに入る直前にも指紋認証式の扉がありビックリした

中の広さは申し分なく、というか広すぎるぐらいで
某ホラーゲームの洋館みたいな感じ…なにを言ってるんだろう私…

「おかえりなさい。律様、憂様」
律「その口調やめましょうよ。斎藤さん」
憂「そうですよ。もう2年も一緒にいるんですから」

斎藤「いえいえお嬢様のご友人なので…そして
初めまして…唯様」

拍子抜けした。こんな執事までいるのか

唯「は、はじめまして!さ、斎藤さん!」

私はとっさにお辞儀した


斎藤「元気の良い方だ。とりあえず…
    つもる話もあるでしょう。とりあえずこちらのお部屋に皆さん」

私達は、だだっ広いロビーから客間に案内された
客間は広さで言うと10畳ほど
真ん中に高級感漂うテーブルにそれを囲むようにソファーがある

斎藤「ささっ…皆さん座ってください。私は紅茶を淹れてきます
    ので少々お待ちください」

斎藤さんはそう言うと部屋を出て行った

とりあえず律さんが先に私から見て右の方のソファーに座ったので
私は左の方のソファーに座る事にした。憂は私の隣にきてくれた


3人だけになった部屋は気まずい空気で充満した


少し経つと斎藤さんが戻ってきた
香しい紅茶の香りと共に、まるで救世主だ

トレイにある紅茶を各人の前に丁重に置くと
斎藤さんは別の椅子を持ってきて座った

ふぅ。と一息つくと話始めた

斎藤「さて、単刀直入、シンプルに行きましょう。
唯さんはどこまで記憶が?そしてここまでの経緯を」

本当に単刀直入だった。突然だった。
というか様付けがなくなっていた。いやそっちのがいいのだけれども

いきなりで困惑するが精一杯答えた

唯「えっと…記憶は憂には教えてもらったんですけど、
思い出しているのは私の高校入学して2年になったって事はわかるんですけど
その…軽音楽部のことが思い出せなくて」

私は律さんに申し訳ない気持ちでいっぱいだった


律「軽音楽部の事?つまり澪や紬、私や梓の事をか」

唯「は、はい…」

斎藤さんは少し難しい顔をした後また話し始めた

斎藤「では…その軽音楽部の文化祭のあとに起こった『あれ』の事は?」

『あれ』?なんのこと?
斎藤さんは『あれ』を強めて言ってきた
頭を?にする私を見かねたのか憂が話し始めた

憂「それに関しては私が…お姉ちゃんは恐らく2年時文化祭以降の記憶がなにひとつ
  ないかと思います…それに多分、自分にとって大事な人そしてそれに
  関係のある記憶もないかと、現に私の事も忘れていたみたいで…多分、和さんの事も」

律「大事な…人ねぇ…」

私は小声で憂に忘れてごめんねと呟いた


憂はそのまま私のここまでの経緯についても語ってくれた
語り終えると斎藤さんは「ふむ」と言ってそのまま難しい顔をしてしまった

しばらくの沈黙

律さんはもう完璧飽きてる様子で
あぐらをかいて右に左に揺れていた

聞くのは今しかないと思い私は質問した

唯「あの…他の軽音楽部のメンバーさんは?」


沈黙。泣きたい。へんな事言ったかな?

そんな中、律さんがはぁ…。と溜息をつくと喋りだした

律「あとで会えるよ…てか絶対会わしてやるよ。楽しみにしときな」

どこか…怒っている感じがした



唯「あと…もう一つ質問があるんですけど、
その…なんで京都はこんな事に?」

すぐに律さんが返答した

律「京都だけじゃない日本全体世界全体がこうだ」

…嘘?冗談?
私の頭が?になっているのを察してか
律さんは呆れた口調でこう言った

律「斎藤さん憂ちゃん、唯にはあれ見てもらおう?
その方が受け入れも早いだろうし多分記憶も戻るだろうよ」

憂は顔を落とし、黙りこくっていた。
寂しそうな悲しそうな怒ったような、そんな顔をしてた

斎藤「そう…ですね…見せましょう
早いほうがいいです。今から行きますか」

時計の針は15時半を回っていた


暗い暗い赤いランプに照らされた階段
それは2階に続く階段の横の扉から入れる
一枚目の扉、多分ダミー用のそれを開けると、中からはカードキー式の扉が現れる
それを開けると、この階段がある。

律「ほら。ここで手、綺麗にするんだ」

そこは綺麗な白で統一された一室で
私にはよくわからない機械があった

なにをどうすればいいのか分からない私を手伝うように
憂は説明してくれた

憂「このボタンを押して…そしたら液がでてくるから、
それで手を洗って?」

ごく簡単なものだった


その消毒を済ませた後
さらに扉をまたぎ奥に進む

本当にすごい豪邸だ。こんな設備まで揃っているなんて
私は驚愕した。こんなの映画の世界の中でしか無い物だと思っていたから

現実にこういう設備があることに驚いた

斎藤「こっちです。
机の上などにある備品や資料にはくれぐれも触れないよう注意してください」

ふ、触れたら死ぬとか?
机の上にはやたら高そうなパソコンや小型カメラ
他にも学校の科学室にありそうなものがあったり
でっかい冷蔵庫みたなのもあった

まぁほとんど近未来的な物でなんなのかわからないのだが



そしてもう少しへやの奥に進むと
ベッドのような物が二つ並んでいるのが見えた

ん?これは…よーく目を凝らしてわかったがその一歩手前が
ガラス張りになっている。というか恐らくガラスの扉?

それもカードキーで開くようで
俗に言う強化ガラスと言う物なのか?
その扉はものすごい頑丈そうだった

斎藤さんはその扉、というか引き戸だったのだが
カードキーでその扉をロックしていたものを解除し
開くと「では皆さんお入りください」と言った。

皆入った後、斎藤さんは扉を閉め、ガラス張り部屋内にあったスイッチを押した
一瞬真っ暗になる部屋。だがすぐに電気がついた
オレンジ色の淡い光

斎藤「では、こちらを…」


そう言うとベッドの前まで来た
二つ並んでいるベッドに誰かが横たわっている
私はそれを誰か確認するため、さらに近寄った


唯「!」

そこにいたのは今日数時間前に私を襲った化物だった

唯「こここれって…」

数時間前襲われた時の記憶が蘇る
私の足は、身体はとても震えていた

斎藤「そう、あなたを襲った化物…元人間、俗称ダークシーカーです」


唾をのんだ
それから斎藤さんは淡々と話を続けた

斎藤「この人達はあるウィルスによってこんな姿になりました。
   夜行性で日光が、かなり苦手です。身体が紫外線に過剰反応するようで
   この夜行性の彼らに見つからず1日目あなたは夜を過ごし朝を迎えたとか…
   相当運がよかったようで…」

1日目私が寝ていた時、こいつらは活動してたのか
起きなくてよかった。本当に。

唯「でも、この化物ここにいちゃ危ないんじゃ…」

斎藤「大丈夫です。麻酔をかけていますから
   といっても、6倍も多くかけてやっと眠っている状態ですけど」

そうか。安全は確保できている様子だった
だが疑問があった


唯「なぜそんな事してまで置いておくんですか?」

沈黙。なぜこんなにも沈黙が多いのだろう
数秒たつと斎藤さんが静かに口を開いた

斎藤「それが私達の目的であるからです」

目的?目的ってなに?
色々考えたかった、だが暇もなく律さんが話しだした

律「で、どうだ?会えた感想は?」

……。


え?


律「ほら、もっと近くで見ろよ。他のメンバーにも会いたかったんだろ?

ドンッと私は背中を押され、ベットの方へ寄ってしまった

え?

律「ほら、会いたいじゃなかたのか?よかったじゃん」

2人横たわっている…私は憂の言葉を思い出していた。
「……生きてるよ。『一応』…」

『イチオウ』

──よくもっと見ろって、この右のがムギこと紬で──

ヤメロ

脳が心が自分が現実を拒否していた

──で、左のがあずにゃんこと梓──


ズキン…

唯「ああああああぁ…っ」

頭が割れたのかと、そう錯覚するほど
頭を内側から弄られているような

       痛み。

身体ごとグワングワン回っているような

律「どうだ…思い出したか…?」

私は、私の後ろで斎藤さんや律さんが銃を構えているなんて露知らず
ただただ痛みに耐えていた

そして蘇ってくる記憶にも


2年次に行われた文化祭のライブ演奏
それが終わった辺りから私の日常に異変が発生した

異変。異変と言ってもそれは小さいもの。
熱をこじらせる。なんて小さいもの

後ろで律さん…いや今はもう思い出している。
りっちゃんが喋っているのが聞える

律「唯。お前、あの時流行病の新インフルエンザにかかっていたんだよな」

そう。本当に苦しかったインフルエンザ
体温42℃。生死の境をさまよったらしい
でもそれは直ぐに治った
そう、ありえない早さで

律「びっくりしたよ。学校にいたから
…かなり危ない状態だったらしいから、みんな心配してたのに」

えへへーもう平気だよー

律「とか言ってさ。医者も困ってたみたいだった…
でも本当に困らされるはそれから3週間程経った時からだった」


えへへーもう平気だよー
そんなことを言った事を憶えている

普通の日常を送って3週間たった、その朝は何かおかしかった
日の光がうっとおしく感じた。最初はそれだけ

でも授業中どんどん酷くなっていって

日の光が怖くて、壊したくて
日の光が痛くて、暴れたくなって

だから

律「いきなり暴れだしてさ、近くの人に噛み付こうとしたりもしてた」


脳に異常が…
狂犬病に似た症状がでている。
それと未知のウィルスが身体を蝕んでいます
東京の病院にすぐに移したほうが
原因不明

そう医者が憂に話していたのは憶えている

憂「それから、お父さんと一緒にお姉ちゃんは東京の病院に移った
私も一緒に行きたかったけど、学校もあったからお母さんと一緒に残ることにした」


律「お前が東京に移った週の週末。もう本当心配でさ、
憂ちゃんとか和とかも連れて皆で見舞いに行くことにした。
…後悔したよ。お前、もう死んだような顔しててさ…
部屋もカーテン締めっきりで暗くてまるで閉じ込められているみたいで
…見てられなかった」

みんな来てくれてたんだ。ごめんね…
あの時の私はただただ眠くて、寝たくて

私はもうその頃、私じゃなくなっていて
病院にいたというよりベットの上でずっと寝ていると言う記憶しかなかった

そう、ただただ眠かったんだけど

りっちゃんたちが見舞いにきたその夜
ふと思った





   「お腹減ったなぁ」


約二年前

『唯』見舞い日 PM 09:49(21:49) 東京ホテル内 『律』

紬「ごめんなさい…こんなホテルしか手配できなくて…」

いや、充分だよ。とムギに言うと私達は各々
ここに来る前じゃんけんで決めたとおりの部屋に入って行った

本当、充分過ぎる部屋だ。大きな窓からは
東京の綺麗にライトアップされた景色が見える
たが…その部屋を満喫する気も、満喫できる気もしなかった。

私はふかふかのベットに横たわる
一人で使うには大きすぎるベット。

律「…ッ!」

…すぐにも寝たかった。病院内でのこと、
あの唯の姿を思い出したくなかったから

『唯』見舞い日 PM 10:01 東京 ホテル内 『澪』

シャワーを浴びながら後悔していた。

ザアアアアアアアアアアアア

ここに来た事を。

唯は
怖いほどに無気力で、死人の様で…唯は

いつもの明るい普通の唯とは全く正反対の者になっていた

澪「…グスッ」

こんな事思ってはいけないのかもしれないだろうけど
なんで唯が…他の人でも良かったのになんて思ってしまった。


キュッ

蛇口を閉めシャワーのお湯を止める
お風呂場からでて洗面所で身体を拭き服を着る

胸元の少し開いたノースリーブシャツにホットパンツ

洗面所を出るとベットに直行した

バフン

澪「はぁ…」

少し落ち着いてきた
さっき、ここに来る前、皆で外食を食べていたせいで
腹は満たされていた。勢いで寝てしまいそうだった

コンコン

扉を誰かが叩いた


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最終更新:2010年02月25日 12:40