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澪「怖くない怖くない怖くない怖くない…」

律「おーい、戻ってこーい」

半ば強引というか強制というか、とりあえず澪も連れて来た
ガードマン達は集中していて私達には気づいてない様子だった

邪魔をしちゃいけないとも思ったため、話はかけなかった

ゆっくりと私達はそれに近づいた。澪は大丈夫かな

澪「怖くない…怖くない…」

相変わらずだな…そんなことを思いながらも
私達は横たわる人の傍まで来ていた

やっぱり…

律「死んでる…よな…」

梓「はい」

体格からして男の人。肌の色がおかしかった、
そんな気がしたが、死んだ後はこうなのだろうと、そう勝手に解釈した。



『唯』見舞い日 AM 02:04 東京 封鎖地区 第一ハイカー内 『和』


「お嬢様、どうやら後続の車にトラブルがあったようです」

そうガードマンがムギに言った
そういえば、後ろにいた車はいつの間にか消えていた
なんで気づかなかったんだろう…

紬「今すぐ戻して!早く!」

取り乱した様に。慌てた様子でムギはそう言った。いや命令した。

は、はい。とガードマンが返事をするとすぐさま
Uターンをし元来た道を戻り始めた

その時、ムギは静かに呟いた言葉

紬「あれが……あれに襲われたら…」


『唯』見舞い日 AM 02:06 東京 封鎖地区 第二ハイカー 車外『律』


律「そろそろ戻るか」

はい…。と元気の無い声で答える梓
当たり前だよな…死体なんか見てるんだから
なんで見ようなんて言ったんだ私…

車に戻ろうと私と梓は後ろを向いた
…私達の後ろ少し離れたところに澪は立っていた
きっと見たくないから、怖いからだろう

律「澪!戻るぞー」

返事はなかった。澪は私達の方を見ていたが
どこか一点を見つめているみたいだった

律「澪?おい!み…」
澪「律」

少し間を開けて、確認する様に、私に言った

澪「あれ…唯じゃないか……?」


は?いるはずないそう思っていた。
だってもう病院職員等の誘導でとっくに避難していると
そういう話をホテルでしていたし、そう思っていたから

とりあえず確認するために澪の視線の先を見た。
公園。10m?ほど離れているだろうか。公園でひとり突っ立っている誰か

それは後ろ姿だったのだが、
茶色い髪の毛に患者服、身長も、体格も、髪型も

唯、そのものだった

梓「唯先輩!唯先輩ですか?」

梓は唯と思われる者に向かって叫んだ
それはゆっくりとこっちに振り返った


そういえばそれに気づいてガードマンが何か叫んでいたような気もするが
でも私はそんな事は上の空で、

私は一生忘れる事の無い顔を見ることになるハメになって


街灯に照らされて光る、灰色の肌

常に鼓動を打つ身体

見開いた目

その目で私達を見つめ、そして

ニタァ。こんな表現がとても合っているだろう

そう…嬉しそうに口を歪ませていた

その顔を見せた瞬間。刹那。

唯は、唯であって唯ではないそれは、すこし助走をつけ
人間離れした。超人的な跳躍をし梓に飛び掛った

澪「梓!!!」

梓は突然のことに驚いたのか、後ろに尻餅をつきながら転んだ
それのおかげで運良くも攻撃を回避した

近くにいた私は咄嗟に唯の腹、正確にはみぞおち目掛けて、拳を入れた
だが、びくともせずは唯は蚊を払う様に私をすっ飛ばした

5m近く吹っ飛び公園の金網フェンスに叩きつかれた私
身をもって今わかった。さっき私達の乗っていた車にぶつかった、あの死体は
唯がふっ飛ばした物だったという事

律「ッ…!カハッ…!」

コンクリートの壁とかじゃなくて良かった
だがそんなことよりも梓…!


梓のいる方向に目をむける。
丁度、唯がへたれている梓目掛け、拳を振り上げているところだった。

澪「うわああああああああああああああ」

澪は鉄パイプを持ち、唯向かって叫んだ
唯が梓に拳を振り下ろす前に、澪は
唯の頭めがけて思いっきり振り下ろした

だがそれは空を切っただけに終わった

唯は攻撃をよけ澪の首を掴み持ち上げた

とんでもない力。ありえない力。
体格からはありえない…

そして唯は澪に噛み付いた


律「やめろおおおおおおおおおおおおおおお」

勝手に、咄嗟に、身体は動いた
私の身体はしばらくは動けない様な身体だったのに

唯が澪の右胸あたりから右肩にかけて噛み千切るその前に
私は唯、目掛けて体当たりした

今度は少しよろめいたくれた
唯は驚いてか澪を掴んでいた手をパッと離し、後ろに飛び退いた

ドサッと地に落ちる澪の傍にすぐに近寄った。
澪の状態はかなり危ないものだった。予想はしていたけど…

右胸から右肩近く、首筋とも言えるだろう。
傷は深く、血が噴出し、噛み痕が痛々しかった。

澪「あ…ガハッ…」

…なんで澪がこんな目に…!


私は唯に向かって叫んだ

律「なんでいるんだよ!唯!どうしたんだよ!お前なんなんだよおお!」

大きな声。とても大きな声で叫んだ

唯はきょとんとした顔をした
馬鹿にしてんのかこいつ…ふざけんな…!

憎しみ。怒り。

律「答えろよ!!!」

相変わらずきょとんとした顔で、頭を掻き
そしてゆっくりと私達の方を指差し喋った

唯「…あ゛…あ゛ー」



              「だ…べも…の゛…」



?…今何て言った?食べ物?
私達を指差して食べ物って?

澪の事も…そう見てたのか…?

憎悪。憤怒。そして殺意。

私は澪の握っていた鉄パイプを取り握った
たとえ刺し違えてでも

殺るために

そう決意して立とうとした時

突然空を切る音がした。
唯が何かに気づいた様にすぐに反応し飛び退いた
唯が元いた場所にはバットを手に持った紬の車にいたガードマンがいた

紬「大丈夫!りっちゃん!梓ちゃん!」

ムギ…?そうか助けにきてくれたのか…

律「ウッ…澪を…早く、頼む…グスッ…」

紬「わかったわ…だから早くりっちゃんも車に」

わかったよ。私がそう言うとムギはガードマンを呼んで
澪を指差しこの人も特別車で運んで。とガードマンに言った

特別車?特別車って?

疑問に思った私は梓の元に向かったムギに聞こうとした
その時

梓「律先輩逃げて!!!」


『唯』見舞い日 AM 02:09 東京 封鎖地区 公園周辺 『和』


どうなっているの?今あのガードマンが殴りかかった相手は唯よね!?
とりあえず私はなにかしないとみんなを助けないと、と思い
憂ちゃんを連れて車外に出ようとした

ベゴンッ

突然、すぐ隣の澪達の乗っていた車に向かって何かが飛んで来た
その車、右側面部を大きくへこましたのは律だった

律「が…っ……」

和「律!」

私と憂ちゃんはすぐに律の元に寄った。
どうやら気絶してるみたいで傷は…酷い。とてつもなく酷かった
前に少しかじった、ちょっとした医学知識。

それらのおかげか律の状態はとても悪いとわかった
多分、骨が幾つも折れている…痣もひどい…

憂「あ…あ…」

憂いちゃんが震えていた。どうしたの憂ちゃん?
どうしてかわからず、私は憂ちゃんの見ている方向を見た

車。さっきまで私達の乗っていた車が横になって
今にもこっちに倒れそう、というか何かが持ち上げ
こちらに向け倒そうとしていた

和「逃げて!憂ちゃん!」

そう私は憂ちゃんに言い放つと律を引きずってとりあえず逃げようとした

ガシャァン

飛び散るガラス片。歪んでいく車
車はひっくり返りボコボコになってしまった

私は間一髪、律を連れ車を避けたのだが
次の瞬間、頭、顔にとてつもない衝撃

最後に見たのは唯の笑った灰色の顔


『唯』見舞い日 AM 02:09 東京 封鎖地区 公園周辺 『憂』


憂「和さん!!!」

彼女は頭に拳を受け、軽々と吹っ飛んでしまった
嘘…嘘…なんでなんで

憂「お姉ちゃん…?」

お姉ちゃんはこっちに振り向くと、私との間にある車を乗り越え
走ってきた、それもとんでもないスピードで。
近づいてくる間の時間はとてもゆっくりに感じられて…

私死ぬの?

そう思って諦めかけたその時、何かが飛んで来た。
飛んで来たそれはお姉ちゃんの頭に当たり、コロンコロンと音を立てて
地面を転がった。バットだった。そうさっき一人のガードマンが
律さんを守るために使ったものだ。

G3「嬢ちゃん早くこっちに!」


憂「はぁ…はぁ…」
G3「嬢ちゃん大丈夫かい」
憂「はい…」

そう答えるので精一杯だった

G3「よし…G4!今の内にそこの嬢ちゃん確保」

律さんを指差しながらG4さんに指示
なんと手際のいい事だろう。でもすぐに動きを止めた。驚いた様子で
その場に問うように

G3「なんでいない?」

ひっくり返った車の横に倒れているはずのお姉ちゃんの姿はそこにはなかった

逃げたか!とガードマンさんが慌てていたが、
逃げてはいなかった。証拠に直ぐ近くから悲鳴が聞えた
本当にすぐ近くから。澪さん達の乗っていた車の陰から


今頃、気づいた。澪さん達がいない事に
その姿を最後に見たのは、あの時。紬さんが澪さんの事をガードマンさんに頼み、
頼まれたガードマンさんは恐らくその場を離れて応急手当をしようとしたのだろう
澪さんを抱え車に向かった。だけど──律さんが飛んで来た
そして咄嗟に車の陰に隠れるように──

最悪の事態が予想できた。

G3さんがすぐに車の陰まで走る
すると、すぐ何かを見つけたように何かに駆けつけた

G3「大丈夫だ!生きてる!」

ホッ…安堵した。澪さん達は生きている。
でもお姉ちゃんはど…

G3「だが──女の子がいない!」

え?


『唯』見舞い日 AM 02:12 東京 封鎖地区 公園周辺 『梓』

2人の気絶したガードマン。一緒にいるはずの澪先輩の姿はなかった
同様にビル間にある狭い路地に倒れているはずの和先輩も姿を消していた

紬「唯ちゃんが2人を連れて行った?」

なにやらガードマンさんと私達の後ろで話している様で
私は憂と一緒に地面に座っていた。というかへたりこんでいた

憂は──ずっと俯いたままで体育座りをして自分の顔をうずめていた
律先輩は直した澪先輩達の車ですでにヘリポートに向かってしまった

紬「じゃあ、G3!この仕事は終わり。次の仕事に移って」

G3は「はいよ、お嬢様。」と答えると
路地に向かって走り出し、やがて姿を消した


仕事──ムギ先輩の言っていた『仕事』とはなんなのだろう
この仕事は終わり。恐らく私達の護衛のことだろう
では、次の『仕事』とは…?

澪先輩達の救出だろうか?
唯先輩を助ける事だろうか?

頭が痛い……。

やがて私もその場に憂と同じの様な姿勢でうずくまった

……なにも考えず、ただうずくまる。

そんなことをしているとエンジン音が聞えてきた

顔を上げるとそこには黒いミニバンのハイヤーが止まっていた


ムギ先輩が呼んだのか──本当お嬢様だなぁ……

紬「さぁみんな乗って?」

その声に釣られて、車に乗ろうと立ち上がろうとするが
それよりも先に憂は立ち上がって言った

憂「……お姉ちゃん達はどうするんですか」

確かに。それは私も言おうと思っていた。
私は憂に便上する形になって色々言おうとしたが、その前にムギ先輩が答えた

紬「大丈夫……もうこっちで色々と手配しているから。心配しないで」

そっか。さっきG3さんに言った次の仕事というのはその事か
──だが憂はその返事に満足していないのか、不安なのか

憂「でも…!でも…私が行かないと……!お姉ちゃん…!」


言いたい事は伝わってるよ、憂。
自分で救いたいんだよね。唯先輩を──ムギ先輩の手配した者では
多分、というか絶対、唯先輩を確保する過程で暴力、乱暴をすることになるから
だから自分で救いたいんだよね、でもね?でも──

紬「見たでしょ?憂ちゃん…唯ちゃんを救うのは私達では『無理』なの
私達で助けるとしたら、それなりの武器を使う事になる、それこそ私は嫌だわ」

紬先輩は非情に、でも優しくそう答えた
私の思っていたことも全て言ってくれた。私だって先輩を傷つけるのは嫌だ……

嗚咽。憂は泣き出してしまった
憂は泣きながらも必死に懇願するように声にならない声で

憂「おね゛…ぢゃんを…ぉ願いします゛……」

そう言って、車に乗り込んだ


『唯』見舞い日 AM 02:21 東京 封鎖地区内高層ビル ヘリポート『梓』


私達は車に乗った後、何事もなく無事にヘリポートについた
どうやらここにはさっきまでヘリが合ったようだが
律先輩を乗せて先に行った為、もう一機、ムギ先輩が呼んで
今それを待っていると言った状況

何機呼べるのだろう……
ムギ先輩だったらこの東京の空をヘリで埋め尽くす事が出来そうだ
ありえなくもないから困る

そんなことや色々と考えを膨らましていると
遠くからあの音が聞えてきた。よく地上からヘリを偶然見た時に聞くような音
ヘリ上部のプロペラ?と言えばいいだろうか、それが常に空を切る音

それは徐々に近づいてきて、このビルの真上10m程でホバリングしてから
ゆっくりヘリポートに着陸した。



轟音。風が強い。冷たい。寒い
まぁそんな事を考えてもしょうがないので私達は紬先輩に続いて
ヘリに乗り込んだ。ゆっくりと離陸していく

私はヘリから外を見る。空から見る東京を見ながら思いふけっていた

やっと、ここを離れられる。この地から。
思えばこの数時間で色々ありすぎた……澪先輩、唯先輩、和先輩

絶対、帰ってきてください

東京を囲む様にできた赤いランプの線
その景色はどこか綺麗でそれでいて怖い
私の目に心に異常に焼きついた

頬を伝う何か。安堵からか涙がでていた


紬「……梓ちゃん!大変!目から血が!──」


AM 02:23 『梓』『律』『憂』『紬』 東京脱出

「思い出したか?」

その言葉が私の耳から侵入し頭の中で暴れる

「あの後、私達は無事京都に戻ってこれた。……すぐ感染は回ってきたけどな
そして、東京を離れて最後。澪達は帰ってこなかった。ムギが手配した確保部隊も
連絡が途絶えていたしな──だから、はっきりしたよ。お前が生きているって事は
部隊は生きていた…けどお前を発見した時、澪達は死んでいたってことだ」

──ソウナノカ、ワタシハ、ミオチャンヲコロシタノカ

「その後、世界は死んだよ。お前の体内で創られたウィルスでな」

私は澪ちゃん達を殺し、迷惑どころではすまないほどに大変な事をした

私はウィルスに身体を蝕まれたんじゃない

──私が世界を蝕んだんだ

そこで私の意識は途絶えた


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最終更新:2010年02月25日 12:42