部活の帰り道。

 背負っているギー太がいつもより重い。

 今日はたくさん、練習したからかな?

唯「ただいま~」

 私はいかにも疲れましたというようにそう言った。

 すると、タッタッタッとかわいらしい足音が二階から聞こえてくる。

憂「お姉ちゃんおかえり」

 階段の上から憂がひょこっと上半身だけをだす。

 あ、手から水が垂れてる。

 きっと慌ててきてくれたんだろうな。

 かわいい。

唯「えへへ。憂、ただいまー」

 なんとなく、もう一回言ってみる。

 憂は、何も言わずに笑ってくれた。

 その何気ない笑顔もかわいい。

 二階からはいい匂いがする。

 私が大好きな匂い。

唯「今日はカレーだね?」

憂「そうだよ。昨日お姉ちゃんが食べたいって言ってたから」

 そんなこと言ってたっけ?

 たぶん私のことだから、何となく言ったんだろうな。

 言った私でさえ覚えてないことを、憂は覚えててくれた。

 なんかうれしい。

憂「もう少しで出来るから、着替えてね?」

唯「ほーい」

 私はお気に入りの普段着に着替えてリビングへ下りる。

 憂はいつもの場所でちょこんと正座して待っててくれた。

憂「お姉ちゃん、座って座って」

唯「えへへ、お待たせー」 

憂「じゃあ食べよっか?」

唯「うん!」

憂「それじゃあ、いただきます」

 憂は胸の前で合唱してそう言った。

唯「いただきまーす」

 憂が作るカレーはいつも甘口。

 なぜかというと私が辛いものが苦手だから。

 でも知ってるよ。

 憂は辛口が好きだってこと。

憂「お姉ちゃん、美味しい?」

唯「憂がつくったんだから美味しいに決まってるよ!」

 そうだよ。

 憂が作ったものなんだから美味しいに決まってる。

 高級フランス料理よりも美味しいに決まってる。

憂「ふふ、よかった」

唯「世界一……宇宙一美味しいカレーだよ!」

憂「それは大げさだよ」

 褒めたけど憂が喜んでくれない。

 それだけで私の心は痛む。

憂「あ、でも」

憂「すごく褒めてくれたんだよね?ありがとう、お姉ちゃん」

 憂が笑顔で私にありがとうって言ってくれた。

 それだけで私の心はドキッとする。

 やっぱり私、憂のこと好きなんだ。

唯「ごちそーさまでしたー」

 テーブルの上には何も乗ってない皿が二枚。

 おかわりは、二回しちゃった。

 でも私は太らないから大丈夫だよ。

 ……たぶん。 

憂「お粗末さまでした。じゃあ片付けるね」

 カチャカチャという音を立てながら、憂がお皿を台所に持っていく。

 私だってお片づけを手伝いたい。

 でも憂は、私が怪我するからと言ってやらせてくれない。

 本当は私だって憂と一緒に食器を洗いたいんだよ?

 そんなことを思いながら、私は寝転がる。

 食器をせっせと洗う妹と、リビングで寝転がる姉。

 あぁ、私ってだらしないな。

 そういえば前にりっちゃんが、憂にいいところ全部取られたんじゃないかって言われたっけ。

 それは違うと思うよ、りっちゃん。

 だって私のいいところすべて取っても、こんなに可愛くて働き者になるわけないもん。

 憂は私から何も取らなくても、すごいんだよ。

憂「……ちゃん、お姉ちゃん!」

唯「ほえ?」

 目を開けると、憂が私を見下げていた。

 私、いつのまにか寝てたみたい。

憂「お風呂、沸いたから入りなよ」

 お風呂?もうそんな時間なんだ。

 ちょっと前の私なら、一緒に入ろーなんて言えたかもしれない。

 けど、今は言えない。

 憂とお風呂入る。

 そう考えるだけで、顔が熱くなる。

唯「憂ー、おこしてー」

 そう言って私は、両手を憂に向ける。

 妹に恋をするのはいけないこと。  

 だけど、甘えるくらいはいいよね?

憂「はいはい」

 憂は私の両手をしっかり掴み、引っ張ろうとする。

 けどなんでかな?

 私の悪戯心が働いちゃったのかな?

 憂が私を引っ張る力より強く、私は憂を引っ張った。

憂「きゃっ!」

 憂は私に引っ張られるなんて想像してなかったんだろうね。

 簡単に前へ倒れる。

 私に覆いかぶさる形で。

憂「もうお姉ちゃんったらふざけないでよー」

 ふざける?

 そっか、私ふざけて憂を引っ張ったんだ。

 姉がふざけて妹を倒した。

 それだけだよね。

 でもおかしいな。

 憂の体の感触、憂の髪の匂い、私にかかる憂の吐息。

 そのすべてが、私の体を熱くする。

 ああ。

 私、女の子に。

 実の妹に。

 欲情してる。

唯「憂ぃ……」

 私はめいいっぱい甘えた声で憂を呼ぶ。

 その手でぎゅっと、憂を抱きしめながら。

憂「お姉ちゃん、どうかしたの?」

 大丈夫だよ憂。

 だから、そんな顔で私を見ないで。

唯「なんでも……ないよ」

 何でもないんでしょ。

 だから手を離しなよ私。

 憂が苦しそうだよ。

憂「熱とか、ないよね?」

 そう言って憂は、コツンと自分の額に私の額を当てる。

 憂の吐息がかかる。

 憂の顔が視界いっぱいに広がる。

 なんだろう。

 よくわかんないけど、私が私じゃなくなる気がした。

 憂、ごめん。

憂「熱はないみた……!?」

 憂にキスしちゃった。

 別に初めてじゃないよ。

 小さい頃から何度もしてきたもん。

憂「ん…………」

 さっきまで憂を抱きしめていた手が、今は憂の頭を抑えている。

 憂、もっと抵抗してよ。

 私のことぶってよ。

 お姉ちゃんやめてって言ってよ。 

 じゃないと私、このまま憂に甘えちゃうよ。

 だって駄目なお姉ちゃんだもん。

唯「ふゅい……」

 あはは、ふゅいだって。

 キスしながら名前を呼ぶからだよね。

唯「んむ……」 

 何してるの私。

 何で憂の口の中にベロ入れてるの。

 私、知ってるよ。

 こういうの、ディープキスって言うんだよ。

 好きな人じゃないとしちゃ駄目だよ。

 あ、なんだ。

 私のしてること、おかしくないじゃん。

憂「んふ……」

 静かなリビングで、小さな音がする。

 私が憂の口を、食べる音。

 憂の涎、おいしい。 

 憂のベロ、おいしい。

 憂の歯、おいしい。

 憂の歯茎、おいしい。

 憂、おいしいよ。


唯「ぷぁ……」

 あ、涎が糸を引いてる。

 えへへ、私と憂が一緒に作ったものだね。

 二人で作るものは、料理だけだと思ってたのにね。


 いつものように褒めてあげるよ憂。

 お願い、ありがとうって言って?

 いつものように、かわいい笑顔でありがとうって。

憂「……そっか」

 なんで。

 なんでそんなに哀しそうな顔なの。

 なんで喜んでくれないの。

唯「……ごめんね、憂」

 なんで謝るの私。

 何か悪いことしたの?

憂「……いいよ」

 許してくれるの?

 また私に笑ってくれるの?

 かわいくて、優しい憂になってくれるの?

唯「憂……」

唯「私、憂のこと大好きだよ」

 えへへ、告白しちゃった。

 憂、どんな顔してくれるかな。

 にっこりして、私もだよお姉ちゃんって言ってくれるかな。

憂「……私もだよお姉ちゃん」

 言ってくれた。

 でも、なんでなの。

 なんで、そんな哀しそうなの。

 ねぇ憂、いつものように笑ってよ。

 ねぇ。



あ、終わりです。


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最終更新:2010年02月25日 14:57