意味も無く毎日をだらだら過ごして。
何をやってるんだろう、私は。

唯「せーの、

ジャラァァァァーーン



違う

唯「違う」

唯「っかしいなぁ……」

唯「あ、そうだ。チューニング忘れてた」

ジャーン、ジャーン

唯「えっと、こんな感じでオッケーだよね」

唯「それじゃ、改めて。
いきます」


ジャラアアアァァァァァン
唯「……違う」


何かが、変だ
何かが、おかしい

唯「そうだ、ギー太!」ダッ

ガラッ
唯「ええっと、どこだっけ……ここじゃないし……あ、あった」

唯「よいしょっ」

ギー太「…………」

唯「あ、あの……久しぶりです」


唯「ごめんね、一人ぼっちにさせて」

ギー太「…………」

唯「……本当にごめんなさい」

ギー太「…………」

唯「あの……もう一度私と歌ってくれませんか?」

ギー太「…………」

唯「お願いします、この通りっ!」


唯「ほんとに、ギー太に触れるの久しぶりだよ……」
唯「……それでわ、失礼します」

唯「せーの、

ジャラアアアアァァァァァァァァァァン!

唯「これだっ!」

唯「そうそう、こんな感じだよ!
……聡君のギター、何か音が変だもん」

唯(あれ、でも何が変なんだろう……?)

唯「見た目は普通だし……もしかして中?
……ちょっと手を入れてみよう
失礼しまーす……」

ゴソゴソ

唯「ん、何かある……なんだろ。
何かがテープでくっつけてある?……んしょ」

ベリッ


唯「なに、コレ」

透明なビニール袋がいくつかと、
中に、白い粉がたくさん入っている。

唯「ひょっとして、ヤバいものじゃ……」


聡「唯さーん、上がりましたよ!」

唯「あ、ささささ聡君! 早かったね!」

聡「そうですか? 結構ゆっくりしたつもりなんですが……
ところで、何してたんですか?」

唯「あ、う、うん。何かギター見たら懐かしくなってきて……。
ちょっと触らせてもらっちゃった。
ま、マズかったかな?」

聡「あ、全然いいっすよ。
唯さん最近ギターやってないんですか?」

唯「うん、大学入ってからは、あんまり……ここ最近は、全く」

聡「そうですか……姉ちゃんが、唯さんはギター上手だって言ってましたよ」


唯「ホントに……? でも、やっぱり弾いてないとダメだよ。
もう、全然」

聡「……また始めてみたらどうです?」

唯「えっ?」

聡「唯さんなら、またすぐに上手くなりますよ」

唯「……そうかな?」

聡「そうっすよ。プロだって余裕っす」

唯「うん……エヘヘ、ありがとう、聡君。
私、またギター始めてみようかな……」

聡「……あ、久々に笑いましたね。
やっぱ唯さんは笑ってないとダメっすよ!
笑ってないと唯さんじゃないです」

唯「そうかな……? でも確かに久々に笑った気がする、ありがとう。
それじゃ、私はお風呂入ってくるね」

聡「あ、俺はもう寝ます。お休みなさい

唯「うん、お休みー」


――――――――――――――――――――――
唯「ふ~、いいお湯だった……」

唯「聡君、もう寝たのかなぁ?」

唯(久々にギター触ったからかな、昔を思い出すよ……)

唯「私もそろそろ寝よう……と、その前にギター片付けておかなきゃ」

唯「あれ」

ギターケースが、二つ

唯「どっちがどっちのケースだっけ……?」

唯「……まあいいや、適当に入れちゃおー」



ユサユサ
唯「う~ん、ムニャムニャ……」
憂「お姉ちゃん、起きなよ」

ユサユサ

憂「朝だよ、お姉ちゃん」

唯「あと5分……」

憂「もう、遅刻しちゃうよお姉ちゃん」

唯「う~ん……」

憂「ほら、お姉ちゃん」

お姉ちゃん

ガバァッ
唯「憂!?」

唯「なんだ、夢か……」


唯(昨日は結局、またギー太と遊んで夜更かししちゃった……)

唯「うぅ……眠い……」

唯「ん?」

唯さんへ
昨日はありがとうございました
今日は午前中バイトがあるので、今から行ってきます
また何かあったら、下の番号に連絡下さい

-****


あと、コンビニで朝飯買ってきたので良かったらどうぞ

唯「聡君、ナイスすぎるよぉ……」


もぐもぐ

唯「それにしても、昨日は色々あってびっくりしたなぁ……」

唯「あずにゃんが悪い子だなんて、まだ信じられないけど」

唯「やっぱり放っておけないよね……」

唯「そうだ、あずにゃんにメールしてみよう!」

唯「最後にメールしたのはずっと前だけど、まだアドレス変わってないよね……?」

唯「ええと、何て打とう……」



久し振り、あずにゃん!
唯だよぉ~(絵文字)
最近、バンドの調子はどう??
ところで、ちょっと会って話したい事があるんだけど、
時間とれないかなぁ~?(絵文字)
お返事待ってま~す(絵文字)



唯「これで大丈夫かなぁ……?」

唯「ええぃ、送信しちゃえ!」
ピッ

送信中

唯「……よし、送れた」

唯「あとは、返事が返ってくればいいんだけど……」
――――――――――――――――――――

聡「はぁ、やっとバイト終わった……」

新着メール 一件

聡「お、メール来てる」

聡「誰だろう」



From 姉貴
ヤッホー聡、元気ぃ?
ちょっと近くまで来たから、今からそっち寄るね
じゃあよろしく



聡「ね、姉ちゃん!?」




最近ずっと連絡無いし、心配したんだぞ!
今アパート入れないから、外で待ってて
すぐ行く



ピッ
送信中

聡「一体どこをほっつき歩いてたんだ、姉ちゃんは……」

――――――――――――――――――――

受信中

唯「き、きた!」



From あずにゃん
唯先輩ですか!? お久しぶりです!(絵文字)
私はまだバンド続けてますよ、昨日も実はライブだったんです!(笑)(絵文字)
今日はちょっと忙しいんですけど・・・5時くらいなら少しだけ空いてます



唯「え、マジ!?」



ホントに!?
じゃあ5時に○○駅のスタバで待ち合わせしない??



送信中


唯「まさかこんなすぐに会えるとは……」


受信中


From あずにゃん
オッケー(絵文字)ですよ!
でわまた後で(絵文字)



唯「ど、どうしよう。おめかしして行かなくちゃ……!」


……

聡「えっと、どこにいるんだ……」

律「おーい! こっち、こっち!」

聡「あ、ね、姉ちゃん!」
律「よっ、久々」

聡「姉ちゃん……。髪、伸びたね」

律「ん~、まあな。立ち話も何だしさ、とりあえずどっかの店入ろうぜ」

――――――――――――――――――――
聡「姉ちゃん、最近どうしてたんだ? 母さんも全然連絡来ないって言ってたぞ」

律「ん~、まあ色々あってさ。聡は? ちゃんと大学行ってんの?

聡「行ってるよ。今日は日曜だから休みだけど」

律「ふ~ん、そっか。頑張ってんだな」

聡「姉ちゃん、うちには寄らないの……?」

律「うーん、今からちょいと用事あるんだよね……」

聡「まあ、無理にとは言わないけどさ」

律「時間あったらな……おい、携帯鳴ってるよ」

ブーブー

聡「メール……誰からだろ」



From
あずにゃんと連絡取れたよ~!
5時からスタバで待ち合です(絵文字)




聡「……唯さんだ」

律「唯ぃ? なんで唯から? お前唯とメールしてたの?」

聡「いや、こっちも色々あってさ……」


律「で、何て?」

聡「……姉ちゃん、今何時?」

律「今? 四時半だけど」
聡「ごめん、ちょっと行ってくる」ガタッ

律「あ、おい!」

聡「そうだ、姉ちゃん! 今日の夜は?」

律「いや、私も今から用事ある」

聡「そっか、じゃあまた何かあったら連絡してくれ」

律「え?あ、うん……」

聡「それじゃあ」ダッ

律「…………」

律(何だったんだ、あいつは……)

――――――――――――――――――――――――
唯「あずにゃん、遅いなぁ……」

唯「もう40分も遅刻だよ……」

唯「コーヒーも、三杯目だし」

唯「昔は、遅刻するのはいつも私の方だったのに……」

――――――――――――――――――――――――
キョロキョロ

聡「あ、いたいた。唯さーん!!」

唯「あ、聡君! 来てくれたんだぁ」

聡「ええ、念のため。唯さんに何かあったら困りますから」

唯「えっ……/// べ、別に心配しなくて大丈夫だよぉ……」

聡「にしても、遅いですねぇ……」

唯「うん……もしかして私、嫌われてんのかな……
?」

聡「いやいや、それは無いですって!
今スゲー忙しいみたいですし、またなんか急用が入ったんじゃないですか?」

唯「そうなのかなぁ。メールくらいくれてもいいのに」

聡「……とりあえず、これ以上待つのもアレですし、一旦帰りませんか?」

唯「うん、そだね……」

テクテク

聡「梓さんたちって、この前出したシングルが結構売れてて、今注目されてるんすよ」

唯「そうなんだぁ……私全然知らなかったよ」

聡「まあ、メジャーデビューしたばっかりですし」

唯「あずにゃん、高校卒業してからもずっとギター続けてたんだろうなぁ……あれ?」

聡「どうしたんすか?」

ガヤガヤ

唯「なんか辺りが騒がしくない?」

聡「確かに……何かあったんでしょうか?」

ガヤガヤ

ピーポーピーポー

唯「あ、今救急車が通ったよね? 聞こえた?」

聡「はい、聞こえました。事故かなんかっすかね?」

唯「さあ……もうちょっと近付いてみよう」

唯「ねぇ、こっちって私のマンションの方向だよね」

聡「……そうっすね」

唯「あ、見て! あそこ、煙が上がってる!」

聡「あ、ホントだ……」

ガヤガヤ

――おい、あっちで火事があったらしいぞ
――うわ、すごい煙!
――救急車通ってたけど、怪我人出たのかな?

唯「なんか嫌な予感が……」


近付いてみると、案の定、
燃えてるのは私の住んでるマンションだった。

唯「…………」

――すいません、どいて下さい!
――怪我人がいるんです。どいて下さい!

男「君、関係者の方かね?」

聡「あ、いや俺は……違います。彼女が……」

唯「ボー」

聡「ゆ、唯さん、しっかり!」

唯「あ、あずにゃんが……それと、ギー太……」

男1「こら、君! 危ないからどいてなさい!」

唯「あずにゃん、ギー太……」ダッ

聡「ちょっと、唯さん!」
ダッ

聡「無理ですって、危険だから下がっていましょう!」

唯「で、でも……!」

男1「君、ここの関係者? ご家族は?」

唯「あ、あの、中に猫が一匹……」

男1「猫……おい、さっきの奴どこいったぁ!?」

男2「先輩、どうしたんすか?」

男1「ほら、さっき黒い猫保護しただろ? あれどこやった?」

男2「ちゃんといますよ、ホラ、ここに」

猫「ぅにゃぁ~ん」

唯「あ、あずにゃん!!」


唯「よ、良かったぁ……ポロポロ」

猫「にゃぁ~」スリスリ

唯「で、でも、まだギー太が中に……!」

男1「まだ中に人がいるんですか!?」

唯「あ、いや、その、ギ、ギターが……」

男1「ギター?」

男2「ひょっとして、これですか……?」

唯「ギ、ギー太ぁ!」

そこには、見るも無惨に焼けただれたギー太の姿があった。
形は元が想像できないくらい変形して、色は真っ黒こげだった。

唯「そ、そんな……せっかくまた、仲直りしたのに……」

唯「もう一度歌おうって、約束したのに……うぅ……」

聡「唯さん……」

唯「……許さない」

聡「…………」


3
最終更新:2010年02月26日 01:12