私と母親が旅立つと決めた日
その日にも、そいつは私の所にやってきて言った


律「なぁ、ホントちょっとだけでいいからさぁ」


律「顔見せるだけで」


律「お菓子食って帰るだけでも!」


律「……な、頼むよ?」


律「このとーりっ!」

そいつが、あんまりにもしつこいから……

だから、私は言ってやった


澪「ごめん、実は……」

澪「ベース、無くしたんだ」


律「無くしたぁ!?」

律「……なんで?」


澪「実は、落としちゃってさ」


律「お、落としたって……どこで!?」


澪「…………」


律「な、なぁ、どこで落としたんだよ……?」


澪「…………」


律「お、おい……」


澪「…………」


澪「――で」


律「……えっ?」


澪「△△山の道中の崖で」


澪「山頂で弾こうと思って山登りしてたら……うっかり転んじゃってさ」


嘘だ……

澪「はは……」


澪「あそこなら、探しに行くのは無理だなって……」

澪「だから、諦めんだ」


律「…………」


澪「……そういう訳で、しばらく練習には行けない」

律「…………」


律「……そっか」

それから私は母親と一緒に電車に乗って、
慣れ親しんだ土地を後にした


でも心の中には、ずっとわだかまりが残ってた


電車の窓に、ぽつ、ぽつと雨粒がこぼれ落ちてきて


それがまるで私の涙を表しているようで、


不安で不安で仕方がなかった


……もしかしたら


……もしかしたら、探しに行ったんじゃないだろうか

ってさ

次第に雨はどしゃ降りになってきて……


……私は居ても立っても要られなくて


でもどうしようもなくて


私はただ、自分の愚かさと至らなさを憎んだ


それからも、雨は止むことなく降り続けて、


結局その日は一日中、太陽が私の前に顔を見せることはなかった


それから約一週間して


私は、あいつが入院したという噂を聞いた


「肺炎、だって」


それを聞いたとき私は、
驚いた……というよりむしろ、

「やっぱりか……」と思った


何故なら私は、本当は分かっていたから

あんな事言ったらあいつ、絶対探しに行くって


だから、私はもうあいつには会えない

会わす顔がない

きっと私の顔なんか見たくない

友達だなんて、思われていない

きっと……そうだ

あいつの前に顔を出すのは止めよう

あいつの中のアルバムから、私の存在を消去しよう

それで私の中のアルバムからも、あいつの存在を消去する

これで、完成

出来上がり。

私は友達を一人、失った訳だ



(おんなじだ……)




(この話、あの小説とそっくり……)




(そうか……)




(あの小説は、澪ちゃんの私小説だったんだ……)



それから、これは余談になるけど……


実家に帰った私は一人

大学にも行かず、

部屋にこもって小説を書き始めた

するとその小説がたちまちヒットして、

私のもとには見る見るうちにお金が入ってきた


他にも、出す小説は次々に売れ始めて、

終いには、ずっと遊んで暮らせるくらいのお金が手に入って、

借金なんか余裕で返せました……とさ


―――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

澪「これで、この話は、お仕舞い」

澪「どう、面白かった?」


唯「…………澪ぢゃん」

唯「……ゔぅ…………」

唯「たい゙へんだったんだねぇ、澪ちゃん…………グスン」


澪「ま、まあな……」

澪「でも、これで分かっただろう?」

澪「私は全然強くないんだ、って」

唯「……ぞんなごとない…………」


唯「……み゙おぢゃんは、十分戦っでたんだよ…………」


唯「………自分の、中で……」


澪「…………」


澪「………唯…」


唯「…………だがら……」

唯「………ぞの友達も゙、許じてくれるよ……」


唯「ぎっと………」


澪「…………」


澪「私は……」


―――――――――――――――――――
――――――――――
―――――

梓「……こんな時間まで、何やってるんですか?」

スタスタ

梓「……また、いつものアレですか?」

ドラム「…………」

ドラム「いや、別に……」


梓「……はぁ、ホントに飽きないですねぇ」

ドラム「まあ、何か習慣になっちまったというか」

梓「……ま、別にいいですけど」

梓「ちゃんと練習もやって下さいね?」

ドラム「分かってるってば」


ガチャン


ギター「……あ、なにやってんの?」

ドラム「…………」

ドラム「……ギターか?」

ドラム「お前こそ、どうしたんだ、こんな時間に?」

ギター「うん、ちょっと人に会いに……」

ドラム「外、すげぇ寒いぞ?」

梓「上、何か着ていった方がいいですよ……?」

ギター「大丈夫、すぐだから……」


―――――――――――――――――――

ヒュッーー。

ギター「うわぁ、ほんとにさむぅい」

ギター「はぁ~」

ギター「息、真っ白……」



ギター「………あっ…」

ギター「……待った?」

聡「…………」

聡「……別に、待ってねぇよ……」


ギター「うふふ……久し振りね、君から会いに来てくれるなんて」


聡「そうかな……」

聡「まあ、そうかもな……」


ギター「そうだよっ、」

ギター「……っとぉ」

ぎゅうっ

聡「おい……」


ギター「ふふふ……」


ギター「………ねぇ」


聡「…………」


ギター「あれ、試してくれた?」


聡「…………」


聡「いや、まだだ……」

ギター「…………えぇっ!?」


ギター「…………」


ギター「…………試して、ないのぉ?」


聡「…………」


ギター「せっかく、感想聞こうと思ってたのに……」

ギター「…………」


ギター「……あれ、すごいんだよ?」

聡「………凄い?」

ギター「うん、すごい」


聡「……何がだ?」

ギター「使ってみれば分かると思うけどぉ……」


聡「…………」


ギター「……行くことができるの」


聡「…………」


聡「行く? どこへ?」


ギター「うっふふぅ……」


ギター「天国ぅ!」


聡「…………」


―――――――――――――――――――

コンコン

女「はぁい、どうぞ」

ガチャ


男「失礼します」

男「……明日のご予定をお聞きするために伺いました」

男「お嬢様は、いかがなさるおつもりでしょうか?」


女「……う~ん」

女「……そうねぇ、まずは仕事を片付けないといけないし……」

女「……それから、」

女「そう、明日の予定が書かれた資料はあるかしら?」


男「はっ、ただいま」


―――――――――――――――――――

男「……ライブの時間帯の資料なら、こちらに」

スッ

女「ありがとう」


PM 8:30 *********

9:00 *********

9:30 *********

10:00 Nyan☆Nyans


女「22時、開始かぁ」


女「……結構、時間あるわね」


男「お嬢様、他のアーティストのライブは見に行かれないのですか?」

女「ええ、興味ないもの」


男「左様でございますか」

男「では、交通手段はいかがなさいますか?」


女「……そうねぇ」


女「車だと渋滞に巻き込まれるだろうし……」

女「…………」

女「……ヘリコプターなんてどうかしら?」


男「…………」

男「畏まりました」


―――――――――――――――――――

澪「ゆーいー?」

ガチャ

澪「……唯、調子はどうだ?」


唯「あ、お帰り澪ちゃん」

唯「調子は……うん、大分良くなったよ。今は頭も痛くないし」


澪「そっか。きっと風邪薬のおかげだな」


唯「うん……」


唯「…………はぁ」


澪「…………」


唯「……それにしても私……こんなタイミングで風邪ひいちゃうなんて……」


澪「……ひいちゃったものは仕方ないさ」


唯「そうだけど……」


唯「…………」


唯「……なんか、前にもこんな事あったよね」


澪「学祭の時のことか?」


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最終更新:2010年02月26日 01:20