ギィ


聡「ほら、やっと上まで着きました」

聡「ここからでも十分、景色が綺麗ですねぇ」


聡「多分、上に行ったらもっと綺麗で……」


聡「さぁ、行きましょう?」


唯「や………」


唯「やっぱりダメ!」


聡(チッ、まだ渋るのかコイツ……)


聡「じゃあ、唯さん、聞いて下さい」


唯「………なに?」


聡「……実は俺、唯さんに言いたいことがあって……」

唯「……言いたいこと?」


聡「……そう」


聡「実は、俺……」




聡「この前、唯さんと久しぶりに再会してから……」



聡「ずっと唯さんの事が、好きだったんです」



唯「…………」


唯「うそぉ……」


聡「本当です」


聡「……さぁ、行きましょう?」


唯「…………」



聡君が、私のことを好き?

そんなの、信じられない


でも……でも、聡君がそう言ってるんだし……


聡君は……ウソなんかつかないよね?

どうしよう……


このままだと私……きっと、流されちゃう……


どうする……


…………


…………頭が痛い


また、風邪が悪化して…………痛い……


……あ~もういいや


どうにでも、なれ……



唯「……いいよ、行こう」

女「ちょっと待ったぁぁぁーーーー!!!」


唯「ビクゥッ!


唯「……な……なに……?」


女「……おい聡、唯を連れていってどうするつもりだ?」


聡「…………」


聡「ね…………」



聡「姉ちゃん……」

聡「…………どうして、ここに?」


律「どうして、ここにぃ?」


律「お前がまた馬鹿な事やってるからに、決まってんだろ!」


聡「ば、馬鹿って……俺は別に、何もやってない」


律「何もやってない、ねぇ……」


律「…………はぁ」


律「……唯のアパートに火ぃ付けたの、お前だろ?」


唯「…………えっ?」


聡「お、おい姉ちゃん、何言って……!」


律「――あの日」


律「私が久しぶりにお前に会いに行った日」


律「あの日からしばらく、お前の跡をつけてた」


律「……私は、お前がバンドのメンバーと不信な取引をしてたのを知ってた」


律「セミアコースティックギターの中に、物を隠してな」


律「それで、真相を突き止めるために、お前の跡をつけることにしたんだ」


聡「…………」


律「私は、お前が取引をした物をどこにやったのか突き止めようと思った」


律「――あの時、唯からメールがあったよな?」


律「急いで戻ったお前を不信に思い、私はすぐに跡をつけた」


律「お前は、唯のアパートの前でずっと隠れていた」

律「……どうしてお前はすぐに中へ入らなかったのか?」


律「恐らく、唯がまだ出かけていないと思ったからだ」


律「きっと、唯の待ち合わせの時間まではまだ余裕があったんだ」


律「それで、唯が確実に出たと思われる時間に、こっそりと中に入ろうと思った………そうだろ?」


聡「…………」

律「そこで私は、先回りして唯の部屋に行くことにしたんだ」


律「唯に警告するためにな」


律「……ところが、唯はすでに出掛けた後だった」


律「……おまけに部屋の鍵、空いてた」


唯「あ、しまった……急いでたから……」


律「私は申し訳ないと思いつつも、勝手に部屋に上がらせてもらうことにした」

聡「…………」


律「そこで、見つけちまったんだよ……」


律「お前がずっと探してた、アレを」


律「私はそれを調べるために、急いで部屋を後にした」


律「……でも、それが失敗だったんだ」


律「唯の部屋に入ったお前は、必死でアレの在処を探した」


律「しかし、どこを探しても見当たらない」


律「……部屋の隅々まで、探しても」


律「そうこうしている内に、時間がどんどん過ぎていく」


律「それでお前は、証拠隠滅のために、仕方なく……唯のアパートに火を付けたんだ」

律「私が気付いたときにはもう遅かった」


律「炎が燃え上がり、消防車がやってきた」


律「急いで唯のところへ行ったお前は、被害者面して一緒に帰ってきたんだ」


律「……とまあ、こんなところだろ?」


聡「…………」


唯「…………」

聡「…………」


聡「証拠は……」


聡「証拠は、あるのかよ……?」


律「もちろん」


律「お前が手に入れ損なった、アレ自体を私は持ってるんだ……」


ガサゴソ


律「……ってあれ」


律「無い……」


律「……っかしいな、どこにやったんだ……?」

唯「あ、あの……」


律「……んー?」


唯「その、『アレ』って……もしかして、これのこと……?」


律「……へ?」


律「ペット……ボトル?」

唯「……うん」


唯「実は私、ちょっと前から変な人が跡をつけてるのに気付いてて……」


唯「それで、ジェットコースターに乗った後、飲み物を持ったんだけど……」


唯「なんか、重いなぁ……って」


唯「よく見ると、カップの横に粉みたいなものが付着してるし」


唯「それから、私の後ろを付けてる人、見覚えがあるなぁって」


唯「……確かあずにゃんのバンドのギターの人……?」


唯「とにかく、何か混ぜられたんじゃないかと思って、捨ててくることにしたんだ……」


唯「それから、聡君がいきなり私のカップを取って飲もうとして……」


唯「……慌ててそれを止めてから、飲んだふりして空のペットボトルの中に入れておいたの」

唯「今の話を聞くと、もしかしてその粉って、これのことじゃ……?」


律「……えらいぞ、唯ぃ!」

律「きっとそうだ、多分ギターが私のカバンから取って行ったんだ……!」


聡「…………」


―――――――――――――――――――


ギター「…………」


ギター(あちゃあ、かんっぺきにバレてるし……)


ギター(仕方ない、聡は放っておいて逃げるか……?)




律「どうだ、聡? ……そろそろ観念した方がいいんじゃないか?


聡「…………」


聡「………唯さん」


聡「唯さん、今の話、ホントに信じるんですか?」


聡「あんなの、デタラメですよ」


聡「さぁ、俺と一緒に行きましょう?」


唯「…………」


聡「……さぁ早く、行きましょう!」


聡「俺と、一緒に!!」


唯「…………」


唯「あんたなんか……」



唯「あんたなんか、こっちからお断りだよ!!」


唯「べぇ~っだ!!」


聡「……チッ」ダッ


律「あ、おい、待て!!」


律「クソ、逃がすか……!!」ダッ


律「唯、追いかけるぞ!!」


唯「ま、まって、りっちゃん!」


ギター「お~い、聡~こっちこっち~!」


律「あ!! あの野郎……!」

唯「ま、待って、みんな……!」

唯「はぁ、はぁ」


唯(や、ヤバい……また、熱が上がってきた……)


唯(……頭が痛い……)


唯(どうしよう、皆に置いていかれちゃう……)


唯(あ、もうダメ……)


ふらぁっ


律「ゆ、唯っ!!」

ガシッ


律「……唯、大丈夫か?」


唯「りっちゃん……」


唯「……早く追いかけないと、逃げられちゃうよ……」


律「……お前……もしかして、熱があるのか?」


唯「ううん、大丈夫……」


唯「それに、りっちゃん、ライブの時間……」


律「あ、し、しまった……!!」


―――――――――――――――――――

PM 9:30


聡「はぁ、はぁ……」


聡「くそ、とんだ大失態だったな……」


ドンッ


女「きゃっ!」


チャリン


聡「あ、わりぃ、わりぃ。急いでるんで」


女「いたたた……」

男「――お嬢様、おケガは!?」

パン、パン

女「うん、大丈夫……」


男「くそっ、あの野郎……!」

女「だ、大丈夫だってば……」


女「それより、今何か落としていったみたいだけど……」


女「なにかしら、これ……?」


男「? 見たところ、コインロッカーの鍵のようですが」


女「ロッカーの鍵?」


女「う~ん、今の人はもうどっか行っちゃったし……」


女「斎藤、この鍵のロッカーを大急ぎで調べて……私のところへ持ってきてくれる?」


男「畏まりました、お嬢様」


女「私は先にライブの方へ行ってくるから」


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最終更新:2010年02月26日 01:25