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※人間関係や校舎の構造など、設定は都合のいいように改変しています※


憂「うう……」

目を覚ますと、ひんやりした床の刺激をまず感じた。

憂(どこ、ここ……)

すぐに夜中とわかる暗闇のなかで、わずかに月明かりが差し込んでいる。
手に触れる木の感触、左右に並ぶ、月光を反射する金属製のロッカー。

憂「更衣室……」

ぼんやりと働かない頭で、状況を理解しようとする。
ここは体育館併設の更衣室で、主に部活に入っている生徒達が使っている。
当然、こんなところに入り込んだ記憶はない。

憂(どうして……)

体を起こすと、頭がずきずきと痛み出した。
固い床に寝ていたせいか、背中や腰もきしむように痛む。

今日は放課後、確かに家に帰りついたはずだった。
でも、そのあとのことが思い出せない。家に帰ってかばんをおいて――。

憂(なんでもいいけど、早く帰らないと……!)

ふるふると頭をふり、ロッカーを支えに立ち上がる。床に引っ張られているように、体が重い。


引きずるような足取りでようやく出口までたどり着くと、戸の前に小さな椅子が置いてあることに気がついた。
そして、その上にある木製の小箱にも。

蓋の開いた箱のなかに、小さなテープレコーダーが入っていた。
手に取り、恐る恐るしかし導かれるように再生ボタンに指を伸ばす。


「やあ、憂」


憂「!!」

変声機に違いない、平たく潰れた気色悪い声。
憂は動揺して、思わずレコーダーを落としてしまった。
それを予期していたように、間を開けてテープはしゃべりだす。


「君はこの数ヶ月、心に歪んだ陰を作り、憎悪と復讐に生きてきた」

「姉を死なせた上級生と学校への復讐」


憂「な、なに…」


「姉の命を奪ったその連中は信じられないことに――」

「学校側の隠蔽工作によって、罪を逃れた」


憂「なんなの……!!」


「今日は私が、君に試練を与えよう」

「それから逃れるには、一連のテストを受けること」

「テストをパスするには、苦しみがともなう」

「だが毎回、チャンスが与えられる」


憂「誰かっ……」


「人を赦すチャンスだ」

「無事に通過できたら約束する」

「君を対決させよう」

「君の人生に責任がある女と」

「それが最後のテストだ」

「その者を赦せるか?」


「急ぎたまえ」

「60分後、君に打った遅効性の毒が全身に回り、この学校が君の墓場となる」


憂(ウソ……そんな……)

そんなこと信じたくはなかったが、テープの発言を裏付けるように、頭痛はいっそう激しさを増す。

憂(誰か……助けて)


「解毒剤は、最後のテストにパスしたときに与えられよう」

「運命のときだぞ、憂」


「 ゲ ー ム 開 始 だ 」


和「……ッ!!」

和(私、誰かにっ……)

家に入った瞬間、誰かにうしろから襲われた。それで、口をふさがれて――
あわてて周囲を見渡す。ほとんど真っ暗闇だったけど、すぐにここがあの音楽準備室だとわかった。
ぼんやりとした非常灯のような緑の光が、部屋に不気味な雰囲気を投げかける。

和(こんな灯り、この部屋にあったっけ?)

和(そんなことより、早く家に……いや警察に行ったほうが……もしかしたら強盗かも――)

和(なんにもなきゃいいけど……)

家で襲われた自分がなんでこんなところにいるのかなど考えもせず、和は駆け出すように出口に向かった。
しかし。

和「開かなっ……鍵…!?」

教室のドアは、本来内側から自由に錠を掛け閉めできるような構造になっている。
この部屋も例外ではなく、ノブにはそのためのつまみがついている。

和「なんで、なんで……!?」

何度ノブを回そうと、何度つまみをひねろうと、ドアはびくともしない。
ガチャガチャとむなしい金属音だけが、暗い部室に染み渡る。

和「誰かっ! 誰か助けて!!!」


和「……」

何十回目かの乱暴なノックで、ドアはあきらめた。

和「窓……窓から出れるわ」

きびすを返し、窓に向かう。

和「なんで……」

あったはずの物がなくて、なかったはずの物がある。
窓一面を覆うシャッターの冷たい感触に、和はがっくりとひざを突いた。
何度もシャッターを叩くことさえしなかった。
案の定、音楽室への扉も開かない。

ふと、光る物が目に止まった。なにかと思って身構えたが、なんのことはない。
軽音部がティータイムで使っている、デザートフォークの金属光沢だ。

ふらふらとそこまで歩いていき、机に両手を突いてうなだれる。

和「どうなってるの……?」

そのとき、見慣れたフォークの先に、見慣れない物があることに気がついた

和「テープレコーダー……」

すがるような気持ちで、再生ボタンを押した。不思議と躊躇はなかった。


 「やあ、和」


和「……!?」

心臓が一回、大きく収縮した。
どんなドラマや映画でも聞いたことのない、胃袋をなでまわすような気味の悪い声。


「君は自分の欲望のため、他人を欺きながら生きてきた」

「その欲望のために、身近な者の悲劇に目をつぶり、助けようともしなかった」

「その『悲劇』については、君も心当たりがあるはずだ」


和「……」

思い当たる節は、あった。


「君には今日、そんな生き方を悔い改め、より良い人生を迎えるチャンスを与えよう」

「君にそのつもりがあるのなら、信頼と友情のすばらしさに気がつくことだろう」


突然、視界の右側で緑の光が力を増した。
反射的にそちらに目を向けると、一人の女子が仰向けに倒れていた。

和(澪……?)
和「澪ぅっ……」
和(っ・・・!?)

突き上げるような強烈な吐き気に、耐える間もなく嘔吐する。
机を汚さないように、顔を背けるのが精一杯だった。


「君はいま、毒に冒されている」

「この閉ざされた部屋のなかで、君が助かるにはその女が鍵となる」


和「そんな……なんでこんな」


「その女は、君とおなじ罪を背負っている」

「自分の欲望のため、悪を見過ごし、悲劇を見逃した」

「君は自分とおなじ罪を持つ彼女を裁けるか?」

「君を救う重要な物は、彼女のなかに納められている」

「ナイフを取りたまえ、和。そして、今後自分がより良い人生を送るため、いったいなにが必要なのか、よく考えるのだ」


テーブルの中央には、ところどころ錆ついた古めかしいナイフが置かれていた。
すがるように手を伸ばす。

和「これで……」

彼女のなか。ナイフ。

和(ま、まさかね)

それでも恐る恐る、倒れている澪のもとに近づいていく。ナイフを握り締めたまま。

和(……!?)

見ると、澪の腹の上にはA3ほどの封筒が載せてあった。中央に、明朝体の印字がある。



「なかを見ろ、和」


その下の澪の腹部がはだけているのがわかって、目を伏せながらひったくるように封筒をつかんだ。

和「……!」

出てきたのは、レントゲン写真。腹部に、これ以上ないくらいくっきりと、鍵の形が写りこんでいる。

和「そんな……」

ややあって、実体を見やる。

和「うっ」

白い肌に血のようなマーキング。紛れもない胃の位置が、赤の油性ペンで丸く示されていた。
思わず行為の結果を想像してしまう。再び、吐いた。


そのとき、澪が目を覚ました。

澪「は……!」

澪「うあわっ! んぎやぁああっ!」

暴れに暴れた。
あの恐ろしい豚のマスクをかぶった怪人から逃れたくて、あらん限りの力を出した。

澪「ぎゃああああああ、ごめんなさいごめんなさい!!」

澪「……っさいっ……」


「ぉっ……澪っ」


澪「ひぃっ……?」

「私……」

澪「の、和……?」

一瞬、安堵した。
同時に、白い光が目を射す。


「やあ、澪」


天井につるされたモニターに、恐ろしい顔が映し出される。
ピエロのようだが明らかに違う、ことさらに恐怖心をあおるような白い仮面。

澪「ひぃ!」

澪「の、のの和、なんだよー……どうなってるんだよぉぉ」

和「……んと……」

澪「…え?」

和「ちゃんと、聞いたほうがいいかもしれないな……」

澪「……」


「君はいま、自分の犯した罪により命の危機にさらされている」


澪「えっ……な……罪って……」


「君は自分の気持ちを優先させるあまり、部内での凶行を止めようとしなかった」

「君は、田井中律をいつでも止めることができたはずだ。しかしそれをしなかった」

「田井中律に嫌われるのを恐れたのだ」


澪「それはっ……」


憂「……」

その後の指示に従い、格技場の前まで来た。

入り口の前に、椅子が置いてある。先ほどとおなじように、木の小箱も。
なかの紙切れを手に取る。

憂「……!」


写真だった。軽音部部長、田井中律。
姉を死に至らしめた、主犯とも言える女だ。


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唯(ケーキおいしそう……)

律「唯も食べるか? ほら、やるよ」

唯「えっ、いいの?」

律「いいっていいって、私たち友達だろ?」

唯「う、うんっ!!」

ポロッ
律「あっ、落としちまったww」
グチャ
律「ついでに踏んじまったwwwww」

唯「あうぅ……」

律「でも食べるよな? 私たち 友 達 だもんなぁ?」

律「なぁ!!?」

唯「……うん」
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唇をかむ。写真の裏にはこうあった。

「なかへ入れ、憂」


格技場のなかは真っ暗だった。しかし、なにかの気配は感じる。
手探りで何歩か前へ進んだとき、背後の入り口が勢いよく閉まった。同時に、照明が点灯する。

憂「!!」

照らし出されたのは、畳の上に鎮座する巨大な機械仕掛け。
その中央に、少女がくくり付けられていた。

憂「田井中……律」

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律「なぁ、腕ひしぎってこれでいいんだっけか?」

唯「いたいいたいっ……やめてよぉっ」

律「なーんか極まってない気がするんだよね」
グググ
唯「あああああああ――」

ミシッ
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近づくと、機械仕掛けの一部はドラムセットで構成されていることがわかった。
律は、四肢をその各打楽器の上に乗せるように拘束されている。

右手がライドシンバル、左手はクラッシュシンバル。
右足はスネアタムで、左足はフロアタム。そして、胴体はバスドラム。

律「たす……け」

憂「!」

律「う、憂か? 助けてくれ……!」

そばには、先ほどとおなじ型のテープレコーダーが置かれている。

律「頼むっ……!」

無言のまま、再生ボタンを押した。


「君は選択を迫られている」

「この女は、君の姉に苦痛を与え、それを喜びにしていた」

「最も赦しがたい女だ」

「しかしいま、君は彼女を救うことができる唯一の人間となった」

「このテープが終わると、機械は2分ごとに彼女の体を破壊しはじめる」

「機械を止め、拘束を解くことのできる鍵は――」

ガタンッ

憂「あっ……」

音のした方を向くと、幾つものぬいぐるみが、薄明かりのなかで散らばっていた。
どれも、唯が作ったものだ。いまも、ベッドで抱きしめながら寝るほどに、大切にしている姉の形見。

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唯「うーいー、ほら、上手にできたよぉ」

憂「わ、かわいいウサギ。お姉ちゃんすごい上手だねぇ」

唯「へへー、憂の教え方がうまいから」

唯「ねぇ、他の動物の作り方も教えてー」

憂「お姉ちゃん、それより……学校のことだけど……」

唯「う、憂ー、ここどうやるのー?」

高校に入り唯はまったく、学校でのことを教えてくれなかった。
これが極めて危険な兆候であることに、すぐに気づけばよかったのだ。
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遅すぎる後悔を胸によみがえらせる憂を尻目に、テープは残酷な事実を告げた。


「鍵は、あのなかのどれかに入っている」

「彼女を赦すことができるか?」

「出口は、装置が正しく停止したときに開かれる」

「急ぎたまえ、君にも彼女にも、時間の余裕はないぞ」


ビィー!

唐突に、ブザーが鳴った。。
別の照明がつき、試合用のデジタルタイマーが二つ、姿を現す。

憂「!」

ひとつは、9分58秒、そしてもうひとつは、54分32秒を示している。

憂(54分は、私の残り時間……)


律「頼む、憂! 助けてくれ!!」

カチカチッカチカチ

律「頼むッ! このままじゃ死んじまう!」

律「頼むッ!!!」

憂「うるさいっっ!!」

憂「死んだよっ、お姉ちゃんは死んだ!!!!!」

カチカチ

律「うっ……」

憂「お前のせいだ!! これも……なにもかもっ!」

憂「お前に、お姉ちゃんの千分の一の苦しみでも味わったことがあるのかっ!!!」


精一杯強がりながらも、憂はこの機械仕掛けに腰が抜けそうなほどの恐怖を感じていた。

憂(破壊される……)

律の右足の真上にある、巨大な肉たたきのようなハンマー。あれがあのままじっとしているとは到底思えない。
シンバルの上では、鋭利な刃物がぎらついていた。そして、彼女の真上には、足の太さほどもある巨大な杭が――。

憂(怖い……)

波打つような頭痛とあいまって、思わず倒れこみそうになる。



カチカチカチカチカチ

律「悪かったよ……悪かった……頼むから助けてくれ」

律「この機械が動いてる音を聞いてると気が狂いそうなんだよぉ」

カチカチカチ

憂(赦す……)

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律「なあ、首吊りって、ほんとに死ねんのか?」

律「試してみたくない?」

律「ほら、いい実験台もいることだしさー」
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カチカチカチカチ

憂(赦せないよお姉ちゃん……絶対に赦せない……)

律「憂……お願いだ――」


ジャーン!!

不意に、シンバルがけたたましく鳴り響いた。そして、それをも切り裂く甲高い叫び声。


律「ぎゃあああああああああああああああああああああああ」

憂「ヒィイッ……」


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最終更新:2010年02月27日 01:36