ん…ここどこ!?真っ暗だ…

目を覚ますとそこはどこまでも深い闇の中。
唯を微かな光が包む。

待ってたよ

闇の底から聞こえた知らない声。
でもその声を唯は生まれる前から知っている気がした。

だ、だれ?

残された時間はもうない

唯の言葉は聞こえていない。
闇の底に唯の声が届くはずがなかった。
闇の住人は話を続けた。

キミの旅は朝日とともに始まる
いずれキミを見守る光は落ち夜が訪れる

どこまで歩いても
どれだけ経っても
日は昇らない

でもあきらめないで
キミの一番近くに光はある

な、なんのことやらさっぱり…

キミの力

響きの力
心を魅了する癒しの音色
苦しみさえも伝える道連れの鼓動

キミのチカラはカタチとなり
カタチはチカラを与える
これがキミのカタチ

スウ…

わあ!

唯を包む光が右の掌に集まる。
守ってあげないと今にも消えてしまいそうな光。
思わずそっと手で包み込む。
するとその光は姿を現した。これが唯のカタチ
鍵のような、剣のような、ギターのようなカタチ
でも間違いないこと。それは

ギー太ァ!!

姿は変わっても唯にはそれが分かった。
しかし唯の感動もつかの間、闇の住人は唯の反応を待つことなく話を進める。


キミには覚えてほしいことがある

パアア!

ふお!まぶしい!

闇の底、声のする方から力強くもどこか脆さを感じる一筋の光が唯を照らす。

光が強ければ強いほど影は大きくなる

その言葉に何気なく振り返る。
影は唯の言うことを聞かず意思を持つかのように動いていた。
そしてその影は主人である唯さえも飲みこんだ。

恐れないで

キミは世界一強い武器を持ってる

その名は…


だから忘れないで

その扉を開くのは…


薄れゆく意識の中
微かに聞こえていた声も闇に消えていった。


……

梓「憂~!」

憂「あ、梓ちゃん。おはよう!]

梓「ねえ!憂っていったい集合の何分前からいるの!?
これじゃ私がいつも遅れてるみたいじゃん!」

憂「早い時は20分位前からいるかな?」

梓「はや…」

そうかな?気にしなくていいよ。いこっか。

今日は天気がいいので憂と梓は買い物に出た。
軽音部がよく行く商店街を梓が案内し、
帰りにそこらの店で甘いものを食べるお決まりのコースを周る。
そして辺りも随分暗くなり家路についたときだった。

梓「楽しかった?」

憂「うん!ここは色々あって楽しいね。」

梓「よかった。まだ周ってないとこあるから今度は純も誘って―」

ドン!
梓「ひゃう!」

梓の膝の辺りに何かがぶつかった。
暗くて見えなかったその何かは
生き物のような感触ではあるが無機質的な冷たさを持っており思わず声をあげた。

憂「あ、梓ちゃん…」

憂が声を震わしながら一歩引いた。
梓もその反応に恐る恐る後ずさりする。するとその姿がはっきり見えた。

梓「なに…これ…?」

その小さな影の怪物はその不気味に光る眼で憂を物欲しそうに見ている。

ココロ…クレ…

次の瞬間、怪物は憂は飛びかかっていた。
周りを見渡すと囲まれていることに気付いた。
次から次へと憂に襲いかかる。憂の姿はもう見えない。

置いて…にげて…

梓「助けるからそんなこと言わないで!」

梓が影達を引き離そうと引っ張るがその力は体の大きさの割に強く
女一人の力ではどうしようもない。それでも梓はあきらめずに引っ張り続ける。

にげ…て…

憂の声はここで途絶えた。
すると影達はあわて始めた。

ヒカリ…ヒカリ…キエタ…ドコダ…

何があったのかは分からないが何事もなかったかのように影達は暗闇に消えて行った。


そして憂の姿が見えた。すでに意識を失っている。

梓「うい!おきてよ!もういなくなっだよ。ねえ…返事じでよ…」

無情にも返事は返ってこない。
なにもできなかったことが悔しくて思わず涙が出る。
そのまま梓は道端で何時間も泣きじゃくっていた。

あず…にゃん…?

そこに現れた聞き慣れた声。梓が今一番顔を合わせたくない人。
よりによってなぜこの人が来たのだろうか。
憂を一番思う人を目の前に、梓はどんな声をかければいいのか分からない。

梓「先輩…」

梓は言葉に詰まりうつ向いたままだった。
そんな梓を唯は優しく抱きしめた。いつものように。

大丈夫だよ…あずにゃん。

一番悲しいはずのその人は梓が泣きやむまで大丈夫だと言い続けた。
まるで自分に言い聞かせるように。


それから数日が経つが未だに憂は家のベッドで眠っている。
怪物に襲われた話など誰も信じてくれないと思ったこと。
すぐに目覚めるんじゃないかという希望。
それらのことから唯は病院に連れていくことはなかった。
そして梓は音楽室に顔を出さなくなっていた。


ん…ふお!寝過した!いま何時…ちこくちこく!!

いつもに増して急いで支度を済ませた。しかし肝心なものがない。

唯「ギー太!ない…ない…学校に忘れたかな…今行くよギー太!」

慌てて飛び出す唯。
今日は外がやけに静かだった。
まるで世界に唯しかいないかのように。
そして唯一の騒がしい音は学校の教室まで走りこむ。

唯「ぎりぎりせーふ!」


あれ?

教室には誰もいない。
ここで唯がやっと異変に気がつく。

唯「今日休み…!?で、でも平日だし…
それに…校門も空いてたし玄関だって…え、何これ怖い…」

だが真実には程遠い。

~♪

唯「ひいい!!!!」

学校の不気味な静けさの中に響く静かな音。
あまりの機のよさにさすがの唯も驚いた。
しかしよく聞くとその音は聞き覚えのある音。

唯「あれ…?でもこれあずにゃんのギターの音だ…あずにゃんいるのかな…?」

恐怖を感じながらも足はすんなりと音に向かって行った。
音楽室の扉のガラスから恐る恐る中を覗き込む。
そこにはやはり梓がいた。

ガチャ…

唯「あずにゃん久しぶり!会いたかったよ~!」

私も待ってましたよ。
さあ、行きマしょう。

唯「ふえ!?どこに?」

憂ヲ…助ケにですよ…

梓が手を差し出し闇へと誘う。
唯は必死に手を伸ばすが届くことはない。
その距離はとても深くて長い。

そして地球は闇に包まれた。




アンセムレポート0

どんなに純粋な者の心にも。

たったひとかけらの闇が、ふとしたきっかけで大きくふくらみ

やがて心のすべてを闇に染めてしまった例を、私は何度となく見てきた。

心の闇。

どこから来て、どこへ行くのか。

この小さな世界を治める者のつとめとして、どうしても知っておかねばなるまい。

闇にとらわれた者どもが、この世界の平和を乱す前に…






―トラヴァースタウン―

お嬢さん…お嬢さん…

律「ん…は!?なんで外で寝てんだ!?」

飛び起きた律には状況が全くつかめなかった。
記憶の中ではさっきまで教室で澪や紬と喋っていたはずだからだ。
それが気付くと知らない街の路地裏に律は倒れていた。
少し落ち着いて辺りを見渡すと澪と紬も一緒にいた。

律「澪!ムギ!起きろ!」

二人は目を覚ますとまず自分の目を疑った。
律に答えを見出そうと目を合わせるが律は横に首を振った。
とりあえず情報を得ようと目の前にいる青い魔道服?を着たおじさんに問いかける。

律「おじさんは誰?」
マーリン「わしはマーリンじゃ。こんなとこで寝ておると影に飲まれるぞ?」
律「影?…てか私らも知らない間に外にいたんだよ!」
紬「マーリンさん、ここはどこなのかしら?」
マーリン「トラヴァースタウンじゃよ。なんだお主らは新人か。」
律「新人?」
マーリン「お主らの世界も影達に飲まれたんじゃろう。」
律「へ?」

もはや何が起きたのか分からなかった。
しかし紬は現実と認め話を続けた。

紬「詳しく話していただけますか?」

マーリン「うむ。おぬしらには光の相が出ておる。話しておかなくてはならないじゃろう。
     しかし、お主らの他に仲間がおらぬか?そのものが鍵を握っておるようじゃ。
     その者と出会ってからまた来なさい。」

律「他に仲間?」

澪「もしかして唯か梓じゃないか?」

律「あーけいおん繋がりか…でも鍵ってなんだ?そんなの持ってるか?」

マーリン「そやつを探すには武器を持っていた方がよいじゃろう。」

律「なんで武器?」

マーリン「お主らは影と戦う運命にあるようじゃからな。いずれわかるさ。ほれ。」

そう言うと魔道師は律の凸に触れる。
そのあと澪、紬と順番に触れて行く。

マーリン「よし。では目を閉じてごらんなさい。」

律「こうか…?」

こんな胡散臭い話にももはや疑う気は起きなかった。
そして言われるがままに律達は静かに目をつむった。

マーリン「今ならよく見えるはずじゃ…」

暗闇に浮かぶのは今にも潰れてしまいそうなほどに小さな光。
その光をおもむろに手にする。


シュイーン!ズシ!

律「うおわっ!」澪「ひゃっ!」紬「きゃっ!」

その小さな光はカタチを現した。

律「バスドラのハンマーだ!」澪「ベースの…剣かな?」紬「私のはライフルだわ。」

マーリン「それがお主らの心から作られた武器。ではまた会おう。」

ポン!
律「うお!」

マーリンはそう言い残し、軽快な音を立てて消えて行った。

律「なんか向こうが当然のように話すから普通に聞いてたけどさ…」

澪「とんでもない世界に来たみたいだな…」

紬「でも楽しそうじゃない?」

律「まあ私はいいけどさ。」

何か言いたそうに澪を見つめる。

澪「な、なんだよ。」

律「戦う運命にあるとか何とか言ってたぜ?」

ぜえったいにい~や~だあああああああああああ!!!!!!!!!!


……

起きて……起きて……おき…

唯「ふお!いま何時ってえええ!!!!!」

周りを見渡すと影達に囲まれていた。
また知らない街にいることがさらに心を煽る。

カギ…イラナイ…ココロ…ホシイ…

唯「か、カギ!?な、なんのこと!?」

ドシーン!カチャカチャ!

唯「ふええええ!!!!!」

唯の混乱に追い打ちをかけるように目の前に大きな鎧が現れた。
鎧の四肢は体から独立し自由自在に動かすことができる。
そいつはどうやら影たちの親玉のようだ。

カギヲワタセ…

唯「は、はい!これうちのカギですどうか勘弁して下せえ!」

ドス!
唯「ふぐっ!」

ドシャア!!

不意に唯の脇腹に鎧の拳が飛ぶ。
唯は何メートルか吹き飛んだ。


カギヲワタセ…

唯「そ…そんなの知らないってばあ…」

ドス!グシャ!

鎧は何度も同じ問いかけをしながら何度も殴る蹴る踏みつけるを繰り返した。
唯は見る見るうちにボロボロになっていく。

唯「もう…ダメ……うい…あずにゃんも助けれなくて…ごめ―」
グシャ!




ズキューン!カーン!

甲高い音が唯の意識を引き戻す。

唯「…て……ぽう…」

ナンダ…?

そのきたねえ足どけやがれええええ!!

ズッドオオオオン!!!ズッシャアアア!!!

豪快に振り回した一撃がその巨体をとらえ吹き飛ばす。

しっかりしろ!!

その言葉とともに誰かに体を抱きかかえられた。

唯「み…みお…ぢゃん…!」ポロポロ

唯を抱えるのは澪だった。
そして目の前には自分のために戦っている律と紬がいた。

唯「も…もう…だめがどおもっだ…ごわがったよおお…」ポロポロ

澪「よくがんばったな!えらいぞ!みんないるからもう大丈夫だ!」

そういって頭をなでてやるとボロボロになり泣きながらもいつもの最高の笑顔を返した。
そのあと澪は懐からあるものを出した。

澪「ポーションだ!これを飲めば傷もすぐに治るらしい。ゆっくり飲んで。」

ゴク……ゴク……

そして唯は安心したのか目を閉じ眠りについた。

澪「がんばったな…まってなよ。」

律「みお!!あぶない!!」

澪「え?きゃあああ!!!!」


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最終更新:2010年03月03日 00:45