澪は何かに気づいていたみたいだけど…まあいいわ。私の感覚が正しかったら律は澪次第で元に戻る…問題はどうやって戻すかだけどね。
ぐったりと壁にもたれかかる和。
和「ここのS.T.A.R.S.も全滅かしらねこの様子じゃ……」
「──────」
「─────────」
声が聞こえる、下の階からの様だ。和は壁から身を出して声をかけた
和「お~い」
────────。
唯「じゃ近道使って地下へ行こっか」
梓「そう言えば唯先輩ってここの警察官でした。忘れてました」
唯「失礼だよあずにゃん!」
梓「ごめんなさい(唯先輩すっかり元気になったみたいで良かった…)」
「お~い」
唯「ん?あっ!和ちゃん!」
梓「(あれ?でも肩怪我してる…何かあったのかな)」
和「そこの梯子から上がって来てくれない?」
唯「は~い」
梓「こんなところに梯子があるなんて。これでだいぶ行き来が楽になりそうですね」
二人は梯子を登り二階に上がった。
唯「和ちゃんその怪我…」
和「いいのよこれは。もう済んだ話だから。それに澪に治療してもらったおかげで出血も止まったわ」
梓「澪先輩と会ったんですか?」
和「えぇ。もっとも今は恋人の説得に行ったわ。私は振られちゃったわね」
和は冗談半分で言ったつもりだが唯はそんな和を抱き締めた。
唯「和ちゃんには私がいるよ」
和「ありがとう唯。でも後ろに嫉妬してる仔猫ちゃんがいるから程々にね」
梓「…………」シュン
唯「あずにゃんもぎゅ~」
梓「///」パアァァ
和「さてと、じゃあこの辺りで一回合流しときましょうか。これからの話もしたいしね」
唯「二人がどこへ行ったかわかるの?」
和「正確にはあの仮面男入れて三人だけど…」ボソ
梓「?」
和「律は地下に向かった筈よ。唯、この警察署の施設でチェスの駒の様なプラグを差し込む場所って知ってる?」
唯「う~ん確か下水処理場前のドアにそんなのがいるとか書いてたような」
和「多分それね。律のポシェットにそれとおぼしきプラグが入ってたから間違いないわ」
梓「律先輩とも会ったんですか?!」
和「えぇ」
梓「じゃあもしかしてその傷は……」
和「梓。いいのよ、澪が律を元に戻してくれれば。これは名誉の負傷ってところね。これぐらいで律を気づかせてやれたなら安いものよ」
梓「はあ…」
唯「ほえ?」
和「何でもないわ唯。早く地下に行きましょ」
唯「ふふふ、その必要はないのだよ和ちゃん!」
和「?」
梓「この図書資料館の上に行ったところからダストシュートが地下に下りてるらしいんです。それを使えば大幅な短縮になります」
唯「あずにゃん私の手柄を~!」
梓「すいません…」
地下犬舎───────。
澪「はあ…はあ…律は…もうマンホールを降りたのかな…」
ハンク「さ…さあ…。地下に来てからは…ほとんど一本道だったから…降りたんちゃう?」
澪「ふ~、なら私達も降りよう」
ハンク「澪。さっき俺がここに来た時はデカい蜘蛛がいた。危ないから俺が先に行こう」キリッ
澪「あ、ありがと」
珍しくまともなことを言ったハンクが先に降りる。それに続いて澪も降りた。
ハンク「(いい尻の形だ…スカートじゃないのが残念で仕方ないが上下運動している尻を見逃すハンク様ではないわ!)」キリリッ
澪「この一件が終わったら覚悟しといてね」
ハンク「(バレた……だと?)」
澪「下水の道を歩かなくちゃならないのか…」
ハンク「嫌ならずっとお姫様抱っこしますぜ?」
澪「別にいい」
ジャバ…ジャバ
二人は梯子を降り下水に足を浸す。
澪「……」
汚いとかそんなこと言ってる場合じゃないか……
ハンク「ん?あれ?蜘蛛の野郎死んでやがる……」
少し歩いた先に二匹のデカい蜘蛛の死体があった。どれくらいデカいかと言うと中学に上がりたての子が両親に買ってもらう自転車並みのデカさだ
ハンク「昆虫に当たるなんざやっこさんよっぽど苛立ってるみたいだな」
澪「律……」
───────。
律「…………」ブツブツ
律「私が悪いのか……」
違うよ
律「でも……」
確かにあなたが澪を受け入れれば全ては丸く収まるかもしれない。けれどそれでは二年前と同じじゃないのか?
律「それは…」
誰かが生き残る為に誰かが死ぬ。そんな関係にまた戻りたいのか?
律「……」
それでいいんだよ
田井中律。私は私の意思でこうしてきた。一人でも生きられる力を得た
律「可能な限りの幸運…か」
自分の命は保証してくれる癖に…、あぁ、だからか。
その代わり本人は幸せにならないんだな
4つある内の3つプラグを嵌める。
律「ん…あれ……ない……」
最後のプラグ、図書資料館で得たナイトプラグが見当たらない。いくらポシェットの中を漁っても出てこない
落とした────
不意にそんな答えが浮かび上がる。
律「ふはは……ざまあないな田井中律…。もう何やってんだよ私…」
小学生のお裁縫の様に全てちぐはぐだ。
初めは周りを巻き込まないようにただ牽制をするだけだった。一人ならどんなことが起きても死なずに生還する自信があったから
自分に巻き込まれて誰かに死んで欲しくなかったから
であの時…誰かに押されるように引き金をひいてしまった。
それから歯車は狂い始めたのかもしれない
律「探しに戻るか……」
そう言ってまた踵を返す。全くここの設計者を恨むよ。
「…………」
律「人間……じゃないよな」
赤い橋の向こうには人らしきモノがいる。
G「ォォォォ!」
右手が肥大化しており肩に目玉の様なものがついている。
橋の格子を持つとそのまま捻切り鉄パイプの役割の果たさせ武器にしている。
どうやら知能はあるらしい。
律「何だコイツ……新しいBOWか……?」
律はマグナムを二つ共構える。合わせて残弾数は12
律「人間じゃないなら遠慮はしない…」
G「ォォォォォォォォ!」
律に向かってただばか正直、一直線に走って来る。
パァン!パァン!
とりあえず二発入れてみるも止まらない。
Gは右腕に持っている鉄パイプを律に向かってブン回す。
縦、横、或いは斜めから。体勢を崩してもひたすらにそれを繰り返す。
だがその一撃一撃は恐ろしく早く律も避けるので精一杯だった。
律「くっ…このっ」
隙を見つけては一発、また一発とマグナムを撃ち込むが止まらない─────。
ブゥン───
律「しまっ──」
避けきれず左手に持っていたS&Wを弾き飛ばされる
律「こんのぉ!!!」
後退しつつコルトを連射
G「ウォォォ…グォ……グ……」バタン
ようやくGは地面に伏した。
律「はあ…はあ…ざまあ……みろ」
律は弾き飛ばされたS&Wを拾いに行く
G「」ドクンドクン
律「よいしょ……と…………嘘だ……ろ?」
銃を拾って振り向くとGが立っている。
体を変形させながら─────
人間らしい面影は消え顔の横に更に顔が出来る。右腕に持っていた鉄パイプを捨てると手先から鋭い爪の様なものが生えてきた。
Gは更に進化する─────
弾を……いや…それより逃げ…
後ろの扉はプラグが足りない為に開かない。残る扉は一つだけ、自らが入って来た橋の向こう側にある扉。Gが立ちふさがる先の向こうだった。
律「駄目だ……」
Gはゆっくりと律に迫り来る
律「来るな!」
右には残弾0のコルト
左には後何発あるかわからないS&W
迫ってくるGに気をとられ弾を込めることすら忘れている。
律「大丈夫……私には可能な限りの……幸運が……」
そんなもの、今ここにあると思う?
律「なっ……」
死ぬんだよ、あんたは。
自分がそう語る
自分で起こせる幸運なんてたかが知れている。それに頼りすぎた罰だ。
ないものを使い続けていたんじゃない。あるものを削っていたんだ。
今ようやくその事に気づかされた。
律「死ぬんだな……私」
Gは何も答えない
律「ごめんなぁ澪……」
目を瞑る。最早自分の力じゃどうしようもないと
振り下ろされるGの爪……
「律!!!!!」
律「えっ…」
律の体が第三者により動かされる。ダンプカーが迫っている仔猫を助ける如く
澪は律を抱き抱えた
澪「ハンク!!!」
ハンク「了解!こっちだぜ化物ちゃんよぉ!」
ハンクは自分の持っていたアサルトライフルをGに向かって連射する
それに応じたのかGはハンクの方へ向きを変える。BOWにも言えることだが危険度がより高いものを先制的に狙うらしい。
ハンク「ほら!こっちだ!追っかけてこいや!」
ハンクはそのまま部屋を出るとGもそれを追いかけて部屋を出ていった。
部屋には律と澪二人きりになりさっきの危機が嘘の様な感覚になる
律「澪……」
澪「このバカ律!!!」
パシィンッ
馬乗りの体勢になったまま澪は律の頬をはたく
律の頬が叩かれた衝撃で赤くなる。
澪「バカ!バカ!バカ!」
何回かビンタが往復され
澪「ばかぁ……」
力なく止まった。
澪「何で全部話してくれなかったの!?何で一人で無茶するの!?何でいっつも全部一人で背負い込んで……自分ばっかり苦しい思いして……」
澪の瞳からボロボロと涙が落ち、律の顔に当たる。
律「澪……」
澪「死んじゃったら……もう……会えないんだよ……」
律「……私にはあの能力があるから…死なない(死ねない)よ」
澪「……違う…!違う違う!」
澪「言いたいこといっぱいあるのに……やっと会えたのに……上手く言えないよ…律」
律「……」
澪「こうやってしばらく話したら……また律は一人で何処かへ行くの?」
一人でこの冷たい海の様な中を……
律「私は……わからない。どうしたらいいかとか…何をするべきだとか…わからなくなっちゃったんだ。澪」
澪「グス…ン…わから…なぃ…?」
律「うん。初めは家族を取り戻す為にレオンと躍起になってた。けど何回も何回もバイオテロの現場に行く度わからなくなって来たんだ。命の価値も、その尊さも」
澪は黙ってただ律の話を聞いている。
律「みんな死んでいく…。ここに特別な存在もくそもないんだ。ただ平等に死んでいく。一番初めに私が助けた命も、結局はゾンビになって処理された。ここはね、澪。人がいるべき場所じゃないんだ」
澪「……」
律「澪や唯、梓やむぎや和……みんなはもっと平和に暮らすべきなんだ。幸せに……こんなことを思い出さずに」
澪「なら律も……そうすればいいよぉ……」
律「私は、もう普通の生活には戻れない。この能力で生き続ける、やつらを潰すまで」
澪「…………だ……」
初めは小さい声が……段々大きくなっていく……
澪「私は…律が好きなんだ…」
律「……そうか。でもな…澪、私は(ry」
澪「私は律が大好きなんだ!能力なんか関係ない!無邪気で…おっちょこちょいで…勝気で…でも周りのみんなを誰よりも心配して構ってくれる優しい律が大好きなんだ……」
澪は泣きながらも訴える。ここで彼女を引き止められなければ遠い何処かへ行ってしまってもう戻って来ない気がしていた。
しかしまさにその通りだった。
律の心は今必死で戦っていた。
ウロボロスと────
自分自身と
しかし─────、
それでも────、
律「あんな作り笑いや空気で一生私を居させたいの?澪」
戻らない─────
澪「違う……」
律「私はもう二年前みたいに笑えない……だから……ごめん」
澪を押し退けて立ち上がる律。
律「助けてくれたことには礼を言うよ……けどもうここを出るんだ、澪。唯達も連れてな。二度と私を探そうとなんかするな」
澪「律……」
これだけ言っても…駄目なのか…届かないのだろうか
律は歩いて扉へ向かう
一度切れた糸は、もう繋がらない─────
──────否
澪もまだわかっていなかったのだ。自分一人の力で何とかしようとし過ぎるあまり周りを見失っている。
そう、糸が切れたのなら結べばいい。
その切れた糸を結ぶ鍵は、澪のポケットの中にこそある
澪「あっ……」
澪はギリギリでそれに気付いた。ポケット中のものを確かめ律を追いかける
澪「待って!律……あなたがどうしても一人でいたいなら私はもう止めない……。けど…そうじゃないなら」
振り返る律にポケットのクマのキーホルダーを渡す。
澪「唯が作ったんだ。みんなまた一緒に集まれたらいいねって…」
律「……」
何も言わずそれを見つめる律。
澪「心配してるのは私だけじゃない…唯や梓だって…。和もそうだよ?怪我しながらでも律を心配してた…。みんなが待ってるんだ…律」
律「……」
最終更新:2010年03月05日 02:56