その瞳は何を思うのか、固まったまま動かない。
それでも澪は続ける

澪「律が私達を巻き込みたくないと思うように私達も律に平和に暮らしてほしいんだ……。この件に関してはいずれ決着をつけないとならないと私も思ってた。
理不尽に人が死んでいくなんておかしいから…。だから今日ここで、みんなで……この件を解決してそしたら…」


律「何で…そこまで私のことを?」

律が顔を上げ真っ直ぐに澪を見つめる。

澪「軽音部の…仲間だから。私が律を大好きだから。心の底から、一緒にいたいと思える人だから」

律の中で何かが弾けた─────。

誰が人一人の為に何度も何度も諦めずに自分の命を投げ出してまで救おうとするだろうか。
前に律は自分を救うのは自分しかいないと定義したが澪はこんなにも私を救おうと努力している。

自分が何度も何度も払った手を何度も何度もさしのべてくれる

周りを巻き込みたくないと言う気持ちは、ただの甘えだったのだ

自分がそう思ってると言うことは澪達も当然そう思っている筈だ。
私はそれを理解せずただ私の意見だけを押し付けていた……

目の赤みが消えていく……

律「…………唯の…歌が聴こえたんだ」

律は澪の手のひらにあるクマのキーホルダーを手にとった。

澪「私もだよ。唯はまだ歌うことをやめてない。こんな中でも…」

律「私の今までしてきたことに全て言い訳なんかしない。私は人を撃ち仲間を撃ち仲間を傷つけ仲間を裏切った。その責任を負わなくちゃならない」

澪「律…」

律「だから……」

今、私の 願い事が
叶うならば 翼がほしい

また唯の歌声が聴こえる

この背中に 鳥のように 白い翼 つけてください

律は、ようやく澪の手を自ら

握った─────。




その少し前────、
唯達はダストシュートがある部屋に来ていた。

和「しかしラッキーね。このプラグがないと律は先には進めないんだから自動に私達と会わなければならない形になるわね。律も落とすならあそこしかないと考えてるだろうし」

さっき図書資料館を横切った時に落ちているプラグを見つけ拾っていたのだ

梓「でも入れ違いになりませんか?私達がこっちから降りている間に……」

和「澪が先に会ってるなら大丈夫でしょ。もしかしたら私達の出番なく話はついてるかもしれないけど…それはそれでね」

唯「澪ちゃんなら大丈夫だよ。きっとりっちゃんを元に戻してくれるよ」

梓「で、この階段どうします……?」

この上がダストシュートなのだがその二階に上がる為の階段は宙に浮いている。
恐らくあの下にある六角の穴に何かを取り付け下ろすのだろうがそんな道具は持ち合わせてなかった。

和「……嫌だけど仕方ない……」

和はその六角の穴が開いている所まで行き、「ふんっ」と刀の柄を無理矢理ねじ込んだ。

それを回すことにより少しづつ階段が下がって来ている

唯「和ちゃんとカターナがんばって!」

和「カターナって…いや…突っ込むのやめとくわ」


階段を登りダストシュート前まで来た三人。

唯「あれぇれぇ~行き止まりだぁ」

和「本当ね。鉄板が怪しいわね。この向こうかしら」

梓はその横の歯車の塊を見据えていた。間にぽったりと歯車が抜けており隣には赤いボタンがついている

梓「これって…」

梓はポケットからクラブの鍵の部屋で入手した歯車を入れボタンを押す、すると────

ジジジジジと歯車が回転した後に隣の鉄板が自動ドアの様に横へズレた。

唯「わ~ぉ!お手柄、よあずにゃん!」グッジョッブ
親指を立て突き出す唯

和「さすが梓ね」

梓「えへへ//」


唯「暗いね~、どこに繋がってるのかなぁ。もしも~し」

もしも~し…………
もしも~……
もし……

唯「凄い響くよ!」

和「遊んでないで行くわよ。私が最初に行くわ。降りてみて大丈夫そうなら声をかけるから」

梓「大丈夫ですか?」

和「まあ大丈夫でしょ」

そう言って和は降りていった。



一年後───────

唯「結局あれから和ちゃんから返事はありませんでした…私達はそのままラクーンシティを脱出し…今では駅前のパン屋で生計を立ててます」

梓「一人で何やってるんですか先輩…」


唯「ぷ~ノリ悪いなぁあずにゃんは」

梓「そう言うのは律先輩担当ですから。」

唯「りっちゃん…帰って来てくれるかな?」

梓「きっと帰って来てくれますよ。人は変わってしまっても、思い出は変わりませんから」

唯「そだね!」

『二人とも降りてきて~』

和からの声がかかり二人も暗闇の穴の前に立つ。

唯「……思ってたより怖いね」

梓「そ、そうですね」

唯「年功序列で私から先に行くよあずにゃん!」

梓「がんばってください先輩!」

唯「行ってきます…!」

唯はそうして暗闇の世界にダイブした。


唯「ひゃあ~っ」

和「っと……」

滑り落ちてきた唯を和が受け止める。

唯「ありがと和ちゃん//」

和「いいわよ。しかしここは……」

唯「多分犬舎だよぉ、この先のマンホールからプラグの部屋に行けるよ~」

梓「………」スタッ

唯「さすがあずにゃん…身のこなしが違うぅ」

梓「一応色々訓練しましたから。さあ、急ぎましょう」

三人は奥にあるマンホールを降りる。

和「下水を歩くなんてあまりいい気はしないけど、みんな我慢して行きましょ」

梓「義足錆びないかな…」

唯「うひゃあ冷たい…」


和を先頭にジャブジャブと下水道を歩く三人。この先がどうなっているのか、皆不安だった。
変わってしまった律がまた私達を本当信じてくれるのかどうか…

唯「今、私の 願い事が 叶うならば 翼がほしい」

唯はその不安を打ち消す様に歌い始めた。

唯和「この背中に 鳥のように」

和もそれに続く…。唯の歌で戦うと言う言葉を笑わずに親身に受け止めてくれた唯一無二の親友

マンホールを登りその先に見える扉に三人は歩いて行く

唯和梓「白い翼 つけてください」

梓も続く。誰よりも唯を心配し、何度も命を救ってくれた大切な後輩


そして、その扉を開け放つ────

澪「この大空に翼を広げ」

恥ずかしがり屋で怖がりだけどみんなのまとめ役、軽音部の大切な仲間であり友達


律「飛んで行きたいよ~」

いつもは軽口やお笑いキャラだけど誰よりも軽音部のみんなを思い、責任感がある部長であり、いい笑いの女房役

まるで側で聞いてたかの様に二人は手を繋ぎながら続けて歌った。

唯はその光景を見た瞬間涙を浮かべる。でもこのまま泣いてしまっては歌えないとそれを拭う。
梓も同じだった、和はニコリと微笑みながら
三人は赤い橋の真ん中辺りにいる澪と律の元へ行く。

悲しみのない 自由な空へ───────

翼 はためかせ…行きたい…

五人はこうして、また集まれた

この広い世界で

これは偶然でも奇跡でもない、彼女達の互いを想う気持ちが生んだ軌跡なのだ

律「…………みんな…」

律の口が歪み、目から涙がこぼれ落ちる

律「みん゛な…こん゛な゛私を……」

涙で上手く喋れない……

和「お帰りなさい、律」

律「のどかには……謝っても謝りきれないよ…取り戻しつかないよ…」

和「律、取り戻しのつかないことなんて、ないわ。そう思うのなら…償えばいいのよ。私にも、彼にも…誠意を持って」

律「うん……うん……」

泣きながら何度も頷く律

梓「お帰りなさい、律先輩」

律「ありがとう…梓。梓はそんな姿になってでもみんなを守るために戦ってるのに…私と来たら……」

梓「律先輩も、気持ちは同じじゃないですか。みんなを守りたくて、ちょっとその伝え方が不器用になっちゃっただけです」

律「梓……。後輩に慰められるなんて…部長失格だな」

梓「桜高軽音部の部長は律先輩しかいません」

律「梓…………」

唯「お帰りりっちゃん!」

律「唯……。唯の歌、聴こえたよ、私にも」

唯「えっ?」

律「私の恋はホッチキスも翼を下さいも」

唯「そっかぁ……何でかはわからないけど…良かった//」

律「これありがとう」

律はクマのキーホルダーを見せる。


唯「みんなでまた会えます様にって言うお守りだったんだけど効果テキメンだね!」

律「だな」ニコッ


澪「お帰り、律」

律「ただいま、澪。澪には一番迷惑かけたな……。何回も冷たくしても…澪は私を追いかけて来てくれた」

澪「私の力だけじゃないよ。みんなが、支えてくれたから。唯、叩いたりして本当にごめんね。ずっと謝りたかった」

頭を下げる澪

唯「ううん、私が悪かったの。だから私もごめんなさいだよ澪ちゃん」

唯も頭を下げる

律「二人とも顔をあげてくれ。その原因を作ったのは私なんだから……私が謝る」

律は地面に膝をつけそのまま頭を下げる。
日本の最高位の謝り方、土下座だ

唯「そこまでしなくても……」

澪「そうだよ律!」

律「いや……こんなものじゃまだまだ足りないくらい私は迷惑をかけたんだ…だから……だから……」

律「本当にすみませんでした!!!」

律の澄んだ声が響いた

和「武士道ね」

梓「許してあげるです」

唯「侍だねりっちゃん!」

澪「律、みんな律が大好きだよ」

かつて私が唯に言ったセリフだ

それを自分が言われるなんて思いもしなかった。

律「ふふ」ニコリ

律は土下座をしながら誰にも見えない様に笑う。

私は帰って来られたんだ。この輪の中に

律の心はもうもやもやかかった雲はない。
空には虹が掛かり綺麗な快晴を覗かせている。

晴れない空はないと、改めて思った。



突破口

やあ、みんな。俺のことを覚えていてくれてる人がいるだろうか。

そう、ハンクだ。懐かしいな

今お前は何をしてるんだって?

ははっ……愚問だなぁ……


ハンク「絶賛逃亡中に決まってるじゃないか」

いくら走っても後ろから追いかけてくる怪物。
もうどれくらい下水道を走ったろうか

ハンク「しめた!左に扉が!」

下水道から段差を登り扉に入り抑えつける

ガタンッガタン

扉が衝撃で揺れる。あっちから叩いているんだな見なくてもわかる

ハンク「なんて損な役回りだ……」

途端に扉が揺れるのが止む

ハンク「ん……?何だ?」

ハンク扉を恐る恐る……

ハンク「開けるわけねー!!このパターンは開けたら横にいて死ぬパターンだろ!知ってるんだからな騙されんぞ!」

映画などでそれはみんなわかっていることだ。でもその物語のキャラは必ず開けてしまう。
それはそう言う設定なんだと言ってしまえばおしまいだが実際その状況下におかれればわかる

ハンク「ちょっとだけなら……」

ハンクは少しだけ扉を開け覗き込む─────

「あら?どちら様かしら」

怪物代わりに美女がいた。美女が怪物が入れ替わる……
これが本当の美女と野獣

ハンク「ってやかましいわ!」

「(大丈夫かしらこの人……)」

ハンク「さっき化物を見なかったか?」

「居たわね。でも何発か撃ち込んだら何処かへ逃げて行ったわ」

ハンク「俺のアサルトライフルが効いていたか!しかし助かったぜねーちゃん」

エイダ「エイダ、エイダウォンよ」

ハンク「ハンクだ。いやまだ生き残りがいるとはな。これは澪達に報告しないと」

エイダ「澪……それって秋山澪のこと?」

ハンク「おぉそうだ!知り合いか!」

エイダ「ならレオン達も来てるってことね…ふふふ。」

妖気に微笑むエイダ

ハンク「しかし……」

何という破壊力……。美人で更にチャイナドレスだと……?
こいつ…………

ハンク「(澪もチャイナドレス着てくれないかな…)」

エイダ「あなたは…見たところUSSの隊員みたいだけど…」

ハンク「USS?なんだそりゃ」

エイダ「あなたのその装備よ。その対バイオテロ様のガスマスクはアンブレラのものじゃない」

ハンク「アンブレラ…の?」

澪が言っていた……この街をこんなにしたのはアンブレラだと

律と言う女の子との亀裂が走ったのもアンブレラのせいだと

俺がその隊員だと……?

なら俺は……

ハンク「はは……そ、そうなのか」

エイダ「?」

澪の達の敵、仇は……俺か

エイダ「そろそろ行くわ。私はここに用事があるから」

ハンク「そうか…気を付けてな」

もうそんなことしか言えないぐらいハンクは気を病んでいた。

どんな顔をして戻ればいいんだ。記憶を失っているとは言え俺はアンブレラ…澪達の敵だ

話さずこのまま騙し通すか…でももし俺が記憶を取り戻した時にこの記憶が消えてしまい澪達を……

考えたくもなかった。

ハンク「……」

気づけばさっきの美女はいなくなっておりポツンと一人取り残されていた。

ハンク「……戻るか」

今はアンブレラのハンクではない。澪を守る男ハンクだ

俺の記憶よ、頼むからここを脱出するまでは戻らないでくれよ
───────。


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最終更新:2010年03月05日 02:59