早朝の峠に2台のバイクのエキゾーストが響き渡る
前を走るはAprilia RS125
125cc でありながら34psを叩きだす
軽量なボディと相成って上位クラスを突付けるほどのポテンシャルを秘めている
高回転型のエンジンは誰しもがじゃじゃ馬と形容し、乗りこなすのは至難の業であると言われる

対するはHONDA CBR250RR
レッドゾーンが19,000rpmからという超高回転型のエンジンを搭載しているが
決してじゃじゃ馬などでは無く、誰しもが速く走る事の出来る、HONDAお得意の味付けがされて有る
1992年モデルなので45psと言うのも魅力的である


やがて前方を走るCBRがハザードを焚きエスケープゾーンへとバイクを止める
後ろを走っていたRSもそれにならう

そして二人はバイクから降り、ヘルメットを外す


唯「ぷはぁ~、りっちゃんはやっぱり早いなぁ、勝てる気がしないや」

律「嘘つけっ、余裕ぶっこいてたじゃんか」

そして二人同時に笑いあう



律がシートカウルの小物入れから水筒を出す

律「ほら、お茶飲むか?暖かいぞ」

唯「ありがと~、やっぱり早朝は特別冷えるねぇ…あちっ!」

律「ほらほら、そんなに慌てるなって」

唯「えへへ、美味しい」

二人がたわいも無い話をしていると
またバイクの音が近づいてくる


律「お、やっと来たな」



バイクは3台

HONDA VTR250
HONDA VTシリーズの最新車種で有る
信頼のVTシリーズの血を受け継いでおり、その確かな信頼性
Vツイン特有の車幅の細さ、それに伴なう軽量ボディ
250ccらしからぬ低速トルクで中々に侮れない相手で有る


HONDA GB250クラブマン
250cc 単気筒ながら当時の最新技術を投入し、30psを発揮する
先述のVTR以上の軽量ボディに加え、単気筒特有の軽快なパルス感や加速で気軽に走りを楽しめるバイクで有る


YAMAHA セロー225
223cc、20psと、少々非力に見えるが、脚付きの良さ、軽量ボディ、悪路での走破性
それらを全て総合すると相当なコストパフォーマンスを誇る
街乗りでの使い勝手はもちろんのこと、酷道ではその進化を発揮する
また、うまく立ち回れば峠では中々に早いので油断できないオフローダーで有る


その三台のバイクもエスケープゾーンの2人を見つけハザードを焚き停車する
そして三台とも先の2人に倣い降車しヘルメットを外す


澪「律!唯!とばし過ぎだぞ、危ないじゃないか」
VTRから降りた澪が非難する

紬「まぁまぁ、きちんと安全マージンもとってたみたいだし」
GBから降りた紬がそれを宥める

梓「でもやっぱり危ないですよ、くれぐれも事故なんて起こさないでくださいよ?」
そしてセローから降りた梓は心底心配そうに呟く


律「悪い悪い、唯が飛ばしだすからさ、つい熱くなっちゃって」

唯「だってぇ~、RSが飛ばせ飛ばせって急かしてくるんだもん」
そう言って唯は頬を膨らまし抗議する


そして5人になり、また他愛も無い話が始まる…


ここ最近の軽音部の面々は毎朝近場の峠に出向き軽く走ってから登校するのが日課となっている
と行っても毎度々々、律と唯のコンビがかっ飛ばして、残りは置いてけぼりを食らうのだが…
ただ他の面々も早朝以外は走る時間があまり作れないので特に不満も無く峠を走り
いつものエスケープゾーンで登校までの時間を他愛も無い話をしながら過ごすのだった


余談ではあるが、この早朝の習慣のお陰で律と唯の遅刻癖が治ったのであった

授業もつつがなく終わり部活の時間が始まる


律「唯~、最近めきめき上達してるじゃないか」

唯「ありがと、真面目に練習してるもんね」

澪「そういう律こそ、最近走り癖がなくなってきたんじゃないか?」

律「そうか?まぁ私は素質の塊だからな!」

澪「調子にのるなっ」

紬「ふふ、仲が良いわね」ウットリ

梓「でも皆さん、本当に凄いです!私ももっと練習しないとですね」

律「唯~?梓にこれ以上練習されたら追い越されちゃうんじゃないかぁ?」

唯「ひっど~い」プクー

そして、5人の笑い声が部室にこだまする


そして部活も終わり、5人そろって家路につく

すると律が口を開く

律「なぁ、私ら、もうすぐ卒業だろ?
梓はまだだけどさ」

他の部員達はどうしたんだろうと思いながら肯定の趣の返事をする

律「だからさ、みんなでツーリングでも行かないか?」

唯「わ~~、スゴクいいねっ、やろうやろう!」

澪「いいんじゃないか、良い記念になりそうだ」

梓「素敵ですね~、私もやりたいです」

紬「いいんじゃいかしら、もし良ければまた別荘を手配させようか?」


どうやら皆乗り気のようだ
その様子を見た律は満足そうに話しだす


律「だろだろ?で、行き先なんだけどさ
白川郷なんてどうだろう」


唯「しらかわごー?どこなの?そこ」

律「あれだよ、ひぐらしのなく頃にの舞台の」

唯「あ~ひぐらし見てた見てた~
あそこに行くの?」

律「そうだよ、ひぐらしだったら幸い皆アニメ見てたしさ
のどこかなところらしいから丁度いいかと思って」


唯「しらかわごー?どこなの?そこ」

律「あれだよ、ひぐらしのなく頃にの舞台の」

唯「あ~ひぐらし見てた見てた~
あそこに行くの?」

律「そうだよ、ひぐらしだったら幸い皆アニメ見てたしさ
のどこかなところらしいから丁度いいかと思って」


澪「結構遠いんじゃないのか?岐阜だろ?」

律「うーん、300km弱って所かなぁ、まだきちんとは調べてないんだよな」

澪「どんな日程なんだ?さすがに日帰りは無理だろ?」

律「行きは2日弱で、向こうに1日滞在、帰りも二日弱
1週間くらいの予定は空けといて欲しいな」

澪「まぁ順当な感じだな、お前が幹事なんだから
ちゃんと計画たてろよ!」

律「まけせとけって!ばっちり計画立てとくよ!」

澪「信用できないんだよなぁ…」


律「とにかくだ!日程とかは私に任せとけ!
またちゃんと決まったらメールするよ」

澪「まぁ期待しないで待っとくよ」

律「期待しろよ!親友の事信用しろよ!」

澪「前科があるからな、難しいことを言うじゃない」

律「ひでぇ…」

紬「まぁまぁ、みんなで計画立てるのも楽しそうじゃない
いざとなったら、ね?」

澪「ま、そうだな、たぶんそうなるけど」

律「まだ言うか!!」


皆で笑いあいながら各々の家路に就く


家に帰った律は地図とにらめっこをしている

律「距離はだいたい270km位かぁ
私だけだったら高速使って一日で行けそうだけど」

律「梓や澪もいるからなぁ
二日にきっちり分けた方が良いだろうな」

律「てことは1日で135km、高速使えばすぐだけど、どうすっかなぁ
下道でとことこ行くのも楽しいだろうしなぁ」

律「うーん…難しいな…
長引くとテスト休みオーバーしちゃうし…」


律「この辺は明日皆に聞いた方が良いかもしれないな
あとは宿だ、野宿も楽しそうだけど、この時期は風邪ひきそうだな」

律「だとすればビジネスホテルか、135km地点あたりで検索っと」

律「なになに?1泊素泊まりで2人部屋が8000円か
ここでいいだろ」

律「宿の予約は計画がきちんとたってからだな」

律「どっちにしろ明日皆の意見を聞こう
じゃないとなんにも始まらないや」


翌日の部室にて律が皆に意見を聞いている

律「日程なんだけど、1日で135km
唯が125ccだから高速は無しだ、景色とかも楽しみたいしな」

部員一同が頷く

律「んで、少しおおめに見積もって5時間くらいだ、休憩も込でな」

律「宿は適当に検索したら良さげなのがあったからそこで」

律「んで二日目で白川郷到着、適当に観光、次の日も適当に観光、帰りは行きと一緒の日程にしようと思う」

律「…どうした…?」
律が怪訝そうにするのも仕方がない
部員全員が口を半開きにしてあっけに取られているからだ


律「な…なんだよ…」

澪「いや、なんかちゃんとやってるなって…」

梓「私も正直驚きです…」

唯「ワタシハシンジテタヨ」

律「嘘つけ!棒読みなんだよ!」

澪「それにしても律、見直したぞ、やれば出来るじゃないか
ちょっと適当な所もあるけどほとんど予定たってるじゃないか!」

律「やれば出来るんだよ、やればな」

律意外(つねにやってくれよ…)


律「まぁ冗談は置いといてだ
細かいところは皆と相談した方が良いと思って」

律「どうだろう、この予定で、梓とか体力的に大丈夫か?」

梓「大丈夫だと思います、休憩も入れてもらえるみたいですし」

澪「私も特に異論はないな、みんなは?」

皆首を横にふる、異論はないようだ

律「あとは、さわちゃんから許可が降りるかどうかだ
黙って行っちゃうと流石にまずいと思うんだ」

唯「そうだよね、なにか有ったとき怖いもんね」

律「よしっ、さわちゃんの所に行くぞ~」


さわちゃん「なるほど、卒業記念にツーリングに行きたいと」

律「うん、だめ…かな…」

さわちゃん「う~~ん、さすがにツーリングはねぇ」

律「そこをなんとか!!」

さわちゃん「そうねぇ、私もついて行こうかしら
それならいざと言うときの対処も出来るだろうし」

律「さわちゃん!バイク持ってるの!?」

さわちゃん「一応ね、最近は乗る時間が無いから週に一回エンジン掛けてあげるだけだけど
久しぶりに走らせてあげないとね」

律「とにかくありがとう!!
むこうについたらムギの別荘でのんびりできるからね!」

さわちゃん「はいはい、そんじゃあ期待しとくわね
またきちんと予定が決まったら教えて頂戴、添削くらいはしてあげるわ」




~~~細かい予定は省略、わかんないんだもん~~~



律「さわちゃん、予定たったよ!これでどう?」

さわちゃん「ふむふむ、まぁいいんじゃないかしら
これなら余程のことが無い限りテスト休み中に帰ってこれるでしょ」

さわちゃん「わたしも1週間有給とって有るわ」

律「恩に着ます!姐さん!」

さわちゃん「誤解をまねくようなことを言わないで頂戴
(おしとやかで通してるんだから)ボソボソ」

律「とにかく、1週間後の今日朝の7時に集合です、お願いね!!」

さわちゃん「わかったわかった、んじゃまたね」

律「ばいばーい」


律「と、言うわけでさわちゃんの許可もおりたし、予定もたった
あとは各々1週間後にむけて英気を養うように」

澪「最初はどうなることかと思ったけど
結構うまく話が進んで良かったよ、見直したぞ、律」

唯「楽しみだねー、わくわくするよ~」

紬「そうですねぇ、こんな経験初めてですし、私もワクワクしてきちゃった」

梓「ゼッタイ良い思い出になりますよ、いえ、しなきゃダメです!」

律「それじゃあ今日はかいさ~~ん」


そして時は流れツーリング前日


唯は自宅でチェーンの洗浄をしている
その様子はギターを弾いている時と同じくらい楽しいそうだ
まるで自分の子供をお風呂に入れているように優しい表情で必死に歯ブラシで磨いていた

憂「お姉ちゃん、まだ寝ないの?明日早いんでしょ?」

唯「これだけ終わったら寝るよ~先に寝てて~」

憂「無理しちゃ駄目だよ?おやすみ」

唯「わかってるよ~、おやすみ、憂」

憂(あんなに必死になって、余程好きなんだね、バイクが…ちょっと嫉妬しちゃいそう…)



他の部員達もやはりバイクの整備をしている

皆、オイルをちょっと良いのに替えて上げたり、チェーンの振れ幅なども徹底的に調整している
梓は明日にそなえオンタイヤを履かせて上げているようだった



さわこ先生は自慢のCBX1000をこの一週間で完璧に整備していた
プラグにもイリジウムを付けてやったりでかなりの出費になったみたいだ
それでもさわ子先生は楽しそうだ

さわちゃん「ツーリングなんて何年ぶりかしら、楽しみだわ」




よくじつ!


いよいよツーリング当日で有る
時刻はまだ6時半だがすでにさわちゃん以外は全員もう出揃っている


律「さわちゃんまだかなぁ~、なに乗ってるんだろうなぁ
聴いてみても「当日のお楽しみね♪」つって教えてくんなかったし」

唯「イメージ的にはハーレーとかじゃないかな~」

紬「案外CBR1000RRとかかもしれないわよ?」

梓「いえ、XR650とかかもしれないです」

律「梓は本当にオフ車が好きだな~」

梓「オールマイティですからね!オフ車は正義です!」

各々の勝手な想像を話しあっていると遠くからバイクの排気音が聞こえてきた


律「あれじゃないか?」

梓「単気筒ではなさそうですね」

澪「Vツインでもなさそうだぞ」

律「パラツインとかでもなさそうだし4発マルチともちょっと違うような…なんだ…?」


6発という独特な、ジェット機のようだと評されるCBX1000にまたがりさわ子先生はさっそうと現れた

さわちゃん「おまたせ~、遅れてはないわよね?」

律「ささささわちゃん!!!そっそれ、CBX1000じゃん!!!」


さわちゃん「流石は詳しいわね、あと知ってるのは…梓ちゃんくらいみたいね」

梓「もちろん知ってますよ、それにしても綺麗に乗ってますね
古いバイクなんで維持が大変じゃないですか?」

さわちゃん「大変なんてもんじゃ無いわよ~
パーツなんて殆どでないんだもん、もし壊れたとしたらオクでその部分丸々変えちゃう気で居ないと」

律「こだわってますなぁ~
男絡みかな~~?」

さわちゃん「……やっぱり今日、帰ろうかしら……」


律「わーわーっ!冗談だよ冗談!ごめんなさい!」

澪「一言多いんだよバカ律!」

さわちゃん「まぁ良いわ、とりあえず全員集合したみたいだし
少し早いけど出発しましょうか?」

律「よっしゃああ!みんな行くぞぉぉおお!」

オーーーーー!!!!


そうして軽音部員+顧問は走り出した
6つのバイクが綺麗な合奏をしながら進みだして行く

そして少し走ると太い国道にでた
速度は60km/h前後みんなまったりトコトコ走っている、律を除いては…
いまだにかっ飛ばしては居ないが、ずっとメットの中で独り言をつぶやいている

律「車も居ないし道も広いし、最高速アタックしたいなぁ~」

律「さわちゃんさえ見てなければアクセル全開で…」

律「道だって一直線だしちょっとくらいなら…」


律「よっしゃぁあああぁああ!いったらんかぁぁああああいい!!!」

律が突然叫んだかと思うとギアを3つほど落とした後、急加速!
レブリミットの19500rpmまでキッチリ回しつつ軽快に加速して行く
まるでF1の様な音を出しながらどんどんスピードが上がっていく

律「これこれこれ!この感覚だよ!!」

律「Gが気持ちいぃぃぃ~」

律「まだまだ~、まだ上がるぞ~」

なんてご機嫌の律だが、そんな幸せもつかの間

目の前にはいつの間にかCBX1000が立ちふさがって居た

律「うげぇ…さわちゃん怒ってるっぽいなぁ…」

当然である、目の前のCBXはジェスチャーで路肩に止まれと言っているようだ

律「止まりたくねぇ…このまま逃げたい…」

そういうワケにも行かないので律は渋々それにしたがう
後ろから追いついた部員たちも同じように路肩に寄せる


さわちゃん「あなた!何考えてるの!」

律「ごめんなさい…つい…」


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最終更新:2010年03月10日 01:19