めぐみ「けいおん? なんですの、それは」

美輝「主人公の平沢唯が軽音楽部に入って、
    部活の仲間と遊んだり合宿したりライブしたりするアニメだ。
    番外編を含めて全14話ある」

めぐみ「ずいぶんと詳しいんですのね」

美輝「そりゃそうだ……太田さん、
    昨日一晩中ずっと大音量でけいおん見てたからな。
    こっちの部屋まで音が聞こえてくるから嫌でも分かっちまうよ」


美輝「そのおかげで昨夜は一睡も出来なかったさ」

めぐみ「へえ、それは災難でしたわね。
     でもそんなに迷惑だったなら、いつもみたいに
     太田さんの部屋に殴り込めば良かったじゃない」

美輝「太田さんのやつ、最近ホームセキュリティを導入したんだよ。
    殴りこめばたちまち警察がやって来るって寸法だ。
    さすがに深夜に警察沙汰なんて起こすと、
    母さんに何されるか分かんねーからな……」

めぐみ「あら、鬼丸さんでも合理的な思考が出来るんですのね」

美輝「くっ、いつもならぶっ飛ばしてるとこだが……
    今日はお前の強力も仰ぎたい」

めぐみ「協力?」

美輝「そうだ! 昨夜からずうううっと、店も開かずに
    美少女アニメに没頭している太田明彦を
    二次元の深淵から救い出すんだ!!!」

めぐみ「あら、そういえばホントに八百黒あいてませんわね」

美輝「ああ……そして、耳をすませてみろ」

めぐみ「?」

美輝「聞こえてくるだろう……八百黒の2階から漏れてくる、
    けいおんの音声が」

めぐみ「……」


『……リッチャン…ウ…ヲ……』
『……ソウ……ユイ……ア…』


めぐみ「た、確かにアニメっぽい声が聞こえますわ」

美輝「私はそれを大音量で一晩中聞かされたんだ、
    太田さんを家から引きずり出して血祭りにあげないと気がすまねえ」

めぐみ「……二次元の深淵から救い出すとか言いながら、
     そっちが本心ですのね」

美輝「うるさい、そっちもちゃんと本心だ」

めぐみ「嘘おっしゃい」

美輝「いいかめぐみ、考えてみろ!
    太田さんがこのまま美少女アニメ街道を突っ走ったら」

めぐみ「そんなの、想像できませんわ」

美輝「簡単だ。『戦隊ヒーロー』を『美少女アニメ』に置き換えれば良い」

めぐみ「うーん……」


太田『俺は美少女アニメに命をかけているんだ!!』
太田『いや~貯金はたいて美少女アニメのグッズ買いあさっちまったぜ』
太田『よう、子供たち! おまえらにも萌えの精神を教えてやろう!!』


めぐみ「……」

美輝「そして美少女アニメオタクの行きつく先はリアル美少女に対する性犯罪だ!!(偏見)」

めぐみ「た、確かに早いとこ何とかした方が良いですわね」


めぐみ「で、どうすればいいんですの?」

美輝「そんなの簡単だよ、二次元にハマっているんだから、
    現実の女に目を向けさせれば良いのさ」

めぐみ「へえ」

美輝「というわけで……脱げ!!」

めぐみ「は、はあっ!?
     なんで私が脱がなきゃなりませんの!?」

美輝「色仕掛けはお前の得意技だろ!!
    ほらほら早く脱ぎやがれ!!」ぐいぐい

めぐみ「ば、バカなことおっしゃらないで!!
     やめなさい!! 誰か、助けてええええ!!」

美輝「叫んでも無駄だぜ! 商店街の連中はみんな慰安旅行だからなあ!!」

めぐみ「この鬼畜――!!」

ヒュン

美輝「!? このロープは……」


権藤「大戦鬼! またいたいけな一般人に手を上げているのですか!!」

めぐみ「お、おまわりさん! 助けてください、この野蛮人が……」

美輝「誰が野蛮人だ!!
    まあちょいと聞いておくれよ、こっちにだってワケがあんだよ」

権藤「ワケ? どうせくだらないことなのでしょう」

美輝「くだらなくなんかないよ!
    一人の青年が人としての道を踏み外すかどうかの瀬戸際なんだ」

権藤「ど、どういうことです?」

美輝「実はカクカクシカジカで」

権藤「ほう……つまり太田さんが、
    けいおんとかいう美少女アニメに病的に没頭し、
    社会生活がままならないどころか、
    このままでは犯罪に走ってしまうおそれもある……と」

美輝「そういうこった」

めぐみ「だいぶ脚色しましたわね」

美輝「というわけで、めぐみを脱がせて太田さんを釣ろうとしたのだ」

権藤「馬鹿言いなさい、こんな方法は犯罪ですよ」

美輝「じゃあ他に案があるかい?
    太田さんを引っ張り出す方法がさ」

権藤「ううん、そうですね……」

めぐみ「そうですわ、けいおん関係のもので釣ったらどうかしら?」

権藤「ですが、けいおん関係のものなんて……」

美輝「そーだ!」

めぐみ「なんですの?」

美輝「けいおんには歌がいっぱいあるんだ!
    その歌を大声で歌えば、釣られてでてくるだろう」

めぐみ「鬼丸さんにしてはなかなか名案ですわね」

権藤「で、それはどういう歌なんですか?」


美輝「えーとな……君を見てるといつもハートドキドキ」

めぐみ「ぶっ」

権藤「だ、大戦鬼……なんなのですか、その恥ずかしい歌詞」

美輝「う、うるせえ! 実際こういう歌なんだから仕方ねーだろ!
    で、えーと……・揺れる想いはマシュマロみたいにふわふわ」

めぐみ「あはははっははっ、歌詞も相当恥ずかしいですけど、
     鬼丸さんが歌うといっそう笑えますわね」

権藤「こんな変な歌が本当にアニメでやっていたのですか?
    本官には信じられません」

美輝「うるせー、黙って聞いてろ!
    ……いつも頑張るキミの横顔ずっと見てても気づかないよねー」

めぐみ「ぶははははは、もうだめですわ、腹筋が痛い!!」

権藤「確かにこんな恥ずかしい歌が出てくるアニメに熱中するなんて、
    犯罪者予備軍以外の何者でもありませんね」

ガラッ
太田「それ以上、澪ちゃんを馬鹿にするなあああああああああ!!!」


美輝「で、出てきやがった!!」

めぐみ「太田さん!!」

太田「一言でも澪ちゃんをけなす言葉を吐いてみろ……
    たとえ美輝ちゃんであろうとも!!
    俺の命をかけて成敗してやるからなあああああ!!!」

美輝「おもしれえ、やってもらおうじゃねえか!
    こちとらお前のせいで徹夜するはめになったんだ!!
    その分の恨みは拳で叩き込んでやるよ!!」

権藤「おやめなさい、大戦鬼!!
    暴力に訴えても何も解決はしませんよ!!
    太田さんをアニメから現実に引き戻すことが第一だったはずでしょう」

美輝「あれは太田さんをボコボコにするための口実だ!」

権藤「おい!」

権藤「とにかく、ここは話し合いで解決しましょう!!
    太田さん、けいおんというアニメにハマっているのは本当ですか?」

太田「ああ、本当だ……いや、ハマっているなんてもんじゃねえな。
    俺はけいおんに命をかけているんだ!!」

権藤「ど、どれくらいハマっているのですか?」

太田「そうだな、昨夜は全14話を朝まで何度も繰り返し見たな。
    他にもCDやフィギュア、原作漫画……
    貯金はたいてけいおんのグッズ買いあさっちまったぜ」

権藤「けいおんとは、そんなに熱中するほどのアニメなのですか?」

太田「そうだ!! あれに熱中できないなんて人間じゃねえ!!
    おまえらにもけいおんの精神を教えてやろう!!」

めぐみ「さっきの想像の的中率が8割を超えていますわ」


権藤「……あなたがどれだけ熱中しているのかわかりませんが……
    いえ、そこまで熱中しているからこそ、
    あなたからけいおんを取り上げねばなりません!」

太田「なっ……どういうことだ!!」

権藤「どういうこともクソもありません!
    徹夜して店もあけずにアニメの美少女を眺める生活など、
    健全な成人男性としてあるまじき行為です!!」

太田「うるせえ!!
    健全じゃなくても構わねえ、俺はけいおんを愛しているんだ!!
    けいおんを取られるくらいなら死んだ方がマシだあああああああ!!!」

美輝「なら死なせてやるよオラアアア!!」

権藤「だから待ちなさい大戦鬼――!!」

めぐみ「もう、これじゃ冷静な話し合いなんて出来やしませんわ……」

ダダダダ
勘九郎「明彦~!!
     唯ちゃんとあずにゃんのギター、買ってきたニャー!!」

太田「おお、勘九郎! 買ってきてくれたか」


勘九郎「!! 鬼丸美輝、俺と勝負するニャー!!」

美輝「おうよ、ちょうどイライラしてたことだ!! かかってこいやあ!!」

めぐみ「ひいいいっ、西山さんが化けてでましたわあああ!!!」

太田「おい勘九郎!! ギターを武器にするなああ!!!」

ガガガガガッ

美輝「……」

勘九郎「……明彦……」

権藤「こ、これは……太田さん……!!」

太田「……」

権藤「西山さんが振り下ろしたギターを両手で止め、
    大戦鬼の蹴りを腹で受け、
    神無月さんがはなった串を顔面で……!!」

太田「ギターを傷つけるわけには……いかねえ……!!」ガクッ

権藤「太田さああああん!!」

勘九郎「明彦、大丈夫かニャ?」

太田「ああ、大丈夫だ……
    俺たちで放課後ティータイムを再現するまで……
    死ねはしないさ……」

権藤「放課後ティータイム?」

美輝「けいおんの主人公がやってるバンドだよ」

勘九郎「そうだニャ、そのために楽器を用意したんだニャー」

権藤「楽器って……ずいぶん高そうですけど、いくらしたんです?」

勘九郎「それは聞かないでやって欲しいニャー……」

太田「ふん……けいおんのためなら、
    金も体も……惜しくはねえ」

権藤「な、なにが……けいおんの何がそこまで、
    あなたを駆り立てるのですか!?」


太田「言葉では説明出来ねえな……
    な、勘九郎」

勘九郎「そうだニャ、言葉に出来るほど安っぽいものではないんだニャ」

権藤「分かりました、百聞は一見にしかず、というやつですね……
    ならば見せてもらいましょう!
    ほら、大戦鬼も!」

美輝「な、なんで私まで!?」

権藤「まずは敵を知ることが大事でしょう」

太田「よーし、あんたら二人にけいおんを見てもらって、
    その魅力を心ゆくまで味わってもらおうか……
    めぐみちゃんもどうだ……ってあれ? めぐみちゃんは?」

権藤「……神無月さんなら、
    西山さんに怯えて串を投げたあと、
    逃げるようにご自分のお店へ……」

勘九郎「あいつがいると面倒だからいないほうがいいニャー……」

太田「ようし、じゃあ来い、二人とも!!
    俺の部屋でけいおん上映会だ!!」


――
――――
――――――

パン屋・ユエット。

めぐみ「まさか西山さんが出てくるとはおもいませんでしたわ」

めぐみ「しかし、死霊までも夢中になるアニメなんですのね、
     けいおんというのは」

めぐみ「恐ろしいような、興味深いような」

めぐみ「……あら?
     表が騒がしいですわね、なにかしら」

ガチャ
めぐみ「……?」


太田「プリーズドンセイユーアーレイジー!!」ジャカジャカ

勘九郎「だってー本当はークレイジー!!」ジャカジャカ

権藤「白鳥たちはそーう!!」チャンチャカ

美輝「見えないとこーでバタ足するんでーす!!」ドコドコ



めぐみ「何をしているんですのおおおおおおおおお!!!」


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最終更新:2010年03月11日 00:40