鬼「ふぅ…全く手間とらせやがって。」

パアァァァァー!


一瞬辺りが光に包まれると、

鬼の頭だけが男に変わった。

男「さて、香須実の所に戻るかなぁ。」


男は歩き出した。体は鬼のままで。


………

紬「ええ。はい。恐らくそうだと思うんですが…応急処置はそれで良いんですよね?ああ、はい……。」


紬はあれから、電話の前から全く離れない。
聞いたことのないような単語が何度か出ていたようだが、
その他のメンバーがその意味を知っているはずもなく、
四人の間には沈黙が流れていた。



……ピーポーピーポーピーポーピーポーピーポー

唯「救急車来た!」

澪「梓、救急車来たから、もう安心だぞ!」

梓「は……はい。」


バタバタと救急隊員が別荘内に担架を持って入り込み、
梓を救急車へと運びだした。


唯「あずにゃん。すぐに病院に行くから、とりあえずは一人で行っててね。」

律「寂しくなったら私たちの事を思い出すんだぞ!」

梓「大げさですよ。ちょっと病院まで行くだけなんですから。」


そう言って、梓の目から涙がこぼれる。
強がってはいるが、やはり怖いのだ。得体のしれない連中に襲われ、
聞いたことのないような怪我を負い、計り知れない痛みを感じて…


梓「うっ……!うっ……!」

律「梓ぁ……泣かないんじゃなかったのかよ……?」

梓「先輩だって……泣いてます……。」


救急車の前で泣く四人の女子高生。
皆怖いのだ。

紬「皆。梓ちゃんはもう大丈夫だから、とりあえず別荘に戻ってからこれからの話をしましょう。」

澪「これからの話?」

紬「色々。梓ちゃんの怪我も含めて、色々な話があるの。」

律「色々な……話……。」


そう語る紬の目には、確かな勇気が湛えられていた。




……
………


男「ふぅ……疲れた。」

香須実「大丈夫?はい、お茶。」

男「サンキュ!」

香須実「それで、童子と姫は?」

男「両方倒したよ。あとはバケガニだけなんだけど……」

そこまでしゃべって言葉を詰まらせる男。

香須実「轟鬼君か、裁鬼さんが来るまで手が出せない……と。」

男「そうなんだよねぇ…俺がやってもいいっちゃ良いんだけどね…?」

チャンチャンチャンチャンチャンチャンチャンチャン

香須実「電話!もしもし?あ、轟鬼君?屋久島に着いたって?今から琴吹さんのところに行くから、そこで落ち合いましょう。じゃあね。」

男「轟鬼着いたって?」

香須実「うん。じゃあ私たちも出発しましょう。」

男「おう。」

紬「でね、この島には『摩訶魍』っていう化け物が数体住み着いているみたいなの。」

唯「まかもう?」

律「妖怪みたいなものか?」

紬「掻い摘んで言うとそうね。梓ちゃんはそれに襲われちゃったのよ。」


珍しく真剣な顔つきで話を聞くメンバー。
しかしながらトゥーピュアピュアガール・澪は穏やかではなかった。


澪「お……お、おお、お化け?お化け?」

律「うわぁ……分かりやすい動揺の仕方だな。」


ガクガクと震える澪の肩にタオルケットをかけながら、
紬は話を続けた。



澪「お……お、おお、お化け?お化け?」

律「うわぁ……分かりやすい動揺の仕方だな。」


ガクガクと震える澪の肩にタオルケットをかけながら、
紬は話を続けた。

紬「それでね、それらを倒すプロフェッショナルの人達が来てくれる事になったの。」

唯「ぷろふぇっしょなる?」

紬「鬼をやってる人達なんだけどね?響k…」


ピンポーン と、チャイムの鳴る音。
その後、

男「すいませーん。響鬼ですー。」
轟鬼「轟鬼っすー!」

さきほど怪物を倒した男の声と、
数人の声が響いてきた。


紬「あ、いらっしゃったわ。はい!今出ますねー!」


トコトコと玄関へ向かう紬。
四人分の足音を増やして、紬はロビーに戻ってきた。


紬「紹介しますね!左から響鬼さん、香須実さん、轟鬼さん、斬鬼さんです!」

響鬼「お嬢ちゃん達、大変だったねー。でも、シュッ!俺たちで怪物は倒しちゃうから!安心してね!」

香須実「えっと……皆は説明は聞いた?」

律「はい。大体の話は聞いたんですけどー…いまいち分からないですねー。」


香須実「まぁ、すぐに理解しろっていうのも無理があるし、理解する必要は無いわけだしねぇ…とりあえず、皆今は危険だからこの館から離れないでね?」



唯「え?でも病院には行けないんですか?」

香須実「友達が搬送されたのよね?うーん…じゃあ、私が連れていく。轟鬼君も来てくれる?」

轟鬼「えー!?俺もっすか!?」

香須実「何?嫌なの?」

轟鬼「いや、そういうわけじゃないっすけど…」

斬鬼「良いじゃないか。一緒に行ってやれよ。」

轟鬼「ざ、斬鬼さんが言うなら仕方ないっすけど…」


とりあえず早く戦いたい轟鬼は、しぶしぶながらも
病院への同行に同意し、唯、澪、律、轟鬼、香須実の五人で
梓の搬送された病院へと行くことになった。

ブゥゥゥゥゥゥゥゥン

唯「香須実さん、本当にありがとうございます!」

香須実「いやいや、これくらいの事ならどうってことないわよ。
    それに、大切なお友達が心配でしょう?」

澪「梓……大丈夫かな?」

轟鬼「紬ちゃんの処置が適切だったから、大事には至らないと思うっす。
   ただ、2日くらい熱が出るっすけど……」

律「熱が出るのか!?あ、梓……!」

轟鬼「ああ、いや、心配するほどの熱じゃないっすから、安心してくださいっす!」


轟鬼。まさに熱血漢という言葉が似合う男であり、
斬撃を扱う鬼。
猪突猛進な所があるため、少し配慮に欠ける部分があったりするが
それも彼の良い所。


澪「っていうか……唯、お前なんでギター持ってきてるんだよ?」

唯「ギー太も一緒にあずにゃんのお見舞いをするんだよ!」

律「なんていうか……唯らしいなぁ。」


ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン





医者「あと二日間くらい微熱が出るかもしれないけど、
   もう命に別状は無いから安心して大丈夫だよ。」

梓「そ、そうなんですか。良かった…。」

本格的な処置を終えた梓と医者の居る病室。
屋久島程の大自然を湛えた島ともなると、
割としょっちゅう摩訶魍が出るため医者もそれなりの知識が必要になってくる。



医者「でも、あと5秒でも長くやられていたらマズかったな。
   君は運が良いよ。」

梓「それに、紬先輩がすぐに処置してくれたから……。」

医者「そうだね。あ、もう少しでお見舞いが来るらしいから、楽しみにしておくといいよ。」


梓を残して医者は病室を出る。
一人残された梓は、さっきのことを思い出していた。

謎の女『お前ちょっとうまそうだな。ちょっとうちの子が喜びそうだ。』


ゾクゾクッ……!

謎の女の言葉が再度聞こえた気がして、
思わず身震いする。

梓(本当に怖かった……!あのままおもちゃが来なかったら、私は今頃……。)


ガラガラッ!

唯「あずにゃん!」

梓「唯先輩……?それに澪先輩、律先輩まで!」

澪「大丈夫か?梓。」

律「この分なら大丈夫そうだな。」

梓「はい。もう大丈夫だってお医者さんが言ってました。それよりも……後ろの方々は……?」


梓の言葉を受けて、
轟鬼が梓の目の前におどりだす。

轟鬼「あっ!オス!轟鬼ッス!鬼をやらせていただいていますっ!よろしくお願いします!」

梓「え……?鬼?」

香須実「ああー色々と建てこんでいてね。鬼 って言っても人助け専門の……轟鬼君!」

轟鬼「ああ…す、スイマセン!」



香須実と轟鬼は、梓に自分たちがやってきた旨を大まかに伝え、
「信じられない」といった様子の梓をしり目に
轟鬼は車を準備しに一旦外に出る事になった。


梓「鬼……ですかぁ……。っていうか唯先輩。なんで病室にギターなんですか?」

唯「えー?だってギー太も一緒にお見舞いに行こうと思って……。」

梓「まぁ……唯先輩っぽいですけどね。」


別荘でのへこんだ空気が嘘のように、
病室が和やかな雰囲気に包まれた。

しかしながら平和は長くは続かず、20分程経った頃

廊下が騒がしくなり始めた。


澪「どうしたのかな?」

香須実「どうやらまた出たようね。君たちはここに居てね!」


そう言って香須実は病室の外へと飛び出す。
取り残された女子高生達は、ある事に気づく。

澪「あれ……?唯、どこだ?」

律「ギー太も無いぞ!?」


軽音部一のユルさを誇る平沢唯。
彼女の姿が見えなくなってしまったのである。

梓「唯先輩……まさか……!」

澪「いや、そんなはずがないよ。鬼の人も居るんだし、お化けなんて倒してくれるはずだよ!」

律「あたし、唯探してくる!」

律は、そう言うと一目散に病室を抜け出してしまった。


澪「律!危ないって言われてるのに……律や唯まで怪我しちゃったらどうすれば……」

梓「……」

先ほどのなごやかムードがどこ吹く風か、
病室は一転して重苦しい雰囲気にのまれてしまった。



轟鬼「タァ!はぁー!!!」

病院から少し離れた所で
鬼と化け物二匹。


童子「鬼!」

姫「鬼!」

童子「鬼は倒すよ!」

姫「倒すよ!」


ウキィイイイー!!!
雄たけびと共に飛びかかる二匹の化け物。

その攻撃をいなすと、
轟鬼はそのうち一体に拳をお見舞いした。

童子「グギィ!」


轟鬼「こんなところまで出てきやがって!」
  「ハァァァァァァァァァ!」

轟鬼は足を止め、気合いを入れだす。
これは勝機と見た姫が、轟鬼に対して攻撃を仕掛けたが

轟鬼「ヤァーッ!」

ドスン!バチバチバチッ!


雷鳴と共に姫の鳩尾へと打ち込まれた鋭いフックは、
その皮膚を貫通して姫の体内へと達した。


姫「アアアアア!!グアアアア!」

パァン!

青白い火花を上げながら、
姫は爆発した。

童子「ウグウウウ…!」


轟鬼「後はお前だけだ!ハァッ!ウッ!?」

ドスン!ドスン!ドスン!


童子に対してとどめを刺そうとした轟鬼は、
予想外の地鳴りで足止めを食らってしまった。

轟鬼「ヤマビコ…いや、それにしちゃ足音が多い…!?」


ズズズズズズズズズ!
バキキバキバキ!

凄まじい地鳴りと、木の折れる音が徐々に大きくなっていく。


童子「ヒィィィィイイイ!」

轟鬼「童子が怖がっている…?どういうことだ?」


ズズーン!

一際大きな音と共に現れたのは、黒い色をした巨大な蜘蛛。
家一軒程もあるその巨体が、木々をなぎ倒しながら
轟鬼と童子の目の前に現れたのである。


ツチグモ「キエエエエエエエエエ!」

轟鬼「ツ、ツチグモ!?何でっすか!?」


轟鬼がうろたえている間に、
ツチグモがアクションを起こす。

轟鬼ではなく、童子に対して攻撃を始めたのだ。


ツチグモ「キエエエエエ!」

バキィッ!

ツチグモの巨大な脚が、童子の体を打ち付ける。

ズドォン!

考えられない大きな音を立てて童子の体が地面に埋まった。


童子「ア……ガアア……!」


ツチグモは苦しむ童子にかぶさるように位置をとると、
周りの土ごと童子を食べ始めたのである。

バリ……ムシャ…グ……メキッ……


轟鬼「ど、どういうことっすか……!?童子を食べるだなんて……!」


ズンズン……ズズズン!

食事を終えたツチグモは、まだ足りないというふうに
轟鬼へと向きを変えたのだ。


轟鬼「や、ヤバい!」

ツチグモは勢いをつけると、
体ごと轟鬼にぶち当たってきた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!

そのあまりの速度に轟鬼の反応は間に合わず、
脚の一本にぶつかって吹き飛ばされてしまう。

きりもみしながら吹き飛ぶ轟鬼の腕から、
腕輪型の変身デバイスが外れ、飛んで行ってしまった。

轟鬼「ウワァー!」

途端に轟鬼の変身が解け、
轟鬼の体は全裸のまま木に引っ掛かる形となってしまった。

轟鬼「ざ……斬鬼さん……!」


まさに絶体絶命。
武器無し、防具無し、警戒無し。
全裸のまま木に引っ掛かった轟鬼を食べんと、
ツチグモはその距離を縮めていった。





唯「ふふふーん♪ガチでカシマシNever ending girl's talk!!」


一方、病院の外で上機嫌に歌う唯。
梓が無事だったことへの安堵で、歌わずには居られなくなったのである。


唯「しゃいにしゃなしゃいにえすと……」


ガツッ!

唯「痛っ!」
 「いったー……!何これぇ!?」

唯の歌を邪魔するかのタイミングで降ってきた、
謎の腕輪。


唯「何だろうこれー?ほいっ!うわ!」

ボタンと思しき場所をポチりと押すと、
鬼の顔のようなカバーが上にスライドして
弦のようなものが現れる。

唯「これ……小さいけどギターなのかなぁ?」


ジャラーン

躊躇うことなくその弦を鳴らしてみる。

唯「おおー。凄い良い音が鳴るなぁー。」

しかし唯に違和感。
この腕輪型ギター(?)は、一度鳴らすと音が止まる気配が無い。


3
最終更新:2010年03月14日 00:32