唯「雨、すごい降ってるね~」

澪「今日は楽器置いて帰るか」

梓「そうした方がよさそうですね」

唯「ああ~ん…ギー太と離れ離れになるなんて~」

『最終下校時刻となりました。校内に残っている生徒は────』

澪「ほら唯、帰るぞ」

唯「うん……じゃあねギー太! さよならは言わないよっ!!」

梓「たった一晩じゃないですか…」




ギー太(唯ちゃん…寂しそうだった…)

ギー太(でもね…ギー太って男の子の名前付けてもらったけど…)

ギー太(本当は……)

ギー太(本当は私、女の子なのっ!!)


ギー太「でも、唯ちゃんはいつも私を可愛がってくれる」

ギー太「そんな唯ちゃんが私はとっても好き」

ギー太「例えネーミングセンスがおかしくても……」

「ホンマやで勘弁してほしいわ」

ギー太「エリザベスさん!」

エリ「いやいやいやいや! ないで!」

エリ「ワシかて男やっちゅ~ねん!」

エリ「せやけど、お前んとこの持ち主がワシにけったいな名前付けよってからに…」

エリ「澪のヤツも結局その気になっても~て…定着してもうたがな…」

ギー太「うふふ。でもお似合いですよ、エリザベスさん」

エリ「やめ~や、背中痒ぅなってくるわ」


エリ「しっかし、えらい雨やな~」

ギー太「そうですね~」

エリ「こんな日に外出たら、水分吸ってもうてえらいことになってまうわ」

ギー太「ただでさえ日本は湿気が多いですもんね」

エリ「ワシら楽器にとっては死活問題やさかいの~」

エリ「まぁ、澪はワシのメンテなんかはキッチりやってくれとるさかいに心配はしてへんけど」

ギー太「唯ちゃんだって!!」

エリ「なんや、最近はあのお嬢ちゃんもお前のメンテやってくれるようになったんかいな?」

ギー太「はい! いつもキレイにしてくれてます!!」

エリ「ほな、よかったがな」

ギー太「それに毎日一緒に寝てくれるんです」

エリ「お前、寝返りうたれてバキッ!ってなったら一貫の終いやぞ」

ギー太「そこはなんとか気合でっ!!」

エリ「なんやねんそれ…」


「いいなぁ~、ギー太ちゃんは…」

エリ「おお、キー坊か。あんじょうしとったか?」

キー坊「ボクなんかずっと紬ちゃんと一緒に居たいのに、週末くらいしか持って帰ってもらえないんだよ」

エリ「まぁ、キー坊は楽器っちゅ~よりも精密機械に近いさかい」

エリ「そう毎日持って帰るんも紬嬢ちゃんとしては気も遣わなあかんからな~」

キー坊「でも、ボク寂しいよ…」スンスン

ギー太「キー坊くん…」

「ったく…そんなに毎晩泣かれちゃ、迷惑なんだよ」

エリ「まぁそない言いなやドラム」

怒羅無「ちげぇよ!! ちゃんと怒羅無って言いやがれってんだ!!」

エリ「そんな、暴走族みたいな名前しよってからに。恥ずかしないんかい」

怒羅無「エリザベスなんかよりは何億倍もましじゃね~かよ」

エリ「なんやと! やんのかコラ!!」

怒羅無「ああん!?」

ギー太「もう、やめて下さいよ2人ともっ!!」


「あ~あ、久々に部室に置いていかれたと思ったら…アンタたちは騒ぐしか能がないの…?」

ギー太「むったんさん!」

エリ「なんや、むったん」

怒羅無「うるせぇぞ、むったん」

むったん「ちょっと! その名前で呼ばないでくれる!?」

むったん「私にはムスタングって言う名前があるのよ! 暴れ馬よ、暴れ馬!!」

むったん「それが、梓ったら唯に影響されて私に『むったん』なんて名付けちゃって…」

むったん「暴れ馬の名が聞いて呆れるわ!!」

ギー太「ええ~、でもむったんってカワイイですよ~」

エリ「せやせや、ちっこいねんからむったんでええがな」

怒羅無「むったん、むったん、むったん、むったん」

むったん「う、うるさ~いっ!!」

キー坊「あはっ! 今夜は寂しくないや! ね? 怒羅無さん!」

怒羅無「けっ! 知るかよっ!!」


エリ「なんやなんや~? キー坊は怒羅無と仲がええんか?」

キー坊「ううん、そういう訳じゃないんだけど
     ボクが寂しくて毎晩泣いてるから、いつも怒羅無さんに迷惑かけちゃうんだ」

ギー太「そうなんだ…」

怒羅無「ったく、迷惑だと思ってんなら我慢しやがれってんだ」

エリ「仕方ないがな…」

むったん「そうよ、まだお子様なんだからあんたがちょっとは我慢しなさいよ」

怒羅無「けっ! お前は梓とちっこいもん同士だからお子様の扱いにも慣れてるんだろうな」

むったん「な、なによっ! 言っとくけどアンタたちの持ち主と梓の実力とは
      実際のところ比べ物にならないんだからね!!」


むったん「家は音楽一家だし、本格的にギター始めたのは小学4年からだけど
      楽器の類はもっと以前から触れていたし」

むったん「本当だったらこんなお遊びのクラブなんかじゃなくって
      本格的に音楽の道を目指しても不思議じゃないんだから」

むったん「仕方なくアンタたちとつるんでやってるのよ!」

ギー太「はい! スゴイですね! むったんさん!!」

エリ「ホンマ、関心するでむったん」

怒羅無「変なこと言って悪かったな、むったん」

キー坊「尊敬します。むったんさん!!」

むったん「きぃ~~~~~~~っ!!!!!」


エリ「でも、そんなこと言うたらキー坊のとこの紬お嬢も相当な実力持っとるやろ?」

怒羅無「ああ、あいつの実力は認めざるを得ないな」

ギー太「うん、紬ちゃんもすっごく上手いよね」

キー坊「でもね、紬ちゃんも小さい頃からクラシックピアノやってたんだけど
     結局伸び代がなくて辞めちゃったんだって」

キー坊「やっぱり、その道に進めるのは一握りの才能のある人だけだって」

エリ「そないな事が…、音楽で食うて行こう思たらしんどいねんなぁ~」

むったん「……梓は…きっと大丈夫よ…」

怒羅無「おい、お前さっきから自分のことばっかりじゃねえかよ」

むったん「ふ、ふん! どうせ、才能がなかったなんて言い草は努力の足りなかった者の言い訳よ」

怒羅無「んだと!コラ!!」ドムドムドムドム

むったん「ちょっと! 止めなさいよ! そんなにバスドラ連打されたら
      振動でスタンドから落ちちゃうでしょ!!」

エリ「せ、せやで!! ワシらも危ないで!!」

ギー太「きゃ~!! 助けて~!!」


キー坊「で、でもね! 紬ちゃんピアノやってて良かったって言ってたよ!」

怒羅無「ピタッ」

キー坊「ピアノやってたから、だからこの軽音部でキーボードが弾けるって
     みんなと一緒にバンドが組めるって、本当に嬉しそうだった」

キー坊「諦めて、自分の限界を知って落ち込んだけど、
     この出逢いのためにピアノを続けてきたんだって」

キー坊「そう考えたら今までやってきたことのお釣りも来るくらいだって」

キー坊「紬ちゃん、そう言ってたよ!」

エリ「…そうか」

ギー太「ううっ…紬ちゃん…イイハナシダナー」

むったん「……ふん」

怒羅無「おめぇも、もちっと素直だったらカワイイのにな」

むったん「なによ! そうやって仲良しゴッコしてればいいのよ!!」

ギー太「むったんさん…」

エリ「あかんあかん。ああなったらプライド高いやつはテコでも動かへん」

怒羅無「梓は素直でいいヤツなんだけどな」


エリ「ところで、ギー太。自分最近メンテやってもろとるか?」

ギー太「えっ? ちゃんとキレイに拭いたりしてくれてるよ」

エリ「いや…そうやのうて弦の張替えとか」

怒羅無「おう。転ばぬ先のメンテだぞ」

ギー太「でも…唯ちゃんそういうの苦手で…」

エリ「あのなぁ~…そんなん言うたかて最後に痛い目見るんは結局自分やで?」

怒羅無「ああ。何かあってからじゃ遅ぇからな」

キー坊「大丈夫だよ! 何かあったらまた紬ちゃんの店でなんとかしてくれるよ」

ギー太「そうだよね!!」

エリ「ホンマ、そんなとこばっかし持ち主に似おってからに…」

怒羅無「お前はメンテ出すだけで済んでも、唯の評判が落ちるぞ」

エリ「せやで、何回おんなじこと繰り返すねん! って」

むったん「正直あんたの持ち主の不備のせいで練習がストップするのが迷惑なのよ」

エリ「この件に関してはむったんの意見に同意やな」

ギー太「ううっ……」



翌日 放課後

唯「ああっ!! ギー太!! 会いたかったよっ!!」

澪「あいかわらず、大袈裟だな~」

唯「澪ちゃんは、エリザベスのこと心配じゃなかったの?」

澪「まぁ…ある程度は…」

唯「でしょ~」

律「でも、唯には負けるよ。なぁ、梓」

梓「むったん…///」

澪「……梓」

梓「あっ」

紬「梓ちゃんもよっぽどそのギターがお気に入りなのね」

梓「はい…。お恥ずかしながら、唯先輩の気持ちも分からないではないんです」

唯「だよね! みんな愛が足りないよ!!」


唯「ちゃんと愛を持って接すれば楽器だって応えてくれるんだよ」

梓「唯先輩にしては良いこと言ってますね」

唯「えへへ」

澪「そうは言うが、唯は愛のかけ方がちょっとズレてるっていうか…」

律「そうそう、服着せたりとかだもんな」

唯「失敬な、ちゃんとキレイに拭いたりしてるも~ん」

紬「えらいわ、唯ちゃん。ちゃんと先の教訓をいかしてるのね」

唯「えっへん! そういう澪ちゃんやりっちゃんはどうなのさ~」

澪「私は心配されなくてもシッカリとしてるよ」

律「私だって、ドラムセットはちゃんとメンテするとなると時間かかるから
  毎日終わってからチョコチョコと少しずつやってるよん」

梓「確かに律先輩は意外なほど毎日コツコツとやってますもんね」

澪「律にしてはよくやってるよな」

律「え?なに? この言われ方……」

唯「感動したっ!!」

律「うるへー!!」


 ジャカジャカ♪

ギー太(う…う…)

エリ(ん? どうしたんや?ギー太)

ギー太(わ、私…もう…らめっ!!)プチンッ!!

唯「うわっ!!」

律「唯!? 大丈夫か!!」

ギー太(ん…/// はぁん///)ガクガク

澪「弦切れたのか!?」

紬「ケガはない唯ちゃん!?」

唯「うん、大丈夫」

梓「よかった…」

怒羅無(ほら言わんこっちゃねぇ!)

キー坊(でもケガなさそうでよかったね)

むったん(まったく…、今日はもう練習できそうにないわね)

紬「……うん、どこにも傷はなさそうね」

唯「はぁ~、ビックリした~」

澪「それはそうと、唯。いつ弦を交換した?」

唯「え? ええ~っと……。前にムギちゃんのお店でやってもらってから一度も…」

律「メンテやってたんじゃないの?」

唯「だって、弦の張替えなんて難しいことできないよ~」

梓「それならそうと、言ってくれれば私だって教えますよ」

澪「できないからって面倒くさがってちゃ、いつまでたってもできないぞ」

唯「じゃあ今からまたムギちゃんとこの店で…」

律「今回はちゃんとお金あるのか?」

唯「あっ…」

紬「ごめんなさい唯ちゃん。さすがに毎回無料にするわけには…」

唯「そ、そうだよね…」


唯「じ、じゃあ、あずにゃんに弦の張り方教えてもらうよ」

梓「それはいいですけど、今は予備の弦なんて持ってないですよ」

唯「あぅ…」

澪「どっちにしろ、今日は練習できないな。楽器屋に替えの弦買いに行かなきゃいけないし」

律「なんだよ~。せっかく練習する気になってたのに~」

唯「…ごめんね、みんな…」

律「じゃあさ、せっかくだからついでにカラオケに行こうぜ!!」

澪「お前はそれが目的だろ!!」

唯「あ、あははは……」

ギー太(唯ちゃん……)

エリ(分かったか? こんな些細な綻びがいつか大きな亀裂になる場合もあるんやで)

怒羅無(今は律がおちゃらけたからなんとか保ってるけどな)

むったん(…くっ)ギリギリ……!!

キー坊(むったんさん、どうしたの?)


むったん(う…ぐっ…)プチンッ!!

ギー太(!?)

梓「キャッ!?」

紬「梓ちゃんのギターまでっ!?」

律「こりゃあ…今日はギターの厄日かもな」

唯「昨日置いて帰ったから怒ってるんだよきっと」

澪「そ、そんなわけないだろ!?」

律「…いやいや、もしかしたら楽器達が人間への不満を爆発させて遂に反抗をっ!!」

澪「ひぃっ!!」

紬「弦なんてめったに切れないのにそれが2回も続くとなると…」

澪「む、ムギまで!?」

紬「ご、ごめんなさい。でも、こうなってくると唯ちゃんのギターの弦が切れたのも
  何か違う力が働いたのかも…」

澪「や、やめてくれ~!!」

むったん(はぅ…/// んんっ…///)

ギー太(むったんさん…もしかして、唯ちゃんと私のために…)

むったん(か、勘違いしないでよね! そろそろ弦の交換してほしかっただけよ!!)

梓「つい先日全部の弦を張り替えたばっかりなのに…」

エリ(ニヤニヤ) 怒羅無(ニヤニヤ)

むったん(な、なによっ!!)

エリ(ワシ感動で今ごっつ弦緩んでもうとるわ~)

怒羅無(俺も、今叩かれたら変な音が出そうだぜ)

むったん(ふんっ!! ギスギスしだしたら梓が可哀想って思っただけよ)

ギー太(フフフッ。でもありがとう、むったんさん)

キー坊(むったんさんもボク達放課後ティータイムの仲間だもんね!)

むったん(そ、そうよ! あくまでこのバンドのためよ!)

エリ(もう分かったがな)


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最終更新:2010年03月20日 03:32