アドルフ『そうだ、当たり前のことだ。』

アドルフ『しかしだ、日本語の文法をある個人や集団が勝手に大きく改変して、
出鱈目な言葉を話したらどうなるだろう?』

唯「新しいことばもたくさん生まれてくるよ?」

アドルフ『いや、単語個々の問題ではなく…うむ…』

アドルフ『日本語とドイツ語を足して2で割った言葉を話したとしたら?』

唯「そんなのだいこんらんだよ。
それにきっと、誰からも相手にされなくなっちゃう。」


アドルフ『だろう?』

アドルフ『言葉、とくにある民族に固有の言葉というのは非常に大切なものなのだ。』

アドルフ『我々は日頃言葉を用いるため、その恩恵に与っている。』

アドルフ『ところがこれが国家ないし民族のことになると…』

アドルフ『確かに、人間は国家と離れて、
短時間なら個人や小集団で生きることができるかもしれない。』

アドルフ『しかし、人間は一人では生きていけない。』

アドルフ『小集団は、それより強い集団の前に脆くも崩れさるだろう。』

アドルフ『だからこそ、血と言語を同じくする個人は助けあい、
共同体を形成しなければならない。』

アドルフ『おそらく、民族総体としての共同体から
個人や小集団が距離を置くとき、』

アドルフ『その個人や小集団は多分に利己的な行動をする。』

アドルフ『そしてそれが、人間精神にとってかけがえのないもの、
真に価値あるものを毀損するようになる。』

アドルフ『これは、アブラハム以降、ユダヤ人のお家芸だった。』

ヒトラー『彼らは自己流の価値を創作する。』

ヒトラー『ただ、貪欲を満たさんがためだけにだ。』

ヒトラー『そのためには、屁理屈や姑息な論理をためらわず使う。』

唯「なんかよくわからない…」

アドルフ『そうだね、ゆいは知らなくていいことだ。』

アドルフ『そういえば、私は日本人も二種類に分けられると聞いているね。』

アドルフ『一方は集団と美徳のために進んで己を捨てるサムライ。』

アドルフ『それに対して、退廃していて利己的で貪欲なものたち。』

アドルフ『先帝のお側と資本家の多くには、
そのような碌でもない輩が満ちていた、と聞いたよ。』

唯「初耳。でも、"サムライ"の数はどんどん減ってるかな。」

アドルフ『今のドイツでも同じことだろう。まったく!耐え難いことだ!!』

アドルフ『ただ、希望はあるかもしれない。』

唯「どういうこと?」

アドルフ『現世に蘇ってまだ日は浅いが、
様々に有益な情報を手に入れることができた。』

アドルフ『我が国家社会主義ドイツ労働者党の
有意あるものたちが、南米に多く逃れただろう?』

唯「あー、そんなこと書いてあったね。」

アドルフ『彼らおよび彼らの意志を継ぐ者たちが、
サークルのような物を作っているかもしれない。』

これは虫の良すぎる話だろう。
唯は気が付かなかったけれど。

アドルフ『今のドイツにいる、私の名ないし思想を振りかざして、
無意味な行動に走る、あの馬鹿者どもとは違う…』

アドルフ『そういった、真に心ある者たちと連絡が取れればよいのだが、
如何せん、この身体ではね…』


唯「なら、アドルフ、私が協力してあげるよ!」

アドルフ『ゆい、本当かい!?』

唯「うん!って言っても、どうすればいいかわからないや。
南アメリカでしょ…」

アドルフ『ゆい、焦らずに。堅実に考えいこう。』

唯「うん!」



再び憂の部屋。

律「唯のやつ、協力するとか、南米、とか言ってるぞ…」

和「うーん。唯だけの話じゃ、
何について話してるのかほとんど分からないわ…」

純「ブツブツブツ…」

梓「純はお経唱えたままだし…」

純「…」

純「あずさ、私はね、ジャミングを和らげようとしてるの。」

梓「い、意味がわからない…」

純「おかげで霊体のほうの音声も九割型拾えました。」

和「ほんとう!?」

純「はい。」

純「多分、あの霊体は生前には、アドルフ・ヒトラーだったはずです。」

和「そう…」

純「国や民族について唯先輩に話してました。
あとユダヤ人の悪口も。」

梓「死んだ後も、ユダヤ人に酷いこと言うなんて…可哀想なひと…」

純「あと、国家社会なんたら党の生き残りが
南米にいるかもしれないから、連絡取りたいと…」

さわ子「南米にはNSDAPの流れを汲む秘密組織があるっていうしね…」

律「って、さわちゃん!?」

さわ子「あんたらなんであたしに黙ってたのよ!
総統が唯ちゃんに取り憑いたこと!」

律「私ら軽音部もさっき知ったんだよ!」

さわ子「総統と話すチャンスじゃない!」

律(とりあえずさわちゃんは無視っ、と。)

律「鈴木さん、他には?」

純「とりあえずは慎重に堅実に行こう、
みたいなことを言ってました。」

和「なら、まだ具体的なことも決まっていないのね?」

純「さっきの会話じゃそこまでは…」

和「でも早く手を打たないと…」

さわ子「末は唯ちゃん、"第四帝国"の最高幹部かしら?」

憂「お、ねーちゃん…」

和「そんなに上手くいくはずないでしょう。
それに唯は日本人、モンゴロイドよ。」

梓「でも、ヒトラーみたいなとんでもない人間を
私たちがどうにかできるんでしょうか…」

和「今は唯にくっついている、ただの幽霊よ。」

和「それに…私たちが、チャーチルやルーズベルトと
同じ土俵に立つ必要はないでしょ?」

梓「でも…」

純「払うにしても、多分ですけど、かなり大変だと思います。」

律「マジ!?」

純「はい…」

純「歴史上の人物の霊っていうのは、
一般人よりも、"我"がすごく強いっていうか…」

純「怨念だとか執念だとか、そんなのが桁違いなんです…」

梓「確かに、ヒトラーの幽霊ってだけで執念深そう…」

純「かなり周到な準備が必要になります。」

紬「琴吹グループも総力をあげてバックアップするわ!
唯ちゃんを救うためだもの…!」

和「でも、問題なのは…」

和「ヒトラーを追い払うなり消滅させるのに加えて、唯を説得、というか…」

和「あの子を上手く教え導かないと…」

さわ子「私を頼りなさいっ!」

律「さわちゃんじゃ、かえって引きこんじゃいそうだ。」

澪「わ、わたし…だって…」

律「澪無理するな。話聞くだけでも駄目なのに、
相手はモノホンだぞ?」

澪「な、なんとか頑張って…みる…」

和「では、みんな、いいわねっ!?」

律紬梓憂純さわ「「「「「「応(おう)!」」」」」」

澪「ぉ…ぉぅ…」

こうして、放課後ティータイム+生徒会長+αは
唯奪還作戦を開始する。



~某日、生徒会室~
和「で、その霊体の特性というのは?」

純「標準語で言う"波長"や"ゆらぎ"みたいなものがあるらしいんです。」

和「ひ、ひょうじゅんご??」

純「津軽の言葉だと持って複雑な概念構造になるらしいんです。」

和「そ、そうなの…」


同日 田井中家

律「『スリーピーホロー』、『リング』、『エクソシスト』」

律「どれから始める??」

澪「もっとソフトなのが良い…」

律「じゃ、もっとハードなやつにするぞ!」

澪「さっきのから選ぶ…!」

澪「う、うう…こんなので、幽霊と戦う訓練になるの…?」

律「多分。」

澪「…」



同日 桜高軽音部員行きつけのアイス屋

唯「あずにゃん、アイス美味しいね~」

梓「は、はい…」

アドルフ『ドイツとオーストリアの、
さらに東欧、バルト諸国に散らばるドイツ人たち…』

梓(ちかくにいるんだよね…)

梓(ア、アイス食べたいとか考えてるのかな…)

アドルフ『彼らヨーロッパに散在する雄志あるドイツ人を募り、
草の根の地下ネットワークを作ることから…』



同日 平沢家近くの神社

パンパン!

憂「どうか…どうか…おねーちゃんのことを助けてください!」

憂「五十一回目…」

憂「あと四十九回…」

憂「よーし!」


同日 琴吹家

紬「機材の確保はどの程度かしら?」

斉藤「はっ、七割ほどかと…」

紬「急がせなさい。」

斉藤「ハッ!」



数日後 京都府のどこかにある某滝

滝に打たれる少女たち

純「オンアミリタテイゼイカラウン!」

憂「オンアミリタテイゼイカラウン!」

梓「オンアンンんりみったっリタテイゼイカラあああウン!」

純「ノウマクサンマンダバザラダンカン!」

憂「ノウマクサンマンダバザラダンカン!」

梓「の、ノーまっクバあザランカンんん!!」


※真言や修験道とイタコの関係は知りません。
信じないで下さい。



同じく数日後 秋山家

律「え、えーと…百姓一揆!」

澪「バカっ!ミュンヘン一揆だ!」

律「こ、こんなの覚えても何にもなんないって…」

澪「りつ、敵がどんな奴なのかを知ることはすごく重要なんだ!!」

澪「さっ、あと半日、みっちりやるぞ!」

律「くっ…」

律(この間のこと根に持ってやがる…)



同じく数日後 さわ子のアパート

さわ子「あったあった!」

さわ子「取っといて良かったわぁ…」

さわ子「でもまだ入るかしら…」

さわ子「まあ少しきつくても」

さわ子「ふふ…」

さわ子「うふふふ…」



同じく数日後 琴吹家

紬「機材の搬入、セッティング、テスト。」

紬「全て完了したわ。」

和「しかし、よく借りられたわね?流石は琴吹家。」

紬「ううん、単にオフシーズンだからよ♪」

和「軽音部のメンバーや鈴木さんとの打ち合わせも済んだし…」

和「…」

和「でも…」

和「唯にとっては悲しいことになるのかしら?」

紬「人類史上最も破滅的だった出来事の原因から
離れることができるんだから…」

紬「唯ちゃんにとっても、私たちにとっても正しいこと、だわ。絶対に。」

和「…」

和「ええ、そうね。」



同じく数日後 京都市内 鞍馬山

唯は一人、ではなくアドルフと一緒に鞍馬山を訪れていた。
アドルフに京都市内を案内するためだ。
しかし、アドルフは、京都御所と本能寺を見た後は、
ほかの名所を選ばずに、鞍馬山を希望していた。

唯「良い眺めだね!」

アドルフ『そうだね、ゆい!日本の自然風景もまた、
     高地ドイツのそれとは違った魅力がある。』



観光客A「奥さん、あの女の子さっきから一人でブツブツ…」ヒソヒソ

観光客B「きっと心の病気になって傷心旅行なのよ可哀相…」ヒソヒソ


唯「そういえばさあ…」

アドルフ『なんだい、ゆい?』

唯「アドルフは建物の設計したり絵を描いたりする仕事につきたかったんでしょ?」

アドルフ『ああ。前に話したね。』

唯「京都の中には、お寺や神社がいっぱいあるんだよ?
  見学しなくていいの?」

アドルフ『そうだねえ、唯。たしかに、日本の寺社仏閣は素敵な建物かもしれない。』

アドルフ『ただね、伝統的な日本建築は、
     私にとって風車小屋や水車小屋と同じものと考えられるのだよ。』

唯「?」

アドルフ『子供のころ、よく遊びに帰った、母の実家のあるシュピタル村。
     かの景色…』

アドルフ『あの景色を思い返すたびに、私は懐かしさに浸り、
     楽しい時間をすごすことができる』

アドルフ『しかし、それだけなのだ。
     それはメランコリーから出ているに過ぎない。』

アドルフ『伝統的な日本建築への日本人の愛着も、実は、』

アドルフ『牧歌的なものや始原的なもの、もしくは原始宗教にまつわるもの
     …へのメランコリーなのだ。』

アドルフ『それは、真に美的なもの、および…
     それより生まれる建築物とは、あまり関係がない。』

アドルフ『まあ、おいおい、"真の美"について、
     私の思うところを話してあげよう。』

アドルフ『ただ、今はこの鞍馬山に来ていることだし…』

アドルフ『ひとつ、神、のことについて話すとしよう。』

唯「神様??」

アドルフ『ああ、そうだよ、ゆい。』

唯「アドルフはキリスト教徒だから、キリストさんのこと?」

アドルフ『うーん、そうではないな。私がこれから話すのは
     いわゆるキリスト教の神ではないんだ。』

アドルフ『かといって、無関係でもないがね。』

アドルフ『それに、私がキリスト教徒であるのは"形"だけなんだよ。』

アドルフ『…さて。』

アドルフ『神というのは、超越的で、人間の運命を握っている存在だ。』

アドルフ『そして、宗教は様々あり、日本人のもっているような自然宗教、
     キリスト教、イスラム教、仏教…』

アドルフ『そして宗教には、その宗教を創始した者がいる。
     預言者と呼ばれている人々がそうだ。』

アドルフ『もちろん、自然宗教は例外だがね。』

アドルフ『さて、宗教を理解するために肝要なことの一つは…』

アドルフ『預言者とはいったい何者なのか、を理解すること。』

アドルフ『預言者とは、神と預言者以外の人間をつなぐ、人間だ。』

アドルフ『そして、おそらく神は、人間が進むべき道、
     また逆に、誤れる道、を知っている。』

アドルフ『しかし、全ての人間が神から召命を与えられうるわけではない。』

アドルフ『それに召命を与えられうるとしても、預言者の側にも
     神の意思を慮る能力の差が生まれてくる。』

アドルフ『たとえばモーゼとキリスト、モーゼとムハンマドの差、としてね。』

アドルフ『そう、大切なのは、神の召命を読み解く力だ。』

アドルフ『しかしだ、ほとんどの預言者は"きちがい"で、
     ほとんどの宗教は迷信なのだ。』

アドルフ『人間はもともと、神秘的なもの、人間的なものを超え出る力存在に
     惹かれるようにできている。』

アドルフ『しかし、その瞬間に、迷信や誤謬に引き寄せられる可能性が付きまとう。』

アドルフ『神のしるし、を正しく読み解き、人々を率いる者。』

アドルフ『そして、民族を指導する責務を最も負って言う者には、
     この能力が備わっていなければならない。』

アドルフ『キリスト教の神、父と子、これもまた迷信にしか過ぎない。』

アドルフ『しかし、神は、確実に存在する。』

アドルフ『ただし、迷信だといってキリスト教を退けるのも間違いだ。』

アドルフ『キリスト教がモラルや規律の維持に必要ならこれを使う。』

アドルフ『ただし、次第に消えるにまかせ、より確実かつ明証的な規律やモラルに道を譲るのが望ましいだろう。』

アドルフ『ようするに、キリスト教は、一過性的な道具なのだ。
     民族の発展および繁栄のための。』


8
最終更新:2010年03月22日 04:13