唯「…」

唯「アドルフの言っていること、
  ちんぷんかんぷんだよ…ぜんぜんわからない。」

アドルフ『それでいいんだよ、ゆい。今はね。
     世の中には、知ったかぶりをして男に媚びる女狐が多くいるのだから。』


アドルフ『おっと、かなり日が傾いてきたようだ。』

アドルフ『ゆい、そろそろ帰ろうじゃないか?』

唯「そうだね、帰ろっか!」


唯の背後には、鞍馬山よりやや高い貴船山がそびえている。
その山影の中に、落ち日は飲み込まれつつあった。


翌日 関西最大の某ドーム型野球場

唯「この野球場の中でサプライズコンサートがあるの??」

憂「うん、そうだよ♪」

アドルフ『この大きな建築物のなかで?』

アドルフ『ついて来たくは無かったが、ゆいとは離れられぬし…』

横のアドルフは苦り渋ったような顔をしている。

唯は憂に急かされるまま、何もわからぬままに連れ出されていた。
なんでも、新進気鋭のアーティストのコンサートなりライブがある、との理由で。

唯「やっぱり、みんなと一緒に来たかったなぁ…」

憂「に、二枚しかチケットが手に入らなくてね!」

憂(おねーちゃんと"もう一人"用の)


憂は唯を先導する。
一般客は普段立ち入りが禁止されている、関係者用の回廊を進んで。

一分ほどで、巨大な左右開閉式の扉の前にたどり着く二人と一体。

憂「この中だよ!」

唯「うん!」

唯「でもさ、お客さん、私たち以外にぜんぜんいないね??」

憂「そ、それはね、超限定なコンサートだからなの!!」

唯「ほー!!」

憂「さ、入ろう!」

憂がそう言うと、目前の扉が少しずつ開いていく。


唯「おっ…!」

唯「…」

唯「??」

憂「ささ、おねーちゃん!」

憂に背中を押される形で扉をくぐる。

球場の中には、センターとライトの間ぐらいにステージが設置され、
その前には座席が二つ。
座席を広く円形に囲んで、唯の背丈よりもはるかに大きい
巨大なモノリスのような物体がいくつもそびえている。

唯「!!!!」

しかし、何より唯を驚かせたのは…
ステージの上にいる「アーティスト」たち。


「わたしたちのライブにようこそっ!」


唯「み、んな…」

ステージ上には唯を除いた放課後テイータイムのメンバー。
その向かって右隣には、白装束と肩掛けを装った純。
電電太鼓を大きくしたような太鼓とバチを手にもっている。

紬の少し後ろには、様々な配線のついた装置があり、
そのすぐ後ろに和が座る。

律「さっ、ステージ前の席にすわってくれよっ!!」

唯「え、えーと…」

憂「ほら、おねーちゃん♪」

アドルフ『??』

アドルフは気付くはずもない。
このライブイベントが催される意味を。


澪「え、えーと、きょ、きょうは放課後ティーっツァイムのライブに…」

律(噛むなよ…)

梓(澪先輩ファイトです!)

澪「来てくれてありがとう…」

唯「ぽっかーーーん。」

唯「…」

唯「ま、いいや♪私が参加できないのがかなし-けど。
  いじめとか…?」

そうぶつぶつ言いつつ、座席に着く唯。
アドルフは唯の右隣に立ったまま。

唯「ほら憂、憂も座りなよ?」

唯は左の席をぽんぽん叩きながら言う。

憂「ごめんね、おねーちゃん、そこは私の席じゃないんだ。」

そういうと憂は、ステージの上に駆け上がり、
正座で座っている純のとなりに、彼女と同じ姿勢で着座する。

唯「う、うい??」

一方のアドルフは彼女たちを、いぶかしむようにみる。

アドルフ『なぜこの子たちは、メイドの格好をしているのだ?』

アドルフ『意味がわからない…』

なぜか、和までメイド姿である。
なので、純の衣装がかえって引き立つ。


澪「きょ、きょうは…あなたたちのため…だけに、
  ライブを開く…ことにしました…」

唯「あなたたち??」

唯「わたししかいないのに??」

アドルフが見えていないのは唯の勘定に入っている。

アドルフ『…』

アドルフ『まさか…』

澪「で、ではさっそく…」

純「いくよ、憂!」

憂「うん!」

純憂「「あまてらしますすめおおかみののたまわく
    あめがしたのみたまもの…」」


澪「『Heart Goes Boom!! 』」

律「いちにさんしーいちにっさん!!」

澪「ハッツハッ!」

紬「♪~」

梓「ヨイショ♪」

各々演奏をはじめる放課後ティータイムのメンバー。

澪「花は恥らうもの ♪

澪「鳥はさえずるもの ♪」

純憂「みみにしょしょのふじょうをききて、
   こころにしょしょのふじょうをきかず―」

ドンドンドンドンドンドンドン…

祝詞のようなものをひたすら唱える二人。
加えて純は、太鼓もひたすら熱心に叩く。


唯「やっぱり澪ちゃんはうまいな~♪」

唯「でも…憂と純ちゃんはなにやってるの?
  純ちゃん、変な格好で変な太鼓みたいのたたいてるし。」

唯「ね、あどる…」

唯「!!!」

アドルフ『ぐ…ぐぐ……ぬ…!』

苦悶の表情を浮かべるアドルフ。
脂汗でもかいているような…

唯「アドルフ、どうしたの!?」


唯「ねえ、アドルフ!!!」

アドルフ『ぐ、ぐぅ…こ、この…忌まわしき…波のような…!!』

アドルフ『か、か…ら…だが…!!』

唯「アドルフ!!!」

アドルフ『せい…しん…が…!!!!!!』

霊体のアドルフにとって、身体と精神は同じものだ。


和(聞いているようね、対ヒトラーの霊体用の…)

和(いわゆる音波攻撃システム。)




~和の回想~

和「楽器を使う?」

純「はい。イタコは、その技術を用いる際に、一種の楽器を使うんです。
  太鼓とか、ほかにも種類がありますけれど…」

純「純粋な仏教で言うなら、密教の護摩の際の太鼓や、
  もっとポピュラーな木魚と同じです。」

純「標準語の概念構造でいうなら、霊の波長と同調するためらしいんですけど。
  これを逆に使いまして…」


~和の回想終わり~

和(逆利用して、ヒトラーの霊体にぶつける。)

和(鈴木さんと憂の祈祷なり読経で増幅して…)

和(ヒトラーが身の毛よだつほど嫌う音…)

和(退廃音楽を!!)



アドルフ『グ…ググ…』

唯「アドルフ!!ねえあどるふっ!!」

澪の曲が一通り終わるが伴奏はとまらない。
伴奏は変奏をはさみ、そして、
曲調が変わる。

ファースト側の左右開閉扉が開き、そこから、
黒い格好をした女性が乱入する。


さわ子「ドイッチュラントユーバーアレスぅぅぅ!!!!!」



和(さわ子先生。)

和(異常だわ…)


ヴァッフェンSSの将校制服を着込んださわ子である。
※メイクは彼女のキャラソンのジャケットを参考にしてもらいたい。
眼鏡をはずした、キメまくったメイク。

澪の隣に飛び込むさわ子。

澪「ひぃぃぃぃ!!!」

紬(メイクキメキメのさわ子せんせぇ…/////)ジュン

さわ子「おーら、ハイルヒットラーーーー!!」

そういうとさわ子は、唯の前にある本を投げる。


唯「表紙のおじさん…年取ったアドルフ!?」

アドルフの著書『わが闘争』だ。

アドルフ『ワ…タシ…ノソン…ザイ…ニ…キズイ…』

アドルフ『グウウウウウウウウウウ!!!!!!!』

唯「もしかして、みんな…」

唯「!!!」

唯「やめてっ!!!すぐに演奏を止めて!!!!」

さわ子「否!いなっ!!三度いなぁぁぁっぁ!!!」

さわ子「『Mady Candy』!!!!」

純憂「諸法皆是因縁生因縁生故無自性無自性故無去来無去来故無所得…」


そして演奏は続く…

アドルフ『k…m…pf…』ジッジジッ…

アドルフの霊体の姿のちらつきが激しくなり、
上下左右に膨張縮小を繰り返し始める。

唯「アドルフが消えちゃうっ!!!」

唯「お願いやめてっ!!やめてよぉぉぉ!!!!!」

純憂「自相空共相空一切法空不可得空…」

純(よーしよし!)

純は太鼓を叩くのをやめ。両手で頭上に円を大きく作る。

和「もう一押しってところね…」

和「みんな、ラストスパートが近いようよ!!」

律「おうっ!!」

澪「ああ!!」

さわ子「ゼーハー…ゼーハー…」

アドルフ『…』

唯「や…」

唯「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

そのとき。

パ…キン!!

唯の懐から、何かが割れる音がする。
大きく響き、大音響で演奏している律たちの耳にもはっきりと聞こえる。


律「が、ガラスか何かわれるような!?」

和「多分あのピックじゃないかしら!?これで多分ヒトラーの霊も…」

純「!!!!」

純「ブクブクブク…」

憂「じゅ、じゅんちゃん!?」

純が泡を吹いて失神する。

梓「じゅんっ!!」

澪「お、おい、あ、あれ…」

澪が指差す唯のいるほう。
唯の頭上にオーロラのようなものが漂っている。
そしてその輝く半透明なカーテンのようなものは
少しずつ人型をとり始める。

唯「やぁぁぁ…ぁぁぁぁ!!」

紬「人の形!?」

和「女の人…鎧を着ているような…」

アドルフ『ヴァル…ハル…ヴァル…キューレ??』

輝く人型のようなものは、片手の長い剣のようなものを
アドルフの頭上で一閃する。


その瞬間、アドルフのいる空間からほとばしる閃光。

紬「ま、まぶ…」

数秒の後―

律「目がいてぇー…」

澪「これはヒトラーが消え…」

澪「!!!」

輝く人型は消えていた。
そのかわり、唯の隣には、白人の、痩せた若い男。
その瞳は澄んだ青。
その場の全員がはっきりと視認できる。

和「う…そ…」

律「見え…てる…」

アドルフ「わたしは…」

アドルフ「これはどうしたことだ…」

唯「よかった…よかったぁ!!」

アドルフに抱きつこうとする唯。
しかし、アドルフの身体をつかむことはできない。

唯「あ、そういえば幽霊だったね…へへ…」

唯「痛いところはない??」

アドルフ「ああ、全く無いよ。先ほどのおぞましい苦痛が嘘のようだ。」

梓「も、もしかして状況が悪化してません…??」

律「おいヒトラー!!唯から離れやがれ!!」

アドルフ「!!」

アドルフ「この娘、私の瞳を見ている…」

アドルフ「きみたち、わたしが見えるのか?」

和「ええ、何でかは知らないけどね…」

アドルフ「そうか…そうか!!」

アドルフ「…」

アドルフ「いやまったく、きみたちには感謝しなければならない。」

アドルフ「苦痛とは人を一段階押し上げるものだ。
     今回もまた思い知ったよ。」


和「…」

和「意思疎通ができるようになったついでに、お願いがあるんだけど…」

和「唯から離れて、どこかへ行ってくれないかしら??」

アドルフ「…」

アドルフ「ゆいはどう思う?」

唯「いや!」

アドルフ「わたしも唯に同じだよ。」

和「そう…」

和「それで、これから、どうするの?」

アドルフ「私が誰かを知っているなら、容易く想像がつくだろう。」

アドルフ「私に課せられた召命を再開するだけだ。」

梓「あなた、まだわかってないの!?
  あなたが昔仕出かしたことの大きさ!悲惨さ!!」


アドルフ「女はいつもそうだ。物事の本質を理解せず、感情に流され、
     男たちを泥沼に引きずり込もうとする。」

唯「わたしも??」

アドルフ「ゆい。この女性の性質には悪い面もあるが良い面もあるんだよ。」

アドルフ「姪のゲリや妻のエーウァ、私の最も大切な女性たちも、
     そういった女性ではあったが…」

アドルフ「ようは夫が、父が、兄が、男が強くあればよいのだ。男は兵士でなければならない。
     死を前に勇んで進み、指導者には服従する。
     優秀な兵士とはそういうものだ。」

和「あなたの考え方は、まったく時代錯誤よ。」

アドルフ「それは違うな。現代人はすっかり飼い慣れされ、家畜になってしまったから、
     価値ある生き方をけなして自らを正当化しようとする。」

アドルフ「現代人は、最悪なマルクシズムとは別の悪
     貪欲と利己に精出しているだけだ。」

アドルフ「『歴史のおわり』などという概念を見つけたときには、
     腹を抱えて笑ったものだ。」

アドルフ「たしか、彼も日本人の系統であったかな…」

アドルフ「まあ、いい。真に価値あるものから目を背ける人間は
     ただ滅び行くだけだ。」

和「わたしは、あんたの目指したものが価値あるとはまったく思えないわ。
  自分の民族のことしか考えない…」

アドルフ「ならきみたちは他民族のことを思いやっているかね?」

アドルフ「マルクシズムの概念も、価値判断を抜いた分析概念としては
     正しいものがいくつかある。」

アドルフ「きみたち日本人やアメリカ人が甘い汁を吸うことで、
     その奴隷になっている外国人が多くいることをしらないかね。」


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最終更新:2010年03月22日 04:15