私は、律先輩と付き合ってる。

軽音楽部の部員としても楽しませてもらったし、プライベートでもたくさん遊んでもらった。

気がつけば3月も終わってしまう。

同じ地域にいられるのも、今月でおしまいだ。

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「私、自衛隊に入るんだ」

「自衛隊…律先輩がですか?」

私が高校2年生に上がってからすぐに言われたこと。
自衛隊か、かっこいいな。


「すごいですね」

「試験はまだまだ先だけどな」

「受かってから報告してくださいよ」

このときは、素直に先輩の進路の方針が決まったことを喜んでいた。

「陸軍…?」

「軍じゃねーしw」

正直軍隊と自衛隊の何が違うのかはわからないけど、そのうち授業でも習うらしい。
自衛隊、自衛隊かあ。

「よーし今日も練習頑張るぞー!」

「律、最近燃えてるな」

入隊を志してからの律先輩は、いつもに増して積極的で

「そこ走りすぎじゃないか?」

「あっごめんごめん気をつけるよ」

なんだかすごく素直になった。

「りっちゃんのドラムはパワフルだよね」

「私は元気が取り柄だからなっ」

変わらないところはいつも通りだけどね。

毎週日曜日は、私と律先輩で遊ぶ約束をしていた。
今日はどこに連れて行ってくれるんだろう?

「お待たせ梓」

「遅いですよ先輩」

初めて会ったときからずっと変わらない笑顔だけど、なんだか照れるな。
変な考え方かもしれないけど、私のためだけに笑ってくれてるんだって思うと、ね。

「今日は地元の公園に行かないか?」

「珍しいですね」

いつもゲームセンターやボーリングに行くのに先輩らしくないな。
たまにはこういうのもいいけど。

「なんかこう…地元っていいなと思ってさ」

ちょっと哀愁を帯びた律先輩の横顔は私の思考を停止させるのには十分な威力だった。

「梓? おーい?」

「はっ すみません!」

好きだとか愛してるだとかお互いあんまり言わないから時々恋人なのか仲良しなのかわからなくなる。
それでもただ仲良しなだけじゃないっていう証拠は私の家で2人きりになったとき。

男女の恋人同士でするように、私たちもまた体を求めあったりもした。
女同士でどうやってやるのか?

秘密だよ。

たいてい律先輩が私に覆いかぶさる。
最初は怖かったけど、好きだから耐えられたんだ。

回数を重ねるごとに快感も増していった。

情事の時でさえ愛の言葉はあまり交わさない。
普通破局モノだと思う。


「律先輩は私の体が目当てなんですか?」

好きだとも言われず、うちに来るたびにそんなことばっかりしてくるからつい言ってしまったこと。
体が目当てといっても、攻める側は特に気持ちいいわけじゃないからそんなわけないと思うんだけど。

「梓は嫌なのか?」

困った顔。
この表情割と好きなんだけど、もしかして私ってSの気あり?

「ごめん、もうしないよ」

しょんぼり、かわいいな。意地の悪いこと聞いてごめんなさい。

「このやろー! 本気で落ち込んだじゃないか!」

「私は梓が好きだ」

付き合い始めてから、何か月ぶりにその言葉を聞いただろう。

春、夏、秋、冬。

あっという間に時間は過ぎて行った。

「明日は卒業式ね」

ムギ先輩の淹れてくれるお茶を飲めるのも、今日が最後。

「あずにゃーん卒業しても忘れないでねー!」

この奔放な唯先輩を見れるのも最後かも。

「けいおん部、頑張ってな」

澪先輩、もう泣きそうだ。

「まだ卒業してないんだからしんみりすんなよー」

卒業ムードの先輩方を励ます律先輩。そうはいっても…

「やっぱり寂しいです」

「そういう言葉は明日にしようぜっ」

強い人だなあ。


卒業式当日、在校生は休みだ。
休みっていうか役員と吹奏楽部以外は立ち入り禁止。

部活をしてなかったら学年が違う人たちなんてなんのかかわりもないから、
式典で学校が休みになって嬉しいんだろうな。


部室にギター忘れちゃったから、家でやることもない。
暇だな。

12時だ。
そろそろ卒業式も終わって、クラスで担任と生徒、保護者が最後のホームルームをしているところなんだろう。

卒業式が終わったら部室でけいおん部は集合する約束をしていた。
でも、私は行かなかった。

別れが怖かったし、先輩の前で泣いてしまうのも嫌だったし、なによりばかだったから。

17時。
それまでに先輩方からメールが数通届いた。
全部卒業祝いの言葉とともに、謝罪の文で返信した。

「私、なにやってるんだろ」

後悔とか、焦燥とかいろんな感情が体を駆け巡ったけど、私はベッドの上から動かなかった。


律先輩が自衛隊に行っちゃったら、二度と会えなくなったりするのかなあ。
携帯とかあんまりつつけないみたいだし、私物の持ち込みもだめらしい。


ピンポーン

突然チャイムがなった。
急いで玄関まで行くと、律先輩がいた。

「こんにちは、卒業おめでとうございます」

「おう」

そういうと無言で家に入ってきて、靴を履き替えるところの段差に座り込んだ。

「みんな、会いたがってたぞ」

唯先輩は私立の音大に
澪先輩は国立の大学に
ムギ先輩は海外研修に
律先輩は自衛隊入隊を。

将来に向かって自分の知らないところで進んでいくのを見たくない。
なんでかわからないけど、先輩方みんながうらやましくて妬ましいような
不思議な感情が私の中でぐるぐるしている。

「私は4月1日にあっちに行くからみんなより長く地元にいられる」

私が養うから、行かないでくださいよ。
なんて言えたらなあ。

「30日くらいあるし、たくさん遊ぼうな」

遊ぼうと言っても30日全部暇なわけじゃない。
入隊に向けての準備もある。
律先輩の人づきあいもある。

私も学校があったし、けいおん部復興の建前部活をさぼるわけにもいかなかった。

結局、律先輩が地元を出てしまう2日前にしか、会うことはできなかった。

「久しぶりだな」

「…先輩のばか」

最後に会った日から変わらない先輩を見て、なんだか悔しくなってきた。

私はずっとさびしかったのに、平気そうな顔してるもん。

「ばかってなんだよ」

苦笑している先輩に返す言葉が思いつかなくて、外なのについ抱きついてしまった。


「いつになく甘えんぼだな梓」

そう言いながら軽く抱きしめてくれる律先輩、なんだか少し痩せたようだ。

「今日は、家で1日すごしませんか」

「うん、私今日は梓以外の人間を見たくないかも」

「なんですかそれw」

待ち合わせ場所から私の家まで10分くらい。
その間、会えなかった鬱憤を晴らすかのように喋り続けた。

「梓の家に来るの久しぶりだ」

「部屋に行っててください、お茶持って上がります」

お茶とお菓子を持って部屋に入ると、先輩は私のベッドの上で穏やかな寝息をたてていた。
やっぱり、準備とか忙しかったんだろうな。

このまま寝かせてあげたいとも思ったけど、せっかく2人きりなんだから
しゃべったりしたいな。

「先輩、起きてます?」

無言。起きてるわけないんだけどね。

「すー…すぅ…」

寝顔なんてあんまり見たことなかったけど、まじまじと見るとなんか間抜けだな。
そこがかわいくもあるけど。


今まで私がされてばっかりだったことをやり返してみよう。

手始めにほっぺたをつっつく。
柔らかい。
頭をなでたりしてみたけど反応がない。

やっぱり起きてないと物足りない…

もう一緒に寝ちゃおうか。

お茶とお菓子は机に置いて、律先輩の横に寝っ転がってふとんをかぶった。

「あずさ…」

不意に名前を呼ばれてびっくりしたが、どうやら寝言のようだ。
夢に私が出てるのかな。だとしたら嬉しい。

寝顔を眺めてる間にやにやしちゃってたけど、だんだん瞼が重たくなってきて
私も一緒に夢の世界に行ってしまった。


ふと寝苦しさを感じて目を覚ました。
まさか金縛り? 女性は金縛り状態になりやすいらしいし。
体が寝てるだけ、脳も早く寝てください…とか思ったけど、普通に体が動かせて拍子抜けした。

「起きたのか」

仰向けに寝てる私の目の前に律先輩の顔があった。

やけに服がごわついてるなと思ったら、机の上にさっきまで来ていたはずの服が畳んで置いてあった。
この人いつの間にこんなに器用になったんだろ。

「…したいんですか」

「うん」

起こせばいいのに…こういうの積極的っていうのかな。


私も律先輩もあんまり女の子じゃない。

なぜならどちらもキスに特別な意味を見いだせないでいる。
初めにおもしろ半分でしてみたときも、特に何も感じなかった。
だから、普段はキスより専ら手をつないだりとか、抱き合ったりとかの方が多かった。
体を重ねる時も、唇と唇を合わせることはほとんどなかった。

でも、今日は違う。

理由はわからないけど、どちらともなくキスをした。

たぶんお互いすごくどきどきしていた。

初キスって、本当はこんな気分なんだろうな。

まあそれから約1時間に及んだ行為の内容は恥ずかしいから細かくは言わないけど、

今回初めてキスマークというのをつけられた。

先輩は

「初めてつけるからこうやるのかわからないけど、やるからな!」

といって1回で真っ赤な印をつけてくれた。

ちょっとちくっとしたけど、それがまた一緒にいるっていうのを感じさせてくれた。

いつもなら終わった2分後には寝付く先輩だけど、今日は起きていた。


「珍しいですね、いつもはすぐ寝るのに」

ちょっと軽口を叩いてみたけど、律先輩はいたって真面目な顔だった。

「なあ、気持ちよかったか?」

本当に真面目な顔でそんなことを聞いてくるからすごく恥ずかしくなった。

「…はい」

「そうだよなっめちゃくちゃかわいかったし!」

自信満々に言う先輩を見るとちょっと腹がたったので、でこぴんしておいた。

「意外と痛いんだぞ」

困ったような顔で笑う先輩はなんだかずっと大人に見えた。


「梓、好きなだけ甘えていいんだぞ?」

「別に平気です!」

上から目線で言われてしまうと、つい反抗してしまう。
私ってひねくれてるなあ。

「じゃあ私が甘えさせてもらおうかな」

そう言って私の胸あたりに抱きついてきた。
頭が自分より低いところにあるっていうのはなかなか新鮮。
でもまだ服着てないからちょっと恥ずかしい。

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最終更新:2010年03月25日 00:31