梓「唯先輩と……みんなで本番できないのなら辞退した方がましです!」

唯「あずにゃん……」

ごめんねあずにゃん。
せっかく練習に付き合ってもらったのに。


そのあと澪ちゃんの考えを聞いて、私は本番まで諦めずに風邪を治すことにした。
そして学園祭当日。

唯「ん……ふぁあ~……よく寝た」

身体を起こしてみてもフラフラしない。
ギリギリで治ったみたい。
よかったぁ~。
着替えるためにベッドから出て、ついでに時計を見る。
時刻は11時。
……ちょっと危なかったかも。

リビングへ行くと私の朝食と、その隣にメモが置いてある。

『無理しないでね お姉ちゃん』

ありがと~ういー。

唯「いただきます」

校門を潜るとそこら中に出店が立ち並んでいてとても賑っている。
おいしそうな食べ物がいっぱい……
部室に行く前にちょっとだけ……いやいや。
そんなことを考えていると、

さわ子「唯ちゃん!風邪治ったの?」

さわちゃんがやってきた。

唯「もうバッチリだよ!」

さわ子「よかったわね。それならちょっといらっしゃい」

唯「?はーい」

こうしてみんなより一足先に浴衣(防寒バージョン)を着てから部室へ。

さわ子「そしてこれがその衣装です!」

唯「失礼しまーす……」

律「唯!」

澪「来てたんなら真っ先にここに来い!」

唯「ごめんなさい……ん?あずにゃん?」

梓「最低です……こんなにみんな心配してたのに……最低です!」

唯「あっ……」

目に涙を浮かべたあずにゃんがそっぽを向いちゃった。
あああ……。

澪「ちゃんと埋め合わせしろよ。梓が一番心配してたんだから」

唯「え、そうなの?あずにゃん……!」

梓「まったく駄目すぎです!大体……」

唯「ぎゅっ」

小さく震えているあずにゃんを後ろから抱きしめた。

唯「あずにゃんごめんね?心配かけて……。私精一杯やるよ。最高のライブにするから」

梓「もう……特別ですよ?」

唯「あずにゃん……!むちゅchu~!」

梓「えっ!?」

唯「んうっ……?」

梓「んむっ!?」

あれ……

やわらかい……じゃなくて。
急にあずにゃんが振り向いたので冗談のつもりが冗談にならなかった。
あずにゃんは目を見開いて固まっている。

唯「あっ、ごめんあずにゃん。ほんとにちゅーしちゃった……」

そう言うとあずにゃんの顔が見る見る赤くなっていく。
せっかく仲直りしたのにこれはまずいかも……

パチンッ☆ミ

唯「おぽっ」

梓「な、なにするんですか!」

左頬がピリピリする。
流石にしょうがないよね。
恐竜男子の人だって失敗する時はあるみたいだし。

梓「はっ、つい……」

律「何やってんだよお前ら……」

唯「う、ほんとにごめんね?」

梓「い、いえ……」


澪「まったく、そろそろ講堂に行くぞ」

唯「はーい。あずにゃん、行こ?」

梓「……」

唯「あずにゃん、やっぱり怒ってる?」

梓「……えっ?あ、怒ってないですよ」

唯「そう?じゃあ講堂に行こっ」

梓「あ、はい」



紬「ぁぁ……」

律「何やってんだよムギー。早く行くぞ」

紬「あっ、今行きまーす!」

そのあと私のせいでまたみんなに迷惑掛けちゃったけど、ライブはなんとかなった……かな。
学園祭も終了して、今はみんなで打ち上げのキャンプファイヤーを少し離れて見ている。

律「いやーひどい演奏だったな」

澪「はは……」

唯「だって風邪ひいてて練習できなかったんだも~ん」

紬「まあまあ」

律「梓も言いたいことがあるんじゃないか?」

りっちゃんがニヤニヤしながらあずにゃんに問いかける。
私に追い討ちをかける気満々ですね。

梓「……えっ、なんですか?」

律「だから~今日の唯の演奏だよ」

梓「あ、ああ、そうですね……だめだめでした」

唯「うう……」

梓「……」

あれ、もう終わり?
あと数十分は説教されるかと思ったのに。


学園祭で一仕事終えた軽音部は早速いつものティータイムにシフトしていった。

律「やっぱこれだな~」

紬「ほぁ~」

澪「やっぱりこうなるのか……」

梓「……」

澪「そろそろ練習しないか?」

律「学園祭も終わったばっかりだしまだいいんじゃないか」

澪「もう1週間経ったぞ……唯を見てみろ。ちゃんと自主練してるぞ」

律「おおっ!」

紬「最近唯ちゃん頑張って練習してるわね」

唯「うん、学園祭ではみんなに迷惑かけちゃったしね」

律「まさか唯が自主練してるところを見ることになるとは……」

唯「む、これでも家ではちゃんと練習してるんだよ?りっちゃんもやろうよ~」

律「あと1杯だけー」

紬「さっきりっちゃんがおかわりしたので最後だったの」

澪「そういうわけだから練習するぞ。梓だって練習したいよな?」

梓「……あ、はい、もちろんです。唯先輩が頑張ってるんですからやりましょうよ」

律「それもそうだな。よーしやるぞー!」

唯「やったあ!ありがとうあずにゃ~ん!」

さっそく抱きついてみる。
1日1回はやっておかないとね。


唯「あずにゃんぎゅ~」

梓「……」

あれ?
反応がないとなんだかちょっと寂しい。
身体を離してあずにゃんの顔を覗く。
私が目を合わせる前にあずにゃんはそっぽを向いてしまった。

梓「は、早く練習しましょう!」

律「そうだそうだー」

梓「律先輩が言わないでください!」

澪「まったくだ」

紬「ふふ」

澪「よーし、じゃあ始めるぞ」

唯「わー待って待って!」

急いでギー太にシールドを差し込む。
あずにゃんは私に背を向けてアンプの調整をしている。
それをなんとなく眺めていると耳と首筋が赤味掛かっていることに気付いた。


唯「寒ぅ~」

梓「寒いですね」

今日の部活はとても充実していた。
ティータイム推進派のりっちゃんもいざ練習が始まると楽しそうに演奏していた。
なんだかんだでみんな音楽が大好きなんだよね。
そんなりっちゃん達とも別れて今はあずにゃんと二人の帰り道。

唯「……」

梓「……」

最近あずにゃんの反応がどうも気になる。
二人でいる時に話を振ってくれる回数が減ったような。
でも、

唯「今日のごはんはなんだろうなぁ~」

梓「もうご飯のこと考えてるんですか。たまには憂を手伝ってあげればいいじゃないですか」

唯「それが中々手伝わせてくれないんだよね。なんでだろう」

梓「それは……なんとなくわかりますけど」

話しかければ普通に返してくれる。
私の気のせいかな。


話しかけたら普通に接してくれるし部活ではギターも教えてくれるので
気にしないで過ごすことにした。
それから暫くたった日の帰り道。

律「そろそろバレンタインだな」

唯「そういえばそうだね」

律「なあ澪ーチョコ作ってよー」

澪「自分で作ったらどうだ?」

律「なんだよケチ~。あ、ムギ!チョコくれ!」

澪「毎日お菓子貰ってるだろ……」

律「それもそうだな……唯!」

唯「うん?」

律「――はいいや」

唯「りっちゃんひどい!」


律「だって唯料理とか出来ないだろ」

唯「そんなことないよ」

律「ほんとかー?それなら作ってよ」

唯「りっちゃんに?……やめとくよ」

律「ひでえ」

紬「りっちゃんは誰かにあげたりしないの?」

律「私?ないない」

唯「そうなんだぁ。あずにゃんは?」

梓「私もあげる相手は……特に」

唯「そっかーそうなんだ……」

唯「……あ」

梓「なんですか?」

唯「ううん、なんでもない」

梓「?そうですか」

日頃の感謝を込めてあずにゃんにチョコを作るのはどうだろう。
いつもギター教えてもらってるし。
あずにゃんにチョコあげたら喜んでくれるかな?

唯「よし!」

律「?」

決めた。あずにゃんにチョコを送ろう。それも手作りで。
どうせあずにゃんも私のことを料理の出来ない人だと思っているに違いない。
ここはおいしいチョコを作ってぎゃふんと言わせてやろう。
待てよ、作るのはチョコ以外でもいいよね。
マカロンは簡単に作れるって憂が言ってたな。
いや、ここは思い切ってケーキとか!
あ、マドレーヌもおいしいよねえ……

梓「先輩!」

唯「……あえ?」

梓「どうしたんですか?」

唯「あ、なんでもないよ。あれ、みんなは?」

梓「さっき別れたじゃないですか」


……

唯「憂~ただいま~!」

憂「おかえりお姉ちゃん」

唯「ねえ憂、お菓子作り教えて!」

ここは憂先生にお願いするのが一番。
さっそく訳を話して本題に入る。
憂は少しびっくりしつつ何故か真剣に話を聞いていた。
それから二人で協議した結果いちごのロールケーキを作ることになった。
あずにゃんはケーキ好きだし私もロールケーキ食べたいし完璧だね。
バレンタイン用だけどチョコケーキは最近食べたからやめちゃった。

この日からバレンタイン前日まで憂先生との特訓は続いた。
私達は毎日ケーキを作って食べた。
それでも完成品のケーキの出来がすごくよかったから
私一人で半分以上食べてしまった。
残ったのは憂とあずにゃんの分だけ。
やっぱり自分で作ったケーキは一味違うね。
明日はこれをあずにゃんに食べさせてぎゃふんと言わせよう。



バレンタインデー当日。
みんながお茶を飲んでまったりする中、私だけそわそわしていた。
りっちゃんにいつも以上に落ち着きがないなんて言われて、
それを澪ちゃんとムギちゃんに同意されてしまう。
そんなこと言われてもドキドキするんだからしょうがないよ。
あずにゃん早くこないかなぁ。
ケーキあげたら驚くかな?
これを機に尊敬してくれるかも。

梓「こんにちは~」

律「おー」

澪「お疲れ」

紬「今お茶入れるわね」

唯「あ!あずにゃん来た!!」

梓「ど、どうしたんですか唯先輩」

律「なんだよ梓がいなくて寂しかったのか?」

唯「はずれです!」

梓「律先輩は……それで、どうしたんですか?」

唯「実はケーキを作ってきました!」

梓「ええっ!」

律「唯が!!」

澪「ケーキを!?」

紬「すごーいっ!」

唯「ふっふっふ。もっとほめて」

梓「先輩お菓子作れたんですね……」

唯「まあね~!というわけで早速食べてみてよ!」

律「ちょっとちょっと!私にもくれよ~」

唯「あ、ごめん。あずにゃんの分しかないんだ~」

律「え」

梓「……え」

律「なんだよ唯のケチ~」

律「梓ばっかりずるい……それにしてもお前達仲いいよなー」

梓「っ!」

澪「そうだな」

紬「そうね」

唯「えへへ。じゃああずにゃん、はいあーん」

梓「いやですっ!!」

唯「えっ……」

梓「あ、いや、自分で食べられます!そ、それより皆さんで分けましょうよ!」

紬「でも一切れしかないよ?」

梓「大丈夫です!あ、私お皿とフォーク出しますねっ!」

澪「……梓?」

律「なんかごめん……」

紬「……」

律「おおっ!すっごくうまいぞ唯!」

澪「あ……ほんとだ」

紬「唯ちゃんすごい!」

唯「えへ~それほどでも。あずにゃん、おいしい?」

梓「……あ、おいしいです」

唯「そっか。よかった~」

律「でもどうせ憂ちゃんに手伝ってもらったんだろ?」

唯「失礼な!作り方は教えてもらったけどこれは私一人で作ったんだから」

律「へぇ~意外だ」

澪「確かに」

梓「……」

結局一人四口くらいしか食べてないけどみんなおいしいって言って食べてくれた。
だけど――


澪「遅かったな」

唯「今日掃除当番だったんだ~」

唯「ムギちゃん今日のお菓子は何?」

紬「今日はチョコフォンデュよ」

唯「いただきます!はむっ……んまーい!」

唯「おいしいよあずにゃん!」

梓「……そうですね」

律「しかし学校でやるとは」

紬「みんなでやりたかったの」

澪「おいしい……そういえば唯、新歓ライブの曲だけど」

唯「あう、実はまだうまく出来なくて……」

唯「あずにゃんたすけ――」

梓「ちょっとトイレ行ってきます」

唯「あら、じゃあ後でよろしくね」

梓「……」

唯「ねえあずにゃん、コンビニ寄ってっていい?」

梓「あ……今日はすぐ帰らないといけないのでっ」

唯「そっかあ、じゃあ」

梓「すいません私先に行きますね!」

唯「――寄らなくていいや……って」

行っちゃった。
前までは話しかけたら普通に返してくれたのに。
あずにゃんの方からギターを教えてくれてたのに。
最近おかしいなと思っていたけどたった今露骨に避けられてしまった。
思い返してみるとバレンタインあたりから避けられてるような。
私何か悪いことしちゃったのかな。
うーん……思いつかない。
こういう時は……うん、直接聞いてみよう。


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最終更新:2010年03月25日 22:15