思い立ったらなるべく早めに実行。
そんなわけで次の日の部活の帰り道に聞くことにした。

律「じゃなー」

澪「じゃあ」

唯「うん、ばいばーい」

梓「失礼します」

よし、これであずにゃんと二人きりになった。
なんだかドキドキしてきたな。

梓「……」

唯「ね、ねえあずにゃん」

梓「……なんですか」

唯「えっと、もしかして私あずにゃんのこと怒らせちゃったかな?」

梓「っ……いえ、そんなことないです」

唯「そう?でも――」

梓「……」

唯「最近あずにゃんが冷たいかな~、なんて」


梓「……そんなことないです」

唯「……そう」

こっち向いて喋ってくれないんだ。
もしかして嫌いになっちゃったとか?
そんなの嫌だよ。
でも……聞いておかないと。
もしそうなら私も距離を置かないと。

唯「私のこと、嫌いになっちゃった……かな」

梓「そんなことないですっ」

あ、こっち向いてくれた。
あずにゃんがそう言ってくれるなら――
私はその言葉を信じることにした。


嫌いじゃないなら……話しかけたりしてもいいよね。
それからはあずにゃんに猛アタックすることにした。
また前のあずにゃんみたいになってくれるかもしれないし。
ほんとは嫌いって言われたら……その時はその時だ。

唯「あずにゃ~ん!」

梓「……」

唯「ぎゅ~ってしていい?」

梓「……」

唯「返事がないってことはいいってことだよね!」

梓「いやです」

拒絶されてるけどめげない。
押して押して押しまくる。
自分でもなんでこんなに必死なんだろうって思うけど。
私まで引いちゃったら本当に会話がなくなっちゃう。

でも私の努力も実らずに4月に入る。
私も3年生になっちゃった。
もうすぐ新歓ライブなのに……



憂「ご飯できたよ~」

唯「……いただきます」

憂「いただきます」

唯「……もうだめだぁ~!」

憂「うわぁ!急にどうしたのお姉ちゃん」

つい弱音を吐いてしまった。
今まで誰にも相談してなかったけど、こうなったら憂に話してみようか。
澪ちゃん達にはとっくにばれてていろいろ突っ込まれた。
それでもなんとか誤魔化してたけど……解決しなきゃ意味がない。

唯「ねえ憂、最近あずにゃんの調子どう?」

憂「どうって?お姉ちゃん今日も部活で会ってたんだよね?」

唯「あ、うん、クラスではどうしてるのかな~って」

憂「……」

唯「憂?」

憂「梓ちゃん最近ずっと元気ないよ」

唯「えっ」

憂「1年の終わりからずっとかな。2年になってもまだ……」

唯「そうだったんだ」

憂「部活ではどうなの?」

唯「えっと、ある意味元気ないかも」

憂「そうなんだ」

唯「……憂と話してる時はどう?」

憂「う~ん、話すと割と普通なんだけどね」

唯「そっか、普通、なんだ」

憂「うん」

唯「憂、実はね――」


憂「梓ちゃんに避けられてるっ!?」

唯「うわっ、ご飯粒吹いてるよ!」

憂「あっごめん!……それで?」

唯「うん、確かバレンタインの辺りから。その前から少し変だったんだけど」

憂「そうだったんだ……。それでお姉ちゃんはどうしてるの?」

唯「積極的にアタックしてます」

憂「ええっ!」

唯「でも進展しないんだよねえ。あずにゃんは私のこと嫌いではないって言ってたんだけど……」

憂「……うん。多分だけどそれでいいと思うよ」

唯「そう?余計に避けられたりしないかな」

憂「大丈夫だと思うよ」

唯「そっか」

唯「それならとことんアタックしてみるよ!」

憂「うん!きっと何とかなるから頑張ってね!」

唯「ありがと憂!」

憂「ところでお姉ちゃん……」

唯「何?」

憂「お姉ちゃんって梓ちゃんのこと……好きなの?」

唯「え?もちろんだよ」

憂「そうじゃなくて……やっぱり何でもない。あ!そういえば今日アイス買ってきたんだよ!」

唯「やった!デザートに食べよう!憂も一緒に食べよ?」

憂「うんっ」

憂に話したらなんだかすっきりした。
自分が思ってた以上にへこんでいたのかもしれない。
よし、明日は軽音部のみんなにも相談してみようかな。

律「やっとかよ」

唯「え?」

澪「だってずっと相談してくれないし隠そうとするし」

唯「えへへごめん」

紬「私達も心配してたのよ?」

唯「そっか、ありがと」

律「よし!こうなったら私がビシッと言ってやろう」

澪「やめろ」

律「へいへい。それにしても最近の唯は必死だったもんな」

唯「えっそうかな?」

澪「そうだな。まるで好きな人を振り向かせようとしてたみたいだったぞ」

唯「そっか……」

律「正直本当にそうなのかと思ってた」

紬「あの――」

唯「ん?」

紬「梓ちゃんのこと、私に任せてもらえないかな」

紬「明日は新歓ライブでしょ?このままで臨むのはちょっと……ね」

律「確かにそうだよなあ」

紬「それに……ちょっと気になることもあるし」

澪「気になること?」

紬「うん、だから今日部活が終わってから梓ちゃんと話をしてみるわね」

唯「ありがとうムギちゃん」

律「よし!それじゃあ部活に行こうぜ。梓が待ってるぞ」

唯「うん!」


新歓ライブの練習を終えて帰るとき、
ムギちゃんがあずにゃんに話があると言って二人は学校に残った。
はぁ……早く仲直りしたいよ。

唯「……」

憂「お姉ちゃん?おかず残したの?」

唯「ああ、ごめんまだ食べるよ」

憂「……大丈夫?」

唯「大丈夫だよ~今日も演奏完璧だったしね」

憂「そっちも大事だけど――」

唯「……え?あ、ごめん聞いてなかった」

憂「……」


新歓ライブ当日。
いつもより早く憂に起こされた。

唯「うい~まだ早いよ~」

憂「今日は大事な日でしょ?」

唯「うん……」

憂「それでね、私今日は先に出るからお姉ちゃんに戸締りお願いしたいんだけど」

唯「何か用事?」

憂「うん、ちょっと梓ちゃんと会うから……」

唯「あ、そうなんだ」

憂「そういうわけだからごめんね」

唯「ほ~い」

いつも通りの時間に家を出て学校へ。
それから新歓ライブの準備のためにみんなで部室に行こうとした時。

律「あれ、教室の外にいるのって梓じゃないか?」

澪「あ、ほんとだ」

紬「唯ちゃんに用があるんじゃないかな」

唯「私?」

律「行ってこいよ」

澪「準備は私達でやっておくからさ」

唯「ありがと!ちょっと行ってくるね!」


唯「おはよーあずにゃん!」

梓「お、おはようございます」

唯「えっと、私に用事……でいいのかな」

梓「は、はい」

唯「準備はみんながやっておいてくれるって」

梓「そうですか……」

ここじゃなんだし――ってことで人通りの少ない廊下の端に場所を移す。

唯「それで用事って?」

梓「はい、あの……」

唯「うん」

梓「すいませんでしたっ!!」

いきなり頭を思いっきり下げるあずにゃん。

唯「おゎ!」

梓「その……今まで唯先輩に辛く当たってしまって……」

梓「唯先輩が嫌いとかそういうことじゃなくて……えっと……」

唯「……よかった」

梓「え?」

唯「あずにゃんに嫌われてたらどうしようかと思ったよ」

梓「そんなっ、嫌いになったりしません!」

唯「じゃあどうして?」

梓「それは……えっと」

唯「うん」

暫しの沈黙。
あずにゃんが言い淀む。

梓「……えっと」

唯「……」

梓「……っ」

唯「まあいっか」

梓「えっ?」

あずにゃんの辛そうで不安な顔を見ていられなくて沈黙を遮った。
それに――

唯「あずにゃんが前のあずにゃんに戻ってくれるならそれでいいよ」

梓「でも……」

唯「それに今は新歓ライブの前だし。ね?」

梓「……はい」

唯「よかったぁ~これで思いっきり新歓ライブを楽しめるよ!」

梓「……すみませんでした」

唯「えへへ~もういいよ~」

梓「……ムギ先輩と憂に感謝しなくちゃ」

唯「ん?」

梓「いえ、なんでもないです」

唯「そう?じゃあ行こっかあずにゃん。新歓ライブ頑張ろうね!」

梓「……はいっ!」


唯「やっほーい」

梓「すみません遅れました」

律「お、やっときたか」

梓「あのっ!ご迷惑をおかけしてすみませんでした!」

澪「私達は別に迷惑かけられた覚えはないよ」

紬「そうね」

律「唯とは仲直りできたのか?」

梓「あ、はい!」

澪「よかったな」

唯「えへへ~」

紬「あ、もうこんな時間!」

律「よし!じゃあ行くか!」

あずにゃんとの仲が元に戻って万全の態勢で臨んだ新歓ライブは
今までのライブの中で一番の出来だったと思う。
だけど新入部員は入らなかった。
最初はそのことを気にしていたあずにゃんだけど、今はこの5人だけでもいいらしい。
それと新歓ライブ以降は以前の仲が良かった頃よりも更に仲良しになった。
みんなにも言われたから間違いない。
あずにゃんだってハグしても嫌がらなくなったしね。
最近は放課後が楽しみでしょうがないよ。
そういえばあの態度の理由を結局聞いてないけど……まあいっか。

唯「あずにゃんおまたせ~!」

梓「あっ唯先輩!」

唯「ぎゅ~」

梓「えへへ」

唯「えへへ~」

律「……私もいるんだけど」


紬「今日はモンブランで~す」

唯「おお~おいしそうだね」

梓「いただきます」

唯「待ってあずにゃん。はい、あーん」

梓「いきなりですね……えっと」

梓「あ、あーん」

唯「おいしい?」

梓「おいしいです」

唯「へへ~」

梓「……あの」

唯「うん?」

梓「唯先輩も……食べますか?」


唯「えっ、あーんしてくれるの?」

梓「は、はい」

唯「ありがと~」

梓「……そ、それじゃ唯先輩にも、あーん」

唯「あーんっ」

梓「どうですか?」

唯「おいしいよ!」

より一層仲良くなったと思えるのはあずにゃんの変化が大きい。
私の押しに答えてくれたり甘えてくれたりするようになったのもあるけど、
一番の変化はあずにゃんから押してくるようになったこと。
今までの一方的な流れとは違うそれは、とっても新鮮でわくわくする。

律「練習するか」

澪「そうだな」

こんなこと言ったらみんなに怒られそうだけど、
帰り道であずにゃんと二人きりになる時間が待ち遠しく感じる。
当然みんなといる時間は楽しい。
でもみんなと別れた後であずにゃんと二人でいる時は、それに加えて胸が高揚する。

唯「へへ~」

梓「どうしたんですか?」

唯「なんでもないよ」

梓「なんだか最近いつも笑ってませんか?」

唯「そうかな?」

梓「はい」

唯「そっかぁ……」

梓「と、ところで唯先輩」

唯「うん」

梓「週末に予定がなかったら……遊びに行きませんか?」

おおっ!
あずにゃんからお誘いしてくれるなんて嬉しいな。
なんだか嬉しすぎて胸が苦しいよ。

梓「……もしかして用事とかあります?」

唯「ううん、すっごく暇だよ!行く行く!」

梓「あはは、先輩受験生なのにすっごく暇って」

唯「ぶー、誘ったのはあずにゃんでしょ」

梓「ふふ、そうでした」

それからいろいろ話し合った結果、電車で数駅先の繁華街へ行くことにした。
私は休日もこの高揚を味わいたかったから、進んで軽音部のみんなも誘おうとは言わなかった。
あずにゃんも他の人を誘う話をしなかったので二人で出掛けることが決まった。


唯「お゛……おはよぅ……あずにゃん……はふぅ」

梓「お、おはようございます」

いつものパターンで遅れそうになった私は待ち合わせ場所の駅までダッシュした。
日差しの強い日に走ってきたおかげでうっすらと汗が滲む。
大遅刻は免れたけど髪の毛ぼさぼさ……。
まあ、あずにゃんを余計に待たせるよりはいいか。
約束の時間より早く来ていたらしいあずにゃんに謝ると、快く許してくれた。


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最終更新:2010年03月25日 22:16