梓「でもやっぱり忘れられなくて……こんなんじゃダメだと思ってた時に」

こんなこと、前にもあったような。

梓「ムギ先輩と憂が私に言ってくれたんです」

唯「……何を?」

上手く言葉が出せない。
あずにゃんの顔から目が離せない。

梓「ムギ先輩は、本人同士が良ければいいんじゃないかって言ってくれたんです」

梓「それに少なくとも軽音部のみんなは応援してくれるよって……」

梓「憂も応援してくれて」

梓「二人のおかげで頑張ってみようって思えたんです」

梓「私は唯先輩に酷い事したから、許してくれなくてもしょうがないって思ってました」

梓「でも、許してくれた」

梓「それで、せっかく貰ったチャンスなんだから絶対に言おうってその時に思って」

梓「それでもやっぱり普通じゃないから……中々言えなかったんです」

あずにゃんが私の方に振り向く。
不安そうな表情だけど、光の灯った瞳はしっかりとこちらを見据えている。

梓「唯先輩、えっと……はは……っ……」



梓「……好きです、付き合ってください」


息が出来なくなる。
顔が熱くなる。
胸が苦しい。

……好き。

あずにゃんが私のことを好きって言ってくれた。
でも頭が真っ白になって、なんて言ったらいいのかわからない。

梓「……あの、すいません。急にこんなこと言って」

唯「あ、ええっと……」

梓「別にダメだったらダメでいいんです。あのまま皆さんに迷惑かけてるよりずっとましですから」

さっきまで涼しかったのに汗が出てきた。
音楽も耳に入らない。
どうしよう。
とにかく、返事をしなければいけない。

唯「わ、私――」


私の気持ちはどうなんだろう。
もちろんあずにゃんが嫌いなわけじゃない。
だけどこの場合の好きは軽々しく言えるものでもない。

でも……出会ったときからあずにゃんが気に入ってて、
ちょっと口うるさいところもあるけどいつも私に付き合ってくれる。
こんな私にギターを丁寧に教えてくれて、私のことを好いてくれてる。
そんなあずにゃんのことがいつも気になってた。

あずにゃんの態度が冷たくなったとき、本当に辛かった。
仲がいい頃に戻りたくて、すっごく必死になって……
仲直りできた時は嬉しかったな。

嬉しかった……
それじゃあ、今の気持ちは……?

驚きと、不安と、恐怖がちょびっと。
それから……嬉しさがある。

嬉しい……
あずにゃんから告白をされて嬉しいと思っている。

どうしてあずにゃんが気になるのか。
どうしてあんなに必死に仲直りしようと思ったのか。
どうして今嬉しいのか。

……そっか。

私はあずにゃんのことが好きだったんだ。

唯「――私もあずにゃんのことが好きだよ」

梓「……」

唯「……」

梓「……うそ」

唯「ほんとだよ」

梓「えっと、じゃ、じゃあ付き合ってくれますか?」

唯「……うん」

梓「……あ」

梓「ありがとう……ございます」

あずにゃんの頬に光が伝う。
暗闇に映えるそれはとても綺麗に見えた。


梓「……憂の言ったとおりでした」

唯「何が?」

梓「応援の他にもうひとつ言ってくれて」

梓「先輩も私のことが……す……すきだからって」

梓「それで少し勇気が出たんです」

……私よりも私のことを良く知ってる。
ありがとう、憂。

梓「それにしても先輩が焦らすから心臓が止まるかと思いました」

唯「焦らす?」

梓「そうですよ。返事するまでに凄く時間掛けてたじゃないですか」

唯「え、そうかな?」

梓「自覚なかったんですか?10分以上待ったような……」

唯「えへへ、ごめんごめん。でもこれで私達付き合うことになるんだね!」

梓「うあ……は、はい」

唯「そっかそっか~。うふふひ~嬉しいなっ」

梓「……」

唯「どしたの?」

梓「なんだか今まで悩んでたのがバカらしくなってきました」

それからもう暫くステージを眺めながら二人で話をした。
今日は本当に良い日だ。
自分の気持ちにも気付けたし。

梓「先輩って遠足とか旅行の時にふらっと一人でどこかに行っちゃう人ですか?」

唯「え~そんなことないよ」

律「あらお二人さん、こんな所で内緒のお話?」

私達が遅いから探しに来たのかな。
りっちゃんに声を掛けられる。

梓「べ、別にたわいもない話してただけですっ!!」

ビクッと反応するあずにゃん。
きっと顔が真っ赤になってるよ。

恥ずかしくてその場は誤魔化したあずにゃんだけど、
みんなにも迷惑を掛けたしお世話にもなったということで
私達が付き合い始めたことを報告した。
何故かあんまり驚かれなかったけどおめでとうって言ってくれた。
その後は明け方まで大はしゃぎしてて次の日は眠くて大変だった。

家へ帰ってから早速憂にも報告をする。
そしたらみんなと同じようにおめでとうって、よかったねって言ってくれたよ。
その日は疲れと睡眠不足の所為でベッドに入るとすぐに眠りについた。

憂、みんな、ありがとう。

私とあずにゃんは付き合い始めた。


唯「たっだいま~!」

憂「おかえりお姉ちゃん。楽しそうだね」

唯「だって明日から連休だよ!連休!」

唯「それに明日はあずにゃんとお出掛けだからね~」

二学期が始まっても私とあずにゃんの関係は良好。
元々私とあずにゃんはべったりだったからまわりに気付かれることもなかった。

憂「梓ちゃんと遊園地に行くんだよね?」

唯「うん!楽しみだよ~」

ショッピンクに映画に散歩。
いろいろ候補はあったけど私の希望で遊園地になった。
それにあずにゃんも行きたかったらしい。

憂「そっかあ、お姉ちゃん明日はデートだね!」

唯「ぅえ!?」

憂「違うの?」

言われてみて気付いた。
デート以外の何ものでもない。

唯「そっか、デートか……あずにゃんとデート」

憂「梓ちゃんにとっては今までのお姉ちゃんとのお出掛けは全部デートだったと思うよ?」

そ、そうだったのか。
確かにあずにゃんいつも少し緊張してた……ような?
はっきりデートだって自覚するとなんだか……

唯「……緊張してきた」

憂「あはは、お姉ちゃん頑張って!」

唯「が、頑張る」

今まではただわくわくしてるだけだったのに。
あずにゃんは毎回こんなに緊張してたのかな。
そうだとしたら……何ていうか……ごめんね。

唯「着いちゃった……」

それも予定の時間よりだいぶ早く。
昨日は中々寝付けなかった割に自然と目が覚めた。
おかげでこうしてあずにゃんよりも先に到着することができたけどね。
あずにゃんびっくりするんじゃないかな。
いつもこのくらいの余裕があるといいね。

駅の時計は8時40分を指している。
約束の時間までまだあるなあ。
いつも待たせてるみなさんごめんなさい。

不意に秋の風が吹いて髪を揺らした。
朝に頑張って整えたんだからあずにゃんに見てもらうまでは崩されたくない。
それから服もじっくり選んだし薄めだけど化粧もしてみた。
自分で言うのもなんだけど中々の出来だと思うんだよね。
あ、あずにゃんはどんな格好で来るのかな。
可愛いことは間違いない。
うーん楽しみ。
楽しみといえば今日は何に乗ろうかな。
それからご飯は――。

梓「あ、唯せんぱーい」

そんなことを考えているとすぐにあずにゃんがやって来た。


梓「先輩早いですね、びっくりしました」

してやったり。

梓「ごめんなさい、準備に手間取っちゃって……もっと早く来ればよかったです」

唯「全然大丈夫だよ~私だっていつも待たせちゃってるし。それに楽しかったから」

梓「何がですか?」

唯「待ちながらあずにゃんの事とか今日の事を考えてたんだぁ。そしたらあっという間だったよ」

梓「あう、そうですか……え、ええと」

可愛いなあもう。
あ、なんだか緊張も薄れて――

梓「よ、よし!行きましょう!」

あずにゃんが私の手をつかんで歩き出す。
急な事だったしそんなことをされると思わなかったので、
それから元々緊張してたし、盛り返してきちゃったし、
だから、ええと……

梓「先輩、赤くなってますよ」

唯「う、あ、あずにゃんもね!」

梓「そういえば今朝の待ち合わせの時一瞬先輩のことを見間違えちゃいました」

唯「どうして?」

梓「なんていうか、いつもより大人っぽく見えて……」

唯「えっほんと?嬉しいな~」

唯「……あ、あずにゃんも可愛いよ!」

梓「取って付けた様に言わないで下さいよ」

唯「ごめんごめん。でもほんとだよ」

唯「私もあずにゃんがいつもより可愛く見えるよ~」

梓「もうっ……」


そんなこんなで遊園地に無事到着。

梓「先輩、これ使ってください」

唯「これは?」

梓「一日パスの割引券です」

唯「おぉ!ありがとうあずにゃん!」

梓「いえいえ。……やっぱり今日は混んでるみたいですね」

唯「連休だからね。ジェットコースター乗れるかなあ」

梓「それならお昼頃が空いてるみたいですよ」

唯「あずにゃん詳しいね」

梓「少し調べてきました」

唯「あずにゃん天才!」


絶叫系を中心にお化け屋敷や二人乗りのゴーカートなんかも制覇していく。

唯「海辺までドライブに行こうか。見てごらん、芝生が綺麗だよ、キリッ」

梓「何言ってるんですか」

唯「えへへ~なんとなく」

ゴリゴリゴリゴリ

梓「うわあっ!先輩ハンドル切って!早く!」

唯「おっとっと!」

梓「もう!」

唯「ごめんごめん、あはははっ」

梓「……ふふっ」

唯「もぐもぐ……このハンバーグおいひぃ~」

梓「こういうところのご飯って独特な感じがしますね」

唯「そこがいいんだよ~」

梓「そうですね」

唯「あ~おいしかった!」

梓「早っ!」

唯「さーてデザートは何にしようかな~……パフェにしよう!すいま――」

梓「ストップ!口のまわりにソースついてますよ!」

唯「えっどこ?」

梓「……じっとしててくださいね」

唯「んー……」

梓「……はい、とれました」

唯「ありがとあずにゃん」

唯「まだかな……」

梓「前に並んでる人数からしてもう少しですよ」

唯「喉渇いたなぁ。何か買ってこようかな」

梓「あ、今日待ち合わせの前に飲み物買ってきたんでした。どうぞ」

唯「いいのっ?ありがと~!」

あれ。
なんだか……

唯「……あずにゃん?」

唯「あずにゃんどこー?」

梓「こっちです!」

唯「あ、いたいた、よかった~迷子になったかと思ったよ」

これじゃどっちが先輩だかわからないや。


唯「あずにゃんが先輩みたい。いや、お姉さんかな」

梓「そんなことないですよ」

そんなことあるよ。
前に誰かに言われたけど私は頼れる人に惹かれるらしい。
……確かにそうかも。
うー……なんか悔しいな。
私もいいとこ見せたい。

梓「結構暗くなってきましたね」

唯「おあ、本当だ」

梓「最後に何か一つ乗りませんか?」

唯「うん、いいよ~」

梓「じゃ、じゃああれなんてどうですか?」

唯「観覧車?」

梓「はい!」


梓「先輩!もうすぐですよ!」

唯「そだねぇ~」

梓「あ、私達の番です!」

唯「おおう~」

ゴンドラに乗り込み、向かい合って座る。
少しずつ視界が広がっていき、
薄暗い空とライトアップされた遊園地が見えてくる。

梓「えっと……きれいですね」

唯「……そうだね~」

梓「……」

唯「……」

ぼんやりと景色を眺める。
僅かに揺れるゴンドラが心地いい。
なんか……すごいリラックスするなあ……

梓「唯先輩っ!!」

唯「はいっ!?」

梓「そろそろ起きてください!」

唯「え?やだなあ寝てないよ」

梓「……もう降りますよ?」

唯「……?」

唯「うそっ!?」

窓の外はさっきと同じ高さ……かな?
でもゆっくりと下っているのがわかった。

唯「……」

梓「……」

唯「……すいません」

梓「まあ、仕方ないですよ」

そういえば昨日はあんまり眠れなかったから……。
大失態だ。

唯「すぐ起こしてくれればよかったのに」

梓「なんだか気持ちよさそうだったので」

唯「……ごめんね」

梓「気にしてませんよ」

確かに気にしていないようだけど、
観覧車に乗りたがってるように見えたし悪いことしちゃったな。

梓「それじゃあ帰りましょうか」

唯「……うん」

あずにゃんより先に待ち合わせ場所に着いたのは良かったけど
その後は終始リードされっぱなし。
……というか面倒見のいい姉に連れられた妹な感じ。
おまけにあずにゃんが楽しみにしてた観覧車で寝ちゃうし。
あずにゃんは「これはこれで……」的な顔をしてるけど私の気持ちが収まらない。
何か……何かないのか……

……お?

唯「あずにゃん!」

梓「はい」

唯「ちょっとだけあそこ寄って行こう!」

梓「またゲーセンですか」

唯「デートの記念に一枚撮ろうよ!」


唯「ここはお姉さんが奢ろう」

よし。

……いやいや400円でいい気分になってる場合じゃない。

デート、遊園地、観覧車。
そしてあずにゃんが楽しみにしていたということから導き出される答えは……

唯「あずにゃん」

梓「はい?」

唯「えっと、なんでもない」

梓「?」

カシャ

あれ……ドキドキして言えなかった。
思った以上に実行し難い。
よし、今度こそ……

唯「すぅ~……はぁ~……」

梓「?」


唯「あずにゃん!こ、こっち向いて!」


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最終更新:2010年03月25日 22:18