スカウトって言うと……
君、ウチからデビューしてみない?みたいな?
それって……プロになるってこと!?

唯「あわ、あわわわわわ……」

梓「先輩落ち着いてください。多分先輩の想像と違いますから」

唯「……へ?」

あずにゃんの話だと声を掛けてきた人はどこぞの事務所の人らしい。
その人が言うにはとあるガールズバンドの企画が持ち上がってるとのこと。
全国からメンバーを集めて活動を行い、その活動の様子を逐一公開する。
それでデモテープの販売やライブで成果が出れば本格的にデビューできるらしい。

唯「はああ……」

梓「……っていうことらしいんです」

唯「とにかくデビュー出来るって事!?」

梓「……もうそれでいいです」

唯「すごいよあずにゃん!!」

梓「……でも、その企画に参加しちゃったら色々と不都合が」

唯「……あ、そっか」

当然放課後ティータイムとして続けることは出来ない。
それに全国からメンバーを集めているので私達の地元が活動拠点というわけではないらしい。
同じ大学に行くどころの話じゃない。

梓「私、今日のライブが終わったら暫くはヘルプをやめようと思ってたんです」

梓「放課後ティータイムとして演奏したかったし……」

梓「それに……やっぱり唯先輩と一緒じゃないと……寂しくて」

私もだよ。

唯「そっか……それで悩んでるんだね」

梓「いえ、この話は断ろうと思っています」

唯「え!?」

梓「私はやっぱり放課後ティータイムが好きなんです」

梓「それと……唯先輩が」

そっか、ありがとうあずにゃん。
でも……

梓「だから……」

唯「あずにゃんはデビューしたくないの?」

梓「え?」

唯「だって、あずにゃんは私達の誰よりも音楽が好きで、誰よりも頑張ってきたんだよ?」

唯「音楽が好きだから今まで色んなライブに出てきたんだよね?」

梓「それは……そうですけど」

唯「私達はあずにゃんのためになると思ってあずにゃんを後押ししてきたの」

唯「まさかこんなに大きな話になるとは思わなかったけどね」

唯「あずにゃんだってデビューしたくないわけじゃないでしょ?」

梓「う…………はい」

やっぱり。
あずにゃんが放課後ティータイムの一員として、
それから私と一緒にやりたいって言ってくれてすっごく嬉しい。
私だってあずにゃんとずっとやっていけたらいいなって思うよ。
でも、だからといって私があずにゃんのチャンスを潰すようなことだけはしたくない。
私は改めてみんなに相談したらどうかと打診した。




後日、こっちも久しぶりに放課後ティータイムが5人揃った。
理由は久々の5人での演奏。
それからあずにゃんのことについて。

律「梓がやりたいようにやってみなよ。梓が何をしようと私達は応援するぞ!」

結論を一言で言うとこれだ。
みんなの意見は私と一緒だった。

唯「あずにゃん、行ってきなよ。こんなチャンスきっともうないよ」

梓「唯先輩……」

……いや、みんなとは少し違うかもしれない。
私はあずにゃんにデビューして欲しかったのかも。

梓「……決めました」

梓「私、やってみます!」



あずにゃんはデビューへの道を選んだ。
そうなるとあずにゃんが志望していた私達がいる女子大ではなく、
活動拠点となる街にある遠く離れた大学へ行くことになる。
暫くは一緒にいられるだろうと思ってたけど、
あずにゃんは段々と忙しくなっていって会える時間もどんどん減っていく。
私は私で大学の授業やテストに追われてて、それに拍車をかけた。

紬「梓ちゃんどうしてるかしら」

唯「今週は何日か高校を休んで向こうに行くって」

澪「梓も大変だな」

唯「うん……」

何でも色々と準備がいるらしくて、冬休みはずっと向こうに行くらしい。
最近はメールの返事も遅くて大変さが伝わってくるから
連絡は控えめにしている。
あぁ……あずにゃんに会いたいな。
ぎゅーってしたい。
それから、ちゅーしたい。


大学生になって最初の冬休みに入る。
恒例のクリスマスパーティーを行った。
あずにゃんはやっぱり参加できない。
それからは毎日コタツでゴロゴロする日々。
年明けからはテストが始まるからサークルの練習は少なめになってる。
今日もゴロゴロしていると夜に突然携帯が鳴った。
いまでますよ~……ん!?

唯「もしもし!?」

梓『うわぁ!』

唯「あああずにゃんなの!?」

梓『そうですよ』

唯「あー、えっと……」

梓『どうしたんですか?』

唯「いや~久しぶりだからなんか緊張しちゃって」

梓『あはは。それより先輩、今から外に出られますか?』

唯「うん、大丈夫だよ」

梓『じゃあ30分後に駅で待ち合わせしましょう』

唯「おっけー」


……あれ?
あずにゃんって今向こうにいるんじゃなかったっけ?
まあいいや、とにかく行ってみよう。

唯「うはぁ……寒い」

白い息が出る。
鼻息まで白くなっちゃうのはやだなあ。
かと言って口で息してると唇がかさかさしちゃう……。
それにしてもあずにゃんどうしたんだろう。
……お、ツインテール発見。
あずにゃんもこっちに気が付いて手を振る。

梓「せんぱーい」

唯「あずにゃん!」

梓「えへへ、お久しぶりです」

唯「ほんとだよ~!急にどうしたの?」

梓「少し時間が出来たので唯先輩に会いにきました」

あ……すっごく嬉しい。

梓「本当はお父さんに用事があったんですけど」

あ……すっごく悲しい。


梓「冗談です。用事があるのは本当ですけど唯先輩に会うのが一番の目的ですよ」

唯「も~あずにゃんてば~」

梓「えへへ」

唯「ねえあずにゃん、いつまでこっちにいるの?」

梓「あの……明日には戻らないといけないんです」

唯「明日!?」

梓「はい……」

唯「そ……そっか、忙しいんだもんね」

梓「すいません……本当はクリスマスにも会いたかったんですけど……」

唯「謝ることないよ~あずにゃん頑張ってるんだから」

梓「でも……私達付き合ってるのに全然会えなくて」

唯「遠距離恋愛ってやつだね」

梓「なるべく時間を見つけて会いにきますから!」

久々にあずにゃんに会えて凄くうれしかった。
でも私達の近況を報告するだけで時間がなくなってしまった。

梓「……あ、そろそろ家に行かないと」

唯「あずにゃん、うちに泊まろうよ」

梓「そうしたいのは山々ですけど、お父さんを待たせてるので……」

唯「そっか……」

まだ話したいことがあるのに……。

唯「そうだ、あずにゃんの家まで送っていくよ!」

梓「でももう遅いですし……」

唯「大丈夫大丈夫!」

そう言ってゆっくりとあずにゃんの家へ向かった。
少しだけ増えた時間で可能な限り喋る。
やっぱりあずにゃんと話していると凄く楽しい。
でも、これだけじゃ足りない。
伝えたいことがまだいっぱいあるのに。


元々駅から遠くないのですぐにあずにゃんの家に着いてしまった。
さよならをするのがこんなに辛いなんて。
はあ、自分から応援するなんて言っておいてこれじゃあダメだね。

梓「……送ってくれてありがとうございました。それじゃあ……」

唯「あっあずにゃん!」

梓「はい?」

やり残した気持ちが湧き出してきて思わず引き止める。
何か足りない。何か言わないと。
せっかくあずにゃんが目の前にいるんだから。

唯「えっと……だいすきだよ!」

梓「あう……」

恥ずかしがってるあずにゃんを見てやりたいこと思い出した。
会ってからまだあれをやっていない。
私はさっそくあずにゃんに抱きつく。
はぁ、あったかい。
そしたらあずにゃんも抱きしめ返してくれた。
嬉しい。
それからもうひとつ。
おわ、あずにゃんが上目遣いで私のことを見てる。
そっかそっか、わかってるから大丈夫だよ。
……あ、ちょっとかさついてる。
冬なんだからちゃんとリップ塗らないとだめだよ。

唯「……っはあ」

梓「……あ」

すっごくドキドキする。
周りに誰もいなくて良かった。
こんなところ見られたら……。
それより名残惜しいけどそろそろ帰らなきゃ。

唯「それじゃああずにゃん、またね!」

梓「……はい」

唯「頑張ってね!……あ!武道館で対バンしようね!」

梓「へっ!?」

唯「あずにゃんには負けないからね~!」

梓「……私も負けませんから!」

軽口を言い合って別れた。
それにしてもさっきの感じ……
ただドキドキしただけじゃなくて、
なんだろう……恥ずかしさ?緊張?焦り?
とにかく誰にも見られたくないって思ったのは確かだった。


それからも私とあずにゃんは暇を見つけるとちょくちょく会っていた。

梓「唯先輩!」

唯「あずにゃんやっほー」

梓「えへへ、こんにちは」

唯「今日はどのくらい居れるの?」

梓「えっと……1時間で戻らないと」

唯「短っ!?ていうかあずにゃん大丈夫なの?無理してない?」

梓「大丈夫ですよ。それに私が会いたくて来てるんですから」

唯「そう?」

梓「そうです」

唯「そうだ!じゃあ今度は私があずにゃんの所に行くからね!」

梓「はい!楽しみにしてます」

でも……

唯「うわ~都会だね~!」

梓「そうですか?」

唯「そうだよ~。あずにゃんはいつもここでいろいろやってるんだねぇ」

梓「先輩はどこか行きたい所ありますか?」

唯「あるある!えっとね~……」

梓「はい」

唯「……とりあえず、お腹すいたかな」

梓「あはは、じゃあ何か食べに行きましょう」

唯「うん!」

あずにゃんとご飯を食べてからがっつり遊んだ。
久しぶりだったから一段落する頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。
だから、そろそろかなと思って気になってることを聞いてみる。

唯「あ~楽しかった!」

梓「私もです」

唯「ところであずにゃん」

梓「はい」

唯「今日は何時まで一緒にいられるの?」

梓「……今日はずっと大丈夫です」

唯「あれ、そうだっけ?」

梓「そうです」

あずにゃんがそう答えた時に携帯が鳴った。

唯「……出ないの?」

梓「今日はいいんです」

唯「ダメだよあずにゃん」

梓「でも、せっかく先輩に来てもらったのに」

唯「私は大丈夫だよ~」

梓「でも……」

唯「あずにゃん」

梓「……なんですか?」

唯「ちゃんと行かないとダメだよ」

梓「あう……」

唯「ね……?」

梓「……はい」

最近はこんなやり取りが目立つようになった。
いつも真面目だったあずにゃんが私に言い聞かせられるのはなんだか新鮮。
それに可愛い。
だけどそんなあずにゃんを見ていると不安にもなった。
あずにゃんは口に出さないけど無理して会いに来ていることも多々ある。


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最終更新:2010年03月25日 22:23