唯律「…」
律「何もムギがやらなくても…きっと誰か他の人がやってくれるんじゃないか?」
紬「ふふ、だって…」
紬「自分がやった方が楽しいじゃない?」ニコッ
唯「言うと思ったよ」
律「さすがムギだな。意思の固さでは世界一だ」
紬「ありがと」
唯「でもムギちゃんの子供は寂しいんじゃない?ずっと会ってないでしょ?」
紬「もう数年会ってないかな…でも子供のことは夫と斎藤に任せてるから心配はしてないわ」
唯「でた、斎藤さん」
律「斎藤さんがいればなんでも解決するよな」
紬「ふふ、伝えておくわね。きっと斎藤も喜ぶと思うわ」
―――――――――
――――――
―――
紬「そろそろ行かないと」
律「おお、もうそんな時間か」
紬「ありがとう、唯ちゃん、りっちゃん。また会えるかな?」
律「会えるさ。私がここを立ち退かない限りな」
唯「うう~…ムギちゃん死なないでえ~!」
紬「あらあら、唯ちゃんは相変わらずお酒に弱いのね」
律「ビール一杯でこれだもんな」
唯「うぇ~い」
律「さ、唯のことは私に任せて行きな」
紬「うん、じゃあねりっちゃん。また今度」
律「ああ、死ぬなよ」
紬「志半ばで死ねないわよ。みんなにもよろしくね」
カランコローン
律「…」
律(ムギの奴、自分の子供でもないのに命張って…私は自分の子供と向き合いすらしてねえってのに…)
唯「う~ん、むにゃむにゃ…」
律「はあ…」
ある日の夜
有線「♪~」
律「…」カリカリ
カランコローン
律「お」ガサ
律「らっしゃー」
梓「なんですかそのやる気ない感じ…」
律「ん…?あ、梓か!?」
梓「はい。お久しぶりです、律先輩」
律「よせやい!もう先輩後輩の関係じゃないんだから」
梓「私にとって律先輩はずっとずっと律先輩ですよ」
律「うむ…深いようで浅い言い草だな」
梓「バレちゃいました?」
律「へへ、これでも元軽音部部長だぜ?お前らのことならお見通しだって。ま、とにかくここ座れよ」
梓「はい、失礼します」
律「注文は?」
梓「じゃあカクテルでも。そうだな、カシスオレンジがいいです」
律「ほ~、可愛いの飲むねえ。まあ、梓らしいか」
梓「律先輩、ここ大丈夫なんですか?なんと言うかその…」
律「ん?何?」
梓「全然全く微塵も儲かってないように見えますけど」
律「うるせーよ!ウチは常連客で持ってるんだよ!本当は一見さんはお断りなんだからな!」
梓「そんなスナック聞いたことない…」
律「文句あんなら金落としてけ!シャンパン入れろ!」
梓「ぼったくりバー!?」
律「と、まあ冗談はこれくらいにしてっと」
梓(顔が本気だった…)
律「梓は今何してるんだっけ?」
梓「両親と一緒のジャズバンドで、日本中演奏して周ってますよ」
律「へ~、結局私らの中でちゃんと音楽やってるのは梓だけか。まあ、なんとなくそんな気もしてたけどな」
梓「私は律先輩以外はみんな音楽の道に進むのかと思ってました」
律「梓ちゅわん?なんで私を外すのかな~?(ビキビキ」
梓「だって律先輩は昔からやる気なかったですもん」
律「まあ否定はしないけどさ」
梓「それに、あまりうまくな…げふんげふん」
律「ま、まあ否定はしないけどさ…」
梓「ステージに立っても見栄えしないし…」
律「それは否定しとこうか」
梓「えっ。せめてこれだけは否定しないで欲しかったのに…」
律「おいこら。そろそろ泣くぞこら」
梓「冗談ですよ」
律「お前…歳食って益々生意気になりやがったな」
梓「だから冗談ですって。律先輩に会えて嬉しいなー」
律「ほう、それは私に対する挑戦状かな?」
梓「律先輩は相変わらずキレイですぅ」
律「…」
律「このやろー!」
グググ
梓「うわわ…!ギブギブ…!」
パッ
梓「げほげほ…本気で締めるんだから…」
律「生意気な後輩は総括しないとな」
梓「まったくもう…どこの左翼ですか。…でも元気そうで良かったです」
律「あん?」
梓「前に唯先輩と電話した時、最近律先輩元気がないって言ってたから」
律「…なんだ、気使ってたのか」
梓「そうですよ。先輩の顔を立てるのが私の役目なんです」
律「ったく…お前らって奴は…」
梓「元気でました?」
律「ああ、おかげさまでな。イライラの方が強い気もするけど」
梓「へへへ。そうだ、良かったら今度私達の演奏見に来てください」
律「おお、行ってみるか」
梓「夫や子供も一緒に演奏してるんですよ」
律「へェ~、子供も一緒にか!」
梓「最初は家に一人でおいておくのは可哀想だからと思って連れ回してただけなんですけど、楽器を触らせてみたらこれが意外にうまくてですね」
律「はは、血筋って奴だな。梓の子供も澪の娘のようにメジャーになったりしてな」
梓「さすがにそこまでは…私は家族みんなと一緒にいれればそれで満足なんです。あの子がそう言うなら応援しますけど」
律「そっか。偉いな、梓は」
梓「え?何がです?」
律「なんでもなーい。いいから飲め飲め」
梓「はあ…頂きます」
―――――――――
――――――
―――
梓「じゃあ私はそろそろ帰りますね。演奏絶対見にきてください」
律「おう、打ち上げはぜひここで頼むよ」
梓「あはは、わかりました。律先輩、今日は楽しかったです。それじゃあまた」
律「ああ、気をつけてな」
カランコローン
律「…」
律(あいつも親として色々考えてんだな…5人の中で一番ガキなのは…私か…)
ある日の昼
律「♪~」ゴシゴシ
カランコローン
律「ん?ごめんなさいねお客さん。まだ準備中なんすよー」ゴシゴシ
「…」
律「日が暮れたら開けますんで、その時また来てくださいな」ゴシゴシ
「カーチャン…」
律「…!?」クルッ
律「お前…」
息子「おいっす」
律「…」
息子「…」
律「何しにきやがった」
息子「カーチャンに色々と言わなきゃいけないことがあったからさ」
律「こっちは何も聞くことはねぇ」
息子「じゃあいい。勝手に喋るから。俺は今日、客としてここに来た。あんたはスナックのママとして俺の話を聞く。そういうことにしてくれ」
律「…」
律「チッ…客なら追い返すわけにいかねえな。今日は特別に今から店開いてやるよ」
息子「ありがとう…カーチャン」
律「…」
息子「…」
律「何か話せよ…聞いて欲しいことがあるんだろ?」
息子「あ、ちょっと待ってて」スッ
息子「驚かないでくれよな…」
カランコローン
律「なんだ…?」
カランコローン
赤ん坊「だぁ~」
律「え、ええ!?」
息子「あんたの孫だよ、カーチャン」
赤「あ~」
律「ちょ、ちょっと待てって…いきなりそんなこと言われても心の準備が…」わたわた
息子「予想以上の反応だな」
律「う、うるせー!私はまだバーさんになる歳じゃねえんだよ!」プイ
息子「もっと良く見てやってくれ。茜って名だ。おデコなんてカーチャンそっくりだろ?」
律「う…」
茜「あう~」
律「茜…」
律「茜」
茜「うーうー」
律「いい…名だな」
息子「抱いてみるか?」
律「い、いいって!もうガキの抱き方なんて忘れちまったよ!」
息子「体が覚えてるだろ。さんざん俺を抱いてたんだから」
律「む、むう…」
息子「ほらよ」スッ
律「うお…」ズシ
息子「どうだ?初孫を抱いた感想は?」
律「ああ…」
律「あったけえ」
息子「そうか」
律「あったけえ…あったけえよ…」ギュウ
律(人ってこんなに暖かかったかな…ずっと忘れていたよ。人の温もりってやつを)
律「くっ…うぅ…クソ、なんで…ぐ」ポロッ
茜「あう~…」
息子「おい、大丈夫か?」
律「こんな…反則じゃねえか…!うっ…会ったら一発ぶん殴ってやろうとか…!考えてのにさ…!ぐす」
息子「カーチャン…」
最終更新:2010年03月27日 00:37