数日後
実「兄貴、このガキについて色々調べてみました」
テツ「おい実。あんま下手な真似すんな!嗅がれたらどうすんだ!」
実「すいやせん兄貴!でもうまくやりやしたから!」
テツ「まあいい・・とりあえず教えろ」
テツ「憂か・・いい名前だ」
実「生後6ヶ月です。
平沢唯っていう姉がひとりいます。こいつもまだ一歳です」
テツ「そうか・・・姉貴がいんのか・・辛いことしちまったな・・・」
テツ「だけどなテツ・・俺は決めたんだ。このガキを育てるって」
実「兄貴・・・」
テツ「実・・・俺についてきてくれるか・・・?」
実「当たり前っすよ・・・兄貴!!!!」
そして三人の生活は始まった。九州へ引越し、憂が大きくなるまでは表舞台には出ないことに決めた。
極道から身を引き、憂をそだてていくことになった。
最善の方法でないことを二人は理解していたが、テツは自分の命をかけてでも憂を育てると誓っていた。
憂の幸せのためなら何でもすると、憂の幸せの邪魔をしないことも。
平沢家
唯母「うううう・・・」ポロポロ
唯父「もしこのまま・・憂が戻ってこなかったら」
父「唯には憂のことはいわないでおこう・・・」
父「まだ物心もついていない・・・そのほうが幸せだろう・・・」
母「かわいそうだわ唯が・・・」
父「でもそのほうがいいんだ・・あとは警察に任せよう」
母「わかったわ・・・」
父「近所の人にも話しておくよ。きっとわかってくれる・・・」
母「うん・・・」
そして13年後
実「兄貴、前いってた土地の件決まりました。これでサ店開けますよ!」
テツ「おお決まったか!場所はどこなんだ!?」
実「それが・・・京都の・・・」
それはあの町の隣町だった。しかしテツに迷いはなかった。
テツ「バカやろう!このチャンス逃せるか!」
実「でも憂ちゃんの転校とかもあるし・・・」
テツ「憂ならわかってくれるさ・・・」
その夜
テツ「憂、ちょっと大事な話があるんだ」
憂「どうしたのおとうさん?実さんもかしこまって」
テツ「あのな憂・・実は京都に引っ越すことになった」
憂「え・・・?」
テツ「父さんと実はな、京都で店開こうと思ってんだ。憂ももうすぐ高校生だ」
テツ「父さんな、憂にはちゃんと高校に行ってほしいんだ」
実「友達とかと別れるのは辛いと思うけど、これも憂ちゃんのためだから・・」
テツ「どうだ憂。分かってくれるか?」
憂「・・・・」
憂「いいよ。いつもありがとうね!お父さんと実さん!私どこでもやっていけるよ!」
実「憂ちゃん・・・」
テツ「憂・・・」
実「俺、一生懸命働くから!!!」
テツ「バカ!暴れるな!」
憂「うふふふふ!!」
実「すいません兄貴!!」
そして一ヵ月後、三人は京都へ戻っていった
これから降り注ぐ悲劇があるとも知らずに・・・
幸せな日常。それを壊そうとする者は早くも姿を現した。
憂「いらっしゃいませ~お1人様ですか?」
謎の男「あ、はい」
憂「こちらへどうぞ~。ご注文は何になされますか?」
?「コーヒーひとつ」
憂「かしこまりました~」
厨房
憂「コーヒーひとつ~」
実「へい!コーヒーいっちょ!」
唯「あ、私いれてきま~す!」
実「あ、わるいね唯ちゃん!」
唯「いえいえ~」
店長「唯、おまえだんだん働けてきたな」
唯「ありがとうございます!すっごく楽しいです!」
店長「そうか・・・」
憂「おまたせいたしましたコーヒーです」
?「どうも」
?(ここか・・・ついに見つけたぞ佐藤・・・)
?(そしてあのガキ・・・間違いねえ・・)
唯「ねえ実さん?」
唯「今度みんなでお出かけしようよ~店長も~」
実「お、いいっすね!どうですか店長?」
店長「そうだな・・たまにはいいか」
唯「じゃあ決まり!来週の日曜日に海行こう!」
そして日曜日、店のメンバー4人で近くの海にきた。
そこでの憂と唯のはしゃぎっぷりは、テツと実に「姉妹」という現実を突きつけるには充分だった。
実「兄貴・・あんなに楽しそうに・・」
店長「・・・」
実「俺もう限界っすよ!見てられないっす・・・」
店長「バカ!あいつらは今が一番幸せなんだ・・」
テツはいつしか唯の幸せをも祈っていた。
幼くして妹を失い、その事実をしらない唯。
憂に瓜二つの唯を見ていると、感情移入は容易だった。
唯「店長もこっちきなよ~!」
憂「実さんもはやく!」
実「あ、今いくよ~!・・ほら兄貴も早く」
店長「ああ・・・」
唯「今日は楽しかったね~」
憂「そうだね~!また来たいね!」
店長「そうだな・・・」
実「そうっすね!じゃあ帰りますか!」
唯「う~い~」
憂「唯さ~ん、うふふ!」
店長「・・・」
数日後
律澪紬「お邪魔しま~す!」
唯「あ!いらっしゃ~い!あずにゃんは?」
律「ああ、梓は今日は忙しいってさ!」
唯「そっか~。じゃああがってあがって!」
律澪紬「おじゃましま~す!」
澪「バイトどうだ~?」
唯「すっごい楽しいんだ!憂がいい子なの!」
律「ああ、あの出来た子か~」
紬「すっごい礼儀正しかったわね!」
律「唯とは正反対だな!」
唯「もうりっちゃんの意地悪!あ、ちょっと下からお菓子とってくるね!」
澪「お~悪いな」
唯「いいっていいって!」
ガチャ
唯「ええっとお菓子お菓子っと」
唯「ここの棚かな?あれ、ないや」
唯「あそこの引き出しかな?」
唯「あれ無いな~・・」ガサガサ
唯「?」
唯「あれ?なんだこの写真?」
唯「これが私で・・赤ちゃんを抱えてる・・誰だろ・・」
唯「近所の子かな?」
律「お~い唯あったか~!?」
唯「あ、今行く~!!!」
唯(とりあえずポテチ持ってこ!)
数日後。悲劇の足音は確実に近づいて来ていた・・・
唯「いらっしゃいませ!お一人様ですか!?」
?「ああ」
唯「こちらへどうぞ。ご注文は?」
?「コーヒーひとつ」
唯「かしこまりました!少々お待ちください」
・・・・・
唯「おまたせしましたコーヒーになります」
?「・・・」
?(このガキはなんだ・・憂ってガキに似てるな。気に食わない)
律「おい~っす!」
唯「お~みんな~!」
澪「やってるな?」
紬「いい匂いがするわ!」
唯「今パン焼いてるんだ~持ってくるよ~」
?「・・・」
憂「お待たせしました~」
律「お~美味そうだな!」
梓「おいしそう・・・」
律「あ!憂ちゃん、来週文化祭じゃん?よかったらライブ見に来てよ!」
憂「ライブやるんですか!?すごいです!」
唯「へへへ~私も出るんだ!」
憂「唯さんも出るの!?クラスの仕事が終わったらいきます!」
澪「お~唯これじゃ半端な演奏できないぞ~?ふふふ」
唯「だ、大丈夫だよ澪ちゃん・・!」
紬「ふふふ」
憂「じゃあ私見に行くね梓ちゃん!」
梓「うん!ぜひきて!」
?「・・・・」
?(あの糞ガキがライブ?笑わせるな・・)
?(あの制服は桜高か・・・ふっ・・見に行ってやるよ)
その夜
実「唯ちゃん憂ちゃんお疲れ!」
唯「お疲れ様で~す!」
憂「お疲れ様~」
唯「あ!来週桜高の文化祭があって、私ライブに出るんですよ!」
実「あ~唯ちゃん軽音部だったね!?」
唯「うん!だからね、日曜日だし見にきてほしいな~って!」
実「お、俺絶対見に行くよ!兄貴もいいっすよね!?」
店長「ん?・・・ああ、行くよ」
唯「やった~!じゃあ決定だよ!」
学園祭当日 校門前
実「兄貴!やっぱその服はマズイですって!完全にヤクザじゃないっすか!」
店長「うるせえ!唯の晴れ舞台だぞ!」
実「兄貴顔引きつってます!」
店長「黙れ実!」(なんで俺がこんなに緊張してんだ!)
実「兄貴、向こうが講堂っす」
店長「お、おう」
?「・・・・」
「次は軽音部による演奏です」
憂「はあはあ・・間にあった・・」
店長「おい実!ゆ、唯はまだか!?大丈夫なのか!?」
実「これから出てきますって!」
店長「ほんとか!ほんとなのか!?」
実「兄貴落ちついてください!」
店長「落ちついてられっか!」
わ~!!!!
唯「どうも軽音部です!」
店長「お~唯!!!!」
憂「唯さん!」
実「あ、店長向こうに憂さんもいますよ!」
店長「おう憂も来てたか」
澪「それじゃあ二人で歌います!」
唯澪「ふわふわたいむ!!!」
?「・・・・・・」
唯「あ~神様お願い二人だけのドリームタイムください」
憂(唯さんカッコイイ・・・!!!)
店長「うううう・・・」
実「兄貴・・・何泣いてんすか・・・」ポロポロ
店長「バカやろう泣いてないわ・・・」ポロポロ
店長「おまえこそ何泣いてんだ情けねえ・・!」
実「なんかこの15年間を思い出しちまって・・・」
思えばいろいろなことがあった。
憂の人生を奪ってしまったという罪悪感もあった。
だからこそ憂を幸せにしなければならないと思った。
本当の幸せは、憂を本当の家族の元で生きてもらうことだとわかっていた。
だが同時に引き返せないことも理解していた。
唯に憂を重ね合わせ二人は人目をはばからず泣いた。
唯「今日はありがと~う!!!」
わ~!!!!!
憂「唯さんカッコイイ!!!!!!!」
唯(あ、憂!!)
唯「ピース!!!」
憂「唯さん・・ピース!!!」
実「兄貴・・憂ちゃん凄い幸せそうな顔してるっすよ・・」
店長「あんな顔見たことねえよ・・」
店長(よかった・・・唯、ありがとう!)
?「・・・」ピキピキ
?(あの糞ガキども・・幸せそうな顔しやがって・・)
?(浮かれやがって・・絶対にゆるさねえ・・・)
?(ぶっ殺してやる)
母「あなた・・私憂のこと一日たりとも忘れたことは無いわ・・」
父「僕もだよ・・」
母「いつか・・また会えるわよね・・?」
父「ああ・・必ずな・・」
その夜
唯「あ、憂からメールだ」
「唯さん!今日すっごくかっこよかったよ!
それでね、いきなりで悪いんだけど、明日平日だけど代休だよね?
実さんが仕込みがあるから朝6時に来てほしいって!
無理ならいいけど!
じゃあ明日文化祭のこと一緒に話そうね!おやすみなさい」
唯「6時か~起きれるかな~。とりあえずがんばって行こう!」
実(もう我慢の限界だ・・明日唯ちゃんに朝来てもらって二人に話そう)
実(きっとこのほうが二人の幸せのためだ・・・)
唯「おはようございま~す」
憂「あ、唯さんおはよう!」
唯「ん~ムニャムニャ・・・」
憂「昨日はすっごくかっこよかったよ・・・
・・・・・・・・
憂「それでねそれでね!」
実「お、おはよう唯ちゃん憂ちゃん・・」
唯「実さんおはよう!」
憂「おはよう実さん!」
実「ああ・・唯ちゃん、昨日マジで感動したよ」
唯「おお!ありがとう実さん!」
実「ああ!それでなんだが・・二人に凄い大事な話があるんだ」
実はすべてを打ち明けた。何一つ隠さずに。
唯と憂の呆然とした顔を見ながら話続けた。実の手は震えていた。
テツとの15年間の約束が崩れ落ちた。
だが実は二人の幸せを祈っていた。テツとの絆が壊れてもいいと思っていた。
テツが望んでいたのは二人の幸せだと一番理解していたから・・・
最終更新:2010年04月01日 22:15