律「ボーカロ……?」

梓「なんですか、それ」

唯「え! ボーカロイドしらないの!」

紬「ええ、知らないわ」

唯「へー、みんな知らないんだ、
  おっくれってるうー」

律「なんなんだよ、ボーカロイドって」

唯「仕方ないなー、
  見せてあげるからパソコン室いこ!」

紬「パソコンで見るの?」

澪「……」



パソコン室。

唯「ほら、ここで見られるんだよ」

紬「ニコニコ動画?」

梓「あ、知ってます。
  動画にコメント付けられるんですよね」

唯「そうそう。えーっと、はつねみく……っと……
  あ、初音ミクっていうのはボーカロイドの名前ね!」

紬「可愛い名前ね」

唯「ほら、この『メルト』って曲!
  これが特にオススメなんだよ!
  再生数も560万回だって」

梓「へー、すごいですね」

唯「じゃあ早速聞こうか。ぽちっとな」

澪「……今更メルトかよ」

律「え、何かいった?」

澪「なんでもない」


紬「かわいいイラストね」

梓「なんですかこれ、
  東京都青少年健全育成……」

唯「あ、気にしないで。
  宣伝みたいなもんだから」

梓「はあ」

ミク『朝目が覚めて 真っ先に思い浮かぶ 君のこと~♪』

律「へえ、歌上手だなこの人」

唯「ふふふ、りっちゃん、人間が歌ってるんじゃないよ」

律「え、そうなのか?」

唯「そうだよ、初音ミクっていうのは
  パソコンのソフトなんだから」

紬「つまり機械の音声なの? すごいわね」

澪「……この程度で驚くなんて……
  ホンモノの神調教の足元にも及ばないのに」

律「なんかいったか?」

澪「別に」


ミク『メルト 溶けてしまいそう~♪』

梓「今のコメント、流れ星みたいで綺麗でしたね」

唯「あずにゃん静かに!
  せっかくの神曲が聞こえないよ!」

梓「はあ、すみません」
  (神曲……?)

ミク『好きだなんて絶対に言えない~♪』

紬「いい曲ね」

唯「でしょー」

律「……」

澪「……」


ミク『らーららーらーらーらーらー……』

唯「どうだった?どうだった?
  良かったでしょ?」

紬「ええ、とっても良かったわ!」

梓「そうですね」

唯「でさ、今度のライブでこれやろうよ!
  きっと成功するよ」

梓「いいんじゃないですか?
  律先輩たちはどう思います?」

律「え? あー……
  私はオリジナルのほうが良いと思うけど……
  澪、どう?」

澪「えっ? 私?
  そそそそうだな、うーんまあ
  やってみるのもいいような気はするけどな」

唯「わーい、じゃあ多数決で決まりだね」

律「……」



下校時刻。

澪「そろそろ帰ろうか」

唯「そうだねー」

紬「唯ちゃん、私、帰ってから
  ボーカロイドのこと調べてみるわね」

唯「お! ムギちゃんもボーカロイドにハマっちゃうんだね」

紬「うふふ」

梓「ボーカロイドかー……」

律「……澪、
  一緒に帰ろうぜ」

澪「え、いいけど」

律「おう、じゃー私ら先に帰るから」

唯「ばいばーい」



帰り道。

澪「……」

律「……」

澪「……」

律「……なあ澪」

澪「ん?」

律「今日のアレ……どう思う?」

澪「アレって?」

律「パソコンで見たやつ」

澪「ボカロ?」

律「ああうん、そういうやつ」

澪「それがどうかしたのか?」

律「いやー……キモくね? あれ」


澪「……え?」

律「いやーなんかオタクくせーっつーか」

澪「……」

律「なんかアニメみたいな声だったじゃん、
  あとイラストも」

澪「……」

律「ああいうのってアレだろ?
  オタクとかが萌えーとか言ってるんだろ?」

澪「……」

律「唯が夢中になってる手前、言いにくかったけどさ、
  すげーキモイと思ったよ」

澪「……」

律「澪もそう思わん?」

澪「……」


律「おい、澪ー?」

澪「くっ……」ぷるぷる

律「澪、どした?」

澪「はっ……いやなんでもない……
  で、初音ミクがなんだっけ、
  キモいっていう話だっけ」

律「うん、そう」

澪「ああ、まあキモイと思うならそれで良いんじゃないか?
  無理に押し付けるのはよくないし、
  そういうのがいるせいでニコ厨のイメージさがるんだよな~まったく」

律「にこちゅー……?
  まあそれはいいとして、
  澪はあの曲をライブでやることに賛成なのか?」

澪「別にいいと思うよ?
  ただ今さらメルトはどうかな、
  良いと思うけどもう古いよな」

律「……」


澪「今のトレンドは『ローリンガール』! これだね。
  現実逃避Pは『裏表ラバーズ』で人気でたけど」

律「……」

澪「私は『テノヒラ』のころから注目してたね」

律「……」

澪「あの人はもっと評価されるべきだと思うよ」

律「……なあ、澪」

澪「ん?」

律「……お前もボーカロイド好きなの?」

澪「……」

律「……」

澪「……」

律「……」

澪「…………すきじゃないですよ」

律「あ、そう……」


そのころ、平沢家。

唯「ただいまー」

憂「あ、おかえりーお姉ちゃん」

唯「今日みんなにボーカロイドおすすめしてきたよー、
  でさ、ライブでやることになって」

憂「へえ、そうなんだ! すごいねー」

唯「うん!」

憂「ボーカロイドは素晴らしい曲がいっぱいあるのに、
  まだまだ一般に浸透しているとは言い難いからね!
  こうやって一人でも多くの人に広めていくことが大事なんだよ」

唯「そうだね、私も憂に教えてもらうまでは
  知らないままだったよ。
  ありがとう、憂!」

憂「どういたしまして。
  あ、今ニコ生やってるからまた後でね」

唯「はーい」


ヴーッヴーッ

唯「あ、ムギちゃんからメールだ……
  えっ、『ニコニコ動画への登録方法が分からない?』
  うーん、私も憂のアカウント借りてやってるからわかんないなー」

唯「『私もよく分からないから、あとで憂にメールで聞いてみて』……っと」

唯「憂ならきっと分かるよね、
  ニコ動初心者のムギちゃんにも
  色々教えてあげそうだし」

ヴーッヴーッ

唯「あ、次はあずにゃんからメールだ」

唯「ふむ、『ボーカロイドの曲で良いのを教えて欲しい』、か~。
  あずにゃんもボーカロイドにはまりつつあるね。
  えーっと、『恋は戦争とロミオとシンデレラがオススメだよ』……っと」

唯「……お腹すいたな。ご飯まだかな」

唯「……ニコ生が盛り上がってるのかな」



翌日。

唯「おはよー、みんなー」

律「おう、おはよー」

紬「あ、唯ちゃん。
  昨日憂ちゃんにニコニコ動画の登録を
  教えてもらえたわ」

唯「そうなんだ、よかったねー」

紬「憂ちゃんに面白い動画とか教えてもらって、
  一晩中ずーっとニコニコ動画見てたわ。
  おかげで寝不足で……」

律「……」

紬「見始めたら止まらないわね、
  ニコニコ動画って」

唯「でしょー、ハマっちゃうんだよー」

律「……」

紬「ところで、エコノミー画質? っていうの、
  あれどうにかならないのかしら」

唯「有料コースに登録すればなくなるよ」

紬「へえ、そうなの」

唯「あと時報とかも、有料会員は非表示にできるんだ」

紬「時報ってあれね、
  いきなり出てきて驚いたわ~」

唯「最初は驚くよね~」

紬「今日家に帰ったら、有料会員登録してみるわ」

唯「おっ、始めて2日でプレミアムなんてやるねえ」

紬「えへへ」

律「……」ガタッ

唯「どこいくの、りっちゃん?」

律「……トイレだよ」

律「……ったく、
  みんなでニコニコニコニコって……」

律「理由は分からんけど、
  なんかムカつくわ」

律「これじゃあニコニコじゃなくて
  イライラ動画だな……」

和「何つまらないこと言ってるのよ」

律「あ、和」

和「なに、ニコニコがどうかしたの?」

律「なんだよ、和もニコニコ動画知ってるのか?」

和「そりゃまあね。
  今はもう見てないけど」

律「前は見てたのか?」

和「初期のころはね。
  あのころは、楽しかったわ……」

律「……」


和「でもアニメがなくなったから
  見るのをやめたわ。
  今はSaymove一択よ」

律「せいむ……?」

和「それに、今のニコニコはお子様のたまり場で、
  動画も二番煎じのばかりでつまらないし……
  東方だとかボーカロイドだとか」

律「あ、そう、そのボーカロイド」

和「ボーカロイドが何?」

律「唯たちがさ、そのボーカロイドの曲を
  ライブでやろうって言い出しててさあ」

和「はあ?」

律「和はどう思う?」

和「どうって、死んでも止めさせるべきよ。
  恥ずかしいことこの上ないわよ」

律「だよなーあんなオタク臭いの……」

和「……」

律「……和?」

和「一緒にしないでもらえる?」

律「はい?」

和「ボーカロイドや東方なんていうニコニコ御三家と、
  私たちみたいなオタクを一緒にしないでもらえるかしら?」

律「えーと……」

和「ああいや、ごめんなさい……
  そうよね一般人には違いなんて分からないわよね」

律「……」

和「とにかくボカロの曲はライブでやっちゃダメよ、
  黒歴史化は必至だわ」

律「くろれき……?」

和「あ、もうすぐ授業が始まるから行くわね」

律「あ、ああ……」



律「……あいつもアブナイな」



昼休み、教室。

和「澪、お昼ごはん食べましょ」

澪「うん、いいよ」

和「……あのさ、
  律に聞いたんだけど」

澪「何?」

和「ボーカロイドの曲をライブでやるって」

澪「あー、まだ本決まりってわけじゃないけどな。
  唯はメルトやりたがってるけど」

和「……やめといたほうがいいんじゃない?」

澪「そうだよなー、メルトなんてもう古いよなあ」

和「いやそうじゃなくて」

澪「?」

和「ボーカロイドの曲をライブでやるのをやめた方がいいってこと」

澪「えー、なんでそんなこと言うんだよ。
  いいじゃないか別に、ボカロにはイイ曲がいっぱいあるんだぞ?
  和はニコニコ見てないから知らないかもしれないけど」

和「……ボカロの機械音声をイイ曲とか言っちゃうのが
  恥ずかしいって言ってるのよ」

澪「な、なんだよそれ……どういう意味だよ」

和「文字通りの意味だけど?」

澪「た、確かにな、
  ボカロの声には好き嫌いが分かれるかも知れない……
  でも調教が上手い作品は本当に人間の歌声と遜色なく……」

和「調教って……その言い方が気持ち悪いわ」

澪「だいたい曲の良し悪しは
  ボカロの声と関係ないだろ……」

和「そうね、でもクリエイター気取りが作った
  自己満足の曲なんて聞くに耐えないわ」

澪「……!!」


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最終更新:2010年04月06日 00:36