和「ていうか澪、ニコニコ見てたのね」
澪「……和も見てるんじゃないか」
和「私はもう見てないわよ」
澪「じゃあボカロの曲も聞いたことないのか」
和「ええ、そうね」
澪「……何も聞かずに、
そうやって口先ばっかで否定して……!」
和「え、なに?」
澪「聞きかじりの言葉だけで
ボーカロイドを語るなって言ってるんだあああ!!!」ガッシャーン
和「きゃあっ!」
クラスメイト「なんだなんだ」
クラスメイト「どうしたの秋山さん」
クラスメイト「眞鍋さん大丈夫?」
澪「はあ、はあ……」
放課後。
ガチャ
梓「こんにちはー」
律「おう、梓」
唯「でさー、それでアニキがさー」
紬「まあそうなの、面白いわね」
梓「何の話してるんです?」
律「ニコニコ動画の話だよ……
こいつら一日中こんな感じだったんだよ」
梓「へー、私も見ましたよニコニコ」
唯「おっ、あずにゃんもニコ厨仲間だね!」
梓「にこちゅう?」
紬「ニコニコ動画にはまってる人を
そう呼ぶらしいわよ」
梓「へー」
律「……」
ガチャ
澪「……」
律「あ、澪」
唯「遅かったねー、澪ちゃん」
澪「ああ、ちょっと職員室に呼び出されててな」
梓「なんかやらかしたんですか」
澪「そんなことはどうでもいい……
唯! ライブでボカロの曲やるぞ!!」
唯「ほえっ!?」
澪「私はもう許せないんだ……
絶対にボカロは素晴らしいものだって
思い知らせてやらなきゃ気が済まない……!」
唯「何があったの?」
律「……だいたい予想はつく」
澪「とにかく明日!
ボカロのバンドスコア持ってくるから!
今日は解散! じゃあな!」
ガチャバタン
唯「行っちゃった」
梓「彗星のようでしたね」
律「もうほっとこうぜ……
お茶にしよう」
紬「あ、ごめんなさい……
もう解散するなら、早く帰って
ニコニコ動画を見たいんだけど」
律「……」
梓「ほんとにハマってるんですね」
唯「あ、じゃあ私ももう帰るー」
紬「一緒に帰りましょ、唯ちゃん」
唯「いいよー」
律「……」
梓「私達も帰りましょうか」
律「……そうだな」
梓「なんか元気ないですね」
律「いやあ、
なんかみんなニコニコニコニコ言っててさ、
話に入っていけなくて」
梓「ああ、そうだったんですか」
律「梓もニコニコにハマってるんだろ?」
梓「ムギ先輩ほどではありませんよ」
律「ふうん……
梓もボーカロイドとかトウホウとかいう動画見てんの?」
梓「まあボーカロイドは何曲か聞きました。
殿堂入りしてるのは流石にイイ曲ばっかりですね」
律「でんど……?」
梓「それであとは、『弾いてみた』ってやつとか」
律「ひいてみた?」
梓「素人がギターとか演奏してるとこを
録画して公開してるんですよ」
律「ふーん、そんなの面白いのか?」
梓「けっこう上手な人もいますし、勉強になります。
あと自分の好きな曲を弾いてる動画とか、
見てると楽しいんですよ」
律「へえ……」
梓「音楽系の動画もいっぱいありましたし」
律「いろいろあるんだなー。
私はもう付いてけないよ、みんなのニコニコ話に」
梓「ニコニコの話ばっかりしてる唯先輩たちもあれですし、
無理に追いつこうとする必要なんてないですよ」
律「うん……それにしても、
そんなハマっちゃうもんなのかねえ、
ニコニコ動画ってのは」
梓「どうでしょうね、
私が今使っている限りでは
Youtubeみたいな動画サイトと変りない気がしますけど」
律「ゆーちゅ……?」
梓「……律先輩、
普段パソコンとかは……」
律「まったくさわらない」
梓「……」
律「あー、今バカにしただろ」
梓「してませんよお」
律「ウソだー、絶対したー」
梓「しーてーまーせーんー」
周りのニコニコ話に疲れていた律は、
梓との茶化し合いに今日はじめての安息を得たのであった。
そのころ、平沢家。
唯「ただいまー」
♪~ ♪~
唯「? なんの音だろ……
憂ー?」
憂「あ、お姉ちゃん」
♪~ ♪~
唯「何やってんの」
憂「もう、今『踊ってみた』の撮影してるとこなんだから、
ちょっとあっち行ってて」
唯「へえ、憂そんなのやってたんだ」
憂「けっこう人気あるんだから。
このまえ上げた動画、5万再生突破したんだよ」
唯「ふーん、すごいねえ」
憂「じゃあ私、踊るので忙しいから」
唯「あのー、晩御飯は」
憂「あとで!」
ヴーッ ヴーッ
唯「あ、和ちゃんからメール……
『ボーカロイドの曲でライブやるのはやめなさい』……だって」
憂「ああ……そんなの無視すればいいよ。
和さん2ちゃんねらーだから、
ニコニコ叩くのに必死なんだよ」
唯「ふーん」
憂「そうだ、それよりお姉ちゃんも一緒に踊らない?」
唯「遠慮しとくよ」
憂「そう?」
そのころ、秋山家。
澪「よしよし、買いこんでいたボカロのバンドスコア……
ついに日の目をみる時が来たか」
澪「今日は和と下らないケンカしたせいで
先生に呼び出されて怒られちゃったけど、
まあそんなことは何の障害にもならない」
澪「ライブでばっちりボカロの曲を演奏して、
観客の心をがっちり掴んで、
和に一泡吹かせてやるんだ……」
澪「まあそれはおいといて、
ニコニコでも見るか」
澪「また素人の踊ってみた動画か……
なんか伸びてるな。ちょっと見てやるか」
澪「ん……荒れてるな」
澪「お?」
澪「……憂ちゃん?」
翌日。
唯「ふわー、おふぁよー」
憂「……」
唯「いやー昨日は夜中までニコニコ見てたよー」
憂「……」
唯「憂? どしたの?」
憂「うううあああああ、おねえちゃああん!!」
唯「ど、どしたの?」
憂「うぇえええええん……」
唯「な、なんで朝から泣いてるの!?」
憂「ううう……」
唯「憂……?」
憂「うう……昨日、
踊ってみたの動画が再生数伸びてるって言ったでしょ……?」
唯「え、うん」
憂「それがっ……
私の自演で伸ばしてたのがバレちゃってっ……」
唯「はあ?」
憂「動画が荒れて……生放送も…・
2ちゃんねるとかにも晒されちゃって……」
唯「……」
憂「もうどうしたらいいのか分かんないよう……」
唯「と、とりあえず動画消そ、ね?」
憂「消してもまた2ちゃんねるで盛り上がるだけだよ……
『逃げた』とか言われて……」
唯「このまま野放しにしとくわけにもいかないでしょ」
憂「うう……」
カチカチ
唯「あちゃー、ほんとに荒れてるね」
憂「顔出しもしてたから……
個人特定されちゃって……」
唯「えー……」
憂「もう外でるのが怖いよう……」
唯「憂……」
憂「ううう……」
唯「だ、大丈夫だよ……
こんな騒動すぐ収まるって、
2ちゃんねらーも飽きっぽいし」
憂「でもお……」
唯「と、とりあえず今日は学校休む?」
憂「うん、そうする……」
唯「じゃあ私は学校行くから……
戸締まりに気をつけてね」
憂「うん……」
ガチャ
唯「……」
和「おはよう、唯」
唯「あ、和ちゃん……おはよう」
和「……災難だったわね、憂ちゃん」
唯「知ってたの?」
和「ええ、2ちゃんねるでかなり盛り上がってたから」
唯「……和ちゃんも、
憂の動画を荒らしたりしたの?」
和「私はしてないわ。
でも大勢の2ちゃんねらーがやったでしょうね」
唯「……」
和「でも分かったでしょ、
ニコニコなんかやってるとロクなことがないって」
唯「そんなこと……」
和「いいえ、そうよ。
そもそもネットに素人が
顔をさらすと言うことが間違いだわ。
過ぎた自己顕示は身を滅ぼすのよ」
唯「……」
和「これを機に、唯もニコニコから足を洗いなさい」
唯「……」
和「ボーカロイドの歌をライブでやるなんて
バカみたいなこともやめるのよ」
唯「……」
和「分かった?」
唯「……うん」
和「うん、それでいいのよ」
唯「……」
和の言いたいことは分かる、
でもそれは何かが違う……
唯にはその違和感の正体が分からなかった。
学校。
唯「おはよ……」
律「おう、おはよー」
紬「唯ちゃんおはよー、
また昨日徹夜でニコニコ見ちゃったわー」
唯「へえ」
紬「もう、反応薄いわよ!
唯ちゃんマジ自重!」
唯「自重って……」
律「さっきからこんな感じで、
やたらテンション高いんだよ……」
紬「そうだわ唯ちゃん、
テニスの王子様ミュージカルって知ってる?」
唯「これまた古いね……」
ガラッ
澪「……唯~……」
唯「あ、澪ちゃん……呼ばれたから行ってくるね」
紬「ええ」
廊下。
唯「なあに、澪ちゃん」
澪「あ、あのー、昨日のアレなんだけど」
唯「憂のこと……?」
澪「うん、そう……
あれやっぱり憂ちゃんだったんだな」
唯「うん……」
澪「憂ちゃんどうしてる?」
唯「今日は学校休んでるよ」
澪「そっか……」
唯「……あんなにニコニコ大好きだったのに、
そのニコニコのせいで傷ついちゃうなんて……
なんかかわいそうだよ」
澪「ああ……」
唯「……それで?」
澪「え、それでって?」
唯「いや、話は終わりかな、って」
澪「ああ……えっと、
ボカロの曲をやるってことになっただろ……
あれなんだけど」
唯「ああ、別に憂のこととは関係ないから……
ライブはライブでちゃんとやろうよ、
ボカロの曲をさ」
澪「あ、うん……分かった。
今日スコア持ってきたからさ、
放課後練習しような」
唯「うん、メルトもやろうね」
澪「ああ、仕方ないな、
そこまで言うなら……」
唯「ありがと、澪ちゃん」
澪「でも、ほんとにいいのか?」
唯「いいよ、みんなだってやりたいでしょ」
澪「それはそうだけど……
みんながどうかより、
唯がどう思うかが大事なんだぞ」
唯「私は、やりたいと思うよ」
澪「そっか」
唯「うん……
あんなことはあったけど、
私はニコニコが好きだし」
澪「うん」
唯「それに、ニコニコが悪いってわけじゃないしね。
憂がちょっとズルしようとして、
しっぺ返しを食らっただけなんだよ」
澪「そっか。
じゃあもう授業始まるから行くよ」
唯「うん……」
最終更新:2010年04月06日 00:38