梓「どうしたんですか? なんだかぼ~っとして」

紬「りっちゃん今日は朝からこの調子なの」

唯「もしやりっちゃん。その彼に澪ちゃんを取られて拗ねてるんじゃ」

澪「えっ? そうなのか律?」

律「ば、バカ、そんな訳ね~だろ!!」

澪「あ、ああ……、うん。そうだよね……」

律「そ~言えば。もうデートの約束とりつけたのか~?」

澪「あ、あの……。今度の週末に////」

唯「そっか~。どこ行くの?」

澪「そんなの聞いてどうする気だよ~」

唯「別について行こうだなんて思ってないよ~」

澪「やだっ、教えてあげない」

唯「ええ~っ」

紬「唯ちゃん。2人の邪魔しちゃ悪いわ」

梓(しかし、とんでもない事になってしまった!!)



中野家 梓自室

梓「みなさん、今回は残念なお知らせです」カタカタ……

梓「みんなのアイドルである澪ちゃんが……」

梓「澪ちゃんがある男性とお付き合いを始めたとの発表が本人の口からありました」

梓「ファンクラブ規則第一条3項により本日をもって澪ちゃんファンクラブは解散となります」

梓「長い間ありがとうございました」

梓「なお、今度のファンの集いが最後の活動となります。予定通りDVDの配布もあります」

梓「くれぐれも秩序ある行動をお願いいたします」

梓「以上、澪ちゃんファンクラブ会員No.100 副会長 中野梓の報告でした」

梓「それでは……、ファイナルミオミオ……」




梓「はぁ~……」

梓「どうせまた、あの人から電話くるんだろうな……」

   ピリリリッ!!

梓「気が重い……」

梓「もしもし」

恵『……』

梓「もしもし?」

恵『……』

梓「名誉会長?」

恵『……わ』

梓「へっ?」

恵『死ぬわ』

梓「わーーーーっ!! は、早まらないで下さいっ!!」

恵『だって……ヒッグ……』

梓「ブログにも秩序ある行動をって書いたじゃないですか」

梓「それに、昨日澪先輩の幸せを願ってるとも言ってたし」

恵『撤回します~、うえ~~~ん!!』

梓「ああもう!! 自分の発言には責任を持ってくださいっ!!」


 ・ ・ ・ ・ ・

梓「どうですか? 落ち着きましたか?」

恵『うん……ヒッグ、ごめんなさい』

梓「もし本当に曽我部名誉会長が死んじゃったら、澪先輩も悲しみますよ!」

恵『秋山さんに悲しんでもらえるなら本望だわっ!!』

梓(逆効果だったーーー!!)

梓「そうじゃなくて、澪先輩が自分のせいだって思って苦しむって言ってるんです」

恵『それは……。わかったわ、秋山さんのあの学園祭で見せたパンツのレプリカを
  口に詰めて窒息死しようという試みは思いとどまる事にするわ』

梓「ええ、是非そうして下さい」

恵『でも、まさか本当にこんな日がくるなんて……』

梓「それには私もビックリしてしまいました」

恵『あんな規則なんて作るんじゃなかったっ!!』

梓(本当にこの人は……)

梓「ところで、名誉会長には最後のファンの集いで
  澪ちゃんファンクラブ解散の号令を出していただきたいのですが」

恵『そうね……。なんせ私が設立したんですものね』

梓「はい」

恵『わかったわ』

梓「こちらでそのスピーチの草案をお作りしましょうか?」

恵『ありがとう。でも、私の言葉でこの会を締めたいの』

恵『だからその必要はないわ』

梓「……ご立派です」

恵『あなたも今まで素晴らしい澪ちゃんブログをありがとう』

梓「いえ、私自身も楽しかったです。私も澪先輩に魅せられた女の一人として」

恵『では、中野梓副会長! あなたを本日限りで……』

恵『本日限りでファンクラブ執行部副会長の任から解きます!!』

梓「……」

梓「はいっ!!(涙)」ビシッ!!


そして澪ちゃんファンクラブ解散式当日

  ざわ…ざわ…  がや…がや…

梓「さすがに最後とあってすごい人数が集まっている……」

梓「DVD配布予定だったから大きめの会場を押さえといてよかった」

梓「すみません先輩方、梓はお先に日本武道館のステージに上がらせていただきます」

梓「いまごろ澪先輩はデートでキャッキャウフフなんだろうか……」

「中野さん準備はOKですか?」

梓「はい、いけます」

「では、よろしくお願いします」

梓「お願いします」

  パチパチパチパチパチ……

梓『本日はお忙しいところお集まり頂きありがとうございます』

梓『本日の司会進行を努めさせて頂きます中野梓です。どうぞよろしくお願いします』ペコリ

  パチパチパチパチパチ……

梓『それでは澪ちゃんファンクラブの集い in 日本武道館を始めさせていただきます』


────
────────
────────────

梓『ありがとうございました』

梓『桜ヶ丘高校2年 鈴木純さん自作のポエム「部屋と縞パンと私」でした』

梓『いつでも部屋に澪ちゃんが来てもいいようにと常に綺麗な縞パンを用意して待っている女性』

梓『そんな切なさが表現されたとても素晴らしい作品でした』

梓『みなさま、もう一度鈴木純さんに盛大な拍手をお願いします』

  パチパチパチパチパチ……


 ・ ・ ・ ・ ・

梓『さて、ファンクラブ設立当時から今までの歴史を振り返ってまいりました』

梓『今まで澪ちゃんと共にあったこの楽しい時間もあと僅か……』

梓『最後はこの会を設立なされたこの方に締めていただきたいと思います』

梓『それでは、曽我部恵名誉会長、お願いいたします』

  パチパチパチパチパチ……

恵(秋山さん……、聞こえるかしらこの拍手の音……)

恵(あなたの魅力でこれだけの人が集まっているのよ)

恵(このみんなの気持ちが少しでもあなたに伝われば)

恵(そう願わずにはいられないわ……)

 ・ ・ ・ ・ ・

澪「クシュン!!」

男「大丈夫? 秋山さん」

澪「う、うん。ごめんなさい」

男「最近暖かくなったとはいえ、油断してると風邪ひいちゃうからね」

澪「そ、そうだね。気を付けなきゃ」

男「よかったら、僕の上着貸そうか?」

澪「あ、ありがとう。でも大丈夫」

男「そう? 寒かったらいつでも言ってね」

澪「うん」

 ・ ・ ・ ・ ・

唯「いやいや~。いい雰囲気ではありませんかっ!!」

紬「唯ちゃん声大きいわよ」

唯「ご、ごめんなさい」

律「……」

唯「も~、りっちゃんったら。また黙って」

紬「仕方ないわよ、今までずっと一緒だったんですもの」

唯「じゃあついてこなきゃよかったのに……」

律(澪……、あんまり楽しそうじゃないな……)

唯「ああっ! 男クンが澪ちゃんと手を繋ごうと……!?」

紬「きゃあ! ドキドキしちゃうわね」

唯「しかし寸前のところで躊躇!!」

紬「うふふ。初々しいわね~」

律(あれは澪が嫌がったんだよ……)


 ・ ・ ・ ・ ・

恵『────以上を持ちましてこの素晴らしき澪ちゃんファンクラブの
  解散の言葉とさせて頂きます』

 日本武道館は一万数千人の嗚咽で一杯となっていた……

恵『最後に……、みなさんは今まで秋山さんを愛してきました』

恵『しかし、これからはその愛をどうぞ自分へと向けてください』

恵『そして、愛されモテカワガールへと生まれ変わり明日からはチヤホヤされる側として
  どうぞ自分の人生を楽しむ道を突き進んでください』

恵『いつまでも悲しみの淵に沈んでいるのは秋山さんも望んではいないと思います』

恵『その事を、お忘れなきようお願いします』

 一瞬の静寂……
 そして

恵『私たちのふわふわ時間はこれにて終了といたしますっ!!!!!』

 こうして澪ちゃんファンクラブの歴史は終りを告げた……
 しかし、彼女たちの心の中では
 照れながら伏し目がちに歌う彼女の姿がいつまでも生き続けることだろう

 最後に秋山澪がどれほど彼女たちに影響を与えたか
 それを伺える数字をここで発表したいと思う
 本日の参加者の縞パン着用率 100%!!





数日後 梓自室

梓「今まで日課だったブログ更新もしなくなってから時間もできたし
  ギターの練習に明け暮れようと思っていたのに……」

   ピリリリッ!!

梓「最近はあの人から毎日のように電話がかかってくる……」

梓「もしもし」

恵『もしもし……』

梓「あの……、気持ちはわかりますがもうファンクラブは解散しちゃったんですから
  澪先輩の近況を聞きに毎日電話かけてくるの止めてもらえませんか?」

恵『最近ね……、横断歩道すらも秋山さんに見えてきちゃって……』

梓「し、縞々だからですか?」

恵『そうね……、もう私の頭の中では縞々は秋山さんに変換されるようになっちゃったのかもね』

梓(こりゃ、重症だ……)

恵『だから闇サイトでよく効く睡眠薬を買ってね……』

梓「ちょっ!! だからバカな真似はよしてくださいって!!」

恵『それ飲んだら良く眠れたわ。さすが薬事法をも無視した代物よ』

梓「あっ、それで自殺を図るって訳じゃないんですね……」

恵『当たり前じゃない、その辺の常識は持ち合わせてるわ』

梓「じゃあ、薬事法もキチンと守って下さい」

恵『だって、心療内科で貰った薬、ちっとも効かないんですもの……』

梓「通院していたんですか……」

恵『お医者様に秋山さんへの思いの丈をぶちまけてきたんだけどね
  今思い出してもあの医者の一瞬見せた軽蔑の眼差しは忘れられないわ』

梓「まぁ、カウンセリングしてくれる人もプロとはいえ人間ですからね」

恵『私……、これからどうすればいいのかしら……』

梓「ここは気分転換にバイトでも始めてみては?」

恵『バイト……?』

梓「はい、暇だから色々と考え込んじゃってダメになるんですよ」

梓「いっそ、労働に勤しめば気も紛れるかと……」


恵『……そうね、それもありね』

梓「はい! 社会貢献にもなるし一石二鳥ですよ」

恵『バイトで貯めたお金で秋山さんに貢げば振り向いてもらえるかもしれないし!』

梓「ええっ!?」

恵『ありがとう中野さん。私、明日を生きる活力が出てきたわ!!』

梓「ち、ちょっと待ってください!!」

恵『こうしちゃいられない! 早速バイト探しに奔走するわ!!』

  ガチャッ  プーップーッ……

梓「……」








梓「ま、いっか」



さらに数日後の放課後

梓(学校にいる限りは在校生の元ファンクラブ会員は澪先輩を遠くから見るという
  ファンクラブ本来の行為ができるから、普段となんら変りない)

梓(でも、学校外の元ファンクラブ会員はやっぱり曽我部先輩みたいになっちゃってるのかな?)

唯「あずにゃんどうしたの? ボーっとして」

梓「いえ、私って恵まれてるな~と思って」

唯「だよね! こんな美味しいお菓子が毎日のように食べられるんだもん
  本当にムギちゃんには感謝だよ」

梓「はい、ありがとうございますムギ先輩」

紬「いいのよ、みんなの喜ぶ顔で充分お返ししてもらってるんだから」

梓(あれから曽我部先輩からも電話はかかってきてないし)

梓(きっとそれぞれ自分の道を歩みだしているんだろうな)



澪「あの……、ごめん今日も私早く帰らないと……」

律「またぁ~……」

唯「ラヴラヴだね~♪」

澪「う、うん……。相手がどうしてもって言うから……」

律「バンドの練習はどうするんだよ~」

紬「私たちがとやかく言う事じゃないかもしれないけど、こう毎日じゃあ……」

澪「わかってる。今日はちょっと彼と相談してみるよ」

唯「彼。だって~♪ きゃ~」

澪「も、もう……////」

梓(澪先輩もこうやって新しい自分を手に入れようとしてる)

梓(人は変わっていくものなんですね……)


 ・ ・ ・ ・ ・

澪「ごめん、待った?」

男「いや、大丈夫だよ。待つのも恋の内ってね」

澪「もう////」

男「じゃあ、行こうか」サッ

澪「あっ……」

男「……そっか、まだ手を繋ぐのは恥ずかしい?」

澪「う、うん、ごめんね」

男「いや、いいんだよ。澪ちゃんのペースでやって行けば」

澪「あ、ありがとう」

男「どういたしまして」ニコッ

澪(やっぱり、優しいな/// 本当だったら『僕のこと信用してないの?』
  って言われても文句は言えない振る舞いをこっちはしてるのに……)

澪(もうちょっと、男クンの事信用してもいい、かな)

澪「ねぇ、今日はどこ行くの?」


────
────────
────────────

澪「送ってくれてありがとう」

男「いいって。それで明日なんだけど……」

澪「う、うん……。カラオケだよね」

男「いい?」

澪(カラオケは部屋に2人っきりになっちゃうから、ずっと断ってた)

澪(でも男クンだったら、大丈夫……だよね)

澪「い、いいよ」

男「ホント!? よかった」


男「僕、澪ちゃんがバンドでボーカルやってるって聞いて一度その歌声を聴いてみたかったんだ」

男「それに、明日も澪ちゃんに会えると思うとすごく楽しい気分になるよ」

澪(軽音部のみんなとの時間も必要だからって言わなきゃ……)

澪(で、でも……、そんなこと言って男クンが嫌な気分にならないかな……)

男「どうしたの?」

澪「な、なんでもないよ」

男「そう? じゃあ明日も楽しみにしてるよ」

男「学校が終わったら商店街のアーケード前で」

澪「うん。わかった」

男「オヤスミ」

澪「おやすみなさい」

澪(軽音部のみんなもわかってくれるよ、ね)


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最終更新:2010年04月09日 00:47